RAGNAROK

名無しさん

第12話

セントバーナードシティ 空港への高速道路 PM 6:18


一台の車が、猛スピードで空港へと向かっている。車の中には、少年と少女が乗っているが、少女の方は手足を縛られ、
猿轡までされている 少年の方は運転しながら、ふとサイドミラーを見てみると、かすかな光が3つ見えた

「か〜、しつこいな、あいつら。まだ追って来るんか」


そう、この2人はダクとチーコである。ダクは、追っ手が来ているのを確認すると、思いっきりアクセルを踏んだ


「ンー! ンー!」


猿轡をされたチーコが、助手席でもがいている。しかし、手足をしっかりと塞がれている為、どうすることも出来ない

「おとなしゅうせんか! 遅かれ早かれ死ぬんやろが!」

そう言い放ち、チーコの顔をダクが叩いた。車内に乾いた音が響く
チーコは思わず泣きそうになったが、グッと堪えた

「ハッ! まあ、ずっといい子でいたら、お前だけでも助けてやってもエエで?」

ダクがそう言っても、チーコは黙ったままだった

「クックックッ…」

不気味な笑い声が、静かに聞こえた









ダク車の後方約200m地点


「待ちやがれぇぇぇえええ!!」

叫びながら追いかけるドラえもんたちの姿があった(叫んでいるのはジャイアン)
こちらも、アクセル全開で前方の車を追っている

幸いにもこの高速道路はカーブがかなり少ないため、こんなスピードで走っていても、比較的安全だ

 ただ、ドラえもんたちの車は軽トラに近い車なので、運転席には2人しか乗れない
その席には、運転手である静香、助手席にはシャミーが乗っている。では、ドラえもん、のび太、ジャイアンの3人は
 どこに乗っているのだろうか

答えは・・・


「何で僕達は、また荷台なわけ〜!!?」

「しょうがないっちゃ、しょうがないような気もするけど…」

「うおおおぉぉぉおお!! 待ちやがれええぇぇぇ!」


前回と同じく荷台に乗っていた。だが、今回は前の車よりも少し大きいため、スペースが広く比較的快適だった


「静香ちゃん! もっとスピードでないの!!?」

「無理よ! これが限界だわ!」


ダクの車との距離は、なかなか縮まらない。それどころか少しづつ離されていく

「のび太! あの車のタイヤを撃て!!」

「ええ!? 流石に無理だよ! こんな状況で撃てるわけが無い!!」

ジャイアンの最後の作戦も実行できずに終わった

なおも、ドラえもん達は、ダクを追い続ける









ダク車車内

「そろそろ・・・やな」

そう呟くと、座席のポケットから何かのスイッチを取り出した

「なぁ。チーコ? いまからオモロイの見せたろか?」

チーコは、うつむいたまま。ダクはそれを見てつまらなそうな顔をした

「まあ エエ。ほな、ショータイムや!!」

言うと、ダクはスイッチを押した。だが、「ここ」には何も起こらなかった

「さてと…」

突如、ダク車のスピードがガクンと落ちた

「!!?」

チーコはかなり驚いている。思わず、ハチ達がいるであろう後ろに、振り返った

「ショーは、間近で見んとな〜…」

ダクの表情は、冷たかった









最初に気付いたのは、のび太だった

「なんだ……? アレ?」

地平線の向こうから、黒い影がこちらに近づいてくる。アクセル全開の車に近づいているということは、
とてつもないスピードである

これはおかしいと思い、ドラえもんに知らせた

「ほんとだ。 ハチ!!」


「あ? 何だ?」

「何か近づいてくる!」


ドラえもんにそう言われ、後ろを振り向くと、確かに何かがこちらに向かっている

何かと考えていると、静香が大声を上げた



「ああ! 前!! 前を見て!」


慌てて振り向き直すと、なんと数メートル先に、ダクの車があるではないか

「何!?」

一同が混乱していると、あの影の正体が明らかになってきた

「お、おい! アレって…」

その正体とは、驚くことに「ハンター」だった。確かにハンターは動きが早く、俊敏だが、これは異常である
これが、ダクの言うショーだった



「……やれ」


ダクがポツリと言うと、それを合図にハンターが一気にドラえもん達に襲い掛かった



「クソ! これでも喰らえ!!」

のび太が2丁の拳銃で、1匹目のハンタをーを蜂の巣にした。蜂の巣にされたハンターは、そのまま地平線に消えていった
だが、1匹倒したぐらいでは、ハンター達の勢いは止まらない。次から次へと飛び掛ってくる

