石版

文矢さん 作

 

第三幕 受け継がれるべき意思

其の壱

 晴天。どこまでも続く青い空が広がり、太陽が照らしている。そんな空の下、一人の青年がいた。
青年は、洞窟に入っていき、木で作られた簡単な椅子の上に座っていた。
青年の足元には、モグラの形をしたロボットが転がっている。だが、様子からしてそれは壊れているようであった。
  空は晴れているが、その青年の心は決して晴れていなかった。その理由は何故か。簡単だ。
彼は、この時代の人間ではないからである。その青年の名前はじおす――

 じおす。二十二世紀の博物館の館長で、レリーフを手に入れてしまったせいでイカたこ達との戦いに巻き込まれた。
そしてだ、イカたこの道具によって別空間へと飛ばされたのだ。ここは地球だ。それなのに何故、じおすはここにいるのか。
その理由は簡単だ。じおすは時空間に飛ばされたのである。そして、じおすは別の時代へとやって来た。
紀元前、しかもエジプト文明が始まるよりも前の時代に。

 時間系の道具は全て壊れていた。他の道具も一回か二回使ってしまったら壊れてしまう。
イカたこのあの道具から強力な電波が発されたからだ。
 そして何が問題か。暇に関しては完全に埋めれている。レリーフの解読だ。すでに紙にレリーフの古代文字を書き写していたのだ。

そして、解読はすでに済んでいる。じおすにとって興味深かったのが、その文章が示していることだ。
秘密道具を一度使って位置を検索した結果、その文章が示している石版の在り処は、今自分がいる場所の近くだということだ。
近くといっても、何百キロも先の場所だが。
 それよりも、問題があった。食料だ。『グルメテーブルかけ』は壊れている。

他の食料系の道具はほとんど無く、『ほんやくコンニャク』と『圧縮非常食三十食分詰め合わせ』だけしかなかった。

『ほんやくコンニャク』はそれを食べると、どんな種類の言葉も自分の知っている言葉になり、
自分が喋る言葉も相手の知っている言葉になるという道具だが、普通に食べれる。
『圧縮非常食三十食分詰め合わせ』は名前通り、非常食が入っている。そしてその非常食も残りは十四食分しか残っていない。
 じおすは一日毎に壁に石で傷を付けていた。すでに、十日が経過しているのだ。じおすがこの時代に来てから。

「これも運命なのかねぇ」
 ごめんな、のび太君。これが僕の運命なんだ―― これは、じおすが別の時代に飛ばされる直前に言った言葉だ。
その時、じおすは自分が何処かに消えるという事を何となく感じていたのだ。レリーフを手にした瞬間に。
だが、こうなる事は全く考えていなかった。
 レリーフの古代文字は、ヒエログリフに似ている。ここからじおすは考えていた。
このレリーフを作った文明は、エジプトに影響を与えているのでは無いであろうか。そういう事である。
 エジプト文明はメソポタミア文明から影響を受けて発達したというのが定説である。

『タイムマシン』を使って研究された事があるが、その通りであった。だが、『タイムマシン』で調べられるのには限界がある。
その時代を破壊してはいけないからだ。だから、別の文明が存在していた可能性は十二分にある。
 じおすは考えた。もう残りの食料は少ない。石版のある位置に行ってみてはどうであろうか、と。

『どこでもドア』は壊れている。頼りになるのは他の道具だ。だが、少し使うだけで壊れてしまうであろう。やるしかない。
 『陸上モーターボート』をじおすは取り出した。電波で少しイカれているが、少しは進めるであろうという考えだった。
この道具は陸上で使えるモーターボートと考えてもらっていいであろう。

 二十二世紀に戻ることは出来ない。自分の目的は何であろうか。じおすは思った。
子供達に色々なものに興味をもってもらいたい、大人達には古代の事から教訓を得てほしい。
二十二世紀にいる時、じおすはそれを目的にしていた。時々、これを期に考古学の道へと進みました、という手紙が来る。
だが、今はそんな事は無い。自分の目的は、何であろうか。
 答えは出なかった。ただ、興味だけだった。自分が死ぬまで出来ることはしよう、という事だけであった。

 モーターボートは二十キロ程走ったら壊れた。途中で動きが止まり、大破したのだ。予想はしていたが、ショックは受ける。
 他に道具はほとんど残っていない。日が暮れたので、じおすはそこで泊まることにした。何日か、こんな感じが続いていた。
合計で進めたのは百キロというところであろうか。まだ、着かない。まだ、まだ、まだ。食料が段々と少なくなってきた。
非常食も、残り五食しか無い。
 途中で猛獣にもあった。その度に道具を使い、壊した。足は速いので逃げたりもした。足の筋肉は、陸上で鍛えたものだった。
そして、体力も限界を迎えていく。
 イカたこの電波は、体内にも影響を与えていた。体に時々激痛が走り、その度に体力が失われていく。
『おいしゃさんカバン』はもしもの為に残そうとしている。何度使おうと思ったことか。
一度しか出来ないと考えると、もっと重要な時が来るという気持ちになってくる。

