石版

文矢さん 作

 

第一幕 まるで操られるかのように

その七

 のび太の目は、悲しかった。当たってほしくなかった予想。友達になれると思っていたのだ。
今までの冒険のパートナーの様に。一緒に、邪悪と、戦えると。そう、のび太は、信じていた。
「もう少し、騙せると思っていたんだけどなぁ。ま、時間もそろそろだし。丁度いいか」

 冷静。あくまで、冷静。慌てる様子も無かった。そう、決闘で必ず勝利した武蔵。彼も、あくまで冷静だったのであろうか。

 タイムパトロールのメンバーが身構えようとした瞬間。イカたこは、走り出した。手には、何か秘密道具を握っていた。
どらEMONが日本刀を抜くよりも早く、大島が銃を取り出すのよりも早く。
 じおすに、その手の中の秘密道具を押し当てた。じおすはイカたこを睨む。対応できなかった自分をじおすはうらんだ。

体中から力が抜けていくのを感じていた。そして、じおすの体は緑色に光りだす――
「何を……やった?」
 じおすは首を絞められたかの様に苦しそうな声でイカたこに睨みながら問う。イカたこの体は、今も子供の体だ。
どらEMONと同じように『タイムふろしき』を使ったのだろう。だが、雰囲気は違う。
威圧感のある、恐怖を醸し出すことのできる大人だ。大人の、雰囲気だ。

「じおす。君は賢かった。だから僕は君をタイムパトロールに追わせた。あのレリーフの古代文字、君はある程度解いただろう?
 それが嫌だ。計画が実行できない」
「だから何をやったんだ!」

 じおすは叫んだ。その時の形相は、鬼の様に見えた。
「君を、別空間へと飛ばすのさ」
「何っ……」
 じおすの下半身は、すでに消えていた。顔に似合わない筋肉質のあの足が、すでに消えていた。
別空間へと行ったということなのだろう。段々、段々、消えていくのだろう。
 じおすには、恐怖心など無かった。痛くも何にも無いのだ。感覚が、無いのだ。恐怖よりも、別の事がこみ上げてくる。
即死にさせてくれた方がマシだな、とじおすは思った。色々と、考えてしまうからだ。
 その時、イカたこを誰かが突き飛ばした。のび太だ。そのスピードと、必死のパワーか、イカたこは対応できず、
『タイムマシン』の床に叩きつけられる。そこをかかさず、ドラえもんとジャイアンがイカたこを挟み込む形で囲む。

「どうやったらじおすさんを助けられるんだ? イカたこ、言え! 言え!」
 ジャイアンはイカたこに掴みかかり、そう叫んだ。イカたこのあの道具は、
すでにイカたこの『四次元ポケット』に入っているみたいだった。ドラえもんは『空気砲』を構えていた。

 その時、イカたこはジャイアンの腕を掴んでいた。そして、それを潰すように掴んだ。
ジャイアンはそのあまりの痛さに悲鳴をあげる。ドラえもんが『空気砲』を打ち込むも、あまりダメージは与えられなかった。

「この道具はね、解除はできない。以上だ。分かったか?」
 そう言うとイカたこは立ち上がり、ジャイアンとドラえもんを蹴り飛ばした。
「じおすさん! じおすさん! ごめん、ごめん、僕がイカたこ君にあんな事を言ったせいで! ごめん!」

 泣きながら、のび太は言っていた。自分が言わなかったらイカたこがあんな風に言うのももっと後だったかもしれない。
じおすが助かったかもしれない。そんな、涙だった。

 じおすはのび太を優しい目で見る。じおすは、この別空間へと飛ぶということに対し、驚きは感じていなかった。
あのレリーフを手にしていて、研究していく内に感じていたのだ。いつか、自分がこの世界から消えるんじゃないか、と。
このレリーフは、とんでもない物なのではないか、と。そう、感じていたのだ。

 だが、後悔があった。この子供達を、自分の博物館へと案内したかった。そんな、後悔だった。
もっと、もっと、のび太とか、ドラえもんとかを案内して、歴史のロマンや、色々なことを味あわせたい。もっと、もっと、もっと――
「ごめんな、のび太君。これが僕の

 じおすの体は、すでに首しか残っていなかった。そして、その首も緑色の光に包まれている。
もうすぐ、消えてしまう。消えてしまう。この空間から、じおすが、消えてしまう。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。のび太の頭の中には、ある事が過ぎっていた。


