Nの悲劇2(リータンズ)
〜人生とは、無限の百苦タイマー〜

 

第10話 【早くも最終話】3人のN 1人のM【ごめん、アンチとみせかけてファンだったわ】

前回までのあらすじ

 遂に道明寺と接見した4人(のび太除く)! 果たして、バトル展開の果てに、読者はついてこられるのか?
そして、こじつけ気味の暗号に期待!

 

夜11時。 別のグループのドラえもん・静香・ジャイアン・出木杉は、既に『道明寺』と対峙していた。

 

 この時、4人のうち二人は、道明寺と初対面だった。そして、残りの二人は一度、道明寺を見たことがあった。

当初、ドラえもんの言っていた『みんなが「えっ、この人が!?」と思う』人――というのは、あながち間違いではなかった。

 

出木杉は、するすると赤い封筒と、手紙、それに暗号を取り出した。

ジャイ「誰だ、こいつ?知り合いか?」

 静香は、ジャイアンに『黙れ』の合図を送った。

出木杉「道明寺君……。 もちろん、それが君の名前なわけない。 それは、ある少女漫画に出てくる男の子の名前だからね」

 道明寺は、『学生服』のすそを、小指でいじりだした。

出木杉「君は、こんな回りくどい形を取ってまで、自分の存在を示したかった。

     『暗号』という形を使って、ね――」

 ドラえもんは、じっと道明寺の顔を見つめる。 正直、ドラえもんも出木杉がつい1時間前ほどに暗号を解くまでは、信じられなかった。
道明寺の正体。 それは、さっきまでの『22世紀の関係者かもしれない』という、予想を打ち破るものだった。

 

出木杉「これは、君がのび太君に送ってきたものだ。 僕は、まずこの漢字だらけの暗号を調べた。

ヒント無しで分かったら凄い

 ここにある全ての漢字に共通しているのは、『な行』で読める漢字ってこと。

そして、鍵になるのがこの封筒と、暗号。

 よく見ると、上のほうに妙な余白があるんだ。 下には、余白はないのに――

 僕は、疑ったものは最後まで調べ尽くす主義でね。
そこを何度もこすると――すぐに分かったよ。 そこには、僕にとってはもう『答え』が書いてあったんだからね。

 

 

約分 英語 結合

野比のび太へ

 私達は、N4という集団である。 命名の由来は、君の友達にでも聞いてくれ。

私達は、君に苦しみを与えたい死神です。君は、苦しまなければいけない。

 しかし、急にそんなことを言われても驚くのは当然のことだと思う。

だから、我々はその苦しみを君に与えるべきかどうか、テストしてみたいと思う。

 9月3日のお昼から、9月4日になるまで、君は我々の用意する苦しみに耐えなければいけない。

もし、君がそれに参加しない場合、君は『百苦のスイッチ』を入れることになる。

 前回のように、寝過ごすなんて間抜けなことは抜きに、真面目に苦しんで欲しい。

その苦しみは、『百苦』よりは及ばない。

 君のすべきこと

一、同封されている暗号を解き、この手紙を書いている私の正体を暴いて欲しい。

二、暗号のヒントは、私の同士が持っているので、私の同士も見つけて欲しい。

三、六時を過ぎた時点で、我々は本格的に君を追い込む。
   なるべく、お昼の間に我々を見つけて欲しい。

  もし六時を過ぎた場合、君は大切な人を守りながら行動する方が賢明かもしれない。

健闘を祈る  道明寺 

 

