BATTLE DOYALE 
Dream of start of nightmare

名無しさん

 

第十話 「The noise U」

 ポコ(男子23番)は、島の高台から、灯台を見つけそこに向かっていた。
支給武器は比較的大きなハサミ。心許無い武器で生き残るためには、頭を使わなければならないと、ポコは思っていた。
 灯台まであと数百メートルというところで、少し休憩をとる事にした。
倒木を椅子代わりにして、そこに腰掛けるポコ。

「灯台までまだあるけど、頑張らなくっちゃ……」

 空を見上げ、ボーっとするポコ。
数分たって、歩き出そうとしたとき、草むらの中からリルル(女子5番)が姿を現した。
 それを見たポコは、一気に警戒心を高める。
見たところ、武器になるようなものは持っていない。だが、それだからといって油断は出来なかった。

「……何?」

 威嚇するような声をリルルに向ける。しかし、リルルは怯むどころか、ゆっくりとポコに方に近づいてきた。

 リルルの目は、まるで観察しているような目だった。

「あなたも、ロボットね?」

 その言葉に、ポコは驚いた。ポコの耳の部分は確かにロボットの面影を出しているが、リルルの方はどこからどう見ても人間そのもの。
ポコは自分の正体が見破られたことよりも、目の前の少女もロボットであると言うことのほうが驚きが強かった。

「君も、ロボットなのかい?」

「ええ……そうよ」

 リルルがロボットだという事に、少し親近感が沸いてしまったポコは、リルルの元へと歩み寄った。

「同じロボット同士だね。仲良くしようよ!」

「………」

 ポコの言葉に、ずっと俯いたままのリルル。
不思議に思ったポコが、リルルの表情を見ようと1歩踏み出したその時、ポコの視界に「ノイズ」ようなものが現れた。

「わっ! なんだ?!」

 それに続いて、今度は黒板を爪で引っかいたような音が、ポコの耳に飛び込んできた。
とてつもない不快感と恐怖がポコを襲った。
 1秒1秒その「ノイズ」はひどくなり、遂にポコはまともに立つ事すら困難になった。

「うああぁぁぁああぁ……!」

 ポコを襲った「ノイズ」は、サピオ(男子14番)が殺される直前まで苦しめられていたそれと、同じものだった。
そして、耳に響き渡る雑音の狭間から、リルルの冷たい声が流れてきた。

「サヨナラ……」

 それが聞こえた直後、ポコの頭部に鉄パイプが振り下ろされた。
機械が潰れる独特の音と共に、ポコは動かなくなった。
 頭部の割れ目から、コンピューターの破片らしきものが顔をのぞかせている。

【残り30人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ロー(女子6番)は森の中を当ても無くさまよっていた。
しばらく歩いていると、海が見える崖にたどり着いた。
 崖の下は正に断崖絶壁。ここから落ちたらひとたまりも無いであろう。

「ここは危ないわね。違う所に行きましょ……」

 そう呟き、振り返った瞬間、彼女の体は蜂の巣になった。
撃たれた衝撃で、がけ下に落ちていくロー。

 「よし……。もう出てきていいよ、スネ夫君」

 ローを射殺したのは、出木杉(男子15番)だった。ローが絶命したのを確認し、後ろに控えているスネ夫を呼ぶ出木杉。
もし、不測の事態が起こったときは、スネ夫に援護してもらう予定だったのだ。
 だが、出木杉がいくら呼んでもスネ夫は出てこようとしなかった。
彼は、出木杉の容赦ない行動に怯えてしまっていた。
それを見かねた出木杉が、スネ夫に、先ほどとは打って変わった優しい表情で、話しかけた。

「スネ夫君、このゲームで生き残るためにはああいうことをしなければならないんだ。
 君も生きて帰りたいのなら、覚悟を決めなきゃ」

 それを聞いたスネ夫は、震えた声で出木杉に問いかけた。

「で、でも、生きて帰れるのは1人なんだよ? どうせ、最後には僕を殺すつもりなんだろう?」

 スネ夫の言葉に出木杉は笑って答えた。

「あはは、スネ夫君は心配性なんだなぁ。そんな事はしないよ。
 それに無事に帰れるのは1人なんかじゃないさ」

「え……?」

「言ってただろ? 『殺害数の1番多かった者も帰れる』って」

「あ――」

 出木杉はスネ夫に手を伸ばした。

「さ、行こう」

 少し迷いの表情を浮かべたスネ夫だったが、ゆっくりと手を伸ばし、出木杉の手を握った。


【残り29人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ミルク(女子13番)は島の東のはずれで、海を見ながら座り込んでいた。
彼女には戦う気も無かったが、脱出する気も無かった。
 今、自分が置かれている状況を、心の中でずっと否定し続けていた。
それしか、自らの正気を保つ方法が見当たらなかったのだ。