 猫。のび太は、捨て猫を空き地で見かけた。拾おうか、でも、駄目だ。家では飼えない。ママがいるから。
のび太はそう思っていた。
 だが、子猫は泣いていた。「助けてくれ」と言っているようだった。のび太は猫をなでた。そして、抱きしめようとした。
だが、一瞬、動きが止まった。駄目だ、という気持ちが出たのだろう。
そして、その一瞬で、猫は入っていた段ボール箱の中から出て、道路へと走り出した。
 そして、トラック。


 抱きしめていれば、消えない。そんな、気持ちだった。だが、のび太の手は虚しく空を切った。
そして、最後にじおすの言葉が響く。

「運命なんだ」
 じおすは、消えた。空間から、この世から。消えた。戻ることは無い。どんな道具を使っても、戻らない。
「あああああああああ!」
 のび太は叫んだ。泣きながら、泣きながら、叫んだ。また、抱きしめることができなかった。また、助けられなかった。
叫んだ。後悔。後悔。後悔。

 どらEMONが日本刀でイカたこを斬ろうと走り出した。だが、イカたこはすでに付けていた通り抜けフープへと背面飛びをした。
すでに電波を出して、時空間から二十一世紀の実空間へと『タイムマシン』を移動させていたのだ。
そして、その通り抜けフープの先には、とんでもない世界が広がっていた。

 裏山の中に、軍隊があった。さっき襲ってきたゼクロスと同じような軍隊が。イカたこは叫ぶ。
「さあ行け! 軟体防衛軍!」

 

其の八

「で、ミサイルさん、どのくらいやればいいんです?」
 場所は裏山。タイムパトロールのタイムマシンから少し頂上側に離れた場所にあるマシン。
その中で、少女は隣にいる男に聞いた。隣にいる男、年齢は二十歳前半ぐらいであろうか。
そして少女の方は恐らく、高校一年生ぐらいであろう。二人共、通信用のイヤホンを耳にはめている。
その二人の周りには、巨大なモニター、そしてヘルメットをかぶっているゼクロスの姿があった。
 少女の名前はすずらん。そして、男の名はミサイル研究所。
二人は、モニターに映っているタイムパトロールのタイムマシンの様子を観察していた。
 軟体防衛軍側のロボットがミサイルをタイムマシンに発射しているが、あまり傷を付けられてない。何故か。
それは大きな威力のあるものは轟音や火薬で爆発するので、強い攻撃ができないからだ。
タイムパトロール側は軽く応戦しているだけで、ほとんど戦っていない。

「このままじゃ意味が無いな。イカたこさんも脱出したことだし、完全に潰さなければならん! 
完全に、グチャグチャに。グチャグチャにだ。すずらん、攻撃はもうやめろ」

「え〜、何でですかぁ? 圧倒的じゃないですか」
「このゼクロスが出場しますか? それとも、ミサイルさんがやります? 
このゼクロスとしては、開戦の戦闘で地味だったと言い伝えられるのは嫌ですがね」

「俺がやる」
 威圧感。ミサイル研究所は、手に何か石のような物を握っていた。その感じ、まるで幕末の日本にとっての黒船の様な威圧感。
「分かりました。皆さん、戻って下さい」
 すずらんが無線でタイムマシンの周りの人達に伝えると、軟体防衛軍の者は退いていく。
「グチャグチャにしてやるよ。跡形も無くな」
 ミサイル研究所は顔を笑わせながら攻撃を始めた――


 タイムパトロールのタイムマシン側。中は、騒然としていた。のび太はまだ、じおすが消えた悲しみから覚めていなかった。
ジャイアンは「クソックソッ!」と悔しがりながら床を叩き、スネ夫は端でただ、震えていた。

「とりあえずだ、時空間へと戻すぞ!」
 大島。マシンの操縦席にいる田中はスイッチを押し、操作を始めた。
モニターから見える周りの風景が時計だらけの不思議な空間に変わっていく。
ある程度まで防衛軍側も攻撃してきたが、攻撃はすぐに止んだ。

 だが、『違った』時空間へとマシンを戻すことができた。逃げれるところまで来ていた。
だが、『違った』ドラえもんは、『何かが』起こるという自分の予感が最も知らせたかったのはゼクロスが襲ってから
今までの状況の危険性を知らせたかったんだと確信した。

