第三十八章
「果物酒」

(記:文矢さん)

 コップに入れた果物酒を一気に飲む。ストレスが溜まったりした時は、いつもこうやって忘れようとしている。

完全に忘れた事など一回も無いが。 果物酒を飲むと、何か口に入れたくなった。ここが家ならば、冷蔵庫の中などをあさるのだが、

あいにくここは病院だ。病院の食料をとったらマズイ。もう、初めから用意しておいた夕食は食い終わっているのに。

 ハワードが置いてった和菓子。とりあえずの解析によると変な成分は入っていないと分かったが、あいつの顔を思い浮かべると

食べる気にはならなかった。
 大きなため息をつく。まさか、ハワードがあんな奴になっているなんて。思いもよらなかった。しかも、「アルティメットシイング」を

ドイツで大量生産されるなんて。

 とりあえず、こちらの「アルティメットシイング」を確認しよう。こいつらで、ドイツ相手に戦えるのかを調べる為だ。もしかしたら自信が

持てるかもしれない。 病院の地下へと降り、鍵を外して分厚い扉の中に入った。そしてその奥にさらに分厚い扉がある。

俺達の科学の結晶が、この中にあるのだ。毎回、開ける時に少しビビるが、まあそれぐらいが普通の感覚だろう。

 そして、中には何匹もの「アルティメットシイング」が入った檻がある。どれもが意味の分からない声を出したりしている。

理性をほとんど失わせた「アルティメットシイング」達だ。

 こいつ達なら、ハワードの「アルティメットシイング」には勝てるだろう。少しは、自信が沸いてきた。よし、この調子だ

あのハワードに負けるわけにはいかん。

 鍵を元通りに閉め、元の場所へと戻す。これで「アルティメットシイング」が逃げ出す事は千分の一以下の可能性だ。

逃げ出せたら、奇跡だ。

 部屋に戻ろうと、ドアを開ける。その時、部屋の中で「何か」が動いているのを感じた。人では無い。小さい。小動物だ。

急いで、部屋の電気を点ける。体が震えている。

「モルモット……?」

 その「何か」は実験用のモルモットだった。管理係がミスをしたのだろう。くそ、あの管理係が。今度、クビにしなければならない。

 だが、このモルモット、行動がおかしかった。同じ場所をグルグル回っていたり、至る所に噛み付いていたりしているのだ。

おかしい。どう考えても、この行動はおかしい。

 テーブルの上を見る。ハワードの和菓子の箱が食いちぎられて、中の和菓子が食べられている。これが、原因なのか。

 おかしい。何の反応も無かったこの和菓子が。何故、モルモットを狂わせたのか。

 ドイツが解析しても反応しない毒を開発した―― 背筋が凍りつくような感覚に俺は襲われた。

 

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