 そして、とうとう食料が尽きる。それまでの間、食料を補給することは出来なかった。
重要なところで体に激痛が走り、それどころではなかったのだ。歩き続けたが、腹が減るばかりだった。
 極限状態となる。人には会えなかった。一回だけ、ウサギを手に入れることが出来だが、それっきりだった。
体が動かず、じっとしていても激痛は定期的に襲ってきた。
 そして、じおすは倒れた。薄れていく意識の中、じおすは笑った。

「まさかだ! まさか、こんな死に方をするなんてな!」

 自分の姿がひどく滑稽に見えた。博物館の館長となり、別空間へ飛ばされ、生き残っても結局死ぬ。何ができたのだろう。
レリーフを手に入れてから、自分は何もできないまま死ぬのではないか。だからじおすは笑うのだ。
 場所はジャングル。そして、じおすの意識は途切れた――



「ハウルス君、少し来てくれ」
「何ですか、名無しさん」
「此処に人が倒れている! 運ぶのを手伝ってくれ」
 二人の男の会話がジャングルに響いた……

 

其の弐

 目が覚めた時、じおすはその光景を信じることができなかった。何故か? 
自分が寝ている場所がフカフカのベッドだったからである。触ってみてもなめらかで、
二十世紀から使われているのとほとんど変わりがない。そこが不思議だったのだ。

 じおすは冷静に考える。紀元前、この様なことになっているなどありえない。それがじおすの頭の中の常識だった。
だが、違ったのだ。じおすが見る限り、このベッドは間違いなく、化学繊維でできているものなのだ。

 さらにじおすは部屋の中を見渡した。自分以外はいない。窓はガラスで出来ている。
そして、上を見ると電球の様なものが付いていた。黒いコードが電球へ繋がっていて、部屋のドアの向こうへと続いている。
服を見ると、真っ白いシャツとズボンに替えられていた。
 さすがに、二十一世紀とかのとは違う。形が違ったり、コードが太かったりなどだ。
だが、その技術力は間違いなく、二十一世紀レベルだったのだ。じおすは、信じられなかった。鉄
やガラスなど、様々な資源まで使われているのだから。
 その時、ドアが開いた。じおすは少し身構えた。出てきたのは、白衣を着た茶髪の男だった。
年齢は、じおすより少し上ぐらいであろうか。

「おお! 目覚めたのか。異国の住民よ」
「あなたは、誰ですか?」
 じおすはまだ身構えていた。声や顔からして、良い人のような顔をしていると感じたが、ここで警戒は解けない。
それがじおすの考えだった。言葉は『ほんやくコンニャク』で通じているようだった。
「私か。私の名前は名無し。変な名前だと思うかもしれないが、これが名前だ。科学者、とでもいうのかね。それが仕事だ。
で、君の名前は?」
 名無し。その名前をじおすは知っていた。あのレリーフを作ったとされている人物。名無し。紀元前の、科学者。

 じおすの感情が昂ぶった。歴史上の人物。二十二世紀では偉人に会えるのではないか、と感じる人がいるであろう。
だが、違うのだ。二十二世紀の法律で、過去に戻った時、その人物に干渉してはならない、となっている。
なぜか、世界が壊れる可能性があるからだ。

 のび太達はかなり昔の人と関わっている。だが、それに関しては許可されている。
それはのび太達のその行動によって、現在があるという状況だからだ。そうでない場合、そういうのは無理だ。
 だからじおすは興奮していたのだ。

「僕の名前はじ、じおすです」
「じおす、じおす君。早速だが君に聞きたいことがある」
 名無しはそう言うと、手に持っていた服をじおすに突きつけた。それはだ、じおすが着ていた服、スーツであった。
名無しは少し興奮しているように見えた。
「これは何かね?」
「それは僕の服です」
「そうだよ、その通りだ! だがね、気になるところがあるのだよ。この服は私が開発した新素材だ。
 それだけではない、この村で使われている技術は私が開発したものだ。
 それのおかげで、マー婆さんがこの前お礼としてパイを作ってくれた。あれは美味しかった。それでだ、重要なのは次だ、次。
 この服に関して!」
 さっきからじおすが驚いていたあの技術。全て、この名無しが考えてできたものだったのだ。だが、今はそれが重要なのではない。
名無しは、じおすの服を着て考えていたのだ。恐らく、ある程度の知識人だったら考えることだ。

「この服の素材は、私が作ったものの一段階上の素材だ! 君は何処の村のものかね? 
それだ、そこの村の科学者に会いたいのだよ!」
 名無しの目はランランと輝いていた。名無しは、この時代の科学者で、この村で生まれた。村の名前はアドバン村。
紀元前の普通の村だったが、名無しの開発によって変わったのだ。様々な技術が使われ、資源に関しては発掘すればいくらでもある。
名無しは、若くして実質村の長となっていた。
 何故、名無しが目を輝かせながらじおすに聞いたか。それは、名無しの探究心からだった。
雷を見たり、静電気に触れたりしたことから、名無しは電気を作り出すことが出来た。
じおすのスーツを作った技術を持っている人と協力すればさらなる技術が生み出せるかもしれない。それが、名無しの考えであった。
 じおすは迷う。答えていいものか。だが、じおすは考えに考えた末、答えた。