「田中、すぐに戻せ!」
「了解しています!」
 ロケット。巨大なロケットの様なものが時空間でマシンへと攻撃してきていたのだ。
ロケットはゆっくりと動き、だが確実にマシンを襲ってくる。そしてその動きはとんでもない威力を持っているとすぐに判断できた。
 そして裏山の光景へと移る。田中は安心したかの様にゆったりと操縦席の椅子へともたれかかった。
「田中! 何かが来るぞ!」
 松村が叫んだ瞬間、マシンの外装を何かが貫いた。そして、操縦席の操縦桿の部分に直撃する。
「何だああ!」
 強力な火器は使用できない筈―― 大島のその先入観だった。彼らは、タイムパトロール隊員の予想の上の上をいっていた。さらに二発、マシンを貫いた。
今度は、穴が空いただけで特に傷つかなかった。穴の大きさから考えるに、あまり大きなものではない。
「怖いよ、ママ、助けて。助けて!」
 スネ夫は泣きながらそう叫んだ。のび太は泣くのを止め、半べそをかきながらドラえもんへとすがるように近づいた。
タイムパトロール隊員達は落ち着いた対応をとれ、と自分に話しかけた。
「大島警部! 奴らは火器を使用しています! すぐに周りの者が気づいて来るのに!」

 どらEMONは大島へとそう叫んで呼びかけた。だが、大島は「やられた」という顔をしているだけで、
どらEMONの言葉に頷かなかった。
 何故なら、火器じゃないからだ。敵が使っているのは火器ではない。別のものだ。そう、気づいていたからであった。
その時、大島の右腕にその『何かが』直撃した。大島はその場に倒れた。
「大島さん!」

「大丈夫だ、義手だ! 君達はあまり動くな! そして伏せろ!」
 近寄ろうとしたドラえもん達に大島はそう言った。大島の右腕は確かに、金属光沢をはなっている。
そして、その義手にはその『何かが』突き刺さっていた。

 そして左の傷だらけの手で、その『何か』を軽くとった。それは、ロケットの様な形をしていた。
金属でできていて、四枚の羽がつき、先はとんがっている。大きさは直径五センチぐらいのものであった。
「ペットボトルロケットを知っているか? それと同じものだ。中の気圧を高めて発射している。
これなら火器も使わず、あまり大きい音も出ない」
 ペットボトルロケット。文字通り、ペットボトルで作られているもので、中に水を入れ、
空気入れなどで気圧を高めて発射するものだ。大島が言った通り、それと一緒だった。
ただ、金属でできていて、その威力がケタ違いなだけで。
 そして、そのロケットが又、操縦桿の辺りに突き刺さった。変な火花が飛び散り、タイムマシンがなぜか動き始める。
そして、周りの色が変わっていく…… 
 時空間へと、移動し始めたのだ。あの、ロケットの待っている時空間へと。

そして、その間も容赦せず、ロケットはやってきて、松村の腹を貫通した。

 まずい―― 誰もがそう思った。そして、冷や汗。死ぬという恐怖。このままじゃ、結局死んでしまう。
『どこでもドア』を出す時間など残っているのであろうか。いや、出せたとしてもすぐにロケットで貫かれ、壊れてしまうだろう。
マシンの中の者が伏せているからこそ、最小限の犠牲で済んでいるのだ。

 死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。そんな空気の中、大島は叫んだ。
「ドラえもん君達! そこのドアから逃げろ! 今なら間に合う」
 大島はドアを指差した。まだ、その辺りは大して攻撃を受けていなかった。五人は、ゆっくりと動き出した。
ゆっくり、ゆっくり、体勢を低くして。
「ねえ、EMONさん達はどうなるの?」

 のび太が声を震わせながらそう言った。また、消えてしまうんじゃないか。そんな予感がしたのだ。じおすの様に。又、又。

「我々は君達の後から脱出する。早く行くんだ!」
 ドラえもん、のび太、静香、ジャイアン、スネ夫の順で転げ落ちるように脱出した。
ロケットの攻撃は正確で、タイムマシンにしか当たっていなかった。タイムマシンはもう、半分消えかかっていき、
ボロボロの片面しか見えなかった。
 中。すでに、時間が無いとどらEMONは思った。モニターの三分の二はすでに時空間の映像となっている。
後三十秒もしたら全て時空間の中に入り、ロケットに当たり、爆発するであろう。一人しか、脱出できないであろう。自分が一番ドアに近い。
だが、どらEMONは逃げたくなかった。自分よりも、仲間に逃げてもらいたかった。