「私……どうなるんだろう――」

 膝を抱え、海を目の前にして涙を浮かべるミルク。
その時、後ろから足音がした。

「誰っ?」

 とっさに振り向くと、そこにはチーコ(女子16番)が焦ったような表情を浮かべていた。

「あ、あの、なんか寂しそうだったら、声をかけてみようかな〜、なんて……」

 慌てながら話すチーコを見て、呆然とするミルク。
それと、苦笑いを浮かべながらミルクの様子を伺うチーコ。

 2人の間に気まずい沈黙が流れる。
しばらくして、ミルクが口を開いた。

「あなた……怖くないの?」

「へ?」

 唐突な質問に、少々驚くチーコ。少し間をおいた後、返事を返した。

「そりゃあ、怖いけど……震えてちゃ何も始まらないわ」

 笑顔で言うチーコが、ミルクは羨ましくなった。
そして、心の中に「この人なら、信用できる」という考えが浮かんだ。
 深呼吸をして、ミルクは言った。

「ねぇ、あたしと一緒に行動しない?」

 チーコは一瞬びっくりしたが、すぐに首を縦に振った。

「ええ、いいわよ。じゃあ、よろしくね!」

「こちらこそ、お願いね!」

 ミルクは、この日初めて笑顔になった。

【残り29人】

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 ジャイアン(男子26番)は森の中を歩きながら人を探していた。
何しろ、このプログラムが始まってから、誰にも遭遇していなかった。
運が良いといえばいいのかもしれないが。

「全く、誰も居ないぜ。本当に俺のほかに人がいるのか?」

 愚痴をこぼしながら、歩いていると、どこからとも無く話し声が聞こえた。
慌てて草むらに身を隠し様子を伺うジャイアン。
 耳を澄ますと、どうやら2人で行動している事が分かった。

「な……らどこ行く……だよ!」

「ま……落ち着……さい」

 ジャイアンは見つからないようにもっと身をかがめようとした時、小枝を踏みつけ、折ってしまった。
甲高い音が、その場に響く。ジャイアンは心の中で、「見つからないでくれ」と何度も願った。
 だが、その願いは届かず、話し声の主に気付かれてしまった。

「おい…なんか聞……かったか?」

「ええ、ハッキリ……こえま……よ。どうやら何か居……ですね」

 その2人は、ジャイアンの方へと向かって行った。
ジャイアンは、デイパックから支給品の金属バットを取り出し、戦う用意を整えた。

(さぁ……来るなら来い――!)

 ジャイアンが覚悟を決めたその時だった。突然銃声が響き、状況は一変した。
辺りの緊張感は最大限に高まる。
 先ほどの2人の警戒するような声が聞こえる。

「気を……ろ!」

「わ……すよ!」

すると、また銃声。生き物に当たったような音はしない。その代わりに、周りの葉や、草が見る見るうちに減っていく。

「こりゃヤバイぜ!」

 まるでビーチフラッグのように立ち上がり、その場を離れるジャイアン。
幸いにも、誰にも気付かれずに逃げる事が出来た。

【残り29人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おい、今何か聞こえなかったか?」

「ええ、ハッキリと聞こえましたよ。どうやら、誰か居るようですね」

 謎の甲高い音を耳にしたのは、集落を後にしたクンタック(男子3番)とハチ(男子25)だった。
2人は、音のした元へ向かう。
 音のした周辺まで来た瞬間、後ろから銃声と共に周りの草が、土が飛び跳ねるように宙を舞った。
2人の後ろに居たのはトンプソンM1短機関銃を構えているテムジン(男子24番)だった。

