石版

文矢さん 作

 

第二幕 これがあの男に渡ってしまった

 

其の壱

 極限状態。例えば、戦争中の密林の中。例えば、暗闇の中、誰かに襲われている。

そんな事を体験した人は必ずある「物」を見る。それは、幻覚。戦場だったのなら、敵の軍隊が目の前に現れたりする。
声を出したら、死ぬ。こらえて、こらえて、こらえて、やっと生き残れる。そんな、極限状態。

 裏山の夜。そう、ドラえもん達もその極限状態を体験していたのであった。裏山の崖になっているところに、彼らは穴を作った。

『キャンピングカプセル』なんかすぐに破壊される。地下室も作ったが、発見されて終わった。最後の手として、穴を掘り、隠れたのだ。
 軟体防衛軍による攻撃は、続いているのだ。気づいたら夜になり、練馬の街に明かりが灯り始めても戦いは止まない。

攻撃。攻撃。それは絵で見た地獄と似ていた。何回殺されても死なないというのが地獄で、その永遠こそが恐怖となる。
永遠。人を恐怖させるのは、この言葉では無いのであろうか。そして、彼らは恐怖を感じていた。

「ママ、ママ、ママ……」
「あ、あ、あ」
 端の方で、のび太、スネ夫、静香達は震えていた。泣きながら。恐怖で。
どらEMONは何が起こってもいいように身構えていた。ドラえもんも、道具を取り出し、ジャイアンは戦う姿勢を見せていた。
 何で、母親達は裏山に探しに来ないのか。のび太が質問したその言葉に、どらEMONは明確な答えを出していた。
秘密道具の中で人を近寄らせないものがある。時間が大分あったから、設置されたのだろうという事だった。
 つまり、彼らを誰かが助けてくれる可能性は限りなくゼロなのだ。タイムパトロール本隊でさえ、気づいてくれない。
孤独。ただの、孤独である。
 どらEMONの脳内には、ある言葉が焼きついていた。

――「永戸! 最後の命令だ! ドラえもん君達を守れ!」「絶対にだ!」

 

 自分の尊敬する男が言ったその言葉。信頼しあっていた仲間の言ったその言葉。最後の、言葉。
 守らなければならない。この少年達を。日本刀を握り締める。例え、右腕を、命を失おうとも。
かつて、自分の尊敬する男、大島がやった様に。覚悟は、できていた。確かに、その右腕に。覚悟は、全て。
 その時だった。穴の入り口から音が聞こえた。『透明クラッカー』を吹き付けた布でガードしていたが、
すでにそれはバレているようだった。入ってくる。この中に、入ってくる。

「じっとしているんだ!」
 どらEMONはそう言うと、『透明クラッカー』をドラえもん達に吹き付けた。そして、日本刀を取り出す。
そして盛大に布が破られる。軟体防衛軍のロボットが、目の前に現れた。
 一体だけのようだった。緑色。いかにも、量産型という感じがするがゼクロスのとはタイプが違った。
さっきから、ずっと戦っているのはずっとそのタイプだった。

 緑色で、ゴツイ形をしており、高さは三メートル程。コクピットは胴体にあり、顔は半円型で黒いラインには二つの眼が光っている。
そして、手には鋭い爪が五本。肩と足にマシンガンが取り付いてあった。

「やあやあ、生き残りさん。こんにちは」
 すでにモードを変えているらしく、声が穴の中に響く。どらEMONの頬を汗が伝る。そして、鋭い目。
「永戸どらEMON、今参る」
 日本刀を抜き、どらEMONは走り出した。ロボットへと。ロボットは穴の中に足を踏み入れ、肩から弾丸を発射した。

どらEMONの胴をかすり、穴の壁へとその弾丸はめり込んだ。

 横っ腹から噴出す血。だが、止まらない。その男は止まらない。地を蹴り、空を歩き出す。そして日本刀が、振り落とされた。
 その姿。まるで、侍。宮本武蔵の様な剣豪。ロボットの胴体の中心に線が入る。そして、割れて落ちていくロボット。
 その音が墓穴を掘った。――気づかれた。三体のロボットが目の前にやって来る。
 どらEMONはポケットに手を突っ込んだ。その時に、三体のロボットから一斉に弾丸が発射された。どらEMONの体にそれが襲う。

だが、不思議な現象が起こる。弾丸が空中で停止したのだ。その弾丸の周りにはヒビが入っている。
「『バリヤーポイント』!」
 そして後ろからドラえもんの声。そう、ドラえもんがすでに投げ込み、発動していたのだ。『バリヤーポイント』を。
自分の周り二メートルにバリヤーが発生する。

 だが、家庭用であるこの道具のバリヤーは、すぐに壊れ、崩れ落ちた。だが、その時間さえあれば十分だった。
ロボットが停止したわずかな時間。その間に、どらEMONは動き出した。

 何故ポケットに手を入れたか。それは、この道具を取り出す為だった。どらEMONは三体のロボットに軽く触れた。
「何を! 無駄だぞ!」
 ロボットの内一体が手を動かし、どらEMONを壁にたたきつけた。どらEMONは軽く胃液を吐いた。激痛が走る。
どらEMONは衝撃を吸収するチョッキを着ていたが、骨にヒビが入った様だった。

 この後、彼らは攻撃を続ける筈だった。だが、違った。違ったのだ。
 三体のロボットは宙に浮き、それぞれがぶつかり合った。ロボットの外装にヒビが入り、彼らは落ちていく。
 『NSワッペン』その道具を、どらEMONはさっき付けたのであった。その為に時間を使った。

これを付ければ、NのワッペンとSのワッペンを付けた者は引かれ合い、逆は逆に弾きあう。複数体を相手するには丁度良かったのだ。
 どんどんやって来る…… 『どこでもドア』はすでに壊れていた。ここも移動しなければ駄目だ。一体、何処に?

