第三十二章「神よ神」
(記:じおす)
「バン!」
……死んだのか? いや、また起き上がるかもしれない。
だが、そんなことしてる場合ではない。奴が死んだら、俺はどうなる? そうだ。
俺は生き残った。なんだかんだで生き残った。運よく生き残った。
ああ。良かったな。良くねェェェ! 捕獲?そうだ。殺してはダメだ。もう人が死ぬのはゴメンだ。
間に合わない。もし、その俺たちが造った怪物から『人間の魂』が今すぐ離れるのなら、せめて俺の前では逝かないでくれ。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
「何ッ!」
さすがのアマデウスも銃が無ければただの人間。
瞬間、奴を持ち上げようとしていた数人がミンチ肉のように赤く散らばった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ゴーストタウンに高い悲痛が響く。俺の頭にこだまする。
「……神をッ!神を信じるのだ! 神は我々を救うもの! 恐れるものなどない!」
ヨハネが十字架を高々と空に掲げた。
銃をとった残りの部下が、走り出した。後ろに。後退だ。必死に逃げ出した――いや、距離を取ったのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ガがガッガガガガッガガガガガガガガガッガガガガガガガガガガガガガ
部下の銃が再び火を噴いた。同時に、薬莢が宙を舞う。俺は、もう黙ったままだった。スポーツ観戦さながらの迫力。
ああ、これがサッカーか何かだったら、どんなに幸福だったことか。
究極の肉体、究極の強さ。特殊弾丸を頭部に受けても生きている。
アルティメットシイング――
強い。
火炎放射器、九ミリパラベラムサブマシンガン、連射可能な――気がつくと、射撃していた部下たちは再び逃走していた。
奴は怪物。化け物。人間じゃない。生き物かどうか分からない。
初めて目の前で見た想像を絶する恐怖――これが何を意味するのか。普通の人間なら、部下たちのように逃げ出すだろう。
しかし――ヨハネ! ヨハネ?見えないのか!
なんということだろう。奴がすぐそばまで来ているというのに。
逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!
『神よ!我を導いたまえ! 逃げ出した愚鈍なる卑劣な下士官に天罰を! そして目の前に現る悪に制裁を!」
奴は大きく振りかぶった。
その尖った爪をヨハネにかけるために。
ただ、殺すために。
「神よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」