BATTLE DOYALE 
Dream of start of nightmare

名無しさん

 

プロローグ 「A man of black suit」

これから始まる事は、残念ながら「現実」では無い。だが、「彼ら」にとっては「現実」に等しすぎるほどの悲惨な「夢」。
「彼ら」は、「現実」だと思い込んでいる「夢」の中で、ひたすらにもがき続ける。それはただの『夢』に過ぎないと言うのに・・・。
「彼ら」は、「夢」から醒めたときに、安心するであろう。

「夢でよかった」と。

或いは、「夢」を見ていたことを忘れてしまう者もいるかもしれない。
いや、きっと忘れてしまうものの方が多いであろう・・・。
その「夢」は、あまりに残酷な夢だから、忘れてしまった方が幸運かも知れない。

だが、「彼ら」は「夢」を越えた後に・・・



















・・・・
現実と融合したそれぞれの『悪夢』を迎える事になる・・・・・・・。

















【BATTLE DOYALE】
〜Dream of start of nightmare〜















「以上、『特集!なぜ大塩平八郎の乱は、たった一日で鎮圧されてしまったのか!?』のコーナーでした」

ブラウン管の向こうに映った少々美人の女子アナウンサーが笑顔でそう言ったあと、
テレビは「ブツン」と言う音を立てて何も映らなくなった。
電源を切られたテレビの前には、漫画を読みながらごろごろしている眼鏡の少年がいる。
そしてその奥には青いボディをしたたぬ・・・ではなく、ネコ型ロボットがこれまた同じように漫画を読みながらごろごろしていた。

そう、のび太とドラえもんである。

「ドラえも〜ん、最近つまんないね〜」

「だったら、つまるようにすれば〜?」

「・・・」


こんなやるせない雰囲気の中で、時間だけはどんどん過ぎていった。

その内、空は黒インクが入ったポリバケツをひっくり返したような暗闇に包まれていた。
時計の針は、8時30分を回っていた。
夕ご飯を食べ終わった野比一家は、いつものように居間でテレビを見ながら談笑していた。

そんな中、ふいに、インターホンが鳴った。玉子が、いそいそと玄関へ向かう。
この時、なぜだかのび太とドラえもんも玄関に行かなければならないような気がした。

いつもだったらそんなことは無いのだが、そのときだけはいつもとは違った感覚が2人にはあった。


「はい?なんでしょうか?」

玉子がドアを開けると、黒スーツの男が立っていた。まるで、周りの暗闇と同化しているような、真っ黒なスーツだった。
歳は、大体20代後半といったところだろうか。なかなか爽やかな顔の持ち主だった。
男は一礼をして、話し始めた。

「こんな夜遅くにすみません。実は、道に迷ってしまって・・・。 あの〜、この辺に『桜田』という方はいらっしゃいますかね?」

男はとても困ったような顔をしながら、問いかけた。

「ごめんなさい・・・、ちょっと分からないですね・・・」

申し訳なさそうに答える玉子。それを聞いて、さらに困った顔をする男。

「よわったな〜・・・。この辺りだって聞いたんだけどな・・・」

男はため息をついて、地図らしきものが書いてある紙を見ながら、頭をかいた。

「あら?ちょっとその地図かしてもらってもいいですか?」

「え? あ、ああ、どうぞ・・・」

手渡された紙を見て、「ああやっぱり!」と言う玉子。それを見て、男はきょとんとしている。

「あの・・・、どうしたんですか?」

「あなた、この地図全然違う場所よ!これ、隣町の地図」

それを聞いて、「ええっ!」と、驚く黒スーツの男。

「今から行こうと思ったら、もっと遅くになっちゃうわよ? すぐに終わる用事だったら、大丈夫でしょうけど、
 そんなに立派なスーツを着てるぐらいなんだから結構長い用事なんじゃない?」