 書いてある約分は、『同じ数を消す』という意味。 そして、『英語』というのは、英語に注目しろっていうサイン。

この手紙に英語は、『N』という文字しかない。

 そこで、僕はすぐに英語が書いてある『封筒』に目をつけた。

センス無し

 封筒の英語は、『From N4』。 4も英語に直すと、『From N four』になる。 そのスペルをよく見ると、同じ文字がある。

それを『約分』するように、同じ文字を消すと――

 残るのは、『Num』という英語だけ。 Numってのは数字のNumberの略称だから、次は数字を探す。

手紙にも数字があるけど、あまり関係なさそうだから、僕はまだ使っていない漢字だらけの暗号を見た。

 僕は、数字で読めるものを探した。 ここにあるのは、最初がナ行で始まるものばかり。

だから、すぐに分かった。 数字に関係あるのは、『に』と読めるものだと。

 それで、最初に『に』と読めるものに線を引くと――

うり

 漢字の『虹』が出てくる。

 でも、これ以上文字を出すには、あまり共通点が無いような気がした。

そこで、君の手下のヒントを参考にした。

 

 「持つことが出来るが、消えることもある 追うことができるが、離れることもある」

 これは、すぐに答えがわかった。 答えは『夢』だ。

 

 t=L=

 

 そして、最後のヒントは分からなかったけど、静香ちゃんのヒントですぐに分かったよ」

 

そういうと、出木杉は静香を見た。 静香は、得意そうな顔をした。

出木杉「これは、ギャル文字のようなものなんだ。 よくよく見ると、それが平仮名のように見えてくる。

 拡大すると、よく分かる。

 t=L=

 これは、『たに』と書いてあるんだ。

 ここまで分かったとき、ドラえもん君が『君』を思い出したのさ」

 

 昔、のび太君が、女の子だと思って文通していた相手。そして、その後ちょっとのび太君が嫉妬して――

ドラえもんは、ゆっくりと言った。

 

ドラ「もう、充分だよ。 『虹』『たに』『夢』――子さん。 道明寺は、君だったんだね」

 

 その瞬間、学生服の少年が大きく動いた。 四人は、すぐに身構えた。

ドラ「無駄な抵抗はやめるんだ! もう、僕達の仲間がノンちゃんの居所を突き止めてる。
   君の手下の部屋を探ったら、一杯情報が出てきたよ。 もちろん、君のこともね。

 

虹谷ユメ子[本名不詳](以下虹谷)「そうだよ、僕さ! いやー、長かったなあ、君たち、遅いよ。
                      こんな簡単な暗号解くのに、何分かかってるのさ?

ま、しょうがないか。 虹って一文字分かっても、他の三人を倒さないといけないしなあ。

 でも、ドラえもんありがとう。 僕のこと、『虹』『たに』『夢』ってだけで思い出してくれて。

 うん、そうなんだ。 みんな、僕の仕業なんだ。ありがとう、みんな。 みんな、ありがとう。

 そして――さよなら」

 

 虹谷は、自分のこめかみに銃を当てる。 ドラえもんは、すぐに分かった。
それが、ショックガンだということを。

 ドラえもんが動くよりも先に、鉄パイプが後方から飛んできた。 そして、それが虹谷の腋のあたりにあたった。

虹谷「ぶふぅ!」

 ドラえもんは、すかさず虹谷にタックルした。

虹谷の手からショックガンが離れるのを見ると、静香はすぐにそれを拾い上げ、出木杉に渡した。

 

ドラえもんは、虹谷に覆い被さった。

ドラ「何でだよ? 何で、君みたいな純朴そうな少年が……」

虹谷「純朴、僕が? 買い被らないでくれよ……。 僕はねえ、時たま何かをぶち壊したくなるような衝動にかられるんだ」

ドラ「!?」

虹谷は、すかさずドラえもんを跳ね飛ばそうとしたが――ムチャだった。

どれだけ腰を使っても、持ち上がりそうにない。

虹谷「なんて重さだ……」

 強風にスカートをあおられないように注意しながら、静香は言う。

静香「当たり前よ。 ドラちゃんは、129キロあるもの」

虹谷「な……何?」

 虹谷は、ギリリと唇をかんだ。当然、血がにじんだ。 そんな虹谷に、ドラえもんはきく。

ドラ「どうして、君は僕らをこんな目にあわせるんだ? 」

虹谷「決まってるだろ! 野比のび太。 こいつ以外に、理由があるかい?」

出木杉「……?