「気をつけろ!」

「分かってますよ!」

 そう言って、左右に分かれるクンタックとハチ。
テムジンは、いきなりの行動に対応しきれずどちらに狙いを定めたらいいか、分からなくなった。

「いただき!」

 低い態勢から、斬り上げるように木刀を振るハチ。
木刀は、テムジンの右腕を捉え、短機関銃を手放させた。

「うわぁ!」

 強烈な一撃で、テムジンの右腕の骨が鈍い音と共に折れた。
腕を押さえながら後ずさりするテムジンに、止めとなる攻撃を放ったのはクンタックだった。
 十分に体重の乗った斬撃は、テムジンの背中を深々と斬り裂いた。
辺り一面が真っ赤に染まる。そして、自分の血で作られた真紅の海に、テムジンの体が沈んだ。

「死んだ……のか?」

 テムジンの死体を見下ろしながら、苦い顔をしてハチが言う。
それとは対照的に、いやにあっさりとした声でクンタックが返した。

「ええ。もう完璧に」

 そんなクンタックの態度に、ハチは少し疑問を感じた。

「アンタは、平気なんだな――」

「もう、慣れましたから」

 クンタックの言葉に、ハチはかなり驚いた表情でクンタックに詰め寄った。

「慣れたって……」

「言ったでしょう? 私は戦争というものを体験したんです。
 いまさら人が1人死んだくらい、何も感じません。言い方は悪いですがね」

「……でも!」

「でも……何ですか?」

 そのときのクンタックの表情は、今まで見たこと無いような表情だった。
憤っているのか、とてつもなく鋭い目つきで、ハチを睨んでいた。この世のものとは思えない殺気が漂っていた。
 ハチは、思わず1歩後ろに退いた。

 彼はその時、初めて本当の「恐怖」を感じた。

 なぜだか分からないが、体中から冷たい汗が噴出してくる。

 なぜだか分からないが、体中が震えだす。

 なぜだか分からないが、体が言う事を聞かない。



 とてつもなくおぞましい、恐ろしいモノが、クンタックの心の中にある。


 ハチはそう感じた。




「う……あ……」


「そんなに怯えないでください。別に、いまさらあなたを殺そうなんて思ってはいませんから」


 いつものクンタックに戻っていた。
ハチは、自分の体から、一気に恐怖感が取り払われていくような錯覚に陥った。
 それと同時に、色々な事が頭に浮かんだ。

 今のは、本当にクンタックだったのか?

 オレを殺さないと言ったけど、本当か?

 もしかしたら、最後に裏切られるんじゃないか?


 

 そんな事が頭によぎっていく中、クンタックの声が唐突に響いた。

「大丈夫ですか? 顔色、悪いですよ」

 さっきまでの、雰囲気とは全く違っていた。
それを見て、ハチは少し安心した。

「分かったでしょう――?」

「え……?」


「あなたと私が違うという事が」


 ハチは何も言わなかった。いや、言えなかった。
思い出したくも無い光景を、思い出してしまうかもしれないから。

「さ、行きましょう」

 クンタックの呼びかけに、無言でついていくハチだった。

【残り28人】

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「ほう、面白い奴がいるな……」

 モニターに映るクンタックを見て、不気味な笑みを浮かべるあの男。
満足げに、椅子の背もたれに体を預ける。

「あの小僧と、今の白い犬――。あいまみえたら、どうなるかな……?
 クックックック………」

 呟きながら、椅子から立ち上がり、その部屋を後にしようとする男。
ミニドラが潜んでいるデスクを通り過ぎる瞬間、ミニドラは見た。


 男の白衣の肩口に、『CC』という文字が書かれているのを――。

 

第十一話 「Boyfriend or acquaintance?」

 太陽が上がりきった時、島に聞こえるのは今までに死亡した者を伝える悲惨なアナウンス。
息絶えた者の数は、10人を越えていた。

『では諸君、この時間までの死亡者を発表する。

 【男子12番】ミクジン
 【男子19番】ジャック
 【男子23番】ポコ
 【男子24番】テムジン
 【女子6番】ロー

 以上、では未だ生き残っている諸君には、これからの健闘を祈らせてもらう。
 それとだ。明日午前0時までに、島の中心にある洋館に入る事。地図で言うと、丁度D−4の地点だ。
 それ以降は、洋館の外には一切出られなくなる。
もし、時間内に入れない場合、もしくは洋館から出た時点で、諸君らの首についている首輪が爆発する。
 もちろん人数が少なくなればなるほど危険度が減るという事が分かるな?
 では諸君、健闘を……祈る』