「え、ええ。まぁ・・・」

「だったら、今夜はうちに泊まっていきなさい。そんな夜遅くに行ったら失礼って物よ。
 電話貸してあげるから、ちゃんとその事を断って、ね?」

「で、でも、お子さんもいらっしゃる事だし・・・」

「僕達だったら大丈夫ですよ」

「そうです!遠慮なさらないでください!」

のび太達の後押しで、男は泊めてもらうことにした。

「あ、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて・・・」
 
「はい、どうぞ。上がってくださいな」

靴を脱いで、玄関へ上がる男。この時、ドラえもんはほんの少しだけ違和感を覚えた。
だが、その時は違和感の正体に気付けなかった。










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その後、男は夕飯や、お風呂に寝床までとフルサービスを受けた。
どうやら寝床はのび太の部屋らしい。

「まさか、ここまでして頂くなんて・・・。いつか、御礼をしなくてはいけませんね」

男は、のび太とドラえもんの頭をなでながら笑顔で言った。


黒スーツの男は、とても礼儀正しくのび太のような子供でも敬語で接していた。
まるで、真面目を絵に描いたような性格だった。

「あの、飯島さんは、何の仕事をしてらっしゃるんですか?」

『飯島』
それが、黒スーツの男の名前だった。

「僕かい?僕の仕事は、普通のサラリーマンだよ」

「と言う事は『桜田』という方は、取引先の人ですか?」

「うん。そう思ってくれればいいよ」

「そうですか・・・」

「ほら、のび太くん。飯島さんは明日早いんだから、もう寝るよ」

「あ、そうだ。すいません・・・」

「いやいや、大丈夫だよ。これでも、朝は強いから」

のび太は、少し笑いながら部屋の電気を消した。

「おやすみ、のび太くん、ドラえもんくん。

 良い『夢』を・・・・・・・・・・」























































「賽は投げられた・・・」

 

第一話 「curtains rises」

「う・・・ん・・・。よく寝た・・・・・・って、なんだここは!?」

ドラえもんが眼を覚ましたとき、そこはいつもの押入れの中とはまったく違っていた。
まるで牢屋のような、いや、牢屋そのものだった。フカフカだった布団が、シーツだけの質素なベッドになっていた。
それに、いつもの首輪の上に、もう1つ銀色に光る首輪がついていた。

「一体・・・どうなってんだ・・・?
 そうだ!のび太君・・・!それに、飯島さんも・・・」

鉄格子の外を見ると、同じような牢屋が幾つも幾つもあった。だが、肝心のその中は暗すぎてまったく見えない。
明かりと言えば、廊下にある小さい電球だけだった。とてもじゃないが、辺りを照らすほどの光は無い。

「なんなんだ・・・。どこなんだここは?何がどうなってんだ・・・?」

ドラえもんの頭の中はもう今までに無いパニック状態だった。
いろんなことが浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。



ここはどこなんだ?

何でこんなところにいるんだ?

のび太君もここにいるのか?

飯島さんはどこに行ったんだ?










これから何がはじまるって言うんだ?














「くそっ!」


ドラえもんは自棄になって、鉄格子に蹴りつけた。鉄格子は、壊れるどころか、ひしゃげもしなかった。
ただ、ドラえもんを見下すように、そこに立ち塞がったままだった。

「いたたたた!」

ドラえもんは、足を押さえて飛び回った。相当痛かったのだろう。

「ちぇっ・・・」

どうにもこうにもいかず、不機嫌そうにあの質素なベッドに腰掛けた。
その時、ふいに天井近くにあった小さいモニターが起動した。

「なんだ?」

少々驚きながらも、モニターに目をやるドラえもん。

画面は、真っ青で何も映る気配がしない。
しばらくその状態が続いたが、その内、音楽が流れ始めた。

「『君が代』?」

音楽は日本の国歌である『君が代」だった。

「・・・?」

音だけの君が代は、中途半端なところで切れた。

「切れたよ・・・。しかも中途半端なところで」

音が切れて少しすると、真っ青だったモニターが、急に鮮やかな草原を映し出した。
そして、画面が移り変わったと同時に、画像とはとても不釣合いな低い声が聞こえてきた。


『君たちは「夢」を見ることは好きか?』


スピーカーから流れてきたのは、意味不明な質問だった。

「『夢』・・・?」


『まぁ、君たちの意見はどうでも良いんだがな」



「質問しておいてそれかよ・・・」


ドラえもんは舌打ちをして呟いた。


『・・・私語は慎むように。【男子1番】ドラえもん君』



「・・・!??」

ドラえもんはひどく驚いた。
 自分の言葉が相手に聞こえていた事はもちろん、なぜ自分の名前を知見ず知らずの相手が知っているのかという方が
数段驚きが強かった。

のび太達以外の20世紀の人間が、なぜドラえもんの名前を知っていたのだろうか。


(22世紀の人間なのか?)