「これじゃあ、キリがねぇ!!」



「頑張れ! みんな!!」


悪戦苦闘しながらも、ハンターを撃破していくトラック班
バイクに乗ってるハチはというと、片手でハンドル、もう一方の手で剣を振り、ハンターを斬り倒すという、某RPGの
主人公のようなことをしていた

「ほ〜、なかなかやるな〜。まあ、これぐらいはやってもらわんと、おもろないからな」

「……!」

「そない睨むなや〜。お前もショーを楽しまんかい」









「だー! こいつらいくらでも沸いて出てくるぞ!!」

「た、弾無くなってきた…」


 銃声と断末魔が響く中、なんとかしのいでいたドラえもん達の戦線が乱れ始めた
その原因は、圧倒的な銃弾の不足だった
 このまま戦っていれば、ジリ貧になるのは目に見えていた

だが、ここで一筋の希望が見えてきた。もう少しで空港に着くというシャミーからの情報である
それを聞いて、安心したのか一瞬攻撃の手を緩めてしまった


「おい! 空港まで後どれくらいなんだ!」

詳しいことを聞こうと、ジャイアンが運転席の方を向いたその時だった

「ジャイアン! 危ない!!」



「え?」



のび太が叫んだときには、もう遅かった。ハンターのツメはジャイアンの首を刈り取っていた
目の前で友達の首が飛ばされ、のび太は呆然とするしかなかった

ドラえもんもそれは同じだった。あまりにもあっさりすぎる友人の死に、体が動かなかった

ジャイアンの体が、力なくその場に倒れこむ。その後ろには、彼を葬ったハンターの姿が

次の狙いは、のび太かドラえもんであろう。じりじりとハンターが2人の元へ近づいていくが、当のドラえもんとのび太は
まったく気付いていない。いや、見えていないと言ったほうが正しいのかもしれない

2人の視線の先には、もう二度と動かないジャイアンの亡骸があった

「ジャイ…ア…ン……?」


「のび太! 逃げろ!!」


ハチの声はのび太には届かなかったが、その代わり、のび太の隣にいたドラえもんに届いた

「あ! の、のび太くん!!」

ドラえもんは慌てて、のび太の襟首を掴み、思いっきり引っ張った。間一髪、ハンターの振り下ろし攻撃を避けたのび太。
ここでやっと正気に戻った

「ハッ、ド、ドラえもん」

「のび太くん、帰ってきた!?」

「う、うん。何とか…」


しかし、安心に浸っている場合ではなかった。ハンターは攻撃の準備を整え、ドラえもんとのび太に向かって、
ツメを振り下ろした
一巻の終わりかと思われた時、ハンターの体が真っ二つに分かれた。たちまち上半身が、後方に飛んでいく。
残された下半身は後ろに倒れた

「ハ、ハチ!」

のび太達を助けたのはハチだった。少々あきれた顔でのび太達を見つめている

「あ、ありがとう」


のび太が弱弱しくお礼を言う。そんなのび太を見て、ハチは小さくため息をついた

「たのむぜ、ホント。これ以上死なせたくないからな…」

「ごめん……」


ここで、ドラえもんがあることに気付いた

「ねぇ、バイクは?」


「乗り捨てた」

「なんで?」


「お前らを助けたから!!」


「すいません」


そんな事を話していると、運転席から声がしてきた

「ハチー! あと3分ぐらいで空港に着くわ!!」

「分かった! のび太、ドラえもん準備は良いか?」

「ああ!任せて!!」


「うし!!」









「あ〜、ショーは終わりか。んでも、1人殺したからよしとするか。
 それに、アイツら弾撃ち尽くしたようやし…」

ダクが満足そうにしていると、無線が鳴った。いきなりなので、ダクは少し驚いたが、すぐに無線機を取った

「なんすか〜『社長』」

『大変なことが起こった。心して聞いて欲しい』

「どないしたんですか? なんか、予定外なことでも?」

『君は今、空港に向かっているのだろう?』

「ええ。そうっすけど」

『権力者が暴走を始めた。こちらの指示を無視するようになった。
 空港にいることは確かだが、発信機が壊されたせいで、空港内のどこに居るか分からない」

「そんなん、どうってことないんじゃ…」

『暴走を始めたといっただろう? 奴はとてつもないパワーを持っている。下手をしたらお前が殺される。
 ヘリが壊される危険性も出てきた。至急空港に向かい、脱出しろ。以上だ』

