ALIEN

nupanさん

プロローグ

 東京の上空。地上からは普通に見ることは出来ないのだが、衛星が飛んでいる。

そう、誰にも気づかれずに、衛星は入力された仕事をせっせとこなしている。

「北緯35度、東経139度。間違いありません。ここが、例の土地です。」

「よし。準備を進めてくれ。」

 ある学校の教室で、ぼうっと空を眺めている生徒が居る……その生徒は野比のび太。

先生の発する声なんて、まるで、スキー場の音楽と思えるほどに、耳から遠くなっている。

意味も無く、ただ、とりあえず気の抜けた顔で、雲ひとつ無い青空を眺めていた。

「ふわぁあ……。眠いなあ。勉強なんてやってらんないよぉ。」

 ある研究室の、ある一部屋から、合金の楕円形のカプセルが持ち出された。

次に、もう一部屋から、小さな岩石が持ち出され、もう一部屋は、強固な鍵が付けている。

その部屋の鍵を解除し、重い鉄製のドアを開く。その中には、小さな窓が、壁に取り付けられていた。

扉を開けると、試験管の中に、真っ黒い色をした、液が入っている。

 それを持ち出した“者”は、薄ら笑いを浮かべ、静かにその場から立ち去っていった。

 持ち出した液を、釜のようなものに入れ、スイッチを押すと、奇妙な音が壁に当たり、響く。

そして、カプセルの中にその液が入ってゆく。真っ黒な液は、照明に反射せず、不気味なぐらい黒い。

カプセルを隠すように、それを岩石が包む。それからは、分からない。

「なんか面白いことないかなー。」

「発射!!」

「ん……。何だアレは?」

「地球の日本国、首都東京都練馬区。あとは結果を待つのみです。」

「よし、怪しまれぬうちに、衛星も爆発させよう。」

「い、隕石だあ!!」

 窓際の少年、のび太は心の底から叫ぶ。本当に驚いたようだ。

しかし、先生や他の生徒達は信じる訳がない。当たり前だ。

「何だね、のび君。授業中に騒がしいぞ!」

「隕石だってさ。ははははは!」

「ほ、本当に見たんだってば。あの雲からヒューンって!」

「君はもう……。廊下に立っとりなさい。」

「は、はい。」

 しかし、裏山に隕石が落ちたのは紛れも無い事実である。

 

第一話「侵食」

 授業が終わり、直ぐに学校を飛び出し、のび太は家に向かって全速力で走っていった。

足がもたれる。しかし、一刻も早くというように、息を荒くして走った。

帰ったら、ただいま。も言わずに、玄関へ突入し、自分の部屋へ続く階段を、勢いよく駆け上った。

「ど、ドラえもん、大変だ!」

「ん〜?」

「い、い、隕石が、う、裏山に……!」

「まさか。そんな事ありっこないよ。飛行機か、何かだろ。」

「いや、この目でちゃーんと見たんだってば。」

「君の事だ。当てにならないね。」

「ドラえも〜ん。」

「さて、ドラヤキでも買いに行こう。」

 部屋に居たドラえもんに相談するが、やはり信じてはくれない。

のび太の心は、だんだん半信半疑になってきた。やはり、隕石なんか落ちていないのか?

