RAGNAROK

名無しさん

第10話

セントバーナードシティ 警察署隠し武器庫 PM 5:26

『絶対絶命』

正にこの状況を表している言葉だった。化け物が、とてつもないプレッシャーを携えて歩み寄ってくる

知らず知らずのうちに、後ろに下がってしまう。助けを呼ぼうにも、人がいない。いたとしても、届くはずが無い。
ここまでたどり着けるわけが無い
もう、闘うしかない、一同は感じていた

「いいか? 1・2・3で一気に行くぞ・・・?」

ハチが静かに呼びかける。皆がうなずいたのを確認して、カウントを始める

「1・・2・・・・・・3!!」

合図と共に、ハチが飛び出した。その後ろに、ドラえもん・スネ夫・ジャイアンが続く
残ったもの達は、左右に展開して集中砲火を浴びせるつもりだ。あまりに唐突な突撃に、化け物は反応が遅れた

次の瞬間、化け物は銃弾の雨を浴びた。流石にこれは堪えたようで、数秒後、苦しそうな声を上げ、化け物は後ろに倒れこんだ
それを見て、ハチは化け物の頭部に剣を突き立てた

大量の血が、流れ出て辺りを真紅に染めた
ゆっくりと剣を抜いていくハチ。もしかしたら、生き返るかもしれない。そんな不安を抱えつつ、剣を抜ききった
全員が固唾を呑んで見守る中、化け物は動く気配が無い

「倒した・・・か?」

「分からないけど、とりあえず、早く逃げよう」


一行がその場を離れようとしたその時だった
突然、化け物の手がスネ夫の足をがっしりと掴んだ

「「「「「!!!??」」」」」


スネ夫は躓き、転んだ。そのせいで、銃を落としてしまった
化け物が、息を吹き返した。立ち上がり、まるで自分はまだ生きているぞと、言わんばかりに叫び声をあげた

「スネ夫っ!! 早く逃げろ!」

ジャイアンが叫ぶ。スネ夫は慌てて逃げようとしたが、銃のことを思い出し、引き返してしまった
「馬鹿!」と、ジャイアンが言いながらスネ夫を連れ戻そうと、走り出したが、化け物がその目の前に立ちはだかった

そしてゆっくりと拳を振り上げ、ジャイアンめがけて殴りかかった

「避けろおおぉぉっ!!」

その場にいたのはジャイアンだけではなかった。スネ夫以外の全員がそこにいた
ジャイアンの声に、皆が一斉に横っ飛びをして、間一髪攻撃を避けた

「大丈夫かっ?!」

「な、なんとか・・・!」

化け物は、反転して、今度はスネ夫をターゲットにした。スネ夫の元に歩み寄りながら、「抹殺」する態勢を整えている
まずいことに、スネ夫はそれに気づいていなかった。無我夢中で銃の元へ向かっている

「もう少しだ・・・!」



スネ夫の手が、銃に掛かったその時、悲劇が訪れた
ジャイアンが叫んでも、スネ夫は気づかなかった。スネ夫が銃を取り、振り返った瞬間、化け物の拳はすでにスネ夫を捉えていた

轟音と共に、スネ夫の体が消えた
化け物がゆっくりと拳を戻すと、そこにはもはや原形をとどめていない、スネ夫「だったもの」が横たわっていた


化け物が、こちらを見る。その目はまるで「ツギハオマエタチダ」と、言っているかのような、そんな目つきだった

その場にいた全員が、今、一体何が起こったのかを理解できずにいた

辺りに静寂が広がる・・・。時が止まったかのように、動くものは何も無かった


たった今、友達が死んだ


信じられない光景。得体の知らない「生き物」に押しつぶされた、友


静寂を打ち破ったのは、ジャイアンの銃弾だった


何発も何発も撃ち込んでも、その「生き物」が倒れることは無かった



「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」



どんなに抗っても、どんなに願っても、死んだものは、もう戻ってこない





「ジャイアン、ひとまず逃げよう!」

のび太がジャイアンの手を引っ張るが、ジャイアンはそれを振り払った

「うるせぇ! てめえらだけで逃げろっ! 俺はコイツをぶっ殺す!!」

ジャイアンが怒鳴ったとき、化け物は拳を振りかぶっていた
それに気づいたハチが、ジャイアンの元へ駆け寄った

(くそっ! 気づいてねぇのか・・・。 間に合ってくれ!)