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「ジャックが……死……んだ――?」

 直前に流れたアナウンスを聞いて絶望しているのは、ベティ(女子10番)だった。
弟同然のジャックの死に、ショックを隠せないようだ。
 支えが無くなったように、その場に崩れ落ちるベティ。

「うそ……だ……。そんなはず無い! ジャックが死ぬなんて、そんな、そんな――!」

 ベティの目から涙がこぼれ始める。彼女の心が悲しみでいっぱいになっていく。


 しばらくして、ベティは顔を上げた。涙を拭って、空を見上げるベティ。
そして、静かに呟いた。

「ジャック……。アンタの仇は、アタシが絶対にとるから……!
 そこで、見守っててくれな――」

 弟を葬った者を、ジャックの仇をとるべく、森の中を進むベティだった。

【残り28人】

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「午前0時までに……か」

 グースケ(男子22番)は灯台の中で、先ほどのアナウンスを聞いていた。
時間には余裕がある。幸い、ここには時計があった。

「時計もあるし、大丈夫だろ」

 グースケはそう思い、近くにある木で作られた椅子に座ろうとした時、灯台の入り口のドアからノックの音がした。

「えっ!?」

 焦ったように、ドアを見るグースケ。
気のせいかとも思ったが、ノックの音は止まなかった。

「だ、誰だ……?」

 恐る恐るドアへと向かうグースケ。ノックの音と、自らの足音が響く中、ついにドアノブに手を掛けた。

 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。



 ドアを開けるまでの数秒が、グースケには何分にも、何時間にも感じた。
ドアの向こうに居たのは、グースケにとっても、ノックの主にとっても、驚きの人物だった。

【残り28人】

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 「ねぇ。あれ、何かしら?」

 チーコ(女子16番)が、指差した先には灯台が見える。
チーコと行動を共にしているミルク(女子13番)も、それを確認した。

「灯台……かしら? 行ってみる?」

 ミルクが、灯台を見ながらチーコに問う。チーコは言葉で返事をする代わりに、行動で示した。
チーコは既に灯台に向かって歩き始めていた。

「決断のお早いこと……」

 そうこぼし、チーコの後に続くミルク。


「誰か、いるかもね」

「大丈夫? 私達で戦える?」

 ミルクが心配そうに言う。それを安心させるかのように、チーコがデイパックから何かを取り出して、チーコに渡した。

「はい、コレ。あなたに渡しておくわ」

 チーコがミルクに手渡したのは、Cだった。

「あなたの支給品?」

 ミルクが釵を見ながら言うと、チーコは首を振った。

「違う。私のはこっち」

 チーコが手に持ったのは、催涙スプレーだった。
ミルクが複雑そうな顔でそれを見た。

「そんな顔しないで。私は大丈夫だから」

 俯きながら「そう……」というミルク。

 そうしている内に、遂に灯台の目の前まで来た。
ドアの4,5m程の所で立ち止まる2人。そしてそこで顔を見合わせた。

「どっちが開ける?」

 チーコが言うと、ミルクは迷い無く答えた。

「私が開けるわ。援護、お願いね」

 1歩踏み出すのと同時に、ミルクが言う。
まさか、ここまで早く答えられるとは思っていなかったチーコは少し焦った。
 チーコは、何か言いかけてやめた。そして、すぐにミルクの2,3歩後ろに立った。

「いきなり開けちゃうの?」

 チーコが心配そうに言うと、ミルクは「まさかぁ」と返した。

「いくらなんでも、そんな危ない事はしないわ。大丈夫、安心して」

 振り向いて、目の前にあるドアをノックするミルク。すると、それに反応したのか、ドアの向こうから何か物音がした。
 物音がした直後、足音に似たような音が聞こえてきた。
その音は、確実にドアに近づいてきている。