『今ので分かったと思うが、私はこの時代の人間ではない。
 だが、この際は私の素性などは関係の無い事だ。
 恐らく、今君たちは、自分がなぜここに来たのかも、どこにいるのかも、何が始まるのかも分からずに、怯えているだろう。
 その答えは、君たちのベッドの下にある』


ドラえもんはすぐさまベッドの下を覗き込んだ。
すると、1つのデイパックが目に飛び込んできた。

「これか・・・」

早速、デイパックを取り出すと一冊の冊子が貼りついていた。
その冊子を引っぺがし、ドラえもんは裏返してみた。


「『BR法』・・・?」



『そう、今から君たちには・・・』





  『殺し合ってもらう』



                










フロア中から、どよめきが起こった。
だが、そんなことを無視して、低い声の持ち主は続けた。

『・・・ルールは分かっていると思うが一応説明しておく。
・先ほど言った通り、君たちには殺しあってもらう
・ここは孤島だ。助けは来ない。当然携帯などの電波も繋がらない
・首輪は当然爆発する。弄らないように
・私のきまぐれで立ち入り禁止区域が発生する。放送はその10分前に行うので、聞いておくこと
・今君たちが持っているバックの中には当面の食料と武器とバトルロワイヤルの原作が入っている。
 おおかたこれに則って行うので、読んだことない人は読んでおくこと
 以上。質問は受け付けない」



「・・・・・・」



フロアの中は、静寂に包まれた。





『それと、殺害数が一番だったものも、帰れるから、そのつもりで』



そう言い残し、モニターは真っ暗になり何も映さなくなった。


「何が・・・どうなってんだ・・・・・・」

ドラえもんが、愕然としていると、看守らしき男がドラえもんがいる牢屋の鉄格子を開けた。

「・・・・・・・」

ドラえもんは、黙って牢屋を出て看守に指示された階段を上った。



























『せいぜい楽しませてくれたまえ・・・・』

 

第二話 「Start of unmeasured "Dream"」

「ドラ〜・・・」

さっきまで、ドラえもんが入っていた牢屋の中にミニドラはいた。
牢屋から出る瞬間、ドラえもんがポケットから出したのだ。
ミニドラは、早速探索を始めた。
幸いにも、もう看守らしき男達はいないようだ。

「ドララ・・・」

ミニドラが見上げる先には、大きな柱に「男子棟」と太字で書かれていた。
そして、その文字の下に、一枚の紙が貼り付けられていた。

「ドラ?」



___________________________________________________________________________


[男子名簿]

【男子1番】ドラえもん
【男子2番】ロップル
【男子3番】クンタック
【男子4番】エル
【男子5番】満月博士
【男子6番】パピ
【男子7番】ミクロス
【男子8番】バンホー
【男子9番】野比のび太
【男子10番】ククル
【男子11番】チッポ
【男子12番】ミクジン
【男子13番】グリオ
【男子14番】サピオ・ブリーキン
【男子15番】出木杉英才
【男子16番】ビタノ
【男子17番】ボーム
【男子18番】ピーブ
【男子19番】ジャック
【男子20番】リアン
【男子21番】ティオ
【男子22番】グースケ
【男子23番】ポコ
【男子24番】テムジン
【男子25番】ハチ
【男子26番】剛田武
【男子27番】骨川スネ夫