「ガアアアァァァァアア!!」



化け物の拳が捉えたのは、ジャイアンではなく、ハチだった

ジャイアンと、化け物の拳の間に入ってジャイアンをかばったのだった

何とか直撃は避けたものの、その威力はすさまじく、5〜6m吹っ飛ばされ、壁に打ち付けられ、気を失ってしまったのである

ジャイアンはというと、ハチがかばったおかげで、2m程飛ばされる程度で済んだ
とっさに立ち上がり、気絶したハチを抱え、ジャイアンは急いで皆の下へ向かった

なぜか、化け物はそれを追わなかった。その理由を、一行はもう少し後で知ることになる


それを知ったときには、もう、遅かったのだが・・・










セントバーナードシティ 警察署署長室 PM 5:32

化け物が追ってこないのを確認すると、一旦この部屋で、休憩を取ることにした。と言うより、取らざるを得なかった
数分前の戦闘で、全員精も根も、尽き果てていた
スネ夫が死に、もう何がなんだか分からなくなっていた

それに、ハチが気を失っているため、動くにも動けなかった。そのことに、ジャイアンはとても責任を感じていた。
自分をかばい、負傷したハチの意識が戻るのを、誰よりも願っていた

「ドラえもん、『お医者さんカバン』は無いのかよ?」

ジャイアンの問いかけに、ドラえもんは首を横に振った

ジャイアンは小さくため息をついた。そして、ジャイアンが、後ろを向いた瞬間、ハチが目を覚ました


「・・・ここは・・・・・?」


「ハチっ!!」

全員が歓喜の声を上げた。ハチは状況が飲み込めず、キョトンとしている

ハチが起き上がろうとすると、腹部に、強い痛みが走った
恐らく先ほど殴られたのが原因なのはすぐ分かった

(何だこれ・・? 痛ってぇ・・・!)

「ハチ? どうしたの?」

「あ、いや、なんでもない」

「どうする? ダメージ抜けてないのなら、もう少し休もうか?」

「いいや、大丈夫だ。さ、行こうぜ」


そうして、部屋を出たとき、一行の目の前に、3体のハンターが待ち伏せしていた

「ちっくしょう・・・。今度はおまえらかよ」

「しゃあねぇ、やるぞ!」

ドラえもんたちが飛び出すのと同時に、ハンター達も飛び掛った

1匹が、跳びあがり、上から攻撃を仕掛けてきた

「バレバレだぞっ!」

言い放ち、先ほど手に入れた2つの剣を同時に取り出し、上から覆いかぶさってくるハンターを一刀両断にした
真っ二つになったハンターを尻目に、次に行こうとしたハチだったが、もう2匹のハンターは、すでに蜂の巣になっていた

その隣には、「どうだ顔」の他メンバーが

「さっすがあ」









キャットハンド本社地下 最高機密室 同時刻

「社長、『権力者』が1人排除した模様です」

「そうか。まったく、働き者だな、『父さん』は」

「ですが、1つ悪いニュースが・・・」

「なんだ・・・?」

「やつら、気付いたみたいですよ。我々が黒幕だと言うことに」

「ようやく、か」

「ええ。スパイには、これから研究所に誘導しろと指示を出しています」

「それで、『使えそうな』やつはいるのか?やつらの中には」

「もちろんです。今、モニターに映っている少年です。彼は、剣術を得意としているようです。
 先ほど、ハンター1匹を1人で始末しています。他のものは、2人以上で戦っていましたがね。
 彼の戦闘能力は、かなり高いと思われます。計算の結果、我が社に所属している傭兵1個小隊を1人で倒せる、
 という計算結果が出ました。」