「ドラえもん君、『どこでも窓』を出してくれ!」
「え? と、通れませんよ。『スモールライト』もやられましたし」
「いいんだ! 急いで!」
 どらEMONがそう叫ぶと、ドラえもんは『どこでも窓』を出した。慌てているが、いつもの様に色々なものを出すことは無かった。
正確に、一つだけ。
 どらEMONはポケットからビニールテープの様な物を出す。『どこでも窓』の中にそれを突っ込んだ。
『どこでも窓』を閉じる。そして、どらEMONは穴の中にそのビニールテープの様な物を張った。

「逃げるぞ!この線の向こうに行け!」
 気がついた時、そこには地平線が広がっていた――


「どうやら、あの穴の中にいるようだな」
 ミサイル研究所が呟く。手にはさっき使った気圧ロケットが数本握られていた。
ゼクロスはまだ、ミサイル研究所達がいるこの場所に待機していた。
 イカたこはすでに戻ってきていた。ポケットの中に、レリーフを持ってだ。『タイムふろしき』を使ったのか、すでに元の体に戻っていた。
年齢は、二十歳すぎぐらいだろうか。
「恐らく、彼らは終わりだ。何もする事は無い。必死に足掻いて、死ぬ。それで終わりの筈。
だから我々はレリーフの解読を急ごう。すずらん、あれを出せ」
「分っかりました〜」

 すずらんはそう言われると、スキップしながらマシンの壁をたたいた。すると、引き出しが現れる。
引き出しは、壁と同じベージュ色とでも言うのだろうか。そんな色で出来ていた。ただ、パスワードを入れないと開かない仕組みだった。

 すずらんは、パスワードを打ち込み、中から何かを取り出す。
 それは、レリーフだった。もう一枚の、レリーフ。『Do not pass this to that man. (これをあの男に渡すな)』と刻まれている、レリーフ。
そのレリーフはもう一枚と同じような輝きを放っていた。

「我々が、世界を平和に導く」

 

其の弐

「早く向こう側へ走れ!」
 どらEMONが叫ぶ。その言葉に従い、ドラえもん達は急いでテープの向こう側の世界へと走る。全速力で。
のび太は少し遅れていた。足が遅いからだけではない。泣いているからだ。さっきまでと、同じ理由で。
そして、後ろからどらEMONも走り出す。
 その時だった、後ろに音が響いた。地面が割れるような轟音。爆発だ。
どらEMONはガッツポーズをし、後ろの張ってあったテープはその衝撃で切れた。
そして、穴の中に踏み込もうとしていたロボット達もその爆発で吹っ飛ぶ。

「ち、『地平線テープ』ですよね?」
 ドラえもん。そう、どらEMONが使ったのは『地平線テープ』という道具だった。

そのテープを張る事により、その先に地平線が見える別空間が現れる。
だが、テープが外から切られると、もう一度外で誰かが張らない限り、外に帰れないという恐ろしい面ももっている。
ドラえもんはそれを不安に思い、問いかけたのだ。
「大丈夫、さっき『どこでも窓』を使っただろ。あそこの先に張ってあるんだ」
 どらEMONが辺りを少し見回すと、確かにもう一つ、別の空間と地平線空間が繋がっている。そこから脱出しよう、という作戦らしい。

 ドラえもんが一安心した頃、のび太はまだ泣いていた。不安ではない。じおすを、助けられなかった。
タイムパトロールの人々も、同じように助けられなかった。助けられない運命だったのかもしれない。
だが、のび太は許せなかった。助けられなかった自分を。助けられる力が無かった自分を。だから泣いているのだ。
悔しくて。悲しくて。

 地平線の空間は静かだった。『お医者さんボックス』でどらEMONは傷を治している。
三十分程休憩して、脱出する予定らしい。どらEMONは考える。どうやったら、この先も逃げれるか。
そして、どうやったらイカたこ達にバレないで本部と連絡することができるか。その事についてだった。
 ――本部はまだ状況を完全に理解していないだろう。それがどらEMONの考えだった。大島は三時間毎に連絡を送っていた。
そして、最後に連絡を送ったのは「どらEMONがじおすの居場所を見つけた。今から向かう」と連絡した時、午後五時だ。
今の時間は午後七時。後一時間経たなければ状況に気づかない。そんな時間だ。

 どらEMONがテープでつなげた場所、それは練馬区外のとある駅前だ。恐らく、外へ出てもバレないだろう。
だが、奴らは連絡する為の電波を妨害してはいないであろうか。そんな不安だった。可能性を信じて、行動するかしかない。
どらEMONはそう考えた。

 そんな時だった。他のところに、元の空間への出入り口が開いた。他のところに、『地平線テープ』が張られたのだ。
ほとんど物音は無い。だから、誰も気づかなかった。
 距離は、どらEMONから二十メートル程離れている。そして、ゆっくりと中から『何か』が現れた。
 それは、奴の得意技だった。思い出してほしい。初めて、奴と一行が出会った時もそうではなかったか? 
気づいたのは、別方向から見ていたじおすだけでは無かったか? そう、奴の名前はゼクロス――

 ゆっくりと、ゆっくりと射程距離に入るまで近づいていく。ゆっくり、ゆっくりと。その間、誰も気づかない。
 そして、最後の一歩。これも、音はたたなかった。ゼクロスの、射程距離に入った。地平線の空間に、銃声が響いた。二発。
「EMONさん!」
 静香。手に持っている『お医者さんカバン』を持ってどらEMONへと走り出す。
その静香以外、その状況は時が止まっているようだった。
 どらEMON。一発は手入れをしていた日本刀で弾き返した。だが、もう一発は腹を貫通した。腹から血がドクドクと流れ出る。
そしてだ、そんな状況からゼクロスが構えた。

