第二十五章「能力」

(記:文矢さん)

 犬さんが暴れている内に、本当は逃げたいと思っていた。外に出ても、俺は能力などないから大丈夫だろうと思っていた。

だが、そうはいかなくなっちまった――

 いくら犬さんが暴れても、全ての奴らが殺されてしまうわけではない。早く気づいときゃぁ良かったんだ。

間違いなく、俺も襲われるって。

 迷彩服を着て、自動拳銃を持った奴らが俺を囲んでいた。多分、俺を殺しはしないだろう。だが、大事をとって足を撃ってくる

かもしれない。体中から汗が出て行く感じだ。

 心臓の音が聞こえてきやがる。まるでドラマやどっかの映画みてぇに。本当に聞こえるもんなんだなと感心しながら、

心のどこかでは俺は慌てていた。落ち着いてるわけがない。

 殺されはしない。だが、捕まる。

 その時、兵士が隣の奴に囁いたのが見えた。唇の動きを見て、何を言っているのかが分かった。そんな訓練なんかした

覚えはないのに。そして、その内容は信じられないものだという事に気づいた。

 能力が発動していないから、「アルティメットシイング」じゃないよな―― 殺される。殺される。そして、囁かれた兵士は納得して

しまっていた。納得してんじゃねぇよ。

 頭の中が真っ白になっていく。殺される。あいつに。自分が何ものかも分からないのに。鳥肌がたち、顔が青くなっていく。

そして、奴らは銃をかまえる。

「うわああああぁあ!」

 叫んだ。その時、体の中で「何かが起こった」何か赤いものが、「輝きだした」のだ。そして、周りの光景が変わる。

 奴らの動きがスローモーションに見える。体は自由に動く。一体、何が、何が起こっているのかが分からなかった。

ただ、ただ避けた。銃弾が飛んでこないように。

 そして、スローモーションが元の早さに戻った。奴らは驚き、さらに一斉に銃弾を発射した為か、その銃弾が奴らに当たった。

……自滅だ。

「あああ……どうして。何で」

 兵士達の体は震えていた。そうか、これが俺の「能力」だ。

 この「能力」は、使える。周りの事をスローモーションで見える。そして、俺は動ける。最強の、最強の能力だ……。

 俺の体は、まだ震えていた。

 

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