「・・・! それは本当か?」

「間違いありません」

「わかった・・・。傭兵部隊の状況は?」

「予想どうり、ほぼ壊滅状態です。うまい具合に刺激を与えてくれているので、山のようにデータがとれますよ」

「順調、だな」

「・・・・・ええ」









セントバーナードシティ 警察署 PM 5:40

「やっぱり、『キャットハンド社』がこの事件の黒幕か!」

「うん! 間違いないだろうね。 このことをマスコミに言えば、 『キャットハンド社』はもうお終いだね」

「ああ、二度とこんな事が出来ないように、懲らしめてやろうぜ」


真実を明らかにしようと息巻いてる中、シャミーがこんなことを言った

「でも、もっと決定的な証拠を掴まない・・・?」

「え?」

シャミーの言葉に、全員が驚いた。この日記だけでも、十分すぎる証拠であろう
だが、それよりももっと強い証拠が置いてある場所があると言うのだ

「ど、どこなの? そこは?」

「『キャットハンド社』の・・・研究所」

「研究・・所?」

「ええ、そこは、この事件の原因となった物を研究していた場所。いや、『キャットハンド社』自体が、必死になって研究していた、
 「生物兵器」を製造、実験をしている場所が、その「研究所」なのよ!
 もともと、それらを造るための研究所だから、『キャットハンド社』の機密の中の機密があるはずよ。
 それを見つけて、発表すれば、どんな言い逃れも聞かないわ!
 証拠的な力は、その日記とは比べ物にならないはずよ」

「研究所か・・・。言ってみる価値はあるな」

「でも、かなり危険だと思うわ・・・」

「それでも、行くしかない・・・・よな」

全員の気持ちは固まった。スネ夫を、この町の人々を殺した『キャットハンド社』に報いる為に場所はシャミーが知っていると言う。
シャミーに案内を任せ、一行は研究所へと向かう


「そういえば、何でそんなこと知ってるの?」

「ひ・み・つ」











セントバーナードシティ 『キャットハンド社』研究所 PM 6:11


「やっとついたぁ〜」

一行は、道中何度も何度も、ゾンビや、ケルベロス、ハンターに襲われながら、何とかそれを撃退しつつ、
やっとの思いで研究所までたどり着いた

度重なる戦闘で、警察署で補給した弾丸も心細くなってきた

「弾が・・・、殆ど無いよ」

「これからは無駄撃ちを避けよう。少しでも節約しないと」

「・・・。銃は、不便だな」

「さ、早く入りましょ」

シャミーが、先陣を切って研究所に入った

「あ、シャミーちゃん!」

ドラえもんがシャミーを追いかけて研究所に入ったとき、そこは不気味な静寂に包まれたいた

「みんな、早く・・・」


入ってみたは良いものの、一体どこに何があるのか、まったく分からない状態だった
辺りを見回すと、「Information desk」と書かれた場所がある

「案内所だ。そこで調べてみよう」

チーコが調べてみると、4階に『資料管理室』があるらしい

「『資料管理室』か・・・」

「よし、行ってみようぜ」

「エレベーターで行こう。そっちの方が安全だ」









キャットハンド本社地下 最高機密室 同時刻

「奴等、来ましたよ。予定通りです」

「うまくやったようだな」

「証拠を探す、と意気込んでいるようです」

「フッ。見つけたとしても、脱出方法があるまい。引き続き、頼んだぞ。 私は、大統領の元へ向かう」

「かしこまりました」









ワンニャン国首都ランドシーア 大統領官邸内 PM 6:30

「大統領、ご決断を!!」

秘書らしい男が、『大統領』と呼ばれる男に迫っている

「事態は、かなり深刻です! このまま放って置けば、取り返しのつかないことになってしまいます!」

「いや、しかし・・・。まだ生存者がいるかもしれないのに、『ミサイル投下』は・・・」

大統領がそう言ったとき、ドアが鳴った

「どうした?」

秘書が問いかけると、ドアの向こうから、「キャットハンド社社長がいらっしゃいました」と言う声がした

「なに? すぐにお通ししろ」

秘書が言うと、すぐにドアが開き、『社長』が部屋に入った

「大統領、我が社の情報では、残念ながら生存者はいない模様です。 我が社が現地に派遣した救出部隊からの
報告なので間違いはないかと・・・」

「そ、そうか」

「たった今、救出部隊を撤退させました。辛いとは思いますが、 もう、迷っている時間はありません。大統領、ご決断を・・・」

「・・・・やむを得んか。
 セントバーナードシティへの、『ミサイル投下』を許可する・・・・」


「はっ!!  よし、各部に情報を伝えるんだ!!」

「分かりました!」





秘書達が立ち去った後、大統領は小さく呟いた

「神様・・・、お許しください・・・。」

 