 それを聞いて、それぞれの武器を構えるミルクとチーコ。

 ドアまで来たのか、足音が止んだ。その直後、ドアが静かに開いた。開いた途端、ミルクは思わず大声を上げた。

「ああっ!!」

 その声に、ドアを開けた者も驚いて、声を上げた。

「うわあ! なに!?」

 チーコが慌てて催涙スプレーを噴射しようとしたとき、ミルクがそれを止めた。

「待って!」

「え?」

 ミルクの行動に驚くチーコ。そんなチーコを見て、ドアを開けたものが声をかける。

「君は……?」

 唐突な問いに、チーコは答えられなかった。その代わりに、ミルクの声が響いた。

「グースケ、あんたここで何してるの?」

 ドアの向こうに居たのは、グースケ(男子22番)だった。
ミルクは、安堵の表情を浮かべていつもの調子でグースケに話しているが、チーコには何がなんだか分からない。
そんなチーコを見て、ミルクが言った。

「ああ、安心して。コレ、私の知り合いだから」

「『コレ』って……」

「なによ? なんか文句でも?」

「いや、なんでもないです――」

 まるで夫婦漫才のような会話を聞いて、チーコは、とりあえず安心だという事だけは理解できた。

「何? もしかして、これ?」

 チーコが不敵な笑いを浮かべながら、親指を立ててミルクに言った。

「んなっ! そ、そんなわけないでしょ!! ただの知り合いよ! し・り・あ・い!」

「そんな照れる事な……うぐっ!」

 グースケが言い終わる前に、ミルクは彼の鳩尾に見事なパンチを食らわしていた。
ゆっくりと崩れ落ちるグースケ。その行動を見て、チーコは理解した。

「なるほど……ね」

「だから違うってば!」

「い、いきなり急所はマズイって……ゲホッ」

 グースケはまたもや防弾チョッキに救われた。

【残り28人】

 

第十二話 「Girl and madness」

『残り13時間』

 これまでのアナウンスとは違う、機械的な音声が惨劇の孤島に響いた。
宣告された時間内に、島の中心に建てられた洋館に辿り着かなければ、死を意味する。

 だが、時間に余裕がある所為か誰一人として洋館に来ようとしなかった。
その理由はあのアナウンスのためだった。

 直前に流れたあの放送。その最後に言い残された、あの一言。

『人数が少なくなればなるほど危険度が減る』

 正にその通りだ。洋館は島と比べれば、猫の額のような狭さ。移動する範囲が極端に狭まってしまう。
という事は、おのずと他の者と鉢合わせになる可能性が跳ね上がる。

それと同時に危険度も一気に高まる。つまり、誰しもまず「人数を減らす」ことを考える。

 『連中』の1番の狙いはそこにあった。
 そうして全員を煽り、死亡率、遭遇率を高める計算だ。

 そして、『連中』の思惑通りにことは進み始めた――。





 



 D−4。ここは、塹壕のようなものが到る所にあった。
まるで戦場跡のような風景。そこに立ち尽くしている者が1人。

 それは美夜子(女子4番)だった。彼女は1番近くにある塹壕に立ち入った。
中はがらんとしており、所々に銃弾が撃ち込まれた様な痛々しい痕があった。

「一体、この島で何が――?」

 疑問を持ちながらも、塹壕の中を調べ始める美夜子。
周りを見回しながら役に立ちそうなものを探っていると、なにか硬いものが足に当たった。

「何かしら……って、何よコレ!」

 美夜子が見たものは、白骨化した死体だった。
それがあったのは、奥の方で太陽の光が届かない所に座り込むようにして事切れていた。
 傍には旧日本陸軍が使用していた、四四式騎銃が落ちていた。
恐らく、この白骨化してしまった人物が、まだ生きていた時に使用していたものである事は容易に想像できた。
美夜子はそれに恐る恐る手をかけた。

「動かない……よね?」

 素早く銃を取り、逃げるようにしてその塹壕から飛び出す美夜子。
辺りの様子を伺い、誰もいない事を確認すると、改めて銃を調べ始めた。

「どれどれ――使えそうかな……っと」

 見た所、使えない事はなさそうだった。弾倉を開けてみると、弾は満タンに入っていた。
これはいい物を手に入れた、と思った美夜子だったが、問題がひとつあった。
それは、予備弾薬がないので今この銃に装填されている分しか使用できない、という事だ。