「え、ちょ、ちょい待ちいな!! おい!」

一方的に無線を切られ、ダクは内心イラッとした。空港はもう目の前。そんな気持ちをリセットして、空港へと急ぐ









セントバーナードシティ 空港第2駐車場 PM 7:00

「さてと、ついたでぇ」

ダクはチーコの足を縛っていたロープを解き、猿轡を外した。そして車から降りると、トランクから、
小さめのアタッシュケースを持って、チーコを車から降ろした

「おとなしゅうしとけよ。ちょっとでも変なことしたら、おのれの脳天に穴開くで」

そういうと、チーコを引っ張り自動ドアの向こうに消えていった


その数分後、ドラえもんたちを乗せた車も、到着した。運転していた静香はすっかり疲れきっていた

「よし、いこうぜ」

「妙に静かだね…」



「大丈夫? 静香さん…?」

シャミーが心配そうに声をかける

「……ええ。大丈夫よ」


荷台に乗っていたメンバーが、降りようとしたときジャイアンの死体が目に付いた
首だけが無い、無残な死体。目を覆いたくなるような姿だった

「ジャイアン…」

「これで、本当にお別れだね……」

「良い奴…だったけどな」


その時、ジャイアンのポケットがかすかに光った

「なんだ?」

のび太が近寄ってみると、なんと、銃の弾だった。今、弾丸不足ののび太にとっては、それは正に宝物だった

「ありがとう、ジャイアン」

のび太はジャイアンのポケットから、銃の弾を取り出し、強く握り締めた

「ジャイアン、君の分まで戦ってくる。だから、僕達を見守ってて。かならず、生きて帰るから!」

のび太は強く叫んで、荷台から降りた

















「なんだ? 何でこんなところに『注射器』が落ちてるんだ?」


























セントバーナードシティ 空港ロビー PM 7:03


のび太達が空港内に入ると、信じられないほど、辺りは静寂に満ちていた
ダクが言っていた「ゾンビの団体客」はかけらも見つからない ゾンビどころか、死体すらない。一体どういうことなのか

「何だ…。何でこんなに静かなんだ……?」

「逆に不気味ね…」

「とにかく、ダクを探そう」

のび太がそういった直後、上から声がした


「遅かったやないか!! ハチィ!!」


2階部分から、ダクがハチ達を見下ろしている

「ダク! チーコをどこだ!!」

ハチが怒鳴りつける。が、ダクは怯むことなく、笑いながら答えた

「チーコ? そんなら、ここにおるで」


ダクがそういうと、姿は見えないがチーコが叫んだ

「ハチ!! 私のことは構わないで! 早く逃げて!!」

「な!?」

「こいつ、ここで私達を皆殺しにするつもりよ!!」


しばしの沈黙の後、ダクが口を開いた

「言う手間が省けたな〜。そや、今この女が言った通りや。
 選びぃな、女助けて全員死ぬか、女見捨てて逃げ帰るかぁ!!」

全員が、一斉にハチを見た。ハチは、ダクのほうを見ながら、戸惑っている

「ハ、ハチ…」


静寂に静寂が重なり、もう何も聞こえない。聞こえるものといったら、高まる自分の心臓の音だけ
時間が経つにつれて、その音はどんどん大きくなっていく


一体どれ位の時間が過ぎたのだろうか。ハチが、少し遠くを見てみると、ある「者」が見えた
それに気がついたハチは、深呼吸をして、口を開いた


「なぁ、ダク」


「なんや? まさか、命乞いなんかするんやないやろな?」


「ば〜か、ンな事するわけねぇだろ。むしろ、命乞いが必要なのはお前の方なんじゃないのか?」

「なんやとォ?」


「後ろを見てみな? 奴さんがお前を待ってるぜ…?」


「何を言うとるん…」

言いながら、ダクが振り返ると、そこにはなんと『権力者』の姿がダクを凝視し、戦闘モードに入っている

「最悪…やな」


「ガアアァァァアアアァアァァァァァアア!!!!」


「クソッ!!」


『権力者』の一撃を何とかかわしたダク。しかし、飛んで避けてしまったため、次の攻撃が来たら直撃は確実だった
もちろん、『権力者』がそれを見逃すはずが無かった


「ゴアアァァァアアア!!!」


次の瞬間、空港内の静寂をぶち破る音と共にダクの体が消えた

「アアアァァァァア……」

『権力者』の眼は、チーコを狙っていた

「……っ!」


 銃を取ろうにも、両手がふさがっている。後ろに下がろうとしても、すでに逃げ場は無いも同然
絶体絶命の状況の中、下から声がする。ハチの声だ

「チーコ! 聞こえるか!! 今すぐそこから飛び降りろ!!」

「ええっ!」

「大丈夫だ! オレを信じろ!!」


 チーコは一瞬ためらった。なぜなら、そこは二階といっても、結構な高さがある。手がふさがってる以上、
うまく着地できる可能性は無いに等しい。
もし下手に飛び降りて、怪我をすれば迷惑どころの話じゃなくなる事は目に見えていた。
だが、すぐそこまで『権力者』が迫っている。