第11話

セントバーナードシティ 『キャットハンド社』研究所 PM 6:32

研究所内は、今まで見てきた場所よりも、比べ物にならないほどの地獄だった
当たり前のように死体が転がり、床一面に血が広がっている

『普通』の人であれば、とても正視出来るような、いや、正気を保つことも不可能な光景であろう
だが、『彼ら』は、もう嫌というほど、見てきている
『死』というものを目の当たりにしてきた彼らにとって、当たり前になってしまった

「・・・エレベーターを探そう」

ドラえもんの声に、一同は散開してエレベーターを探す
幸いにも、このフロアにゾンビはいないようだ。そのため、それほど時間も掛からず、エレベーターを見つけ出すことが出来た

「あったぞ、エレベーターだ」

「動く?」

「ああ、大丈夫みたいだ」

「みんな、気を抜かないで。エレベーターの中にゾンビがいるかもしれない」


エレベーターが来たことを知らせる音が鳴った。室内がとても静かなせいか、フロア全体にその音が響き渡った

ゆっくりとドアが開くと、ゾンビはいない。その代わりに、その中全体が血塗られていた

 しかし、一度に驚くような気配はない。それどころか、「ゾンビがいなくて良かった」と、安心するほどだった
この時、誰もが気付いてしまった


         





         「自分が、狂ってしまっている」と・・・・。









 一行を乗せたエレベーターは、無事に4階に着いた。ドアが開くと、そこは想像を遥かに超えた光景が広がっていた
死体や、血痕はもちろん、無数のゾンビが廊下を蠢いていた。ゾンビの中には転がっている死体を貪っている者もいる

やがてゾンビたちは、新たな「食べ物」がやってきたことに気付き、その元へ向かっていく

「仕方ない・・・。 弾丸も無くなってきたし、無駄撃ちは控えて、邪魔なゾンビだけ倒すよ」

「わ、わかった」

「行くぞ!!」


今回は、全員で攻撃をすることに。いつもは後方に控えている静香たちも、前方ののび太達を援護するような形で戦い始めた


「喰らえ!」

ジャイアンが撃ち放った弾丸は、ゾンビの頭部を粉々にした その他の者達も、順調にゾンビを殲滅している


「ハチ? 大丈夫!?」

「ああ! 任しとけ!」

「いまだ!走れ!!」


ドラえもんの掛け声と同時に、全員が駆け出した。ハチは斬りながら走り、道を開ける
のび太やドラえもんは、その援護。ジャイアン、ブルタロー、ダクの3人は、静香たちを守りながら走り続けた


「くそっ! 資料室はどこだ?!」



「あった、ここだ!!」


一同は飛び込むように資料管理室に入った。その中は案外さっぱりとしていた

「ここが、『資料管理室』か。意外と殺風景だな」

「早速、探してみよう」

「あ、ちょっと待って! 人がいるわ!」

チーコが指差す先には、机に寄りかかり座り込んでいる人がいる。しかし、ここから見ただけでは生きているかどうか分からない
一行は急いで、その人の元へ向かった

「大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」




「人・・・か・・?」

その人はまだ生きていた。だが、かなりの重傷を負っていた。生きてこそいるものの、死んでしまうのは時間の問題だった


「なぜ、ここに来たんだ・・・・? さっさと逃げた方が・・身の為じゃないのか?」

「僕達は、この事件の真相を確かめに来たんです!」


「フッ…。笑わせてくれる…。 もう、分かるだろう…。
 この事件の黒幕は、『キャットハンド』だ…。」


その言葉を聞いて一同は、「やっぱり」と思った。しかも、この男はまだ色々と知っているようだ

「俺達は、『キャットハンド』の傭兵部隊だ…。 生存者の救出が、目的でこの町に派遣された…そしたらこの有様だ…。
 救出どころか…大半があの腐った野郎に殺された…。