「全て、成功に終わった。ふふ……。」

 こちらは例の研究室。だが、ここが何処にあるのか、誰が居るのか、全く謎だ。

もしかすると、この星に存在するとも限らないのだ。だが、何も分からない。

「ここまでは全て順調だ……。楽しみだよ、ドラえもん君。」

 何者かの前に置かれているコンピューターの画面には、ドラえもんがあった。

「すみませーん。創業八十周年記念ドラヤキ。大好評につき、完売でーす。」

「えぇー。完売かぁ……。」

 店主の言葉を聞き、驚きと無念さを青い顔にかいた。心底期待していたのだろう。

大きな溜息を吐き、肩を落として、ドラえもんはのそのそと歩き始めた。

「このまま帰るのも借だし、隕石とやらを確認しに行こうかな。どうせ嘘っぽいけど。」

 そして、半分隠れた夕日が、眩しい裏山へ歩いてゆく。

 数分かけて、頂上へ辿りついた。目の前に立つ杉の木が、夕日を浴びて、大きく見えた。

「隕石なんてないぞ。やっぱり嘘か。そうだろうと思ったけど。」

 ぶつぶつと文句を言い、そこらじゅうを探したが、それらしきものは見当たらない。

在るのは、夕日に照らされた自分の影が、ぽつんとあるだけ。

「帰ろ、帰ろ。」

 帰ろうと思い、一歩踏み出そうとした時には、もう、遅かった。

自分の影が、自分に纏わりついてくる。それは……、真っ黒い液体の如く。

「うわあああああ!!」

 ドラえもんは大声を出して、強い粘り気のある液を、解いていくが、もう、間に合わない。

液の中に吸い込まれていったドラえもんは、たちまち醜い姿となり、裏山から遠ざかっていった……。

「ドラえもん……遅いな。」

 その夜から、この町の全ては、影に侵食されていってしまった……。

「全て計画通り。」

 何者かが静かに笑う。

 

第二話「暴動」

 昨日の夜、ドラえもんは、帰らなかった。のび太は心底不安にしていたのだが、翌朝、不安が驚きに変わった。

 その朝、のび太は珍しくも、早起きし、食卓に着いた。

席に座り、父、のび助の読んでいる新聞の大きな見出しを見た。そこにはこんな言葉が。

「謎の青い何者かが、都心で暴動。」
 のび太は自分の目を疑った。心の中で、何か引っかかるのだ。

しかも写真には、鮮明に、目に覚えのあるものがあった。

「ドラえもん……。」
 のび太は居間に向かって走り、傍にあったテレビのリモコンの電源を入れた。

暗い部屋の画面で映し出されるのは、朝のニュース番組。

 チャンネルを回せども、どれも同じ事件が報道されていた。あの見出しの事件だ。

「何者かが都心にて大暴動。」

「青いロボットらしきもの、都心を荒らす。」

「早朝の悲劇。青い何者かが大暴れ。」

 心の中が苦しくなり。もう、いてもたってもいられなくなった。

自分の親友がこんな事件を起こしたのだ。信じられないが、もうそれどころではない。

「行ってくる!」

 親の喚く声や学校の事なんか気にしてなんかいられない。

のび太は、早朝の冷たい空気の中、タケコプターで事件の舞台へ向かっていった……。

 その頃、大暴動はさらに激しいものとなっていった。

「うをおおお!」

なんと、一般住民、通行人、さらには警官までもが、この暴動に便乗していった。

皆、狂った闘牛のような顔をして、ガラスだの、壁だの、さらにはコンクリートまでもが、割られて壊され、また割られて、
もう眼がついてゆけないほどの目まぐるしさだ。

 しかし、もう警官も自衛隊も黙っちゃいない。完全防備で、何百人かの大群に挑む。

盾を持った特攻隊が先陣を切り、メガホンを持った長が後ろを着いて行き、守られるように又、盾がある。

「ここから退去しなさい。今すぐに退去しなさい。」

 長が言うが、もう皆、説教なんか聴く耳を持たないだろう。ならば、もう、拳を交えるだけだ。

 もう、これは、戦いになっている。こんな阿呆な大暴動なんか終わる兆しが無い。むしろ、激化している。

全然、何がなんだか分からない。全国のお茶の間では、喧嘩の生中継がされているようなもんだ。
実際に、そんな感じである。

 そんな中、のび太がこの場へ着いた。ドラえもんを探しに。

だが、目的はすぐに見つかった。光沢のあるブルーが朝の陽射しで光っている。

「ドラえもん!こんなこと、すぐに止めるんだ!」

 しかし、中々の苦戦だ。いくら声を張り上げても、振り向いてもくれない。

のび太は諦めた。だが、ある策を思いついた。

「もう、こうするしか……。」
 上空から、ドラえもんに向かって、ネズミのマスコットを投げた。そしたら、何もかもが変わった。

一瞬即発である。すぐにドラえもんは気を絶し、倒れ、もうそのままである。

「さて、ドラえもん、帰ろう。」
「ふにゃ……。」

 ドラえもんにもタケコプターをつけ、練馬区に戻っていった。しかし、これでドラえもんが元通りになった訳ではなかった……。

 