「それじゃあな、永戸どらEMON。このゼクロスのこの戦いに置ける最初の犠牲者として名に残るさ」
 ゼクロスの声が場に響く。そして、銃声。
 だが、それは肉に当たる鈍い音は出さなかった。硬い物に当たる音。そして、どらEMONの目の前に腕が飛ぶ。
それは、ドラえもんの腕だった。銃弾をどらEMONに通さないようにした、ドラえもんの腕だった。
「痛いね…… この痛み、ゼクロス! お前も味わいやがれ!」
 そして、ジャイアン。空を歩き、ロボットの足を掴む。破壊してやる。全力で。ジャイアンはそう考えた。ギシギシと足が音をたてる。
 ゼクロスは笑いながら、ジャイアンを足で蹴飛ばした。ジャイアンは地面に叩き付けられる。
ドラえもんは『空気砲』をその間に取り出していた。残った片方の腕にはめ、叫ぶ。
「ドカン! ドカン! ドカン!」
 三発の空気弾がゼクロスを襲う。だが、それも無駄だった。少しへこませた程度で、ゼクロス自体にはダメージが無い。
 ゼクロスは構えた。弾丸をドラえもんの核へと打ち込めるように。完全に、止めをさせるように。
ドラえもんは動けなかった。恐怖に、圧倒されていた。
 動けない。そんな感覚、初めてだった。トラウマになっている鼠に対しても、びっくりして動けていた。
スイッチを切られたりした時以外、動けない時など存在しなかった。なのに、なのに――

「残念。このゼクロスの最初の獲物は青狸だったか。まあいいだろう。誇りに思え。このゼクロスに殺される事を」
 銃声が響いた。だが、それはドラえもんには届かない。弾き返されていた。誰がどうやって弾き返したか? 
答えは単純だ。ドラえもんがガードしてから、復活できる余裕があった者。そう、その通り……

「残念ながら、君には誰も殺させるわけにはいけない」
「……どらEMON」

 

其の参

 絶対にこの子供達を守る―― どらEMONはすでに、そんな覚悟を決めていた。
絶対に、ここにいる全ての者を殺させはしない。いや、一人だけ殺しても良い奴がいる。それは自分。この永戸どらEMONだ。
それ以外は、絶対に殺させはしない。どらEMONは、そう考えていた。
 自分の尊敬する者、大島。自分のM頼する仲間達、松村、小出、田中。そいつらとの約束を破るわけにはいかない。絶対に、絶対にやり遂げなければならない。
だからどらEMONは痛さを堪え、日本刀を握り締める。
 助ける。ここから、彼らを脱出させる。それだけを思う。だからこそ、今から戦う。奴を。ゼクロスを、一刀両断にしてやる。
彼らの平和を、自分の平和を守りきる為。
 ゼクロスとの距離は十メートル。それを、ゆっくりと縮めていく。走って一秒程で近づける距離。そう、射程距離に入るまで。
気づかないくらい、ゆっくりと。
 その間、誰も喋りはしなかった。漫画とかでよくある、オーラとでもいうのであろうか。彼らは、それを体験していたのだ。
呼吸するのにも体力を使うような、重い場の空気。
 射程距離に入るまで、後五十センチ。四十五センチ。四十センチ。三十五センチ。三十センチ。

 ゼクロスは、動いていなかったが、その気になれば銃弾を撃ち込めるであろう。
ただ、どらEMONが日本刀を握り締め、いつでも弾けるような構えだった為、撃ち込まない。
 残り二十センチ。十五センチ。十センチ。八センチ。七センチ。六センチ。五センチ……

 その時、ゼクロスの腕が動いた。ゆっくりと腕を上げていく。ゼクロスの考えはこうだった。奴の腹には怪我がある。
『お医者さんボックス』を使ったとしても、そこまですぐには治らない。痛みがある筈。という事はだ。
痛みを感じてピクリと動きが止まる一瞬がある筈。そう考え、銃弾を撃ち込む事にしたのだ。

「残念だったな。ゼクロス。すでに、射程距離だ」
 最後の一歩をどらEMONは大きく踏み込み、空を歩いた。そして、日本刀を振り上げる。ゼクロス、操縦桿を握り締める。
どらEMON、刀を振り落とした。 
 一瞬。一瞬の映像というのを見た事があるであろうか。テレビ番組とかでよくあるであろう。
例えば、俳優がセットから出た途端、セットが大爆発する。今起こったことも、それと同じ一瞬の出来事であった。
 ゼクロスは一瞬の間に、ロボットをずらした。少しのズレぐらいはどらEMONも考えていた。だが、それでも無駄だった。
斬れたのは、ゼクロスのロボットの左腕だけであった。

 それは、ゼクロスのロボット操作の腕を静かに物語っていた……
「エクセレント! それでこそこのゼクロスに殺される権利があるというものだ。永戸どらEMON。正式に名乗らせてもらおうか。私の名前はゼクロス・アークウィンド。スペルはゼット、イー、シー、アール、オー、エス。Zecrosだ」
「お前の目的は、その名前を未来に残す事らしいな」
 どらEMONはさっきの出来事に動揺しながらも、静かに言った。
「残す? 違うな。残されるのだ。確実にな。このゼクロスという名前は!」
「同じようなものさ。だから、俺も目的を教えてやるよ。タイムパトロールの目的をな」
 そういうとどらEMONは静かに眼鏡をあげた。腹の傷が痛むが、関係なかった。大きく口を開けて叫ぶ。

「タイムパトロールの目的とは! いいか? タイムパトロールの目的は、『未来を残す』事だ! 
将来のすばらしき人々に『未来を残す』事だ!」

「未来を?」
「ああ、その通りだ。だからこそ、お前らの集団を止めなければならない。
今、この状態の人々が作った未来を、破壊しようとしているという事だからな」

 

 

 

 十年前のことだった。永戸どらEMONは二十二世紀で暮らす平凡な少年だった。
友達と笑い、家族とは時に喧嘩もし、勉強も面倒くさがる。そんな少年だった。
 そんなどらEMONが変わったのは、ある出来事が切欠だった。今までの平凡な日常を、全て崩す、大事件。
 その日、どらEMONは学校へ友達と向かっていた。下らない話をしながら、笑いあっていた。
宿題はやったとか、昨日やっていた番組、面白かったよな、とか。そんな普通の小学生の会話であった。