___________________________________________________________________________


「ドララ!」

ミニドラは、四次元ポケットから「フエルミラー」を取り出し、名簿をコピーした。


「ドラー!」


無事コピーし終えた後、その柱の隣にドアがあるのに気付いたミニドラ。

「ドラ〜?」

ドアに歩み寄るミニドラだが、ドアノブははるか頭上。とても届きそうに無かった。

「ドラ・・・」




____________________________________________________________________________


のび太(男子9番)は、地図を頼りに集落へと向かって歩いていた。
今、のび太がいるのはちょうど島の中心辺り。樹海のど真ん中だった。

「う〜、1人じゃ怖いな・・・。誰かいないかな〜。
 そうだ!思いっきり叫んでみよう!」

のび太は、まだ状況を理解していないらしい。
思いっきり息を吸い込んで、のび太は大声で叫んでしまった。

「誰かいませんかーーーーー!!」

そう叫んだ瞬間、周りの木の葉が次々と銃声と共に散っていった。

「うわわわっ!」

思わずその場にうずくまるのび太。それでも、いまだ銃声は鳴り止まない。
どんどん、隠れる場所が無くなっていく。

「に、逃げなきゃ・・・!」

のび太は、うまくタイミングを見計らって走り出した。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・、も、もう大丈夫かな・・・・・・」

一体どれくらい走っただろうか。のび太は、一体自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
地図を見ようとズボンのポケットを探したら、なんと無くなってしまっていた。
どうやら、走っている途中で落としてしまったらしい。

「ど、どうしよう・・・」

______________________________________________________________________________________________

チッポ(男子11番)は、先ほど聞こえた叫び声に向かって発砲し、その場で少し休憩を取っていた。

「アノ声・・・どっかで聞いたことがあるような気がしたんだけど・・・。気のせいか?」

しばらく休憩をとった後、自分が乱射した場所を捜索し始めた。

「あ、足跡がある・・。コレをたどっていけば・・・・・・」

チッポは、叫び声の主が残した足跡をたどって樹海に消えていった。

_______________________________________________________________________________


「ド〜ラ・・・」

どうにかこうにか、ドアを越えたミニドラ。
目の前の柱にはこう書いてあった。

「女子棟」

そして、男子棟と同じように、字の下に名簿があった。

______________________________________________________________________________

[女子名簿]

【女子1番】源静香
【女子2番】チャミー
【女子3番】ジャイ子
【女子4番】満月美夜子
【女子5番】リルル
【女子6番】ロー
【女子7番】ロミ
【女子8番】パルパル
【女子9番】プピー
【女子10番】ベティ
【女子11番】フレイヤ
【女子12番】クク
【女子13番】ミルク
【女子14番】ジャンヌ
【女子15番】フー子
【女子16番】チーコ

__________________________________________________________________________

「ドラッ!」

同じように、フエルミラーで名簿をコピーしたミニドラ。
そして、男子名簿と共に、データをドラえもんの元に転送した。

「ドララ〜!」

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「名簿・・・、なんで皆までいるんだ・・・?」

ドラえもん(男子1番)はミニドラから受け取った名簿のデータを手に取り、考え込んでいた。

そして、どれくらいたったか、急に草むらがガサッとなった。

「な、なんだ・・・?」

ドラえもんは、デイパックに入っていたMP5サブマシンガンを取り出して構えた。

「さぁ、来るならこい・・・!」

 

第三話 「The oiseT」

体中が震えだした。
もしかしたら、1秒後には殺されてしまうかもしれない。逆もまた然り、この手で人を殺めてしまうかもしれない。
もしそうなったとき、自分はその重圧に耐えられるだろうか?

 引き金にかかっている指が、銃を持っている腕が、そして体中から、冷や汗が吹き出してくる。

「そこにいるのは、分かってる……! 早く出て来い!」

 草むらに向けて、ドラえもんは怒鳴った。
これ以上沈黙が続いたら、緊張で胸が張り裂けそうだったから。


 また、草むらが揺れた。
 そして、ドラえもんをここまで極限状態に追いやった者が、遂にその姿を現した。



 その正体は、どこにでもいるようなトカゲだった。

「な、なんだ……。トカゲかぁ。脅かすなよぉ〜」

 ドラえもんがトカゲに近づこうとその瞬間、足元が蜂の巣になった。

「わっ!」

 とっさに後方に飛び退いた。草むらに隠れながら、銃弾の飛んできた方向にサブマシンガンを乱射した。
草むらに身を隠し、様子を見る。相手の攻撃は止んだが、まだ油断は出来ない。