「そろそろ、約束の時が来たであろう。ふふ。」

 何者かは、研究室に設けられた大きなカプセルの中を覗いた。
その中で、何かがギラギラと、赤い竜の眼が光っている……。

 

第三話「上陸」

「発射!」

 コックピットのレバーを引くと船(シップ)が宙に浮き、瞬く間に消えた。と思っている間に、
もう船は、真っ黒な宇宙空間に飛び出していった。 操縦しているのは、やはり例の何者か。慣れた手つきで巧に船を操っている。

そして、この宇宙船の内部には一つの倉庫がある。それも、どこかの大きな会場のような広さだ。

倉庫には、現在、冷凍保存されている、ある“怪物”がいる。“怪物”だ。

この怪物は長い年月の間、今までずっと眠ってきた。今、この瞬間もずっと……。

 さて、操縦席のフロントガラスには青い星……地球が小さく写っている。そして、目的の星でもある。

何者かは、高度を下げ、地球に向かって、もの凄いスピードで、一直線に降下していった。
 にわかにフロントガラスは曇り、真っ直ぐに熱い電流が体中を走った。大気圏の中に入ったのだ。

耳からはゴオゴオゴオゴオとうるさく風の音が聞こえ、ギャンギャンと金属の閉まる音も聞こえ、痛い。

そして、青い光が眼に映ると、どこまでも青い空が広がっていた。じわじわとスピードが落ちてゆく。

青空も抜けると、街が見えた。高層ビルがひしめき合う、東京の街が見えた。
「さて、ここだな……。」

 レバーを引くと、着陸の準備にかかった。船は静かに裏山のしげみを壊しながらも着陸した。
丸い楕円形状のフロントガラスとは眼の前から取れ、草の茂みに足を降ろした。

「ここが東京か。面白いことになりそうだ……フフ……。」

 

 

 ドラえもんはあの暴動が起こってから、精神的にも安定し、ようやく我を取り戻したようだ。

しかし、のび太は、またあんな事が起こったら。と思うと、不安だった。そこで、ある思い付きが頭に浮かんだ。

「ドラえもん、二十二世紀で一度、以上が無いか見てみたら?」

「僕は病院は嫌いなんだ。やだね。」

「でも、あれは何だったんだよ。しかも、世界中で前のような暴動が増加している。おかしいじゃないか。」

「とりあえず検査なんてぞっとするよ。嫌なものは嫌!」

「つべこべうるさいなぁ……。意地でも連れて行くよ。」

 のび太はドラえもんの腕を無理矢理ながらも引っ張り、机の引き出しへ詰め込んだ。

「うわぁ!やめろぅ。僕は○△×……。」

「さて、行くよ!」

 タイムマシンが、未来へ向かって進んでゆく……。そして、のび太の子孫、セワシの近未来的な家の中にぽっかりと黒い穴が出来た。

穴からはのび太に引っ張られているドラえもんとのび太が出てきた。

「ドラミちゃん、セワシ君。」

「あら、のび太さん、お兄ちゃん、お久しぶりね。」

「おじいちゃん、ドラえもん、久しぶり。」

「実はドラえもんが……かくかくじかじか……。」
「それは大変ね、すぐに病院に送るわ。」

「いやだぁ!病院いやだ!」

 ドラえもんの妹、ドラミとセワシはなんとか、ドラえもんを病院に送りつけた。

「じゃあ、僕はもう、帰るよ。」
「お兄ちゃんに異常があったら、すぐに知らせるわ。」

「ばいばい、おじいちゃん。」
 のび太はドラえもんを残して、現代へ帰っていった。

そして、机の引き出しをあける。自分の部屋に帰ってきた。だが、何かがいつもと違う……。

 

「キャーァッ!な、な、なんだこいつわぁ!」

「ギャー、ギャー、助けてえ!」
「ワー、ワーッ、何だこれはぁーっ!」

 のび太が部屋の窓を開けると、悲鳴の嵐だ。まるでいかれている。だが、辺りを見回してみる。

すぐ隣に、怪物がいるではないか。また、悲鳴が一つ聞こえた……。

 