「なあ、何だあれ?」
 友達の一人が言った。場所は、マンションが建つらしい空き地。
そこには、見慣れない透明のガラスみたいなものでできたケースがあったのだ。それを悪戯で動かそうとしたが、重くて動かない。
 だが、それでも不思議な魅力があった。近づいて、もっと調べたい。そんな魅力がそれにはあった。
「やばい、もう少しで学校入れなくなるぞ」

 その時、どらEMONが空間に浮かぶ時計を見て呟いた。時間になると、自動的に門が閉まってしまうシステムなのだ。
やばい、とばかりに一行は急いで学校へ向かった。
 学校内。四時間目。もう少しで給食を食べれる、そんな時間だった。子供達の集中力も切れてきていて、窓の外をずっと見る。
そんな時間帯だった。目の前のパソコンに授業内容が移されていても、興味がある子供は数人しかいなかった。

 そんな時、爆発が巻き起こったのだ。その場所は、さっきガラスのケースが置いてあった場所だった。
 日常の歯車が壊れ、非日常の歯車が静かに回りだした――

 

其の四

 爆発の瞬間、どらEMONは髑髏を見た。爆発したあの空き地から出る煙が段々、段々とからめつき合い、そして形を成していく。
目ができ、口もでき、その髑髏はどらEMONを見ながらケラケラと笑うのだ。まるで、どらEMONの運命を暗示しているかの様に。
 数分間、教室の子供達は席を立ち上がり、ボーッとそれを見ているだけであった。教師も同じだった。

そんな中、どらEMONだけが足をふらつかせた。
 ケラケラケラ―― 
どらEMONの頭の中で、髑髏が笑い出したのだ。髑髏は、頭の中の無数の光がある世界にいた。
不気味に高い声で、骨と骨をすり合わせる音を出しながら、笑うのだ。何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も。
段々、段々、頭の中の自分に髑髏が近づいてくる。どらEMONは頭を抱えた。
 あれは幻覚なんだ。僕が頭の中で見てる、ただの幻覚なんだ。実際に来るわけじゃない。実際に、来るわけでは、無い。
だが、何度その言葉を繰り返しても落ちつかなかった。頭の中の髑髏は、不気味なあの高い声でおどろおどろしい歌を歌い始めた。
「うわあああああああ!」

  思わず声を出していた。そして、絶望感が漂い始めた。教師が落ち着かせようとしていても、無駄だった。
教師にはその行動が理解できなかった。爆発といっても、まだ我々には関係無い。関係無い出来事なのに。
 声を出し、床にうずくまった時、頭の中の髑髏が、無数の光の中の一つを食べたのだ。笑ったまま。
どらEMONはそれに対しても、恐怖を感じた。恐怖、恐怖、圧倒的な、恐怖。
「永戸君、どうしたの?」
 そう言った瞬間、教室に血が舞った。恐る恐る、どらEMONが上を見上げた瞬間、
そこには頭から血が吹き出てる教師の姿があった。教室の机に、パソコンに、生徒に、血の雨が降り注いだ。
 気持ち悪い感触、赤くなっていく木で出来た机。何もかもが、異常だった。そして、生徒達は理解した。
今、目の前でこの世界の掟、『死』が繰り広げられている事を。その掟にやられたら、従うしか無い『死』
 教師は倒れ、教室に頭蓋骨が叩きつけられる鈍い音が響いた……

「助けて! 助けてよ! お母さん! お母さん!」
 誰も落ち着こうとする生徒はいなかった。頭の中が混乱し、教室の中を恐怖で走り回る者もいたし、
恐怖で床にひれ伏し、震える者もいた。学校内は、圧倒的な恐怖に包まれたのだ。

 そして、銃声が響く。走り回っていた中の一人の胸から血が噴出す。教師と同じように、断末魔の悲鳴をあげながら、死んだ。
ただの事実。それ以上でも、それ以下でもない。変わらない、事実。

 生ぬるい赤い液体で水たまりができ、子供達の悲鳴の合唱が教室を恐怖のリズムでうめつくす。
一人が廊下に出ようとすると、他の生徒もそれに続いた。どらEMONと、数人の生徒だけが教室で震えていた。

 どらEMONの頭の中の髑髏は、光をたくさん食べていた。そして、またケラケラと笑って歌を歌うのだ。
そして、段々と頭の中は暗闇に近づいていく。

 数秒後、爆音が一階から聞こえてきた。それに伴う悲鳴。べチャべチャという気持ち悪い血の音――
 外を見ると、すでにたくさんの家が爆発で消されていた。一階の生徒達も、爆発で死んだんだろう。自分達もいつか殺される。
ミナゴロシだ。この事件を起こしている奴らは自分達を皆殺しにするつもりなんだ。

 頭の中の髑髏は、光を食べ続けていた。残り、少ししか残っていない。髑髏の高笑いが頭の中でガンガンと響く。
 また銃弾が教室を襲った。二、三発撃ち、その内の一発がまた一人の生徒に当たった。それがまた恐怖を加速させる。
安全なところなんて無い。存在しない。髑髏が、光を、生命の光を食べ続けるだけなんだ。そう思い始めた。

 そんな時だった。街の爆発が収まり始めた。街が静かになっていく。爆音が、聞こえなくなってきたのだ。
気づけば、白いタイムマシンが街のいたる所にあった。

「『タイムパトロール』だ」
 一人の少年が呟いた。絶望から、希望に変わった。たった六人程度しかない教室だが、喜びの声が巻き起こった。
 助かる。助かる。助かる。助かる。だが、どらEMONだけはその中に入れなかった。まだ、いたのだ。
頭の中の髑髏がまだ終わりでは無いと告げていた。
「ふざけるんじゃねえよ。時間の犬どもが」
 銃声。近くで響いた。教室の出入り口に、一人の男が立っていた。ドア近くの生徒が一人、死んでいた。
また、教室に血しぶきが舞う。その男の周りに、変な嫌な臭いが漂う。