「使い捨てか……。ま、何とかなるわよね」

 不安の表情を浮かべながらも、四四式をデイパックにしまおうとした時、前方の草むらから、明らかに人間のモノの足音がした。
とっさに手に入れたばかりの四四式を構える美夜子。
そして、威嚇するように言った。

「誰なの! 隠れてないで、出てきなさい!」

 その声に、間髪入れずクク(女子12番)が姿を現した。
一見、何も持ってないように見えたが、右手に簪を隠し持っていた。
この簪は装飾品に見せかけた暗器で、十分な殺傷力を持っている。

「う、撃たないで……」

「あなたが何も企んでないならね」

 美夜子は1歩前に出て、言った。その一言に心の中で舌打ちをするクク。
ククにとって、それは表に出さないようにしたのだが、美夜子には既に勘付かれていた。

「さ、右手にだ〜いじに持っている物、見せてもらえる?」

 銃を突きつけながら言う美夜子に、ククも、バレたということに気付いた。
少し苦い笑顔を浮かべながら、自らの足元に目を落とすクク。
すると、1つの石が右足の傍に落ちていた。そして、何か思いついたのか、その場から1歩退くクク。
 美夜子が何かと思った瞬間、頭の横を小さい物が高速で飛び抜けていった。

「なっ!?」

 美夜子がそれに驚き、顔をそむけたのを見て、ククは簪を美夜子に突き立てようと走り出した。






 鋭いものが刺さる音と共に、血が滴り落ちる。


「か……うあ……」



「甘いわね、お嬢ちゃん」


 刺されていたのは、美夜子ではなく、ククだった。
四四式には銃身先端部に、最大の特徴である折りたたみ式の銃剣がついている。
美夜子は顔を背けたのと同時に、銃剣を出していたのだった。

 ククの手から、簪がこぼれる様に落ちる。
それを見て、美夜子は銃を引き抜いた。まるで連動するかのように前のめりに倒れるクク。

「残念だったわね。あなたみたいな子供にやられるほど、私は弱くないわよ」

 大量の血を流して倒れているククを見下ろし、吐き捨てるように言う美夜子。
その表情は、氷のように冷たかった。

【残り27人】

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 のび太(男子9番)は、誰にも見つからないように、1人島の中心にあるという洋館を目指していた。
いつも、おっちょこちょいののび太も既に大長編モードに入っていた。

「洋館……どこにあるんだ?」

 出口の見えない森林を孤独に突き進むのび太。
今までだったら、ドラえもんや静香がいるはずだが、今はいない。
普段はこの上なくいやな奴だが、冒険が始まると途端に優しく、そして頼りになるジャイアンもいない。
常にジャイアンと一緒にいじめてくるスネ夫。それでも、危機に陥ったときは助けてくれた。

 そう考えてみると、のび太は急に心細くなった。

「みんな……どこにいるの?」

 いきなり目頭が熱くなる。そのあと、冷たい粒が頬をつたう。のび太は慌ててそれを拭った。

「みんなの無事な姿を見れるまで、僕は……殺されない! みんなを……死なせはしない!!」

 のび太はこのプログラムに於いての決意を固めた。
その直後、突然目の前が開けた。

「な、なんだ? ここ――。何もない……」

 のび太の目に飛び込んできたのは、洋館どころか木一本生えていない草地だった。
タイムリミットまで、あと10時間ほど。天から落ちてくるか、地面から湧き出てくるぐらいしか、考えられない。

「どういう……ことだ――?」

 普段めったに使わない頭をフル回転させて考えるも、全く分かりそうになかった。

「とにかく、時間までここに居よう。地図の通りの場所に来たんだし……」

 疑問と不安を持ちながらも、その場に座り込むのび太だった。

【残り27人】

 

第十三話 「Powerless by all means fate」

―残り9時間58分―

「でも、ラッキーだったな。落とした地図を拾えて」

 のび太(男子9番)は昨日のプログラムが始まった直後の出来事を思い出していた。

「そういえば、コレを落としたときにいた場所って、島の中心辺りだったような……って、あ!」

 その時、のび太の頭の中で何かが引っかかった。ひどい違和感を感じた。

「あのときは周りと変わらない、木ばっかりだったのに、どうして……?」

 この島は何かがおかしい。のび太はそう思った。いくらなんでも、たった数日でここまで地形が変わる事などありえない。
のび太の頭でもそれは分かった。

「なんだか分からないけど、変だぞ……この島――」

【残り27人】

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 チッポ(男子11番)は地図を頼りに洋館を目指していた。
いつ戦闘になってもいいように、右手にはベレッタM92が握られている。