第四話「正義」

「な、な、何、何だ、こ、これ、これは……。」

「ウヲォォオン!」

「か、かいぶ、怪物だ!」

 鋭く尖った赤い竜の目、ナイフの牙と爪はギラギラと眩く、全てのパーツが攻撃的だ。

怪物はもう一度、ひどく大きな声を出し、のび太の方を睨みつけた。 のび太は、真っ青になった顔で、直ぐに家を出て、

一目散に走り出した。

怪物は横目でのび太の位置を眼球に固定し、ひどく大きな声を上げて、追いかけてくる。

しかし、追いかけてくるのは怪物だけではない。怪物の後ろに、何かがある。

だが、のび太はそんなもの等に気を使っている暇など無い。走って、走って、また走って……。

けれども怪物もやっぱり走って追いかける。そして何かもやってくる。

「ウガァ!ウガァ!ウガァ!」
「ああぁ、もう、もうだめだ、足が動かない、ああ、死んじゃうよお……。」

 ついに、のび太は追い込まれた。赤い目がより一層と光って見えて、まさに怪物そのものだ。

そして、何故か、怪物の後ろには黒い人間のようなものがいる。

しかし、もう、そんな事を考えている場合ではない。恐怖はピークを迎え、心臓の鳴りが高まる。

「そこまでだ!」
 ギャンと、鈍い音がしたと思うと、怪物は倒れ、小山のような黒人間は、舌打ちをし、逃げていった。

そして、視線の上には、ドラえもんがタケコプターをつけて、飛んでいる。
「ドラえもん!」

「大丈夫だった?」

「うん。だけど、どうだったの?検査は。」
「実は……。」

 そして、二人は、またもや未来へタイムスリップした。
「あっ、のび太さん。これを見て。」

 ドラミちゃんが渡してくれた強力な蓋のついたビンの中には、黒い物体がある。
固体とも液体とも言いきれない、スライムのような物体がビン中を所狭しと動き回っている。

「これは何?」
「お兄ちゃんの思考回路に包まれていたもので、言葉にしづらいんだけど……。」

「何だい?」

「“闇”よ。」

「闇!?」

「そう、闇なのよ。お医者さんが言っていたぐらいだから、きっと本当よ。」
「……。」

「これは地球の物質では考えられない物質らしく、おそらく、宇宙からやってきたらしいのよ。」

「宇宙から?」

「そうよ。これは、あくまでも予想らしいけど、これは、感情をコントロールさせるところを感知して、自らそこに寄生するの。

そして、感情のコントロールを無茶苦茶に混乱させて、その闇を感情に植えつけさせるのよ。

すると、心の闇、影を覚醒させ、感情が闇の方向にしか、考えられなくなるのよ。

心だけじゃないわ。時には身体までもが黒に染まり、醜い、怪物の様になってしまうわ……。」

「そんなものがドラえもんに……。」

「のび太さん、お兄ちゃん、気をつけてね。」

「……。うん。」

「これを防ぐには、正義を信じることしかない。決してそれを忘れちゃダメよ。」

「分かったよ。色々とありがとう。」

 さて、この晩、ついに、闇に憑かれた黒人間は、世界の人口の半分を超した。
その人々は何者かの前で跪き、大声で賛美歌を歌い、何者かは支配者になった。
「全ては順調だ。世界征服もわけないことだ。」

 

第五話「対峙」

 今日も、あいつ等は来る。そして、いつもの様に、誰かが悪に染まり、また明日も繰り返される……。

このままじっと見守っていても、世界の均衡は崩れてゆくだけなのだ。

「ねぇ、ドラえもん。何とかならないの?」
「うーん。そう言われてもなぁ……。」
「この前も、運良く助かっただけで、結局、何にもなっていなかったしなぁ。」

「あいつらは、かなり手強そうだし、僕たちには何も……。」
「君はこのまま見捨てる気か?」
「違うよ。うーん、そうだなぁ。」

 その頃、支配者は、黒人間たちを使い、入り組んだ崖の頂に、砦をを建設させ、そこに住んでいた。
黒人間たちは、世界中を回り、次々と黒人間を増やしに増やして、ついに、世界の人口の九割が支配下と化した。