「まあいいか。奴らが来てもこの改造銃で一発さ。この教室で遊ばせてもらうよ。ガキ共」
 そう言うと、男は教室の中に入ってくる。そして、教壇の上に座った。教室の様子を見てほくそ笑みながら。
そして叫ぶ。

 

「おい、そこの廊下側のガキ! 立て」
「へ?」
「立てって言ってるんだよ!」
 そう言うと、男は廊下側の生徒に銃を撃った。生徒の左腕が吹っ飛ぶ。
痛みで叫ぶ暇も無く、男はもう一度「立て」と命令した。生徒は立ち上がった。痛みも、恐怖に麻痺されて感じなかった。

 男は、目の前の机から鋏を取り出した。そしてだ、気持ち悪くなる事をやり始めた。その生徒の指を切り始めたのだ。
恐怖で生徒は叫び始める。その様子を見て、男は笑い始めた。

 頭の中の髑髏は、さらに笑っている。駄目だ。駄目だ。駄目だ。終わりなんだ。

 

 そんな時、男の右腕が吹っ飛んだ。突然の事だった。気づけば、教室に白い服を着た男がいた。
「いい加減にしやがれ。大村よ」
「タイムパトロールか!」

 男は振り向き、銃でその白い服を着た男に対して撃ちこんだ。だが、その白い服を着た男はそれを避けた。
そして、男に近づき始める。
 男は恐怖で震えた。さっきまで、生徒達を恐怖させていたあの男が、震えたのだ。恐怖で、圧倒的な恐怖で。

「や、やめろ! 近づくんじゃねぇぇ! このガキの頭を吹っ飛ばすぞ!」
 男は、さっきまで指を切っていた子供の頭に銃を突きつけた。その子供は、恐怖とあまりの痛みにボーッとしていた。
白い服を着た男は止まる。だが、ひるむ事なく喋り始めた。
「ふん! そんなガキを人質にとらないと勝てる自信が無いのか? 臆病者のチキン野郎め」

「あ?」
 その言葉で、男はキレた。銃を掴み、男に対して撃った。男の右腕が吹っ飛んだ。男は笑おうとした。だが、笑う暇も無かった。
すでに、男の体は吹っ飛び、胴体に大きな穴があいていた。すでに、男は撃っていたのだ。
 どらEMONは、ただただ、その様子を見ていた。何で、腕を撃たれたのにすぐに対応できたのかは分かっている。
元から、腕を撃たれる覚悟をしていたからだ。いや、もしかしたら胸を狙われても最後の力で撃っていたのかもしれない。
「け、刑事さん!」

 震える声でどらEMONは尋ねた。白い服を着た男は振り返ると、さっきまでとは違うやさしい顔でこちらを見てきた。
腕を失った痛みは、感じていないようだった。

 頭の中の髑髏は消えていた。さっきまで真っ暗だった頭の中のその空間は、光に満ちていた。
「な、何で腕を撃たれてもあいつと戦ったの?」

「それがタイムパトロールの目的だからさ」
「目的?」
「タイムパトロールの目的は『未来を残す』こと! 君達のような将来のある子供の『未来を残す』ことなんだ!」

 そのタイムパトロール隊員の名前、それは大島といった――

 

其の伍

「どらEMON、お前は間違っているよ。その点をこのゼクロスが説明してやろう。我々は何も世界を壊そうなどと考えていない。
 イカたこさんの考えを教えてやろうか? 今の腐った世界を、平和へと変えるのさ。平和の為には武力が必要だ。
 今まで、平和と呼ばれていた状況は武力を使い、ある程度の支配をされている状態だろう? 日本の江戸幕府を考えてみろ。
 徳川家康が武力で勝利したおかげで三百年近く平和が続いている。そして今の二十二世紀は決して平和では無い! 
表面上では平和でも、まだまだセコイ手を使っている政治家などがいる!  
 我々が世界を手にしたら、そんな事は絶対に許さない法律を作るのだよ。今の状況ではそれは無茶だ。
だから世界の政治の実験を握るのを目的に、その手段としてあのレリーフが必要なのだよ。
未来を壊しているのは今の二十二世紀の住民共なのではないか?」

「理解できんな」
「黙れ。このゼクロスの考えも理解できないデストロンの隊員め。
 イカたこさん率いる我々は平和というエネルギーが枯渇している二十二世紀を救う為、
 別の手段で世界を助けようとしているサイバトロンなのだよ」

 ゼクロスはそう言い終わると笑い出した。誰もがその行動を疑問に思った。その時だった。
 ロボット、腕をどらEMONに向けて叩きつける。どらEMONは刀でそれを防ぎ、さらにそのまま右腕も斬ろうとした。

だが、それすらもゼクロスの作戦の内だった。ロボットの左足から、弾丸が発射される。どらEMONは防ぐ手が全く無い。
 終わった―― どらEMONはそう考えた。覚悟はしていた。自分が死んでもいいという覚悟は。
だが、覚悟をしてもどうしようも無い状況だった。防ぐことなどできない。

 のび太はその様子を見ていた。ドラえもんも、ジャイアンも、スネ夫も、静香も。ドラえもんの腕は何とか治りかけていた。
道具を使ったからだ。だが、今走り出しても届かないだろう。
 のび太の頭の中では、あの光景がまた流れていた。助けられなかった犬。車に轢かれて、抱きしめられなかった犬。
いつしか、その犬がじおすに変わり、じおすが車に轢かれるという光景が頭の中で流れた。また、助けられないのか。
そうやって、のび太のもう一つの心が問いかけているようだった。
 人は、死ぬ直前に何を見るのか。それは、過去の記憶が走馬灯の様にめぐってくるとも言われる。
そして、死ぬ直前に起こった出来事が異常にスローモーションで感じられる事もある。それだった。
今、どらEMONはスローモーションでその光景を見ていた。だが、体は動かない。
 どらEMONは昔、アニメとかでそういう光景を見ると「避けろよ」と笑っていた。
だが、それの避けれないというのが本当に起こる出来事なんだと今、理解した。避けれないのだ。体が思うように動かない。