「くそっ、一体誰だ……!」

 辺りを見ようと頭を出したら、またもや銃弾の嵐がドラえもんを襲った。
どうやら、相手はドラえもんの姿がしっかりと確認できる位置にいるらしい。

「身動きが取れない……。どうすればいいんだ?」

 ドラえもんは考えた。どうにかしてこの状況を打開する方法を。
色々と案を出してみたが、どれもこれもうまくいきそうに無かった。
 それに、何か動きを起こそうと思えば、銃弾が飛んでくる。

「もう、コレしかないな……」

 ドラえもんは決心した。相手に向かって突撃する事を。
 木の陰に隠れながら、身を構える。

「よし! 行くぞ!!」

 ドラえもんが飛び出そうとしたとき、異変が起こった。
 相手がいるかと思われる方向から、「うわ!」という声が聞こえた。
その声が耳に届いた直後に、何かが倒れる音。
ドラえもんは、「今だっ」とつぶやいて、木の陰から飛び出した。

 草むらを掻き分けてドラえもんは、後ろを振り向かずに一目散に逃げていった。


_________________________________________


 サピオ(男子14番)は、頭の中に響く『ノイズ』のようなものに襲われ、その場に倒れこんでいた。
その内、目の前がまるで壊れたテレビのように砂嵐が現れた。

「な、なんだ……? これはぁ……」

 この『ノイズ』が出てきたのは、先ほど木の陰に隠れていた青い何かに向かって発砲していたときだった。
止めをさそうと、歩き出したときに何の前触れも無く現れたのだ。

「くそぉっ、早くとまれぇええ!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 出木杉(男子15番)は、ある小屋を見つけた。

「小屋……か」

 出木杉は既にプログラムに乗る気でいた。そう、もし人がいたら容赦なく殺すつもりだった。
デイパックに入っていた武器は「コンバットナイフ」。
 相手が銃器でなければ十分有利である。

「さて……行くか」





 小屋のドアを開ける出木杉。
中には、満月博士(男子5番)が床に座っていた。手にはウージーが握られている。

「なんだね? 君は」

 警告をしているのか、低い声で出木杉に声をかける。出木杉は相手が銃を持っているのを確認し、笑顔で返した。

「こんな状況で、気が立っているとは思いますが、大丈夫です。僕はこれに参加する気はありませんから」

「……。ならいいんだが」

 満月は安心したのか、窓の外を見た。
 出木杉はいきなり攻撃を仕掛けても、同士討ちになると思い、相手の心につけいる作戦を考えた。

「隣、いいですか?」

 出木杉の問いかけに、満月は少々笑みを浮かべて頷いた。
静かに歩み寄り、満月の隣に座る出木杉。 普通のものだったら、ここで攻撃を仕掛けるはずだが、出木杉は違った。
あくまでも、確実に、そして安全に相手を殺せるよう、徹底的に相手を油断させる作戦を取った。

「キレイですね。窓の外」

「ああ、そうですな……」

 出木杉は笑顔を絶やさなかった。満月はその偽りの笑顔に、完全に騙されてしまっていた。

 その後も、出木杉は計画通りにことを進めた。

窓の外は、太陽がとても見事に輝いている。

「私は思うんだ」

「はい?」

「もし、この太陽が沈んだとき、わしの命も終わりだと考えてしまうのだ……」

「残念ですね」

「え?」

 満月が出木杉の方を見た瞬間、額に激痛が走った。

「あなたは、もっと早く死んでしまうんだから」

 満月が最期に見たのは、先ほどとは打って変わって冷たい笑顔を浮かべて自分を見下ろしている出木杉だった。



出木杉は、満月の額からナイフを抜いた。そして、満月のデイパックから、水、食料を自分のデイパックに移し変え、
ウージーを拾い、もう動かなくなった老人に、こう言った

「いい武器をどうも」


【残り42人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「う…………あ……」

 サピオは、ノイズに襲われている中、何者かに後ろから滅多切りにされ、既に事切れていた。

「ちょっと可哀想なことをしてしまいましたかね……」

 サピオを滅多切りにしたのは、クンタック(男子3番)だった。

「だから、落ち着いてって言ったんですがね〜。まぁ、仕方ないですか」

 クンタックの支給武器は、日本刀。正におあつらえ向きである。
その後、デイパックの中身を移し変え、その場を立ち去った。

【残り41人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 クンタックが立ち去ってからしばらくして、のび太(男子9番)が逃げに逃げ回って、この場にたどり着いてしまった。
サピオの死体を目の当たりにして、のび太は吐いた。