「すべては順調だ。そして、もうすぐだ。そうだ、こうしよう……。おい、あいつ等をすべて集めろ。」
 そして、あっという間に何億という黒人間が終結した。なにせ、何億人という奴等だから、すごい勢いだ。
「皆の衆。ついに、この時が来た。これから、ある所へ向かう。そこは、東京という所だ。すぐに用意しろ。」
「ォオーッ!」
 けたましい一声と同時に、皆がそれぞれ準備を始めた。そして、何億もの怪物が一斉に飛び立った。
向かう先は、もちろん……。

 のび太、ドラえもんは相談相手に、しずか、ジャイアン、スネ夫を呼び、“闇”の事なども全て話した。
「そう……、そんな事があったのね。」
「で、誰なんだよ。そんな事をした奴は。」
「不思議なこともあるもんだよ。ジャイアン。」
「でもよぉ。最近、学校に休む奴もかなり増えたし……。」
「言われてみればそうねぇ。」
「うん。」
「……。ん?何だあれは。」

 突然、野蛮な動物の鳴き声がしたかと思うと、窓にギラギラと光る真っ赤な眼がそこにはあった。
そして、刃物の奥歯と、鎌の爪がまたギラギラと光り、背中には黒マントの男が座っている。
「ま、ま、また来たあ!」
「うわぁあああ!」
 恐怖のあまり、皆、一斉に泣き叫んだ。それにあきれたのか、黒マントの男は溜息をつき、銃を取り出し撃った。

そして、五人は気絶し、黒マントの男に連れ去られてしまった……。

 

「……。ここは、何処だ……。」
 ふっと目が覚めると、ボロボロの古い廃墟の工場のに居る。
自分の両腕、両足には手錠と鎖が付けられ、それが壁に固定され、身動きが全く取れない。
気がつくと、真横には、見覚えのある、他の四人の姿が……。
「ドラえもん、しずちゃん、ジャイアンにスネ夫!」
「のび太君も大丈夫?ここは一体何処なんだよぉ。」
「誰か来るわ。」

 真正面にあるドアから、黒マントを被った一人の男が現れた。男は一人ではない。六人ほど出てきた。
五人の男は銃を構え、それぞれ、五人に銃口を向け、残りの一人は、マントを捨てた。
なんと、人間の姿をしていないではないか。五人は驚き、つい、叫んでしまった。しかし、そいつは、それにも拘らず、喋り始めた。

「やぁ、私は違う星からやってきた、ゼロと言う。」
「お前か!皆を操っているのは。」
「うむ。まぁ、そうだ。しかし、本題はここからだ。よく聴いてくれ。」
「くっ、やはり……。」
「君たちは、私達にとって、危険すぎる人物だ。実際、殺してしまいたい程の存在だ。」
「何だと!貴様。」
「待て。悪い話ではない。君たちは、私達の言う事を聞くんだ。そうすれば、開放してやろう。」
「……。」

「欲しいんだ。ドラえもん君が。」
「そんなの、良い訳ないだろう!ったく。」
「では、五人共々、ここで死んでもらおうか。」
「ちょっと待ってくれ!」
 ドラえもんが言う。

「でも。どうすればいいのよ。」
「僕、あいつ等の所へ行く。」
「あいつ等の言い成りになる気かよ!」
「でも、それしか方法が……。」
「分かった。ドラえもんを行かせても。良いんじゃないか?」

「のび太まで……。」
「どうするんだ、イエスか、ノーか、答えろ!」
 ゼロが怒鳴りつける。
「ドラえもんは渡す。」
「よし、それで良いのだ。」

 銃を持った黒マントの男が早速、やって来て、ドラえもんを連れ去ってゆく。
しかし、ゼロは油断した。天井から、何かが降ってきたと思うと、爆発し、もの凄い量の煙が巻き上がる。

 