 金縛りのトリックも同じようなものだった。
金縛りというのは頭は起きているのに体は起きていないので動けないというのが理由だという。それと同じだ。全くもって同じなのだ。

 だが、その弾丸は当たることは無かった。全て、弾かれたのだ。どらEMONに当たる直前で、全て弾かれたのだ。
恐らく、たいした武器では無いだろう。軌道がズレたのだ。

「このゼクロスの作戦が、失敗した……?」
 ゼクロスは呆然としていた。そして、その間だった。どらEMONは力がかからなくなった腕から脱出し、その腕を斬った。
そして、そのまま空を歩くようにして、コクピットへと駆ける。
「しまった!」

 ゼクロスは急いで操縦桿を握りなおし、ロボットをのけぞらせた。どらEMONは対応できず、転がり落ちる。
そして、ロボットをもう一度体勢を立て直させた。だが、その頃にはどらEMONも元の状態に戻っている。
 撃ったのは誰か? その答えは簡単だった。立ち上がろうとしていた者だ。助けられなかった人を、その手で助けようとした者だ。
抱きしめようと、命を失わないよう、抱きしめようとしていた者だ。

 

 ドラえもんは呟く。
「のび太……!」
 そこには、『ショックガン』を握り締め、涙を拭くのび太の姿があった。しっかりと、地面を踏みしめ、ゼクロスの方をにらむ。
その姿は、勇者を彷彿させる。
「助けるんだ。今まで助けられなかった分。何人でも!」
 のび太はそう叫ぶと、『ショックガン』を構えた。『ショックガン』じゃ大したダメージは与えられない。それは理解している。
だが、これは細い木ぐらいなら倒せるぐらいのパワーは持っている。だからこそ、のび太は最高のサポートになる所へと撃ち込んだ。

 それは『メインカメラ』だ。ロボットだからこそ、カメラがなければ周りが見えない。もちろん、サイドのカメラはあるであろう。
だが、メインカメラが最も重要なのは変わらない。だからこそ、のび太は撃つのだ。
 どらEMONはそれを感じ取った。引き金を引くのは何秒後にやればいいか。それを静かにサインで伝えた。

ゼクロスからは見えない死角。ゼクロスからは感じ取れない死角。
 後五秒、四秒、三秒。どらEMONはゆらりと動き始めた。二秒。ゼクロスは、操縦桿を握った。
銃弾を撃ちこみながら蹴りを入れる作戦だった。一秒。どらEMONは構え、走る体勢を作る。一秒。

 

 のび太は、引き金を引いた。メインカメラが割れる音が場に響き、どらEMONは走り出した。コクピット近くだと感づかれる。
狙うなら、『あそこ』だ。
「カメラを撃ったか!」

 ゼクロスは少し慌てたものの、操縦桿を握り、サイドカメラを頼りにロボットをジャンプさせた。
どらEMONがコクピットを狙っていたのなら、着地する時に踏み潰せるタイミングだった。だが、違うのだ。
どらEMONがどうしようとしているのかの予想は、見事に外れた。
 どらEMONは日本刀を握り締め、目的の場所へと突っ込み、穴を空けた。そして、ポケットの中のライターを握る。
 そこは、燃料タンクだった。そして、ライターのスイッチを付け、そのライターを入れる。後ろへとジャンプし、ロボットから離れる。
「燃料タンク! だが、何を……」

 ゼクロスがそう言った瞬間だった。ゼクロスのロボットが爆発し、一気にロボットは炎に包まれた。
赤い、不完全燃焼の炎がロボットの周りを包む。機体が静かに溶け始める――
 コクピットも、赤い炎に包まれた。少しずつ、ゼクロスの体を焼いていく。脱出はできなかった。
ロボットがその場に倒れる振動が伝わってくる。

「このゼクロスが! 後の世に名を残す、ゼクロスがぁぁ!」
 叫びながらも、むなしい感じが体を伝っていた。もうどうしようもない虚しさ。操縦桿をつかもうとした腕も、無様に空を切った。
操縦桿は、すでに溶け尽きていた。
 ゼクロスは思い出す。何故、イカたこの軟体防衛軍に入ったのかを。それは、名を残したかったからだった。
西郷隆盛の様に、ナポレオンの様に、名を残したかったのだ。

 何故、名を残したかったのであろうか――? ゼクロスの考えはそこまで及んだ。そうだ、あれだ。あのせいだ。
ゼクロスは思い出した。自分の親友の名前だった。
 その親友は、自分よりも才能があった。だが、ある日だった。警察が間違えて撃った銃弾にやられてしまった。
天才も、死んでしまえばただ虚しいものだと悲しみの中、ゼクロスは学習した。
 だが、そんなある日ゼクロスはある人物の伝記を読んだ。その人物も、親友を亡くしていた。

 

そして、その親友のことを演説で話したのだ。そして、その親友の名もその偉人と共に残っている。

 ゼクロスはそれを見て考えた。自分が有名になれば、有名になれば親友の名前も残るんだ。虚しくなんかないんだ――
「ああ、そうか……」
 ゼクロスは自分の命が消えていくのを感じながら親友の名前を思い出す。

 

 ごめんな、名前を残せなくて。ごめんな、俺がこんなに駄目で。ごめんな、俺のロボット技術が中途半端で。
「ごめんな、マ……サ……ト」
 ゼクロスはそう呟くと、炎に包まれながら絶命した。あの世で親友、久原マサトに会えることを祈りながら――