 

 その日は、よく晴れていた。 こんな夏の日には、思わず外で駆け出したくなる。

そう思って、俺は靴を履きなおし、グラウンドに出た。

 そこには、いつものように同じ野球部の仲間が居た。 少なくとも、この時までは俺はこいつらを仲間だと思っていた。

突然、その一人が妙なことを言った。

「おい、○○。 お前、女のふりしてたんだろ」

 この時、俺の背中に電流が走ったようだった。 なぜ、そんな昔の事を、こいつらが知っているのか、と。

まさか、あの手紙は、誰にも見せずに閉まってるはず――

 どうしてだ?

「おい、冗談やめろよ。 なんで、俺がそんなことするんだよ。 第一、意味分かんねぇって」

 そんな俺に、もう一人の部員が言った。 笑いながら。

「いーや、さっきな、小学生が来てたんだよ。 そいつが、面白いこと言ってたんだよ。
 お前が、女のフリして、手紙書いたことがあるって」

「おいおい、なんでそんなガキの言う事信じるんだよ? 第一、そいつこそ変だろ」

「でもよー、これお前の住所だろ?」

 そういうと、そいつは『手紙』を突きだした。

この時、俺の頭の中は真っ白になった。

そこには、しっかりと書かれていた。

俺の住所の上に、書いてある『虹谷ユメ子』という文字を。

「誰だよ虹谷って? お前の名字、○○だろ?」

「お前、ガキから虹谷って呼ばれてんの? すげーな」

そう、このくらい平気だ。

このくらい、軽く流せば――

そう、『俺は、そんな手紙書いてない』。

そして、1ヶ月後。

俺は、屋上に女の子を呼び出した。 同じクラスの女の子。

「未来ちゃん、来てくれてありがとう」

 俺の声に、未来ちゃんは少しビクついたようだった。 後ろの夕焼けが、心なしか曇っているような感じがした。

未来ちゃんは、なぜか答えない。 だが、この時ボルテージがかなり上がっていた俺は、自分を止められなかった。

 そして、彼女の異変にも気づかなかった。

いよいよ雲は増え始めた。 もう、夕焼けは見えない。長い時間が流れたような気がした。

「未来ちゃん、俺と……」

「私、女の子と付き合えないの。 ごめんね」

 未来ちゃんが走って帰った後、俺はフェンスごしに何度も頭をぶつけた。何度も、何度も――

なんで、そんなこと、未来ちゃんは気にしてるんだろう?
 俺は書いてない――? いや、俺は書いた。 確かに、女の子のフリをして。

でも、それは――

 その時、俺の心に、全ての事態の引き金を引いた、小学生の顔がぼんやりと浮かんだ。

確か、同じようなことをやっていた、小学生。

 名前は『野比のび子』。 いや、本名は野比のび太。

その時、誰かが俺に声をかけた。

『心の隙間、お埋めします――』

 

虹谷の話を聞いて、ドラえもんは思わず叫んだ。

ドラ「ちょっと待って! そのセリフ、激しくどっかで聞いたことあるんだけど(汗」

虹谷「……僕は、そいつに不思議な道具を借りて、君たちを追い詰めた。

   ……まさか、その中に静香ちゃん、君が居るとは思わなかったけどね」

 

ドラえもんは、黙ったまま虹谷の上から降りた。

ジャイ「じゃあ、そろそろいいよな? ぶん殴っても」

虹谷「ああ? いいよ、好きなだけ殴れ。 それで、君の気が済むならね」

 そう言って、虹谷はにやりと笑った。 その直後、虹谷の顔は激痛の顔に変わった。

当然だった。 剛田武が、既に虹谷の腹にけりを入れていたのだから。

ジャイ「オラオラ、眠るのはまだ早いぞ!(怒)」

出木杉「武君、落ち着きなよ! まだ、この人の話は終わってない!」

静香「そうよ、こんなことしても無意味よ」

 ドラえもんは、後ろからジャイアンに突撃した。

ジャイ「痛ッ! 何しやがんだドラえもん! お前、寝返ったのか?」

ドラ「違うよ、こうでもしないと君を止められないでしょ?(汗」

 出木杉英才は、そっと倒れている虹谷に手を差し伸べた。

出木杉「どうして君の復讐だけに、三人も協力したんだい?」

虹谷「ああ。 俺らはな、みんな組まされてるんだよ。 だから、仲間なんて思ってる奴なんて、多分誰も居ないと思うぜ
    俺はのび太を恨み、猫はドラえもんを恨み……まあ、他の二人は知らないがな」