「サ、サピオくん……」

 のび太は涙目になりながら、既に事切れたサピオの元に歩み寄った。
辺りを見回して、誰もいない事を確認したのび太。

「これ……もらうね」

 サピオのすぐ傍に落ちていたイングラムを拾い、自分のデイパックに入れた。(のび太の支給武器はケチャップ)
そして、のび太はゆっくりと歩き始めた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 足跡をたどっていたチッポ(男子11番)は、少し休憩を取っていた。

「しかし、今まで誰にも会わなかったのは助かったな……」

 水を飲みながらそう呟くチッポ。
彼の支給武器はベレッタM92。比較的有利な武器である。
 チッポは休憩と共にリロードを終え、歩き出そうとしたとき、人影が見えた。

「ん? なんだ――?」

 人影が見えた所に静かに近づくチッポ。

「誰かいるのか?」

 チッポは銃を構えながら、ゆっくりとゆっくりと近づいていく―――

【残り41人】

 

第四話 「Able person」

 チッポ(男子11番)は草むらの一点だけを見つめていた。
先ほど人の気配が感じられた場所。そこに少しずつ慎重に近づいていく。

 そして、遂に目の前まで近づいた。もう前進は出来ない。草むらの向こうを覗き込むしかできることは無い。
だが、なかなか決意が出来なかった。覗き込んだ瞬間に殺されてしまうかもしれない。

「くそ……! 出てくるなら、早く来い――」






 どれ位の時間が経ったか、とうとうチッポは決断した。

 勇気を振り絞り、草むらを覗き込むと、そこにはロップル(男子2番)がしゃがみこんでいた。
とっさに飛びのいて銃を構えるチッポ。
ロップルは、両手を挙げながら草のなかからゆっくりと出てきた。

「う、撃つな! ほら、見ろ! 武器は持ってないから!」

 確かにロップルは武器を手にしていない。だが、チッポは銃を下ろさなかった。

「信用できないな――。本当に何も持ってないか、確認させてもらおうか」

 この時、ロップルはマズイと感じた。実は、後ろ側に支給武器であるバタフライナイフを隠し持っていたからだ。
隙があれば、それで一刺しにするつもりだった。

「背中を見せろ」

 どう転んでも、ロップルが不利なのは目に見えていた。だが、ロップルにはまだ「切り札」があった。

「ああ、ちょっと待ってくれ……」

 そう言って、ロップルは汗を拭うような仕草をした。その時、それを合図にしたかのように、
ロップルの後ろからピンク色の物体が飛び出してきた。

「なっ!!」

 飛び出してきたピンク色の物体の正体はチャミー(女子2番)だった。
いきなり姿を現したチャミーにチッポは対応しきれず、まともに体当たりを食らってしまった。

「今だ!」

 ロップルは今が好機と、走り出したとき銃声が響いた。そして、銃声と共にチャミーの体から血が噴き出した。
チッポは体当たりを受けたものの、銃だけは手放してはいなかった。体当たりされた直後、倒れる間際に引き金を引いていたのだった。

「あぁ! チャミー!」

 ロップルの叫び声と共に2つの銃声が鳴った。放たれた銃弾は、2つともロップルの胸に命中し、ロップルの息の根を止めた。
息を荒げながらも、チッポは立ち上がった。

「はぁ……はぁ……」

 自分が撃ち殺した2つの死体を見下ろし、チッポはその場を立ち去った。

【残り39人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 静香(女子1番)はたった今聞こえた2,3つほどの銃声に不安を感じていた。