「名無しさん、信じてもらえないかもしれませんが、僕は、未来人です」
 じおすがハッキリと言うと、名無しの目の色が変わった。さっきまでよりも更に、輝き始めたのだ。
未来、その言葉は名無しにとってとても重要だった。
「未来? 未来だと言ったのか。成る程、それはとても興味深い。ただね、証拠を見せてほしい。例えばだ、未来の様子だ。
もしかしたら、さらに凄い科学者がいて、そいつの存在を隠蔽したいんじゃないかとも考えられるからな」

「……どういう風にやれば証明完了とみなされるんですか?」
 じおすは焦った。あのゼクロスとかいう奴と同じようなタイプの変人じゃないか。それが、じおすの思ったことだ。

だが、一つだけじおすが安心したことがある。名無しはじおすの敵ではない、という事だ。
「私の質問に答えてほしい。恐らくだ、時を移動する道具などがあるからどの時代を答えるか迷うかもしれない。
 君が生まれた時代を頼む」

「分かりました」
 じおすは少し不安を感じたが、名無しは構わず進めた。
「まず、一つ目。君達の世界ではどういう暦で動いている?」
 名無しの質問が始まった――


「ハルル……いや、違ったな。ハウルスだ。ハウルス、少し来てくれ」
「何? ジャール。名無しさんなら病院ですよ」
 ハウルスは、ジャールという男に言われてそう答えた。ハウルスは名無しの研究者仲間で、村の中で中より上の地位を持つ。
名無しとはよく共に研究をし、さっきも名無しと『ある物』の研究をしてから帰る途中にじおすに出会ったのだ。
ジャールは村の正式な長の家の生まれで、大男だ。正式な地位は一番上だが、名無しには実質負けている。

「ハウルス、お前に用があるんだ。来い」
「分かりましたよ……」
 ジャールはそう言うと歩き出し、村から少し離れた。村から出て少し行くと、森の中へ入る。
その森の中へ、ジャールとハウルスは入っていった。ジャールは辺りを見回し、こう言った。
「ハウルス。お前と名無しは最近、何処かにある何かを研究しているそうだな。それは何か言え」

「単刀直入すぎじゃあないか? そもそも、お前に何故教えなければならない」
「本題に入る前に一つ言いたいが、名無しの前では敬語を使うが、俺には使えないということか?」

「その通り。敬意を表す価値が無いからな、お前には」
 ジャールは舌打ちした。ジャールは自信家だ。自分が何でも一番だと思っている。だが、村の住民は分かっていた。
ジャールはただの自信家にすぎないことを。ジャールの周りには、ゴロツキがいる。ジャールはゴロツキのボスだ。
だから、村の住民は本音を言えない。
 だが、ハウルスはジャールの心の弱さを知っている。ジャールの心は、思いの他、脆いのだ。

だからハウルスはこんな態度をとっているのだ。
「確かだ。名無しさんが電気を使った道具を作った時、お前は暴れたよな? そんな筈は無いと。
ま、結局は名無しさんの研究所を破壊しようとして、電気ショックでやられてしまったがな」
 ハウルスは笑う。
「それは関係無いだろうがッ!」
「関係ある。もしもだ、もしも、お前の弱い心であれを見てしまったのなら、お前は暴れまわるに違いない。
そして、それを破壊しようとするに違いない。だから教えたくない。良いか?」

 そうハウルスが言った途端、ジャールはきれた。俺をナメるな、ナメるんじゃねえ。俺は、俺は、一番だ。
ジャールは心にそう言い聞かせた。そして、気づいた時にはハウルスは吹っ飛び、木に叩きつけられていた。

 

「だから見せたくねぇんだ。この程度で揺れてしまうんだからな」
 ハウルスはそう言って立ち上がると、土をはらって歩き始めた。ジャールは後ろから殴りかかろうとしたが、体が動いていなかった。
ただ、嫉妬の心だけがうずまいていた。

 ただ、嫉妬するだけだった……

 

其の参

「成る程、じおす君。君の言う事を信じよう」
 名無しがこう言ったのは、じおすに質問し始めてから数時間後だった。

その間、名無しは質問をし続け、じおすはそれに答えていたのである。そして、名無しは二十二世紀の事を完全に理解していた。
じおすは疲れを感じていたが、開放されたことによってホッとしていた。

 時代が変わっても、この光景は変わらないんだな―― 外はもう暗くなっていて、月が出ていた。
その光景を見て、じおすはそう思ったのである。当たり前の事で理論とかも理解していたが、じおすはそれに感動を覚えていた。
「さて、じおす君。歩けるよな? 今日の夜飯はマー婆さんが作ってくれたものだ。マー婆さんの料理は絶品だぞ」