「ドラミちゃん!」
「のび太さん達、こうしている場合じゃないわ。煙が消える前に早く!」

 こうして、無事に、四人は救出されたが、ドラえもんがまだだ。

ゼロは物凄い剣幕で怒り、黒マントの男と共に、ドラえもんを押さえつけていた。
しかし、ドラミが道具を駆使し、ついにドラえもんまでもが、無事に救出された。
「チクショー。こんの、あいつ等めぇ!おい、お前!急いであいつらをとっ捕まえるんだ!」
「分かりました。ゼロ様。」

 古臭い廃墟の工場の中、ゼロは一人、その場に立ち尽くした。

 

第六話「帰還」

「逃げろぉーっ!」

 煙の中から脱出し、全員が、何とか救出された。
大きな穴の開いた屋根から飛び出し、下の世界を見下ろすと……、

「ん、ここは何処だ?」
「あれって、もしかして、地球じゃない?」

 ドラえもんが腕を指すところには、真っ黒い空間の中に鮮明に、青い星が見えるではないか。
「ということは、ここって、宇宙!いや、どこかの星なのか?」
「そうよ。」

 途中から救出に来たドラミが言う。
「ここは、ゼロの支配する小さな星よ。地球からも見えるのだけど、ここは、あまり知られていないわ。」
「ドラミちゃんはどうやってここに……。」
「お兄ちゃん達の様子を見に来たら、ちょうど奴等が来ていて、気絶した皆が怪物に連れ去られていて、奴等をつけていったのよ。」

「って、のび太君、危なぁい!」
 ビュウンと風の吹き抜ける音がしたかと思うと、怪物に乗った黒人間たちが追いかけてくる。

銃からもギラリと光が走り、皆、バランスを失い、きりきりと舞い、落ちてゆく。
「とにかく、逃げよう!皆、スピードを落とさずに!そうだ、小惑星の中に入り込もう!」
「オーケー。」
「そんなぁ、ぶつかって宇宙の塵になっちゃうよぉ……。」
「スネ夫!怪物に食われても知らないぞ!」
「はぁい……。」

「よし、来たぞ、皆、それぞれに離れて、目を眩ますんだ!」

 ドラえもんはラッパみたいな声で、司令等になっている。そして、宇宙空間の中を飛んでゆく、怪物たちも追いかける。

そして、ついに小惑星帯に直面した。皆の心に焦りと不安がよぎる……。
「せーの、かわせぇ!」

 小さなジェット機みたいに、快いスピードで、小惑星をかわしてゆく。全て順調だ。
しかし、怪物も、大きい身体を縮めて、両者、負けず劣らずのスピードで、鬼ごっこをしている。

「皆、もう少しスピードを上げるんだ!怪物が来るぞ!」
「おう!」

 ぐんとスピードが上がり、小惑星を抜けてゆく。身体を小さくし、鉄砲の弾の如く、飛んでゆく。

そして、怪物と黒人間も、ついに一行を見失ってしまった。

「くそっ、あいつら、何処に行きやがったんだ!」
「仕方が無い。一時撤退するぞ。おい、ゼロ様に連絡を取れ。」

「……ゼロ様、ゼロ様、あいつらを完全に見失ってしまいました。」
「そうか……。やはりな……。」

「え?想定内のお考えで御座いましたでしょうか?」
「ああ。あいつらは地球を目指して帰ってゆくだろうな。そこで、私には隠し玉がある。」

「何か秘策でもあるので御座いましょうか。」
「そうだ。まぁ、見ておけ……。」

 ゼロの思惑通り、ドラえもん達は地球へ帰っていった。何も知らずに……。

 

