第四十ニ章
「失敗作」

(記:じおす)

「いいんですか、少佐。あの男を生かしておいて」

ヘリの操縦士は心配そうな顔で少佐を見ていた。

「……ハハハ……あれは失敗作さ。どのみちスクラップになるはずだった代物さ」

 操縦士は驚愕の目で少佐を見上げた。思わず、操縦カンを離しそうになった。

「え!? どうしてそんなものを!? あいつは人間の頃の奴じゃありません!すぐに片が付くに決まってます!」

しかし、少佐は相変わらず微笑を続けていた。ただ、笑っていた。

「……ただしあの男にとってアレがスクラップかどうかは判断できないかもしれないね……

 もっとも、そんな余裕があればの話だがね――」

ピロロロロロ……

「お、電話? これはこれは中佐からだ、高度を下げろ」

「了解しました」

ババババババババ……

ヘリはゆっくりと下がり始めた。




 セワシはもうヘリの飛んでいった方を見てはいなかった。ただ、不気味な光沢を放っている五つの檻

を真っ直ぐに見ていた。あの中にいる変な形の奴、右手だけが大きく足の無い奴、口(?)の方が

無駄に尖っている奴、人間みたいな体をしているが、明らかに軍歌らしきものを歌っている奴、

そして――軍帽をかぶった、石仮面を装着し緋のマントを羽織っている奴。

 思った。勝てる。勝てる気がした。ものすごく勝機があった。

 とりあえず、こいつ等を殺るか、無視してあの憎き僕僕少佐を追いかけるか。

「お〜い、お前ら、死にたいか?それとも生きたいか? それとも俺を殺したいか?」

セワシは冗談交じりに言い放った。



『殺す〜殺す殺す殺す殺す! 殺す!隣の奴も殺す殺す俺はお前も殺す殺す殺る殺るゥウウウ!』

『ア〜〜!殺す〜殺せ〜お前を〜!』

『変な口って言ったな! 殺してやる! お前も潰して口をドリルにするぅ!』

『コロスコロスコロスコロソウコロソウヨ殺すよコロスヨコロスヨお前殺すぞ』

『抹殺? ああ、殺すよ』


 あ? こいつらは一体なんて言ったんだ? 

冗談だろ? アルティメットシイングは喋れないんじゃなかったのか?だとすればこいつは何だ? いや。そうか。

体に反応装置でも埋め込まれているのだろう。

 セワシは頭を振り回すと叫んだ。

「俺はこれから戦争を宣言するッ!」


 辺りが静まり返った。風の音。それに乗って砂埃が舞う。

 ? 何だ?今度は喋らなくなったぞ?

『いやあ、そんなに怒らなくても』

『怒ると〜体に〜悪い〜』

『怒ると口が尖るぞ〜!』

『違う違う、怒ると殺したくなるぞ』

『怒り? ああ、怒るなよ』


 こいつらは理解能力がある。紛れもなく理解している。こいつはまさか――

 

 

   人間?





バババババッババ……

「失敗なんですよ、え?何がですと? 人間そっくりなんですよ、見た目を除いての話ですがね……」

 

 少佐はそう言うと小型電話機を耳からおろし、また笑い出した。

 

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