もはや、迷ってる暇など無い。目をつぶりながら、チーコは飛び降りた









「な? 信じろって言っただろ」


目を開けると、ハチがチーコを抱きかかえていた。ハチは、チーコの落下点を先読みし、チーコをキャッチしたのだった

「ハ、ハチ…」

「立てるかチーコ? 早く逃げるぞ」

「ええ!」


ハチが持っている剣で、チーコの手を縛っているロープを切る

「でも、どうやって逃げるの?」

「ああ。方法はドラえもんが知ってる。早く行け」

「分かったわ…って、ハチは!?」

「オレは、あいつを殺してから行く」

ハチの視線の先には、『権力者』。ハチは、こいつを倒す事を、決心していた
チーコをドラえもんたちに預け、『権力者』の元へ向かう

「ハチ!! 絶対帰ってきてね!」


「ああ!」



ドラえもんたちと一緒に、走り去っていくチーコの姿を見届けると、剣を構え『権力者』に向かって叫ぶ


「決着をつけようぜ!! 『権力者』…いや、」










         「『ネコジャラ』さんよ!!!」









「ねぇ、ここからどうやって脱出するの!?」

「とにかく、まずはヘリポートへ向かう。空港がこんな様子なんだから、ヘリは無事なはずだ!」

「で、でも鍵が無いじゃない!」

「へへ〜ん。それがあるんだな〜」

ドラえもんは四次元ポケットの中から、ひとつの鍵を取り出した

「え、なんで?」

「車の中にあったんだ。なぜだか分からないけど」

「とりあえず、今は急ごう!」


5つの影は走り続ける。生き残るために









「かかってこいよ、ネコジャラ!!」

ハチが大声を上げても、『権力者』から何の反応も無い
おかしいと思い、ゆっくりと近づくと、『権力者』の身体がバラバラと崩れ落ちた

「!!?」

ハチは思わず飛びのいて態勢を整えた。様子を伺っていると、自らの目を疑った。
崩れ去った『権力者』の影から、死んだはずの「ダク」が姿を現した


「ひさしぶりやな〜、ハチィ!」


ハチは驚きを隠せない。先ほど、『権力者』の一撃で死んだはずのダクが、笑いながらこちらを見ている


「て、テメェ、死んだはずじゃ…!!」


「ん? ああ、さっきの事かい? アレくらいで死んだと勘違いされたくないな〜。
 実はな、ワイも人体実験受けてんねんで」


「……!!?」

ハチには、もう驚く事しか出来なかった。何がなんだか分からない。頭の中は極度の混乱状態。
何が現実で、何が嘘なのか。考える事すら出来なくなってしまった


「それにしても、よー分かったな。こいつが『ネコジャラ』やってこと」

「…………?」

「なんや? どーしたんやハチ?」


「…さい……」


「あ? 聞こえへんな〜」


「…るさい……うる………」

「ん? なんや〜」


「うるさい…! うるさーーーーい!!」


叫び、力任せに斬りかかる。ダクはそれに怯むことなく、それどころか、自らを斬ろうとしている剣に向かっていくではないか


「!!」


ハチの剣は、ダクの『素手』に止められた

「そんなもんかい。われの力は…?」

「クソっ!!」

どんなに力を入れても、剣はピクリとも動かなかった

「残念やな〜。つまらんけど、サヨナラや」


そう言った直後、掴んでいた剣を弾き飛ばしその勢いでハチの腹に強烈なパンチが飛び込んだ

「がっ!!!」

その威力はすさまじく、ハチの体が数m吹っ飛んだ
壁に叩きつけられたハチ。一発しか受けていないにもかかわらず、ダメージは相当のものだった

「カハっ…。ゲホっ ゲホッ」

もはや立ち上がる事も困難な状態になったハチ。その前には、余裕の表情で立っているダクの姿が


「おいおい、これで終わりやないやろな? もうちっと、楽しませてくれや。ハチくん」