 何とか生き残った俺は…ここに逃げ込んで脱出方法を…探そうとしたんだが…
 化け物にやられてな…このざまだ…」


そういうと、男は一枚の紙をドラえもんに差し出した


「その…紙にヘリのある場所が書いてある…。どうにかこうにか見つけたのがそれ…だ」


「だったら、一緒に脱出しましょう!」


「いや…、俺はもうだめだ…。お前らだけで逃げろ…」

「そんな・・・・!」


「ヘリの鍵は…この部屋…に…ある…。 場……所……は………」


「大丈夫か!?しっかりしろ!」

「し、死んだらアカンって! 鍵は、鍵はどこにあるんや!? お、おい!」


「・・・・・・・・・」


「死んじまった…」

「とにかく、この人の言ってくれた鍵を探そう」


「この人の装備も、もらって行こう…」



入手:ハンドガンの弾×3
   閃光弾×2



しかし、それからしばらく探しても、ヘリの鍵は見つからなかった

「仕方ない。一旦鍵は諦めて、証拠になるものを探そう」


鍵は無かったものの、証拠は充分すぎるほど見つかった。生物兵器の研究レポート、人体実験についての報告書、
そしてその実験の被検体名簿などなど…

 1つだけでも、『キャットハンド社』を壊滅させることが出来るものだった

生物兵器についてのレポートの中には、警察署でスネ夫を殺した、あの怪物のことが記されていた



______________________________________________




Name:試作型B.O.W003

CodeName:権力者

ある男性に、「R-ウイルス」を投与し、いくつかの生物の遺伝子情報を伝えた
その結果、大幅な筋力の増加と巨大化、そして、全身に強い腐食が見られた
被検体の男性が、以前に大きな権力を持っていたため、この試作型を『権力者』と名づけた
原因は不明だが、かなりの知能を有しており、ほぼ人と同じぐらいの知能を確認している
この個体から、さまざまなデータを取ることに成功。これを応用して、更なる改良型を製作する予定



_______________________________________________




「これが『キャットハンド』の正体だな…」

「証拠は充分だ。鍵を探さなきゃ…」

そう言って、全員が散らばろうとしたとき、あの傭兵の無線がなった

「!?」

ドラえもんが無線を取って、耳に当てると音声が流れた


『こちらは「キャットハンド社」本部・・・全部隊に告ぐ、即刻撤退を開始せよ

 セントバーナードシティへのミサイル投下が決定した。PM 8:00にはセントバーナードシティは≪消滅≫する・・・』


「な、なんだって!!?」

「どうしたの?ドラえもん?」



ドラえもんは無線を放り投げ、皆の方へ振り返り、無線で聞いたことを話し始めた

「みんな、落ち着いて聞いて。 今から、約2時間後にミサイルが飛んでくる」

「ええぇぇぇええぇぇ!」

「だから、急いでヘリの鍵を探そう!」


「せ、せやけど、あんなに探したのに、見つからへんかったやん
 もしかしたら、他の場所にあるんちゃうか?」


「他の場所たって、見当がつかないよ」

「そ、そうやけど…」


「どうしたんだ? ダク?ここに来てからお前おかしいぞ?」


ハチの言うとおり、研究所に来てからダクは妙にそわそわしていた
しかも、今のドラえもんの話を聞いた直後のリアクションは、異常とも言える物だった
そして、ハチは問い詰めていく