 名無しの顔は笑っていて、じおすをリードするような歩き方でドアを開いた。名無しは大満足だったのであろう。
じおすは今まで、飯はこの部屋に運ばれてくるのかと思っていた。だが、違った。ここは病院という認識は正しかった。
だが、食事の時は、食堂へと移動したのだ。
 それに驚いていた。じおすは起き上がり、歩き出した。ベッドの横に、台が横たわっているのが見えた。点滴の為の台だ。
じおすは一日ぐらい前まで付けていた。現在の病院と同じように、これで栄養をとっていたのだと理解した。
 食堂には、他の患者と看護師、名無しが言っていたマー婆さんがいた。
全員が笑顔で、席に座ろうとしていた名無しもニコニコと笑っていた。
マー婆さんは手に大きな鍋を持っていて、それを器に振り分けていた。

 患者からマー婆さんから何から何まで、欧米人だ。
じおすは日本人だから、少し変な目で見られたが、それが悪意の目では無いことはすぐに分かった。
「これが未来人のじおす君だ!」

「未来人? ああ、そうか。だから顔が違うと思ったぜ!」
「話を聞かせてくれよ」
 じおすが席に座ると、患者達はすぐに話しかけてくる。じおすは笑いながらその質問に答えた。

この時代に来て、じおすが初めて感じた感情がわきあがってきた。それは楽しさ、だった。一緒に誰かといるという事の楽しさだった。
「今日はシチューだよ。たんと食べな!」
 じおす達の前にシチューが置かれる。湯気が出てきて、美味そうな香りが鼻にいく。
スプーンを片手に持ち、患者達は一気に食べ始める。じおすは小声で「いただきます」と言った後、食べ始めた。

 シチューはトマト味で、中には牛肉の胃袋が入っている。
この料理は、トリッパというもので、じおすはこれを初めて食べた。
じおすはモツ鍋とかでモツは食べたことがあるので、肉の食感がそれに似ているという事が分かった。
肉は柔らかく、トマトの味がさらにそれを引き立てていた。

「美味しい! さすがマー婆さんだ!」
「そうかい? 嬉しいねぇ」
 こんな会話が繰り返され、食べ終わる頃にはじおすも完全に打ち解けていた。人種は違っても、心が通じあうのだ。
楽しい会話が続き、じおすはある質問をした。
「僕の治療は誰がやってくれたんですか?」

 それを聞くと、名無しが自慢気に答える。
「私さ。この病院での手術とかの治療は私がやっている」
「まあ、そこまでの怪我の患者は滅多にやってきませんがね。だから名無しさんは研究者も続けられているんです」
 看護師がそう言い終わった時だった。病院の玄関の方から、ドアが開く音がした。そして、声。息切れしている、ガラガラの声。

 

 

「誰かしら?」
 看護師の中の女性が玄関の方へと行った。その間、会話はほとんど交わされない。そして、その女性の悲鳴が響いた。
「どうした!?」
 名無しや看護師、じおすも駆け出した。そして、玄関を見る。

 そこには、ハウルスの姿があった。傷だらけで、ボロボロのハウルス。
服は破れ、顔からも、体中から血が出ていて、玄関に倒れていた。
「ハウルス君! どうしたんだ?」
 名無しがハウルスを抱きかかえる。名無しとハウルスは師匠と弟子といってもいい関係だった。

子供の頃から、二人で色々な事をやっていた。完全に、打ち解けていた仲だった。その声には、深い心配が混じっていた。

 ハウルスは、ゆっくりと口を開き、ゼエゼエと途中途中ではさみながら喋り始めた。
「大変……だ。ジャールが俺の家の……あの……地図を……奪った……」
 そう言い終わると、ハウルスはその場に倒れた。名無しはそのハウルスの姿、そしてその言葉に衝撃を受けた。

 あの地図。それは、名無しとハウルスの秘密でもあった。二人が研究していた、とんでもないブツ。それだった。

「ハウルス! ハウルス! おい、ハウルス!」
 その地図、そう、石版の在り処――

 

其の四

 そこは、実に不思議だった。歩く度、それを見る度、触る度にその感情は高まっていった。
不思議、いや奇妙と例えるべきだった。奇妙な空間が広がっているのだ。ジャール達の目の前には。とても、とても奇妙な光景が。
 ジャール達は、四人のグループだった。一人は、地図を持っている。ハウルスから奪い取った、地図を。
地図を一瞬だけ見ると、蟻が地図の上にいるように見えた。地図には様々な書き込みがされていたのだ。
それは細かい目印だった。この目印が無く、地図だけだったらジャール達は絶対に迷っていただろう。それだけ、複雑な道だった。
 そして、今。彼らの目の前には奇妙な光景が広がっていたのだ。場所は岩山。地面と岩肌には奇妙な傷がついていた。
まるで、ドリルを使った跡の様な傷。欠けていることも無く、キレイに傷が付いていた。
その傷が、今日や昨日付けられていたものだったらとても、おかしな感じがしただろう。だが、違和感を彼らは感じていなかった。
我々の現実世界での様々な歴史的建造物が景色と同化しているように見えるのと同じ。

何百年も、何千年も前からこの傷はあったのだ。ジャール達はそう感じた。
 この傷が付いている道はまだまだ先まで続いていた。暗い夜の中、ランプの様なものを点けて行動していた。
このランプは――名無しがそれ以上に高性能な物を開発していたが――ジャールが発明したものだった。そして、夜の道を進んでいく。
 ジャールにとって、その道は栄光の道だった。ジャールはこう考える。名無しとかが研究している物を俺が先に解明する! 