「まだ、結構距離があるな……」

 喉の渇きを潤そうと、デイパックから水を取り出そうとしたとき、自分のではない足音が聞こえた。
 慎重に、手近の草むらに身を隠すチッポ。落ち着いて聞いてみると、音はそれほど近くはない。
ある程度の距離があることが予想できた。

 遠距離戦ならば、銃を持っているので比較的有利ではある。
相手が近距離専用の武器であればなおさらだ。もし、遠距離武器であったとしても、それなりに対等には戦えるであろう。
 だがチッポには1つだけ不安があった。
それは、残りの弾薬が心細くなってきた事だった。長期戦になれば、圧倒的に不利になってしまう。
チッポはまず、相手の様子を伺う事にした。

「頼むぞ……。こっちはあんまし戦えないんだからな……」

 ベレッタを握る手が、徐々に汗ばむ。
全ての神経を耳に集中させる。辺りは樹木の葉や、幹で、視界はゼロに近い。
頼れるのは自らの聴覚のみ。そんな張り詰めた状況が、チッポの精神を毎秒毎秒ごっそりと削り取っていく。

 その内、足音は聞こえなくなった。
緊張の糸が切れたのか、その場に倒れこむチッポ。
もし、この状況があと数秒続いていたと思うと、チッポは恐ろしくなった。

「ハァ……ハァ……ホント、勘弁して欲しいよ――」

 額に流れる汗を拭い、立ち上がるチッポだった。

【残り27人】

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 ジャイ子(女子3番)はロー(女子6番)が殺された、海が一望出来る崖に立っていた。
こんな状況の中で、自分を励ますためにこの絶景を眺めているのだった。

「お兄ちゃん……助けて……」

 知らず知らずのうちに、ジャイ子は1歩1歩前へと進んでいた。

「キレイな太陽……」

 明るく輝く太陽に手を伸ばしたその時、ジャイ子は足を踏み外し、断崖絶壁の崖下に落下して行った。
溺死したジャイ子の死に顔は、なぜかとても安らかだった。

【残り26人】

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 ピーブ(男子18番)は、D−4の塹壕跡地に辿り着いていた。
もちろん、その近くにはリアン(男子20番)の姿が。ピーブはリアンにつけられている事をまだ気付いていない。

「ここは、一体何があったのでしょうか? まるで激しい戦いがあったような……」

 リアンもピーブと同じような事を考えていた。
だが、2人とも答えに行き着くことはなかった。

「とにかく、調べてみましょう。何かあるかもしれませんからね」

 そう言うと、ピーブは1番奥にある塹壕の中へと入っていった。
すかさずその後を追うリアン。数メートルほど走った時、銃声と共に右足に激痛が走った。

「うあっ!」

 走っていた勢いの惰性で、豪快に転ぶリアン。踝の少し上の辺りから出血している。
銃声が聞こえてきた方向を見ると、出木杉(男子15番)ウージーを片手に不敵な笑みを浮かべながら、
まるでリアンを嘲るかのように見ていた。
 リアンが何とかその場を離れようとした時、またの銃声。体中を撃ち抜かれたリアンは絶命した。
 銃声を聞いたピーブが塹壕から出てくると、それを見計らってスネ夫(男子27番)がピーブの右腕を狙って
S&WM1917の引き金を引いた。

「うあわ!」

 ピーブは慌てて塹壕の中へと引き返す。
そして、自らのデイパックの中から、支給武器である手榴弾を1つ取り出すと、すかさずピンを抜いてスネ夫めがけ放り投げた。

 それを見たスネ夫は、いかにも冷静に近くの塹壕へと身を隠す。出木杉も手近の塹壕へと飛び込んだ。
 出木杉が飛び込んですぐ、手榴弾は爆発した。爆発音と、それに伴う地響きが島中に轟く。
塹壕地帯は、煙に包まれ何も見えない状態になった。