 

其の六

 何故、イカたこ達はゼクロスを送ったか? その理由は簡単である。ゼクロスなら必ず始末できるという信頼があったから。
信頼は、人と人を結ぶにおいて最も重要な事だ。実際、今までゼクロスはその信頼に答えていたのであろう。
 だが、その信頼は裏切られた。ゼクロスの敗北。さらに、ゼクロス死亡という残酷なまでの事実によって。
死という言葉はこの世の定義で最も変わらない事実ではないであろうか。いくら泣き叫んでも、一度失った命は戻りはしないのだ。
 これから語るイカたこ達の会話は、上記の事実が巻き起こる三十分ほど前から始まると思ってほしい。
ゼクロスを出発させる直前だ。いいであろうか。それでは、語り始めよう。

「この英語で書かれているレリーフは意味が分からないし、こちらは文字が読めないな」
 ミサイル研究所だった。その両手にはレリーフが一枚ずつ握られている。
片方が、『Do not pass this to that man. (これをあの男に渡すな)』と書かれているレリーフ。
もう片方が古代文字と石版の絵があるレリーフ。じおすが解読をしていたというレリーフ。

「えっと〜その二つを重ねてみると何かが起こるとかじゃないんですかあ〜」
「さっきこのゼクロスがやってみた。何も起こらない」
「そうなんですかあ〜」
 ゼクロスとすずらんのやり取り。そう、彼らはすでにこの二つのレリーフを使ったら何かが出てくるのではないかというパターンは
やり尽くしていた。だが、何度やっても結果は出ない。

 世界を破壊できる力を持った石版の位置は、決して出ないのだ。何故、片方が英語で書かれているのか。
それは、まだ誰も理解していなかった。
 そんな時、イカたこが虫眼鏡とピンセットを片手に持ちながら古代文字の書いてある方のレリーフを取った。
そして、そのピンセットで何かをつまみとった。そして口を開く。

「ここにだ、何かの破れカスみたいのがある。触った感覚からすると、多分プラスチックで出来た透明シートの欠片だろう」
「それがどうかしたんですかあ〜?」
 すずらん。イカたこはその破れカスを透明な袋に入れる。
その透明な袋はほとんど空気と同化しているが、ある程度の衝撃、汚れから中の物を守る為のテクノロジーが使われているものだ。
「これは間違いなく、じおすの手にあった時に付いていたものだ。これがどういう事か分かるか? 
じおすはこの上に透明シートを重ねていたのだよ。保護する為じゃない」
「分かりませんよ〜そんなの〜」

 そんな中、ミサイル研究所が少し考えた後で答える。
「この上に、文字が書いたシートをのせていたんだ」
「その通り」
「ん? どういう事だ。文字が書かれているシートって」
 ゼクロス。イカたこは少し笑いながら答えた。
「じおすは他の古代文字を参考にする為にその透明シートを置いたってことさ。
 そしてだ、よく見たらこの古代文字はあの文字に似ている」
「ヒエログリフだ」
 ミサイル研究所は答える。ヒエログリフ。主に古代エジプトで使われた文字。
神聖文字ともいわれ、二十一世紀の時点で完全に解読する事ができる文字だ。
 イカたこは又、笑った。
「つまりだ、この古代文字はアフリカへと影響を与えた文字なのではないか? 
この古代文字が伝わるに伝わって、ヒエログリフになった。今まではそういう学説さえ無かったが、ありえるとは思わないか?」
 イカたこはそういうと、ポケットから小さな機械を取り出し、それをいじりだす。
それは、すぐに防衛軍専用データベースにつなげられる携帯子機だ。これで検索すれば、あらゆる事が現れていく。
「解読できるかもな、この古代文字を! これさえ使えば、今ある奴らをグチャグチャに踏み潰し、爆発させ、
この世を完全に支配する事ができる!」

 ミサイル研究所が興奮気味でそう言った。ミサイル研究所、彼は昔から荒っぽい性格であった。
自分が気に入らない、許せない奴がいると、そいつには殴りかかった。そして、彼が喜びを最も感じる時。
それは、何かを壊した時だった。自分が何かを支配して、さらに何かを壊せる。軟体防衛軍に入ったミサイル研究所にとって、
それは大きな快感だった。
「そうだ、ゼクロス。この文字の解読は恐らく、すぐに終わるだろう。その間にどらEMON達を片付けておいてくれ。
奴らは『地平線テープ』空間にいる」
「了解しました。もちろん、繋げるのはここじゃないですよね?」
「ああ、その通りだ。ここから繋げたら戦いのとばっちりを喰らうことになる。それは絶対に嫌だからな。外に出てやって来い」
「はい」
 ゼクロスはそう言うと、マシンの中から出て行く。イカたこはレリーフの古代文字を一つずつ解読していった。
その作業はとても地味だ。だが、それは気にならないであろう。どんな人にでもあると思う。
どんなに地味な作業でも、それが自分の大きな目的に繋がるのなら熱中する。

 例えば、プラモデル。一つ一つの地味なパーツだからって、それをサボる人はいないだろう。
格好いいメカにするには、それ一つでも欠けたら意味が無いからだ。それと同じだ。

「イカたこさ〜ん、解読できたらすぐに取りに行きましょうよ」
「ああ、そうだな。ゼクロスが奴らを倒したらだ」


 地平線空間。そして、ゼクロスが死んだ後。のび太は震えていた。

周りの皆からは褒められるものの、死という言葉が襲い掛かってきていた。自分が人を殺すことに関与した。それが、嫌だった。
人の命は重い。地球よりも重いという言葉さえもある。

 のび太の頭の中に、ゼクロスの断末魔の声が焼きついていた。

――『このゼクロスが! 後の世に名を残す、ゼクロスがぁぁ!』
 ゼクロスは言っていた。自分は未来に名を残す者だと。確かに、そうだったんじゃないであろうか。
自分がやらなければ、ゼクロスには別の人生があったのではないか。そんな気持ちが、のび太の心を取り巻いていた。