セントバーナードシティ 空港第4ヘリポート PM 7:29

「ハチ…遅いな」

既にヘリを確保したドラえもんたちが、ハチの到着を待っていた
ドラえもんの推理どおり、空港のどこにもゾンビはおらず、ヘリは傷ひとつ無かった

「何かあったのかしら? 私、見てくる!」

「あ! チーコちゃん!」

「まって! 僕も行くよ」

「ドラちゃんが行くなら私も行くわ!!」











セントバーナードシティ 空港ロビー PM 7:36


「まったく、ちょっとどつきまわした位でこないなってしまうんか…。案外つまらんかったな。
 時間もないし、もう終いや」


ダクががっかりしながらも、とどめの一撃を刺そうとしたしたその時、ダクの体中に激痛が走った


「ハチ! 助けに来たよ!!」

飛び込んできたのは、のび太だった。自慢の銃撃でダクを蜂の巣にしたのだった

「な…なんで……や………ね………」

蜂の巣にされ、ダクはその場に崩れ落ちた
うつぶせに倒れ、傷口からドクドクという音が聞こえそうなほど、血が流れている



「ハチ、大丈夫!!? 立てる!?」

「ゲホッ…。 なんとかな…」

「傷だらけじゃない! もう、ハチの馬鹿!!」

「あんま、大声出さないでくれる…。響くんだよ……お前の声…」

「ちょっ…それどういう意味よ!!」









セントバーナードシティ 空港第4ヘリポート PM 7:40

「後は、ヘリに乗って逃げるだけだ! さあ、みんな早く!!」

ドラえもんが、呼びかける。もう脱出できると確信している一行は、急ぎながらも、周りの景色を見ながらヘリに向かっていた

「これで、やっと終わるんだね…」

「そうだよ、のび太くん。だから早くヘリに乗り込もう」


ヘリの目の前まで来た一行。まずはドラえもんが乗り込む。その次にシャミー。
シャミーが乗ったのを確認して、のび太が少々てこずりながらも、ヘリに乗った。

次に、チーコが乗ろうとしたとき、ヘリポートの入り口のドアが、とんでもない音をだして開いた

「なんだ!?」


ドアのところに立っていたのは、ダクだった。先ほど、蜂の巣にされたはずのダクが、紛れも無くそこにいる。
しかも、驚く事に、両手が極度に変形しており、剣のようになっている

「キサマラ…。コノママデハスマサナイゾ!!」


狂ったように叫んだ後、とんでもないスピードでこちらに飛んできた

「ジャアナ…!」

言うが早いが、剣と化した左手でハチの腹を貫いた


「………っ!!」


ダクがゆっくりと剣を抜く。それと同時に、夥しい血を流しながら、ハチが膝を突いて倒れこんだ



その場に響き渡ったのは、ダクの狂いきった笑い声と、チーコの悲鳴だけだった

 

第13話(最終話)

セントバーナードシティ 空港第4ヘリポート PM 7:41

一行は、脱出目前にして最悪の事態に陥ってしまった
脱出を阻む者は、1時間ほど前までは仲間だったはずのダク。いや、この時点ではもうダクですらない

彼は、のび太に蜂の巣にされた後、事前に投与していた『R-ウイルス』の作用で、蘇生したが、
その代わりに化け物と化してしまった

ドラえもんたちの前に立っているのは、すでにダクではない。単なる『なれ果て』だ


「ハチ! おい、しっかりしろ!!」

のび太が慌てふためいて、瀕死のハチの元へ行く。だが、それをダクが邪魔をするかのように、暴れまわる

「だめだ、これじゃあハチの所へいけないよ!」

悔しそうに舌打ちをするのび太。そこで、ドラえもんが単純な作戦を考えた。
それはドラえもんが持っているサブマシンガンでダクの周辺を撃ち、足止めをさせたところで、
のび太とチーコがハチをヘリに乗せるという、誰でも考えられるようなものだった