「おい、ダク。お前、何か隠してるんじゃないのか?
 なにか知ってるんだったら教えてくれ…!」


しかしダクは黙ったまま。その場に重苦しい雰囲気が流れる しばらくすると、ダクの元から、無線の受信音が聞こえてきた
ダクは小さく舌打ちをした


「出ろ・・・・!」

ハチが剣を突きつけながら小さく言った。ダクは恐る恐る無線機を取り出し、耳に当てた
全員が固唾を呑んで見守る中、ダクは深呼吸をして、無線に出た


「なんでしょう・・・・『社長』」

一同は驚愕した。『社長』とは一体何なんだと、今にもダクを問い詰めたい、そんな気持ちでいっぱいになった


ダクは、そんな様子を見て、無線をスピーカーにして机に置いた
そして、開き直ったような顔をして、話し始めた

「『社長』どうします? 見てはるんでしょ?」

『ああ、良く見えているよ。ご苦労だったな』

「アハハハハ、皆さん何が起こってるのか、分かってらっしゃらないようですな〜」

『クックックック…。無理もあるまい』


「どういうことなんだ!! 説明しろ!」

ハチが大声を上げて、ダクに詰め寄る。他の者達も同じだ そんななか、ダクは笑いながらこう言った

「すまんなぁ、ハチ。ここじゃぁ、説明できひんのや。 知りたかったら…ついて来い」

「黙れ!」

「お〜怖い怖い。そんな声出さんでもエエやないか…
 まぁついてこないんやったら、アンタら、この街と一緒に灰になるだけやで」

「なんだと!?」

「さっき聞いたやろ? ミサイル飛んでくるいうてたやんか」

「それは、お前も同じなんじゃないのか!?」

ドラえもんの言葉に、ダクは大笑いした。一同が困惑する中、ダクが言う


「『お前も同じ』? アハハハハハハハハハ!
 あんさん、おもろいこというな〜。残念ながら、ワイは、ちゃ〜んと脱出できる方法を知ってるんや。
 だ・か・ら、ワイは生き残れるんやけど、お前らはちゃう。 この街と一緒に、永遠におネンネちゅうわけ」


「テ、テメェ…裏切りやがったな!!」


ブルタローが今にも飛び掛りそうな勢いで、ダクに向かって怒鳴った
それに対して、ダクはニヤリと笑うだけだった


「なめやがって!!」

ブルタローが怒りに任せてダクに飛び掛った次の瞬間、壁をぶち破って、『権力者』が現れ、ブルタローの体を握りつぶした
「グシャっ」と言う音と共に、血飛沫が舞い、辺りを真紅に染める

「キャアアアァァァァァアアァァ!!」

「ブルタローッ! クソっ!」



「ア、アカン! ほな、サイナラや!!」


ドラえもんたちが混乱している隙に、ダクは逃げ出した。それを見たチーコが追おうとすると、『権力者』が立ち塞がった

「くっ…!」

「今は、相手にしている場合じゃない!! あの野郎を追うぞ!」

「分かったわ!」


一行は、『権力者』が開けた穴から、抜け出してダクを追いかけた。そして『権力者』もそれを追う

「あの化け物、ついてくるぜ!!」

「しつこい野郎だな! そうだ、閃光弾だ!」

「OK! 皆、投げるから目つぶって!」

ドラえもんは、振り返って閃光弾を『権力者』に向かって投げつけた
閃光弾は、『権力者』の目の前で強い光を放ち、その役目を終えた

「ゴアアァァァァアア!?」

光の直撃を受けた『権力者』はその場にうずくまった

「よし!全力で走れ!!」



『権力者』が、視界を取り戻したときには、すでにドラえもんたちの姿は無かった


「グアアァァァァァアア……」









「いたぞ!あそこだ!!」


ジャイアンが指差す先には、懸命に逃げるダクの姿があった だが、このままではまた見失ってしまう可能性がある
そこでのび太は銃を取り出して、ダクに向かって発砲した

「ぐあっ!」


足に銃弾を受け、ダクは倒れた。あわてて、近くの部屋に逃げ込んだが、ドラえもんたちに追いつかれてしまった


「もうにがさねぇぞ!! ダク!」


部屋に入ると同時に、ハチが叫んだ。視線の先には、ダクの姿があった

「さぁ、説明してもらおうか? ついて来てやったんだからな・・・!」

言いながら、ハチは剣を突きつけた。ドラえもん達は、逃がさないようにダクの周りを囲むようにたっている
流石に逃げ切れないと判断したダクは、おもむろに立ち上がって話し始めた



