第三十七章
「取乱」

(記:じおす)

「?……入りたまえ」

 院長はノックした誰かに入室を許可した。

ガチャッ! 入ってきた。院長はそれを見て安心した。

「ハワード……、どうして君がここに?」

 ハワードと呼ばれた男は頭に身に付けていた軍帽とニット帽を合わせたような帽子を外した。

「院長、順調かい?」

相も変わらず陽気な男。院長と十歳しか違うのにも関わらず。院長は頭の中からこの男についてのファイルを引っ張り出した。

『ハワード 本名ハイスン・マックシンラーゼ』

身長169cm。体重61kg。金髪と茶髪を合わせたようなしっかりウェーブがかかった髪。

うむ。私の記憶は抜け落ちていない。それどころか、年を増すごとにますます高まっていくようだ。

彼の略歴については割愛してもらう。話せばあまりにも長くなる。

 ――ところで、この男は何をしにきたんだ?

「そんなに睨まずにぃ。ほら、好きでしょ、和菓子。これ手に入れるの大変だったんですよぉ」

「おや、そんな眼をしてたかい?済まない済まない。後、私はもう甘い奴は食べないんだ」

 その時、ハワードは怪訝そうな顔をした。『まずいな』という顔をしたような気もした。

「なぜです?糖尿病か何か――」

「いや。ここで私が病気にでもなったら、示しが付かないだろ? 私はもう二十年前の――」

「中将」

 一瞬、沈黙が落ちた。ハワードは申し訳なさそうな顔をすると思えば、そうではなかった。

 やっと思い出してくれましたね、というしてやったりな顔。

「そうだ、私はもう軍人じゃない。 私も忙しい、早く用件を言ってくれたまえ」

「ええ。私が准将になったのは分かりますか?」

 ――え。 何だ、何だ何だ何だ何だ? 今、この男は何といったのだ?

「だからあ。准将に昇格したんですよ。やっと大佐から昇進ですよぉ」

「おいおい。冗談はよしてくれよ。 君は大学を出てないよな? 大学出身者は大佐以上には昇格できないんだぞ? 

 もしかしてお前……」

「そうです。ついに完成させたんですよぉ。アルティメットシイング!
 
 やっとこれで僕のドイツでも列強の仲間入りですね!」

 ハワードは子供のように目を輝かせながら、その瞳の奥には大人の薄汚く、どす黒い魂があった。

「……お前、何したか分かってるのか?」

「はい?」

「何したか分かるのか、理解できるのかって聞いてるんだよォォォ!」

 ドゴッ! 思わず、院長はハワードを殴り飛ばしていた。ドン、とハワードが向こうの壁にぶつかってズルズルと持たれかかる。

「ダメですよぉ……こんな事しちゃあ……国際問題ですよ? その気になれば、今すぐ貴方を

 暗殺する事だってできるんですから……ぼかあ、もう負け犬の『ハワちゃん』じゃない……

 それに、そんなに怒っちゃ血管切れますよ、お互いに……」

 ハワードは勝ち誇ったように笑っていた。飼い犬に手をかまれるとはまさにこのことだ。

「悪かった……済まない。後で慰謝料と治療代を振り込む……だから……」

「だから?」

 院長はきっとハワードを睨みつけた。このまま睨み殺す事もできたに違いない。

「銃を取る前に……私の前から消えろ! 今すぐにだ!」

 手が震えていた。危うく、コイツを使うところだった。これで撃ってみろ、国際問題どころじゃない。

 ドイツが開戦をするだろう。こっちは三百体。向こうの数はまだ分からないが――

「分かりました、消えましょう。……ただし、気をつけた方が良いと思いますよ……」

ハワードは、口から流れ出ている血を拭きながら言い放った。

「何だと? ……まさか、お前また手を回したのか!?」

「いえ。前に気をつけてください……!」

ハワードは入って来た時とは一転、表情を歪めていた。憎悪に満ちていた。

「それは、警告として捉えても良いかね?」

 ハワードはニヤリと笑った。

「グッドラック……!」

 バタン! ドアが閉まった。 

今夜は反省会だな。ワイン――いや、果物酒だ。体に優しい奴。

 

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