 しかし、今は時間が無い。モタモタしているとミサイルが飛んでくるかもしれないし、
なによりハチがとても危険な状態にある。

 幸いにも、ヘリの中には大きめの救急箱が置いてあったので、応急処置ぐらいは何とかなる。
まずは、ハチをこのヘリに乗せるのが先決だと、ドラえもんとのび太は考えた

「よし、じゃあ行くよ!」

ドラえもんが合図を出し、サブマシンガンを連射する。突然の攻撃に、ダクは少しだけ怯んだ

その隙を見て、のび太が急いでハチの元へ向かう。

なんとか、ハチのところへ辿り着くことが出来た。後は、ヘリに乗せるだけ。
ダクもサブマシンガンに邪魔されて、足止めをくらったまま

「チーコちゃん! 急いで!!」

「え、ええ!!」

ハチを抱えて、全力で走るのび太。それを支えるチーコ。
ヘリでは、汗だくになりながらも、エンジンを掛け、飛び立つ準備を完了させた、静香とシャミー。

のび太達はもうすぐそこまで、来ている。

「もうちょっとだ!! ガンバレ!」

安心したドラえもんが、のび太に手を差し伸べた次の瞬間、

銃弾の嵐から抜け出したダクが、とてつもないスピードで、のび太に斬りかかった

「!! のび太くん! 後ろぉ!」

ドラえもんが叫んだときには、ダクがもう目の前まで来ていた。刃と化した腕を振り上げ、
今まさにのび太を『削除』しようとしている 

全員が、「もうダメだ!」と思った時、ダクの表情が変わった。
直前まで、不気味な笑顔を保っていたが、剣を振り下ろす瞬間、表情が曇り、苦しそうな顔になっていった

「キ…サ……マ………!」


「油…断…した…な……ダク…」


ダクに、引導を渡したのは瀕死のハチだった。彼は、のび太におんぶされながら、ダクの身体のど真ん中に剣を突き刺していた


力いっぱい、剣を抜くハチ。支えが無くなり、ダクはその場に「ドサッ」と落ちた

「さぁ、早く乗って!」

ドラえもんが、のび太に手を差し伸べる。その手をしっかりと掴み、ヘリに乗り込むのび太。
その後に続いて、チーコも飛び乗る

「みんな乗ったわね? 出発するわよ!!」

生き残った者たちを乗せた、ヘリが飛び立つ。無事に離陸に成功し、地獄と化した悲劇の街、
セントバーナードシティが眼下に広がっていく




__________________________________________

「こちら、ハロー1。まもなく目標地点到達。発射カウントダウン開始。
 10…9…8…7…6…5、4、3、2、1………発射!!」





「全機、全弾発射。目標の消滅確認。コード『Disinfection』完了。」



「こちら司令部。こちらでも目標の消滅を確認した。 諸君らの活躍に感謝する。全機、帰投せよ」




「了解…。」









_____________________________________________











「終わった…のね」

「そうよ…。私達は、生き残った…」



静香とシャミーが、小さく呟く。その後ろには、ハチに応急処置を施すドラえもん、のび太、チーコの姿が。
包帯でぐるぐる巻きにされているハチ。
彼らは、この街から生還した数少ない人物となった。

応急処置を終え、パイロットシートへと、歩くドラえもん。後ろの席に座り、窓から風景を見ている。
のび太とチーコは、ずっとハチのそばで座っている

「ねぇ、静香ちゃん。まずは病院に向かおう」

「ええ、分かったわ。ハチ、大丈夫なの?」

「分からない…。けど、今、ぐっすり寝てるよ」

「よほど、疲れていたのね…」

「それは僕も同じ。 ぜ〜んぶマスコミに告発したら、温か〜いお茶とおいし〜いドラ焼を食べたいな」

「フフッ…そうね」


「そうだ! のび太くんはどうす…」


ドラえもんが振り返ると、ハチを真ん中にして、川の字をつくって気持ちよさそうに寝ているのび太とチーコの姿があった



ドラえもんは、少し笑いながら言った



「…お疲れ…みんな……」













出演

ドラえもん 大山のぶ代

野比のび太 小原乃梨子

源静香 野村道子

骨川スネ夫 肝付兼太

剛田武 たてかべ和也

 

ハチ 林原めぐみ

チーコ 島谷ひとみ

ブルタロー 江川央生

ダク 関智一

シャミー かないみか

警察官A〜Z 

 

ゾンビA〜Z

ケルベロス

ハンターA〜Z

キャットハンド社社員A〜J

傭兵A〜Z

権力者(ネコジャラ) 泉谷しげる

キャットハンド社社長(ネコジャラの息子)

 

秘書A〜C

大統領 大平透

 

スタッフ

脚本・作画全般 名無しさん

スタッフロール作成 じおす

 

掲載管理局 ドラ・ミュージアム小説館 

第三回勝手にドラえもん小説祭作品

 

原作 映画ドラえもん のび太のワンニャン時空伝

 

 

 

〜THE END〜

 

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