「しゃあない。こないなっては話すしかあらヘンな。
 ワイは、この事件が起こる3日前ぐらいに、この研究所に来たんや。
 ここには、知り合いのおっさんが居てはるからな、ちょっと遊びに来たぐらいやったんやけど
 こんなかうろついてたら、たまたま、見てしもうたんや。さっきの研究レポートをな。

 ほんで、急いでここを出ようとしたら、運悪いことに、そのおっさんに見つかってしもうて…。
 普通やったら、この時点で殺されとったはずや。でも、おっさんが本社に連絡したら、社長はんが来て、ワイにこう言ったんや。
 『スパイにならないか?』ってな。最初はワイも驚いたけど、スパイになれば、生かしてくれる言うし
 何も言わなければ、家族に危害も与えへんってことで、ワイはOKを出した。
 んで、今にいたるっちゅう訳や」


「わかった。で、脱出方法って何だ?教えてくれ」

「ヘリや。ヘリ」


「え?でも鍵が無いんじゃないの?」


「あ〜、ちゃう、ちゃう。あんたらが言ってるヘリって、あの傭兵が言ってたヘリやろ。
 あれな、もうぶっ壊れてると思うで」

「な…!」

「あのヘリは空港にあるんやけど、空港なんてゾンビの団体客で入れへんで。 今頃、ボロッボロやろうな」

「だったら、お前のヘリは…」

「空港や」

「はぁ?! 何言ってるんだ!空港はゾンビの団体客じゃないのか?」


「ヘリの置き場所が、違うんや。ワイのヘリは、別の場所にある。一機だけな。
 もちろん、ワイだけが場所を知っとる。このまま、ワイを殺したら…分かるよな」

「チッ…」

ハチが仕方なさそうに剣をおろした。それを見て、ドラえもんたちも銃を下ろしたその時だった

ダクが思いっきり壁をけって、勢いをつけて走り出した。そして、すれ違いざまにチーコの腹部を殴りつけ、
そのまま連れ去っていった

「!! チーコ!」

「しまったっ!!」

「待ちやがれ!」

6人は急いでダクを追いかける


「あの野郎!どこ行きやがった!!?」

「だめだ、ジャイアン!闇雲に追っかけても時間の無駄だ!!」

「じゃあ、どうすれば・・・!」

「なにか目印になるもの・・・なんてないよね」


ドラえもんが呟いた言葉に、のび太が閃いた

「あるよ!ドラえもん!!目印が!」

「えっ? あ!」


そう、目印はある。さっき、のび太が撃った弾は直撃こそしなかったものの、かすりはしたのでダクはあるものを
落としながら逃げていることになる


「血だ!」



目印とは『血』だ。ダクが落としていった血は、真新しいので、はっきりと分かる
転々と落ちている血痕を頼りに、ドラえもん達は追いかけていった









「待って!ここで途切れてる…」

「ドアから外に出たんだろ!」

そう言って、ジャイアンが目の前のドアを蹴り破った

「ダク! どこだ!」

しかし、ダクの姿は無い。だが、辺りを見回すと、タイヤの跡があった。それも新しいものだ
ダクが逃げた跡だと、全員が確信した。ちょうどいいことに、車が一台止まっている

ドラえもんたちが乗り込む中、ハチだけは違う方向を見て立っている

「ハチ? どうしたの! 早く乗って!」

「いや、いい…」

「何言ってんだよ! 早く乗れ!!」

ジャイアンの呼びかけにも応じないハチ。そればかりか、車と反対方向に歩いていく

「?」

ハチが立ち止まると、ブルーシートが、何かにかぶさっている。それをめくると、一台の比較的大きいバイクがあった

「オレは、これで行く!!」

そう言って、ハチはバイクに跨って、エンジンを掛けた

けたたましいエンジン音と共に、ハチを乗せたバイクが走り出した
それとほぼ同時に、ドラえもんたちが乗る車も後についた

「ダク…お前だけは許さない!」










「なんで私が運転するの?」


「え?だって実績が・・・・」

 

この話は続きます。

 

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