そうすれば、ナンバーワンは俺だ。このジャールだ。ジャールは、そう考えたのだ。

「あ! ジャールさん、あれじゃないですか?」
 地図を持っている部下が差したのは、目の前にある洞窟の様な穴だった――


 場所は変わり、先ほど語ったジャール達の事とは時間的に少し前という事になる。村の病院。
いつもは爽やかな風が吹き、笑顔で溢れている病院の玄関に、今までに一度も無かった重い空気がたちこめていた。
名無しはハウルスを抱え、じおすや看護士達、患者達はただ立っているだけだった。
 名無しは迷っていた。ハウルスは今、適切な治療をすれば助かる。だが、それができるのは俺だけなのだ。
そこを迷っていたのだ。名無しがハウルスを助けることを選択すれば、ジャールが何かをやる。
ジャールの方へ行ったら、ハウルスが死んでしまう。どうすればいいのか、名無しは迷った。
 ハウルスと名無しは、親友といってもいい関係だった。ハウルスは名無しを尊敬している為、敬語で喋るがそれは形だけで、
我々の現代の普通の友達と同じだった。だからこそ、名無しは見捨てることなど出来なかった。
 看護士達は、ハウルスを自分たちが治療しようと考えていた。前の、ジャールが暴れてたのを知っているのだ。
だからこそ、早く名無しには行ってほしかった。ハウルスと名無しがどれだけ固い信頼で結ばれているかは知っている。
だが、自分達でも治せる。そう思ったのだ。

  玄関にはドアがあり、簡易的な足拭きマットがあるのみだった。靴を脱ぐわけでは無い。壁には振り子の付いた時計も掛かっている。
彼らの一日の感覚と、我々の一日の感覚は違ったが、時計の音だけは過去も、未来も、
今、ハウルスが倒れている時でも変わらずに鳴り続けていた。

「ハウルスを、ハウルスを治療室へ連れてってくれ!」
 名無しは叫んだ。名無しは決断した。ハウルスを、親友を助けるが為。その声からは名無しの迷いが感じられた。
「私達が助けます! 名無しさんは急いでジャールの所へ行ってください!」

 看護士の一人がそう叫んだ。そうしている間も、ハウルスの呼吸は弱くなっていく。
「君たちを馬鹿にするわけでは無い、そこのところを分かってほしいのだが。私じゃないと、ハウルスの治療はできない」
 そして、重い沈黙が空間を支配する。だが、それを打ち破る声があった。それは、じおすの声だった。
「未来の道具で、彼を治療できます」
 じおすの秘密道具は、『お医者さんカバン』『簡易強力火炎放射器』『ショックガン』だ。残っているのだ。一度しか使えないが。
この時代に飛ばされてから、何度も、何度も使おうかと迷ったその道具。じおすは感じていた。

 もし自分が運命に支配されているのなら、運命が自分に指示をしているのなら、この道具を使うのは今、この時だ。
自分の『お医者さんカバン』の運命の歯車は、今、この時の為に回っていたのだ。
「本当に、治せるのか? じおす君。ハウルスを! 治せるのか?」

 口調はいつも通りだったが、声の調子からして名無しが慌てているのが分かった。じおすは、ハッキリとした声でこう言った。
「はい、できます」
 少しの間の沈黙。じおすの目は爛々と輝いていた。運命の決断をしたのだ。
「頼んだぞ」
 名無しはじおすに全てを任せることにした。時を超えた、友達に。
 名無しは自分の部屋へと走った。病院の中の一角に、名無しの研究室があるのだ。
その部屋は玄関に近く、玄関から食堂までの廊下にあるドアがその入り口だ。
部屋の中から、鉄板が落ちるような金属音が響く。じおすはその音の感じを何処かで聞いたような気がしたが、あまり気にならなかった。

 その間、じおすと看護士達はハウルスを持ち上げ、治療室へと連れてっていった。
治療室には手術室のような台があり、その上にハウルスを乗せる。上にはライトがあり、メスみたいな物など、
ある程度の道具は揃っていた。消毒薬もある。

 玄関にいる名無しは、ライトと鉄砲だった。鉄砲といっても、仕掛けは簡単。
安土桃山時代に伝わった火縄銃の様に、中に入っている火薬に火を付け、その爆発で鉛を飛ばすというものだ。
だが、それだけでも十分だろうと感じた。病院の外には、彼が発明した移動道具がある。前と後ろに付けられたタイヤ――
といっても、我々のゴムタイヤでは無い、木でできたものだが――を自力で動かす道具、自転車の様なものだ。
 ジャールを止め、願わくば何も無かったことにする。それが、名無しの考えだった。そして、乗り物をこぎ始める。

 病院の中。『お医者さんカバン』は正常に作動していた。もしかしたら駄目かとじおすは不安に思っていたが、様子を見てホッとした。
治療室の外の看護士は、何度か「手伝わなくていいんですか」と質問していたが、
じおすは『お医者さんカバン』について説明した為、質問はしなくなった。