「また、誰か死んでしまったのかしら……」

 静香の支給武器はスタンガン。少々心もとないが、もともとプログラムに乗る気は無かったので、
あくまでも身を守るためだけに使おうと静香は決めていた。

「とにかく、ここから離れた方がいいわね――。必ず生きて帰るんだから……!」

そう心に決め、走る静香だった。

【残り39人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 出木杉(男子15番)は、森を抜け集落にたどり着いていた。
この集落、実はプログラム開始直後にのび太(男子9番)が目指していた場所である。
しかも、既にのび太はここにたどり着いていた。

「誰かいるのか………?」

 出木杉はなるべく音を立てないよう、慎重に歩き出した。






「……! だ、誰か来た……!」

 最初に発見したのは、家に隠れていたのび太だった。
彼がいたのは、集落の端のほうにある2階建ての少し立派な家屋の2階部分に隠れていた。
のび太はそれが出木杉だとは分からないでいた。

「誰だろう――? み、見てみようかな……」

 窓の外から外を見ようとしたとき、「パキッ」と何かが折れるような音がした。
小さい音ではあったが、静寂に包まれていた集落では十分に聞こえてしまう音だった。

「なんだ!?」

 出木杉は音に気付き、のび太が潜んでいる家屋へと向かった。
だが、出木杉は慎重に、走らずに歩いて向かった。
こんなところでは、死にはしないという気持ちが、彼にそうさせたのだろう。

しかし、その行動はのび太に逃げるチャンスを与えてしまった。
出木杉が家屋についた頃には、既にのび太は森の中へと消えていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ティオ(男子21番)は森の中に1軒の小屋を見つけていた。

「ありがたい! あそこで少し休憩させてもらおう」

 安心して小屋のドアを開けると、その中は異様なにおいと夥しい血痕に包まれていた。

「うわっ! な、なんだここは!?」

 ティオは、そのひどい臭いに耐えながら、小屋の中へと進んだ。
すると、テーブルの奥に人の足が見える。

「おい! 大丈夫かっ!?」

 駆け寄ると、そこには額に何かが刺さったような痕がある満月博士(男子5番)の無残な死体だった。
ティオは思わず顔を背けた。

「う……、これはひどい……」

 小屋を立ち去ろうとしたとき、唐突に小屋のドアが開いた。
その直後に響いたのは、無数の銃声だった。

 ティオは体中を蜂の巣にされ、吹っ飛んだ。この小屋に死体を増やしたのは、集落から戻ってきた出木杉だった。

「弱すぎるんじゃない?」

 冷たく言い放ち、ティオのデイパックから、水と食料を移し変えた。

「武器は持ってないんですかね〜? あ、あったあった」

 ティオの支給武器であった鎌を奪い、小屋を立ち去る出木杉。

「このゲームは人を殺すゲームだ。今は、殺す者よりも、殺される者の方が悪いんだよ」

 そう言う出木杉の目は、既に狂気に満ちていた。

「優勝するのはこの僕だ――。」


【残り38人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「今の銃声、近かったな」

 そう言いながら、食料であるパンを頬張っているのは、ハチ(男子25番)だった。
彼の支給武器は木刀。近距離戦であれば、十分戦える。

「んじゃ、そろそろ行きますか……」

 腰を上げ、歩き出そうとしたとき、後ろに気配を感じた。
ハチは、静かに振り返った。


 振り向いた先に立っていたのは、クンタック(男子3番)だった。

「なんだぁお前?」

「いや、この状況でいやにのんきな人がいるな、と思いまして」

「こんなところで騒いだってしゃあないしな。んで、なんか用?」

「面白い事をおっしゃりますね。まぁ、いいでしょう。率直に言いましょう」

「ああ、頼むわ。オレ、長いの嫌いだし」

 ハチの言葉に、「アハハ」と笑いクンタックは言った。

「お手合わせ願いましょうか? 見た所、あなたも剣術がお得意そうだ」

「な、何ィ?」

 ハチはかなり驚いた。この短い時間で自分が剣術使いだと見破られたのだから。ハチは一気に警戒心を高めた。

「何考えてんだか知らねぇけど……。いいよ、分かった」

「どうも……」

ハチとクンタックは、2人同時に武器を取った。

 

この話は続きます。

 

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