雷獣

柳谷法輪さん 作

 

其の壱

ある一室

 妖怪という存在が消えてしまった現代であるが、私は今でも妖怪を度々目にする。
その目撃譚を他人に話そうとも、決して信じてもらえることはないのだが、
私は確実に何度もこの目で様々な妖怪たちを目にしてきたのだ。
妖怪たちは開発の進む都市部から追いやられ、今では山奥にひっそりと棲むに留まっている。

人々が妖怪を目にしない、というのはこれが所以であるのだろうか。

 私は民俗学者としてフィールドワークに行く機会も多いせいか、妖怪を度々目にしてきたのだ。
私はその妖怪たちの話をノートに記録し、時々ワイドショーなどにも出演し、その話を披露するのであるが、

 誰からも「よくできた話だ」と一笑されるのみである。そしてその「よくできた話」は大手出版社から一冊の本にまとめられ刊行された。

 タイトルは「妖怪話」という、何ともいんちきくさいものであり、私が出版当初から危惧していた「その本が小説コーナーに並ぶ」
ということが現実となってしまっている。それからというもの、
私はワイドショーに出る度に「フィクション作家」や「妖怪研究家」と言われるようになるのだが、私は妖怪を研究しているわけではないし、
ましてやフィクション作家などではない。私は民俗学者なのだ。しかしそのような訴えも聞き入られずに、
私は望まぬ肩書きを持つことを余儀なくされている。しかし断じて私はこの目で妖怪を見たのであり、決して似非ではないのだ。

 君が私の話を聴いている目は実に良い。誠実さが感じ取られて、私としても君にこういう話をして本当に良かったと思えるよ。
そんな君に特別に妖怪の話をしてあげよう。勿論、「妖怪話」の中の話は私の元々の話から大分削除されているわけで、
今から私が話すことはある意味完全版とも言える目撃譚なのだよ。

 

ある村

 私はある研究のフィールドワークとしてこの村に来ていた。その村の名前はすっかり忘れてしまった。

いや村の名前を訊くこと自体なかったのかもしれないが。その村は「過疎」という言葉が丁度当てはまるようなところであった。
 険しい山道を歩き漸く行き着いた場所であるが、そこには若者が見られず老人ばかりが生活している過疎地であった。

家も都市部の洋風建築からは想像もつかぬような古い木造建築の家ばかりで、台風や地震といった天災が起これば、
恐らく崩壊してしまうであろうほどのものであった。村の周りは無限に生い茂る木々に囲まれている。

 上を見上げても木々の枝葉が村を覆っており、陽も満足に差し込まない、何とも陰気な感じであった。

 ここの人たちの生活はある意味俗世間から隔たった生活であるとも言えるが、それは桃源郷のようないいものではなく、
碌に自給自足もできておらず、食料も山を下りて買いに行かねばならない時もある、といった状態であるように思える。

 そしてこの村に一際目立ったのが所々に見られる焦げ跡である。真っ黒に焼け焦げて廃墟となってしまっている家も所々に見られた。
 私は戸惑いながらも村を歩き回り、ある程度村の自然が把握できたところで、
狭い農地を耕していた村人を見つけて話しかけてみたのである。

 どことなく薄汚れた感じのするこの村人に話しかけるには私自身多少恐れるところもあった。

「すみません、私はこの村に民俗学の研究の一貫でフィールドワークに来ている者ですが、
村長さんはどこにいらっしゃいますでしょうか」

 そう私が尋ねて暫くしてからその村人は農具を動かす手を止め、いかにも面倒臭そうに俺の方を向いた。
そして垂れ下がった細い目でじろじろと俺を眺め回し、その挙句「知らねえよ」と一言発し、また農具を動かし始めた。

 こういった過疎の進んだ村の人が、見知らぬ訪問者に不親切だということは私の過去のフィールドワークの経験からも
重々承知のことなので、特に私はその村人を不親切、無愛想などと思うことはなく、
ただ「ご迷惑をお掛けしました。ありがとうございます」と一礼した。

 他に村人を探そうと思い、私が歩き始めると、背後でその村人が、
「村長を探してえのなら、あんた自身でこの村中歩き回って探しな。異郷の者のことなんざ、知ったこっちゃねえ」
と捨て台詞のように叫ぶのが聞こえた。私は面倒臭い爺だと心の中で悪態をついたが、
ここで言い返すと後のフィールドワークにマイナスになるので、無視して去ろうかとも思ったが、
一応「分かりました。ありがとうございます」と形式だけの一礼をし、その場を後にした。

 結局その後に見つけた村人が親切だったために村長のもとを訪れることはそれ程苦労するものでもなく、あっけなく終わった。
こういう村では信じられないほど不親切な連中がいる一方で、親切な人も少なからずいるのだな、と改めて実感したのであった。

 親切な村人は私を村長の家まで案内してくれたのである。
私は先の自分の心のこもらぬ礼とは比べものにならないほどに、心を込めてお礼を言った。

「いえいえ、いいんですのよ」と微笑みながら去って行ったところもまた好印象であった。

 村長の家は周囲の家と似通った木造建築とはいえ、やはり多少は大きく木材も良いものを使っているという感じがする。

 私が静かに表の戸を開け、恐る恐る一歩を玄関に踏み入れ、村長を呼ぶと、奥から人の良さそうな老人が姿を現した。
村長であるせいか、先ほどの村人たちよりも身なりの良い感じは受ける。

「はじめまして、民族学の研究の一貫でフィールドワークに来ている者です。
この村のことを色々と調査させていただきたくて参りました。どうか宜しく御願いします」

 こういう時は過去の度々のフィールドワークの経験がものを言う。
こういう挨拶にしても何度もしている内に、自身の中にフォーマットのようなものができ上がってしまっている。

「おやおや、学者さんですか。訪問の旨は了承いたしました。まあこんなところで話すのも何ですから、奥へどうぞ」

 村長の穏やかである、という第一印象はそのままのようである。
私は礼を言い、村長に着いて中央に囲炉裏のある奥の部屋へ入った。

同時に私を出迎えてくれた人の良さそうな中年女性は恐らく村長の妻であろう。

 私はその女性にも先程の挨拶と同様のことを言い、そして村長に勧められるまま、囲炉裏の周りに敷かれた座布団の
一つに腰を下ろした。

 

この話は続きます。

 


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