 ハウルスの傷は、立てかけた板に水を流すように治っていった。じおすは、二十二世紀の科学力の凄さを改めて感じた。
ハウルスは、助かる。

病院内の人たちは歓喜した。

「じおすさん、ありがとうございます!」
「いや、道具のおかげです。僕は特に何もやっていませんから」
 『お医者さんカバン』はやはり壊れ、治療台の下に転がっていた。
ハウルスはまだ目覚めていなかったが、直に起きるだろうというのは予想できた。 じおすは一息つこうと椅子に座った。

「これなら、気になるのは名無しさんの方だな」
「ええ、どうなったんでしょうか」
 看護士達は喋り、考え始めた。名無しはどうなるのだろうか。名無しが出てからすでに二十分は経過していた。
彼らはその場所、石版のある場所への距離を知らない。だから、もうすでに着いているであろうと考える人もいた。
 じおすは、名無しがどれだけ信頼されているのかを感じた。
「……名無し、か」
 レリーフを調べるにあたって、じおすは名無しの事についても調べていた。レリーフを作ったのは名無し。
それを知っていた。だが、それぐらいしか分からない。そう、レリーフを作ったのは名無し。じおすは、急にその事を思い出した。

 そうだ、名無しだ。あの、名無しなのだ。という事はだ。じおすは、すぐに判断した。
さっき、名無しが向かったのは石版の在処だという事に。名無しが向かった先に、石版があるのだ。

 そして、またじおすは思い出す。さっきの、名無しの部屋の金属音。あれは、何か。
「! あれは、レリーフだ」

 じおすが手にしたレリーフには、石版の位置が彫られていた。其処からはすぐに推測できた。
もう一つのレリーフは、石版の文字の読み方について彫られているに違いない、という事を。
 レリーフの古代文字は、この村の文字だ。石版のとは別だろう。だから、それについてだ。
 見たい―― その衝動が、じおすの体の中で沸き上がった。それを見て、何かしたいとは思わない。

だが、自分の研究の一つの完成形として、それを見たいと感じたのだ、
 気がついた時、すでに名無しの部屋の前にいた。様子からして、鍵はかかってないようだった。そして、開く。

それは、床の上に一枚、机の上に一枚、無造作に転がっていた。
 部屋は散らかっていたが、ゴミが機械系ばかりだったのであまり気にはならなかった。
じおすはアニメでよく見た研究者の部屋の通りだと思った。ゴミを踏まないように気をつけ、机に近づく。心臓の鼓動が高まる。
 そして、不思議な、別世界に連れてくかの様な光を放つレリーフを手にした。それは、じおすが調べたものだった。

『ほんやくコンニャク』を食べたおかげで、文章はスラスラと読める。スラスラと、まるで、日本語を見ているかの様に。
昔から、その文字に触れていたかの様に。
 心臓が飢えた野犬の様な低い、かすれた音を出す。そして、もう一枚。その一枚は、何も書かれてないかの様に見えた。
だが、違った。表と裏に、一枚ずつ、同じ材質のカバーが掛けてあるのだ。少し力を入れたら、はめこんであったカバーがとれた。
そして、そのレリーフ。

「あ……あ」
 それしか声が出なかった。じおすは震えた。その、恐ろしさに。其処に彫られていたのはやはり、文字の解読法。
それは上半分しか彫られていなかった。下半分に彫られていたのは、その石版の内容。
 世界を破壊できる力。彫られていたのは、それだった。
じおすが、今まで一度も感じた事が無い程のとんでもない恐怖が体を駆け抜けた。
 名無しも、それを感じていたのだろう。そこだけ、彫られていた文字が歪んでいるように見えた。
机の上には、彫ったのに使われたであろう道具がおかれている。
 じおすはカバーをはめこんだ。手は、まだ震えていた。じおすは子供の頃にやった、学校での災害シミュレートを思い出した。
目の前に、立体でリアルな災害の様子が映し出される。じおすは震えながら、こうならないようにしようと誓ったものだった。
その時のじおすより、今のじおすは恐怖していた。

 そんな時だった。轟音が響いた。地面が揺れ、何かが破壊される音が響く。

「何だッ?」
 じおすはレリーフを掴みながら、部屋の外へ出た。

看護士達は病室の患者達の対応に追われていて、一人、じおすと共に外へと出た。
 その時代の人々にとって、それは信じられない光景だったであろう。
空の上に何かが浮かんでいて、その何かから轟音と破壊をもたらす物が出ている。それは、悪夢の様な光景だった。

 じおすは分かった。未来の奴らが、やって来たと。そして、それは恐らく……イカたこ達であろうと。

「気持ち良いッ! 実にだ」
 空の上で攻撃をした男。それは、ミサイル研究所――

 

其の五

「あそこだ!」
 ジャールの部下が走り出し、穴の中へと入る。夜の変哲も無い道を歩いていて、精神が限界になったのだろう。
部下は走ったのだ。この行動が最も重要だった。走る。その行動をしなければ、彼は生き残っていたであろう。
 目の前にある穴へと部下は入る。ドリルの様な傷は、そこに何かが回りながら突っ込んだ、という事なのだろう。何かが。
何かが突っ込んだ。突っ込んだのは何か。それは名無しも解明できていなかった。ただ、名無しは一つだけ予想していた。
ただ、彼も確信は持っていなかった。名無しが考えたその説は、真っ暗な中、樹海を歩くようなものだった。