出木杉「……組まされてる? 誰にだい?」

静香「ちょっと待ってよ。 虹谷さん、本当にのび太さんがあなたの手紙を、他人に見せびらかしたっていうの?
    いくらのび太さんがバカでも、さすがにそこまでしないと思うけど」

虹谷「ああ。 俺も、思ったさ。 ……夏休みの最後の日の、君たちの会話を聞くまではね」

静香「君達? 君たちって――」

 虹谷は、再びギリッと唇をかんだ。

虹谷「君達は、聞かれていないつもりだったかもしれないけど――僕は、しっかり聞いてたんだよ! この耳で!」

 そういうと、虹谷は一人二役の芝居を始めた。 静香以外の全員が、それに釘付けになった。

虹谷「『そういえばさー、あいつ気持ち悪かったよ。 ほら、前に居たじゃない。』

    『うーん……? 何? 分からないわ、のび太さん』

    『あいつだよ。 ほら、「虹谷なんとか」って奴』

    『あー、あの人ね。 でも、野球やってるって言ってたわよ』

    『そんな完璧に見える人ほど、変な趣味持ってるんだよ。 ルソーみたいにね』

    『そーお? ルソーみたいに?』

    『そーそー。 だから僕、思わずやっちゃったことがあるんだよね』

    『何何? まさか、虹谷さんの手紙見せびらかしちゃったとか?』

    『ピンポーン! 頭いいなあ、静香ちゃん』

    『うん、でも。 よくよく考えたら、気持ち悪いものね』」

 

ドラえもんと出木杉が静香の方を向く前に、静香はすぐに虹谷のむなぐらをつかんだ。

静香「ちょっと待ってよ!(怒) そんなこと、私がやったって言うの? 私はその日、家で勉強してたわよ!
    証拠は? ねえ、証拠は?」

虹谷「あー、あー、なんだよ、金田一の容疑者みたいなこと言っちゃってさ★」

ドラ「そんな……!」

 ドラえもんは、混乱していた。 果たして、どっちの言ってる事が本当なんだ?
当然、静香ちゃんがそんなこと言うはずが無い。 そうだ。 のび太君は――?

 

出木杉「虹谷さん。 君の証言には、嘘が含まれてるんだ。 だって、のび太君が『ルソー』なんて言葉を知っているわけないんだから」

 そういうと、出木杉は静香ちゃんから受け取ったショックガンを虹谷に向けた。

出木杉「これ以上、僕の友だちを侮辱をしたら、許さない」

 静香は純粋に嬉しかった。 自分を信じれくれた、出木杉のことを。 ドラえもんはその様子を見て、笑んだ。

ドラ「虹谷さん。 作り話はよくないよ――それよりも、教えてくれない? N4を組ませた人のこと」

虹谷「やだね。 言ったら、俺消されるし」

 ドラえもんはこの時、どこかで見たような感じを覚えた。デジャヴ、という奴か――?