第七話 「完結上」

 のび太たちが地球を離れていた三日間の間、世界は大きく変動していた。
地球にいた黒人間たちは、地球を支配し、人間たちは、誰一人、いなくなってしまった。

そして、黒人間たちの砦は数を増やし、電撃のような急成長を成した。
 白いような汚れたような大気圏を抜け、青い星、地球に戻ってきた。

雨だ。ざあざあと降っている。日本の天気は大荒れだ。こういう時は、精神的に、少しだるくなる。

「とにかく、どこでもいいから、着陸しよう。」
「オーケー。」

 生焼けのコンクリートのきつい臭いが漂う。変だ。いつもはこんなにきつい臭いではない。
あたり一面、見回してみる。霧がかかって、四方八方、見えずらい。

 しばらくして、ふっと明かりが見えた。ここは東京ではないことは分かっている。適当に決めたところだ。

でも、なんだか、何かが違うような気がして堪らないのだ。

「行ってみよう。雨宿りが出来るかもしれない。」
「そうだな。行ってみよう。」

 妙な好奇心が足を動かす。行く意味なんてあるのだろうか。でも、なんだか、よくわかんないや。
しばらく行くと、建物の外観はだいたい分かった。こりゃあ大きな長方形だ。
……?どこかが崩れているような。長方形の建物の角が大幅に磨り減ったような……。

 鉄の扉をノックする。しかし、辺りはしんと静まっている。不思議だ。町の人たちの声はたしかにあるのに。奇妙だ。
確かに、此処は、人並み外れた崖のふもとの小さな町なのだが、なんだか、ここだけ、別世界のように感じるのだ。
「とにかく、中に入ってみよう。こんなに強い雨だし。……失礼しまぁす。」
「ああ、建物の中は暖かいね。助かったよ。」
 ……カッカッカッカ。もしかしたら、やばいかも。

「誰か来るよ。」
「どうする?」
「とりあえず、事情を説明しよう。」

 ただ雨宿りしているだけなのに……。皆、中々、落ち着きがない。ゼロの軍団の行動に不思議と思っている。
このまま、終わるはずがない。まさか、あのゼロが……。ドラえもんを欲しがっている……。絶対的な力が欲しいのか……。なぜ。

「誰だね。」
「あの、雨が凄くて、雨宿りをさせてもらったのですが……。」
「来なさい。」
 全身黒いマントの男が出てきたが、ゼロではないと思う。

そして、真っ平らなコンクリートの廊下を抜けて、大きな大きな部屋に出た。
だが、ぼんやりと暗い不気味な部屋で、冷たい風が体に当たって、身震いしてしまう。
「来たか……。汚らわしい餓鬼どもめ。」

 ぼんやりとした霧の中から、骸骨の仮面をまとったボロボロの黒いマントをした死神のような人が出てきた。
ゼロより邪悪なオーラを醸し出すこの威圧感は何だ?よく分からない。やはり、こいつも……。

「ゼロも色々と支配者ぶってただろうが、本当の支配者は私だ。」
 人間離れした渇いた声でそいつは言う。

「もともと、ゼロは研究員だった。だが、ある日、友人に騙され、強力な覚せい剤を飲まされてしまい、
一発で闇に染まってゆき、醜い体になってしまった。人は些細な事で変化してしまう。ゼロは研究会の同志とともに、
静かに宇宙へ飛び立ち、無人星へ移住した。そして、いつか、地球人に復讐しようと心に決めたのだ。
私はゼロの人生を見て、あいつの内なる闇に入り込み、共に復讐を志した。」

「復讐だと……。テメェ!」
 ジャイアンが怒鳴りつけるのを、今回は誰も止めなかった。

「人間は醜いもの。こうするしかないのだ。」
「おまえたちも、いつか目覚めるだろう。この真っ黒な未来のように。」

 黒い水晶玉を片手に持ち、そいつは言う。
「これは……?」

「黒人間にするついでに搾り取った、人間たちの未来がある。」

「何だって……。」

「戦争、差別、悪化する環境、そして、破滅だ。見ていて面白いよ。」

「て、テメェ!この……くっ!」

「私は君らの未来を良くするためにも、この提案をしているのだ。」

「そんな、お前に未来をぶち壊されてたまるか!」

 

第八話(最終話) 「完結 下」

「別にこんな物、ぶち壊してしまってもいいだろう。全てがいい方向に進むぞ。」
 奴は水晶玉を今にも落としそうな持ち方で言う。

確かに、いつかすぐに崩壊しそうな不完全な未来ということは間違いないのだ。

 しかし、それぞれの受け取り方は違う。

「いいんじゃないか……。そうすれば、みんな幸福な道に……。」
 スネ夫はぽつりと言う。
「スネ夫、俺たちの未来がかかっているんだ!あんな奴にぶち壊されてたまるかってんだ!」