本当にそうだという確信、自分が今歩いている道が本当に外へ通じる道だという確信など持てない。そんな状況だった。
 悲鳴―― 穴に入った瞬間、豚を絞め殺したかの様な音がジャール達の耳を貫いた。
「おい! キラシー! どうしたんだ?」
 ありえない、罠などあるわけない。名無し達が入っていたのだ。ジャールは驚き、頭の中で考えた。
名無し達が罠など仕掛けるわけが無い、どうしたのか。ジャールはビビる仲間を押しのけ、ゆっくりと穴に近づいた。

  穴から漂う、鉄の臭い。ねっとりと、ねばっこく、体につきまとっていく。腹から何かがこみ上げて、口へとそれが逆流してくる。
左手で口を押さえ、吐き気を飲み込む。そして、右手で穴の中を照らしていく。
赤い液体、さっきまで体の中を流れていたであろう液体がドリルの跡のくぼみに溜まっている。
震える手をゆっくりと前へと押し出す。まずは手。さっきまでランプで照らせば純白の光を返していた上着が赤色の光を返した。

次に胴体、左胸からは血が流れ、服を静かに染めていく。そして、顔。ジャールの喉を何かが逆流し、体中に気が走る。
苦しみにもだえ、舌を出し、目をカッと見開いたまま、もう物体になった『それ』は光を返した。
古代からどうしようもない法則として刻み付けられた一言。『死』……
 キラシー、その名前だった物体の顔を見た時、ジャールは吐いた。吐きながらも、考えた。
なんで、名無しとかは大丈夫だったのか。体重か? 
その時、まだ名無しは体重という概念を考えはしなかったが、それぞれの物の重さと言うのは当然ながら分かっていた。
だからジャールは違うというのが分かった。キラシーと、名無し達の体格はほぼ同じだからだ。何でだ、何で。
「ジャールさん、中に入りましょうよ」
 ジャールの部下の一人がそう言った。
仲間の死には衝撃は受けていたが、あまりダメージは食らっていなかったのだ。
ジャールの精神が、特別に脆いせいかもしれなかった。ジャールの部下は歩いて、ランプを持ちながら中へと入った。
 ジャールが止めようとしたが、悲鳴は聞こえなかった。普通に入れたのだ。テクテクとすぐに、普通の家に入るように。
 あれ? ジャールの頭の中が、崩壊しそうだった。考えることによって、吐き気が段々、消えてきた。そして、考えるようになった。
何故か。それはすぐに予想が付いた。
 答えは、これだった。歩くスピードだ。名無しとハウルスは歩いて入っていたのだ。
明るい中、様々なことを言いながら歩いていたので、走るなんて無いだろう。だが、キラシーは走った。
それによって、何かが反応した。これが穴の入り口の真実だった。
 ジャールは 残っていた部下も呼んで、中に入った。ランプで照らしていくと、目の前に何かがあった。巨大な、巨大すぎる何か。
 天井の穴からは月の光が降り注いでいた。その何かの前では、先に行った部下が膝をついていた。ひれ伏す。
彼らがそんな事をしたのは生まれて初めてだった。そして、その何かをランプで照らす。
「あ……あ……」
 ジャールは、自然に膝を付いた。死後、復活したイエス・キリストを見た時、同じように人は膝をついたであろう。
あまりにも素晴らしいものを見た時、人はそんな行動をとるのだろう。
 膝をついても、ドリルの様な傷からは痛さが無かった。ただ、それを見つめているだけだった。書いてある言葉なんて理解できない。
意味が分からない。だが、体がそうさせるのだ。
 ジャールは心の底から今までの事を悔やんだ。一番になる? そんな事は無理に決まっている。
名無しは一番じゃあない。もちろん、自分なんかではない。一番は、一番は、これを作った奴だ。
これを作った奴に会え、言葉をもらえるなら何でも捧げよう。ジャールの心は、そう思っていた。
 目の前にあるのは、不思議な色をした物だった。『石版』だ。写真などで見たら。誰も素晴らしさは理解できないだろう。
だが、その石版には――

 火の臭い。普通にガスとかで使っていたら感じないであろう臭いが、じおす達の鼻に入ってきた。今まで平和だった村。
こんな事が起こる、いや起こりえるなんて事、誰も想像しなかっただろう。火は暴れ馬のように姿をかえ、人を襲う。
空の上にはまるで魔法使いがいるかのようだった。
 空の上にいるのは魔法使いなどでは無い。じおすはそれを分かっていた。
だが、ポケットを探っても『ショックガン』と『小型強力火炎放射機』の二つしか無い。二つとも、近距離でないと意味が無い。
だから状況的には、何でもできる悪魔とただの小市民と同じだった。
 逃げ惑う村の民、そこを狙って爆弾を落としていくミサイル研究所。
ミサイル研究所の高笑いは、まるで物語に出てくる悪魔の声だった。