「くそっ! あの豚、むちゃくちゃしやがって……!」

 煙が晴れるのと同時に、出木杉が塹壕から飛び出した。それに続いてスネ夫も塹壕の入り口から身を乗り出す。

「スネ夫くん! 援護頼む!」

「わ、分かった!」

 出木杉がウージーを構えながら、ピーブのいる塹壕へと一直線に走る。
そこまで着くと、入り口のすぐそばでピーブが座り込んでいた。

「チェックメイトだ。子豚さん……」

 ピーブの眉間に銃口を突きつける出木杉。

「ここまで……ですか……」

 そういうと、ピーブは恐ろしい事をし始めた。なんと、持っている手榴弾のピンを全て一気に抜いたのだ。

「バッ……! くそっ!!」

 出木杉は慌てて走り出した。

「スネ夫くん! 早く逃げるんだ!!」

 スネ夫は何が起こったのかわからなかったが、出木杉の声色でとにかく危険な状況だと判断し、出木杉のあとに続く形で走り出した。


 数個の手榴弾に囲まれながら、ピーブは狂ったように笑っていた。



 出木杉達が、樹海に足を踏み入れたその瞬間、この世のものとは思えない爆音と共に、D−4地区が跡形もなく吹っ飛んだ。

「あ、危なかった……」

「大丈夫かい? スネ夫くん……」

「な、なんとか………」

【残り24人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 D−4の爆発は、広範囲に影響を及ぼしていた。
D−3とD−4の境目にいたフー子(女子15番)は、爆風によって四方八方に飛んだ破片に当たり、絶命していた。
 ピーブの妹であるブピー(女子9番)も同じように、破片の餌食となっていた。




「今の、何の音かしら……」

「どこかで、大きな爆発があったみたいだな……」

 直前に聞こえた、とてつもない爆音に驚きを隠せずにいるのはエル(男子4番)とロミ(女子7番)だった。
彼らは爆発地点から数キロほど離れたところにいた。

「取り敢えず、今は先を急ごう。洋館に着かないと首輪が爆発してしまうから」

「え、ええ……ちょっと待って、あそこに誰かいるわよ?」

 ロミが指さした先には、クンタック(男子3番)とハチ(男子25番)の姿があった。
見ると、その2人は少しばかりの休憩を取っているようだった。

「ああ……本当だ……。君と同じ犬人間みたいだね。こっちには気付いてるのか?」

 エルは警戒しながら前へと進む。ロミも、それに続き慎重に歩を進めた。
少し進んだところで、ロミが静かに口を開いた。

「なぜか分からないけど、あの人たちは大丈夫なような気がする……」

「え?」

 ロミの言葉に、驚いた表情をするエル。振り返ってロミに問う。

「それ、本当に?」

「ええ。よく分からないけど、そんな気がするわ……」

 エルは首をかしげながらも、振り向きなおした時、1人消えていた。
純白の色を持った者だけがいるだけだった。先ほどまでいた、橙と茶を混ぜたような色をした活発そうな少年が消えていた。

「ん……?」

 不思議に思って、もう少し近づこうとした時、後ろから声がした。

「な〜にしてんだ? お2人さん」

 ロミが驚いて振り向くと、木刀を携えたハチが立っていた。

「あ〜、やっぱり居ましたか。何か気配を感じるなと思ったら」

 次は前から声がする。振り向き直すと、其処には切れ味鋭そうな日本刀を片手に立っているクンタックの姿。
エルが「マズイ!」という顔をするとクンタックが笑った。

「アハハハ! 安心してください。あなた達を殺す気はありません。ただし……」

 クンタックはエルの喉元に日本刀を突きつけて言った。

「あなた達が何もしない限りはね……」

 エルは、右手にもっていたボウガンを手放した。
それを見てクンタックは日本刀をしまった。

「あなた達も、洋館に向かうんですよね?」

 クンタックが問うと、エルは静かに頷いた。ハチは少し助走をつけて、草むらを飛び越えてクンタックの近くに戻った。

「では、早く行ってください。あまり大人数で固まっていると、何かと不便ですからね」

「……そうさせてもらう」

 エルは警戒しながら歩き出した。ロミも恐る恐るそれについていく。

「お気をつけて」

 クンタックの言葉を無視して、エルは森の中へと進んで行った。ロミは、一礼してからエルの後を追った。

【残り24人】

 

この話は続きます。

 

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