 ジャイアンは激しく反論する。
「でも、僕たちって、これからどうなると思う?今までのことを続けても、意味があるの?分かりきった未来なのにさ……。」
「のび太……。」

「もう、僕たち以外、この世に人はいないんだよ。もう世の中は破滅の道を進むんだ。それならさ……。」

 髑髏の仮面の下から、奴の笑みが薄っすらと表れる……。

「僕ものび太くんに賛成する!」
「私も!」
「もちろん、私も。」
 残すところ、ジャイアンだけ。

「そうだな……。」
 笑っている……。奴の思惑通りなのか。

「君たちの意思はよく分かった。では、ぶち壊してしまおうではないか。」

 ……駄目だ、未来を壊してはいけない……

 奴の呪文が始まった。そうしたら、未来は簡単に壊れてしまった。
こんなに簡単に。え、みんな、クロに染まってゆく。こんな簡単に人は闇に……。

 ……のび太君、目を覚ませ……

「全て、私の世界だ!」
 地球も、ぼろぼろに崩れてゆく……。建物も、木も、山も、海も、川も、全てだ。

崩れ去る砦の中で、ゼロは雷を目に捕らえ、狂喜して叫んだ。

 ……そうは、させない!……

 

 ふっと、時間が止まった。

ガラガラガラアン……ヴァりヴァリヴァリグガァン……ゴロゴロゴロゴロォン!

「ウギャアアアアアアアアアアッ!」
「時間よ……。もどれ!」
「グギャアッ!くそっ、邪魔はさせんぞお!」

 奴の体に雷が直撃したと思うと、今、現れた何者かが、割れた水晶玉を復元しようとしている。方法は分からない。

闇に染まりかけたドラえもんたちは、何故か、憑いてくる闇をなんとか振り払えた。
「水晶玉は私のものだああ!そうはさせんぞおお!貴様も闇に染まっちまえええっ!」
「ぐわあっ!」

 何者かは割れた水晶玉を大切に抱えたまま、形のない空間の端っこに投げ飛ばされた。

そして、ついに宇宙まで闇は飲み込んでしまい、もう、何もないのだ。

「闇だ、闇こそが全て。全ては私の手の中にある。」

「そうはさせないぞ!地球は君の為にあるんじゃないぞ!」

「貴様、まだシロだな。」

 ボロボロの体で何者かは空間の端から出てくる。
「ドラえもん君、さすが、闇を振り払うパワーがあるのか?」
「ここにいる仲間たちも同じさ。」

 ドラえもんが二人……。奴は目を疑った。

「お前は、私の未来から来たのか……。」
 未来のドラえもんは頷いた。

「ばかなあああああ!」
「タイム風呂敷!」
 水晶玉はすぐに復元し、元通りだ。

「やめろおおおおお!」
「さぁ、皆、事情は後で説明する。皆で手を繋ぐんだ。」
 水晶玉を大きく上げた手にのせ、そして、ドラえもんたちはその場から消えていった……。

 

「うわああああああああああ!」

 奴等……。ゼロたちの未来は消え去った。
 それが異星人の最期だった。

 

 

「僕はもうじき消えてしまう。」
 未来のドラえもんが寂しく言った。

「何で?」
 皆は即座に聞き返した。

「僕は奴等の未来に支配されたんだ。でも、僕にはタイムマシンがあった。タイムマシンがまだ消えていなくて良かったよ。」
「……。」

「だから、僕は、君たちの未来には住めないんだ。でも、君たちの未来にはそっちの僕が生き続けるんだ。」

「でも……。」
 現在のドラえもんは名残惜しそうに言う。

「心配ないさ。同じ僕だろ。精一杯生きろよ。」
「……うん。絶対に、絶対にいい未来にするから!君にがっかりさせないような未来に、するからね!」

「安心した。でも、これだけは言っておくよ。」

 消えかけのドラえもんが最後に言った言葉を、一生、皆は忘れなかった。

 

 

「未来を変えることは、人の喜びも、悲しみも、生も死も、すべてを変えてしまうことになる。」

 

 終

今まで応援して下さった皆様、最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

 

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