 だが、時間は進む。どんな事が起こっても、秘密道具を使ってでさえも時間に支配されるものなのだ。
「とりあえずだ、今から逃げる」
「ど、何処に? ママに会える?」
 スネ夫。スネ夫の精神は、限界に達していた。戦い。戦い。
スネ夫の耳には、今までどらEMON達が戦った相手の声が焼きついていた。怖い。怖い。怖い。死にたくない。そんな気持ちだった。
「あそこのテープは、駅前に繋がっている。だが、家族の所に行こうとすると、家族に危害が及んでしまう可能性がある」

「じゃあ、どうすれば……」
 静香。その質問に対し、どらEMONは冷静に答える。
「ここに『タイムベルト』がある。二つしかないが、『フエルミラー』で増やせるだろう。あそこから出て、未来へと行く」
「行けるんですか?」
 のび太。
「そこは可能性に賭けるしかない。タイムパトロール本部に行けば、恐らく大丈夫だ」
 その作戦は、結局実行することになった。駅前は、未来の本部前になるらしい。
特別パスポートが無いと入れないが、どらEMONは持っている。行く。それしか判断は無かった。
 ゼクロスが入ってきたテープはまだあったが、そこから入ろうというのは危険すぎて却下されている。

 そして、一行は外に出て、『タイムベルト』のダイヤルを静かに動かす。未来へ、未来へ、逃げる。全てを、守る為に。
 未来へ――


「ゼクロスが、死んでる」
 それは、ミサイル研究所による報告だった。すでに、一行が出た後。ミサイル研究所が確認の為に地平線空間に入ったのだ。
 そこにあったのは、ゼクロスの焼死体と、ロボットの残骸。まだ少しだけ煙が出ていたが。ゼクロスは絶命している。
『それは、本当なのか?』
 ミサイル研究所は通信機で話していた。その相手はもちろんイカたこだ。
「ああ、完全に死んでいる。DNAデータを調べても、本人だ」
『そうか……』
 その後、沈黙が続いた。そして、少し経った後、泣き声がミサイル研究所に届く。その泣き声は、すずらんのものだった。
そして、イカたこからも一粒、涙が零れていた。
「泣いているのか?」
『いいや、泣いてないさ。悲しんではいるけどね』
 泣いてるな―― ミサイル研究所は思う。ミサイル研究所から、涙は出なかった。
ただ、あった感情は『何故、負けたんだ』という言葉だけだ。
 勝たなければ、ただの敗者だ。敗者。それ以上でもそれ以下でもない。どんなに素晴らしい戦いをしても、負けだ。ただの敗者だ。

『ゼクロスの死は、受け入れよう。レリーフの解読ができた。今から、ヨーロッパに向かう』
「ヨーロッパァ?」

『ああ、スペインあたりかな』
「スペインねぇ、了解」
 解読はすでにできていた。そして、イカたこのいる机の端に置かれているレリーフが光る。
 そこに書かれている文字は『Do not pass this to that man. (これをあの男に渡すな)』

 これを、あの男に渡すな。これを、あの男に――

 これがあの男に渡ってしまったのだ。あの男に、渡ってしまったのだ……


石版 一時閉幕 第二幕「これがあの男に渡ってしまった」

 

幕間 つまらない講釈

 さあ、これで第二幕は終了となります。

先ほどの幕間と同じように、お手洗いはあちらから、何か食べたりしたい場合はあちらからです。
第三幕が始まるまで、ごゆっくりお過ごし下さい。時間はたっぷりあります。

 次の幕のストーリーも推理するのもよし、飯を食べながら友達と話すのもよし、少しだけ仮眠をとるのも良いです。
ご自由に、ご自由にお過ごし下さい。そして、その選択肢の一つとして、私が少し話させていただきます。

つまらない話ですが、聞かないのなら聞かなくて結構です。自由ですからね。

 それではつまらない講釈を始めさせていただきます。第二幕の時点で、ドラえもん達は未来へと旅立とうとしています。
イカたこ達は何か、罠を仕掛けているのでしょうか? 

仕掛けていなかったとしても、タイムパトロール本部はどのような対応をとれるのでしょうか?

 そしてです。イカたこ達です。ドラえもん達はゼクロスを倒しました。
ですが、イカたこ達にとってのダメージは精神的なものを別とするとほとんど無いはずです。

そして、イカたこ達はあのレリーフを解読したのです。ヨーロッパに、石版がある筈なのです。

この物語、最後はどうなるのでしょうか?

 

 おっと、「お前は知ってるじゃないか!」ですって? 違うんです。この物語の結末は、誰にも分かりません。
厳密にいえば、私も登場人物の一人です。物語の結末は登場人物は知ってはいけないのです。

ですから、私も知りません。ただ、皆様を案内するだけなのです。私が知っているのは、次の幕の展開を、少しだけです。
 それでは、話を変えさせていただきます。皆様、ここにある何本かの線が見えるでしょうか? これは、物語の伏線です。

伏線というのは、ある描写に説得力を持たせる為、前もって張っておく線です。

 この伏線を回収していくことで、物語が成立していくのです。そしてです。見えるでしょうか? 
この線の中で最も太い線です。これは、この石版という物語の中で、最も重要な伏線なのです。

 これから始まる第三幕では、この伏線を回収していきます。皆様、様々な予想を張り巡らせていると思います。

あれがああだったとか、色々なことを考えているでしょう。
 ですが、まともに展開を予想できる人はいないと思います。一つだけ言っておきましょうか? 

その伏線回収の鍵になる人物は、すでに第一幕に登場しています。
 混乱しているでしょうか? 大丈夫です。恐らく、しっかりと回収する事だと思います。

 それでは、第三幕が開幕するまで後一分ぐらいです。一秒たりとも、お見逃しのないように――


第三幕「受け継がれるべき意志」

 


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