 何故、大島の右腕が義手なのか。どらEMONはその理由を知っていた。そして、その理由が今の自分と重なっていることを。
だから、思った。尊敬する大島と、同じようになりたいと。そんな気持ちもあったのかもしれない。

「皆、脱出してくれ!」
 タイムパトロールの他の隊員達も分かっていた。一人しか脱出できないと。小出が叫ぶ。
「お前が出ろ!」
 どらEMONがその言葉を聞いて首を振ろうとしたその瞬間、大島がすでに握っていた拳銃でどらEMONの肩を撃った。
どらEMONの体は吹っ飛び、ドアの向こうへと弾き飛ばされる。
 隊員達は、それを笑顔で見ていた。これでもか、と言いたげな笑顔。やるべき事は全てやったという様な悟ったかの様な笑顔。

「大島さ……ん!?」
 大声でどらEMONは叫んだ。何で、何で、何で。
 消えていくタイムマシンから大島の声が聞こえてくる。大きな、いつもどらEMONをサポートしてくれたあの声が。
聞こえる。未熟な時から、聞こえてきたあの声が。聞こえる。
「永戸! 最後の命令だ! ドラえもん君達を守れ!」

「絶対にだ!」
 松村、小出、田中。そして、タイムマシンは消えた。時空間へと。あのロケットが待っている、時空間へと。
消えた。消えた。消えた。

 沈黙。場を静寂が包み込む――
 事実を知ったタイムパトロールはほとんど消え去った。そして、レリーフはイカたこの手に入った。
得た物はドラえもん達には無かった。失った。何もかも、失った……



 まるで操られるかの様に、ドラえもん達は様々な人々に出会い、そしてその人々さえも失った。まるで、操られるかの様に――




 石版 一時閉幕 第一幕「まるで操られるかの様に」

 

幕間 つまらない講釈

 さあ、第一幕は一時閉幕です。皆様、休憩時間です。
お手洗いへはあそこの出口から、お飲み物などを飲んで休憩したい方はあちらの方にショップがあります。
皆様、一旦、肩の力を抜いて休んで下さい。
 大丈夫です。休むぐらいの時間は十分にありますよ。次の幕が始まるまではですかね。
そして、始まるまでは又、この私のつまらない講釈でもお聞き下さい。おっと、わざわざお聞きいただかなくても結構です。
自由ですから。この時間は自由です。

 例えるのなら、私の話はあれです。テレビアニメのあらすじの部分。聞かなくたって前の回から見ている人は分かる。
そう、そんな感じなのです。だから力を入れて聞かなくても結構です。
 皆様、第一幕はどうでしたか? 面白かったと思っていただけたら本望です。つまらないと言ったあなた。そこのあなたですよ。
あなた。責める気持ちなんて全くありません。我々が悪いんですからね。どんな展開があなたの好みでしょうか? 
軽く言って下さい。軽く。
 何々? バトル的な展開ですって? 成るほど。第一幕の戦いはほとんどありませんでしたからね。
すいません、退屈だったでしょう。心の底から謝らせていただきます。

 ですが、それならそのお客様にとって大好きな展開が待っている筈です。そうです。第二幕はそんな展開。バトルの展開です。
 秘密道具を使えば何でもあり? 確かにです。『あらかじめ日記』だとという道具があります。
これは、これに書いた事は全て本当に起こってしまうという反則の道具です。他にも、反則レベルの道具はたくさんあります。
 だから、つまらなくなってしまうと思うでしょう。

 でもですね、考えてみて下さい。我らがドラえもん一行だけが道具を使えるわけじゃありません。
敵方も秘密道具を使えるのです。ですから、相手も『あらかじめ日記』を使うかもしれない。それならどうなるのでしょう? 
これは私の予想ですが、両方が使ったらそれは相殺される筈です。多分ですがね。

 そしてです。敵方のイカたこ達には何があるでしょう? そうです、脅威のレリーフです。とんでもない力を持つレリーフです。
 ドラえもん方はほとんどのものを失いました。じおすは消え、レリーフは消え、タイムパトロールのメンバーもどらEMONを
残しては消えてしまいました。どうなるのでしょうか?

 後五分ぐらいで第二幕が開幕します。皆様、席にお着きください。それではお静かに。もうすぐ始まります。
 ゾクゾクしていますか? ワクワクしていますか? ドキドキしていますか? そう思っていただければ光栄です。
 それでは、第二幕が開幕します。同じことを言いますが、一秒たりとも、お見逃しの無いように――



石版 第二幕「これがあの男に渡ってしまった」

 


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