低いところから爆弾を落としていたので、じおすにもその声は聞こえた。
 じおすは思う。お前は何が楽しいのか、と。よく子供向け漫画とかアニメとかである、悪役を見てじおすはいつも思っていた。
世界征服? そんな理由ばっかじゃん。それでどうするんだと。
上で爆弾を落として笑っているミサイル研究所を見て、じおすはそうとしか思えなかった。
 じおすは思う。自分自身が此処に来たのを何とかする為なら、俺だけを狙え。村を狙うな。じおすの怒りは、段々高まっていった。
 じおすの耳を貫くような悲鳴が近くで響く―― それは、何の罪も無い一人の看護士だった。
病院の中から気になって出てきたところを、爆弾が襲った。一瞬。
その人が生きていた何十年間とは比べられもしない程の、一瞬。それだけで今さっきまで生きていた人は、『物』になるのだ……

「うわああああああ!」
 他に出ていた者達が一斉に走り出す。外の光景を見て、病院の中から逃げ出そうとする者もいた。
患者も元気な人ばかりなので、どんどん出てくる。だが、それはすぐに止まった。
最初に逃げ出そうとした者が、爆弾にやられたからだ。
 こんな死など、体験した者はいなかった。いや、我々の世界でもいないだろう。そんな恐怖。
安楽死する方が楽だという、恐ろしい恐怖。そういう時、人はどうするか。絶望する。そして、どうせ死ぬんだからと何もしなくなる。
今が、そんな状況だった。

「もう、死ぬんだな」
 一人の看護士がそう呟いた。起きて外に出たハウルスは、その空気に何も言えないでいた。じおすはそれを見ていた。
そして、段々空気は暗くなり、やはりミサイル研究所の高笑いが響こうとしていたその時だった。じおすが、言った。
「諦めるな! 簡単に、死を受け入れるな!」
 その言葉で、死に集まっていた注目が、じおすへとうつされた。じおすは話を続ける。
その言葉は、自分自身へも言っていたのかもしれない。
「いいか、死を受け入れて良い奴は、やる事をやるだけやり終わってそれを自分の運命だと思った奴だけだ!
 皆、できることならもっと生きていたいだろう? 楽しみはたくさんあるじゃないか。マー婆さん、僕はあなたの料理をもっと食べたい。
 皆も、そうでしょう?」

 その言葉で、場の空気は変わった。少しでも、がんばってみようという気持ちが伝わった。
じおすの目と、言葉で納得したのであろう。ところどころから、言葉が聞こえる。
 そして、ハウルスが口を開いた。

「分かった、逃げましょうよ。限界まで」
「いや、ただ逃げるだけなら駄目だと思います」
 ハウルスの言葉に、じおすが答える。
「それはどういう事です?」
 ハウルスは敬語を使う人を選んでいる。敬意を払うべき人には、敬語だ。
「ただ逃げるだけなら、『あれ』でボン! だと思います」
「じゃあどうすれば?」
 じおすは、覚悟を決めていた。必ず、この人たちを助けてみせる、と。じおすは二十一世紀での事を思い出した。
あの後、ドラえもん君達はどうだったであろう。恐怖にさらされてしまっただろうか。あの子達の無邪気な笑顔を見たかった。
こんな年齢でそう思うのもあれだが、僕は博物館に来てくれる子供が好きだ。いつも物凄い関心を抱いてくれて、感心してくれる。
じおすは、そう思ったのだ。

 そして、じおすは自分の覚悟の結果を言った。

「僕が、囮になります」

「囮?」
 じおすは周りを見渡した。するとだ、あるところを発見した。物見やぐらだ。
やぐらの一番上の高さは、丁度ミサイル研究所がいる所と同じ高さだ。
「僕が囮になるので、皆逃げてください」

 そう言い終わるか言い終わらないかぐらいの時、じおすは走り出した。やぐらへと。村の民達は、少しの間それを見ていた。
だが、ハウルスが口を開いた。
「僕が先頭を行きます。皆、着いてきてください!」
 ハウルスは歩き出した。じおすの意思を、無駄にしてはいけない。逃げるんだ。逃げてやる。
ハウルスははっきりとじおすの意思を受け取っていた。村の民達は、ゆっくりとハウルスの後ろを歩き始めた。

 じおすはすぐに、やぐらのドアを開け、階段を駆け上がった。
やぐらは、家と同じ素材でできていて、真っ白だったが、あたりの炎によって真っ赤に染まっていた。
壁の温度とかが高まっていたが、熱さは感じなかった。今さらだが、じおすはミサイル研究所の名前は知らない。

だが、直感としてイカたこの手の者だろうという事は分かっていた。
 そして、屋上。
「聞こえるか? とりあえず一つ質問をしたい! お前はイカたこの手下なのか? とりあえずはそれだけだ」

 その時、ミサイル研究所は初めてじおすがいることに気づいた。そして、ミサイル研究所は言う。

「その通り! 俺はミサイル研究所。ところでじおす、お前をグチャグチャにする前に、一つ質問させてもらおう」
 炎の音が聞こえる中、二人の言葉は異常に響く。

「お前の手に持っているものは何だ? ……もしかして、レリーフか?」

 

この話は続きます。

 


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