 

ジャイアンは、あっと息を飲んだ。 目にもとまらぬ速さだった。 しかし、ジャイアンにははっきりと見えていた。
 このメンバーの中で一番、獣のカンという奴が優れていたからだろうか。

CDみたいなものが、海のほうから飛んできた。 そして、それはすぐに消えた。
 ただし、虹谷の頭の上を通過して。

 

その瞬間、虹谷は全身の力が抜けたように倒れた。 静香は、急いで脈を確かめる。 死んではいなかった。

静香「ドラちゃん、いますぐお医者さんカバンを――」

ドラ「無理だよ! もう、薬ないよ」

ジャイ「俺、なんか見えたぞ」

 そういうと、ジャイアンは海の方を指さした。

ジャイ「CDみたいのが飛んできて、また海に飛んでったんだ」

静香「武さん、何言ってるの?(汗」

 その時出木杉は、嫌な感じに襲われた。 そして、急に心臓の動悸が早まった。

出木杉「……ねえ、静香ちゃん。 原作の『道明寺』って、まさか記憶喪失……とかになったことないよね?」

 静香も、出木杉と同じ感じを悟ったようだった。

ドラ「そうなの?静香ちゃん」

静香「……ええ。 30巻台で、牧野つくしをかばって海に落ちて――」

ドラ「海に落ちる?」

 ドラえもんは動かない虹谷を見た。 虹谷は、眠りながら笑っていた。

やりたい事を全てやり終わった後、遊びつかれて眠ってしまった子供のような顔で。

 

 

 

 別の埠頭。 そして、そこで炎上するコンテナ。 そしてその火は、傍のコンテナにまで燃え移ろうとしていた。

その中で、3つの影が動いていた。

 

そして大きい方の男が、にやりと笑った。

大男「怒ったからなんだ……? 怒ったら、お前はサイヤ人にでもなれるのか?」

のび「魔貫光殺砲!」

大男「……なつかしーな、それ。 俺、昔読んだわ」

 そういうと、男は手に持っている『スタンガン』を、バチバチと鳴らした。

のび太は、その器物の名称は知らなくても『なんかビリビリする奴』と覚えていた。
 ちらりと、傍のノンちゃんを見た。

のび「ふっふっふ……。 甘いぞ、ナナレンジャーレッド。 僕はね、アレだよ。 こう見えても、イオナズンが撃てるんだよ」

大男「じゃあ、早く撃てよ。 こっちは、待ってやってるんだぜ?」

 そういうと、またスタンガンをバチチと鳴らす。

のび「悪いね。 今日は、MPが0みたいだ」

大男「そうか。 なら、もういいよな」

 そういうと、大男はスタンガンを――のび太の胸に直接当てようとした時。

 

タダシ「のび太、海に飛び込め!」

大男「!?」

 刹那、大男の頭部に衝撃が走った。 ぐらっと、揺れる。

のび太はノンちゃんを背負うと、無我夢中で海に飛び込んだが――後に気づいた。

 自分が、泳げないという事実を。

このままでは、自分はタイタニックの『ジャック』みたいに、海のモズクになることうけあいだな、と思った。

 とりあえず、ノンちゃんだけは――

ノンちゃんを、僕の体から離そう。 しかし、なかなかノンちゃんはのび太の体から離れない。

ちょっ……ノンちゃん!?

 凄い執念だよ、ノンちゃん。 というか、絶対起きてるでしょ?

ごぼっと、ノンちゃんの荒れた唇から、泡が吹き出た。

 

 埠頭では、大男がタダシを追い詰めていた。 しかし、大男が持っているのは、さっきのスタンガンではなかった。

大男「勝負だ。 お前は、逃げないよな?」

タダシ「まーまー、落ち着けよ(汗  な? のび太にはスタンガンで、俺には『鉄骨』っておかしいよな?
    差別だよな? 何、お前ゲイ? ショタ?」

大男「黙れ」

 そう言うと、大男は鉄骨を投げた。 タダシは死力を尽くして、身を動かした。

だが、すぐに分かった。 これは、避けきれない。 すぐに、走馬灯が浮かぶ。

思えば、俺の人生あまりよくなかったな。

 いい子にしてりゃあ、鬱憤たまるし。 たまったら、友達の悪口をいいふらしたし。
あ、釣り針をつかって女の子のスカートをめくったりもしたな。

死に装束は、キャッツアイだし。

 

 みーつめる、キャッツアイ。 みーつめる、キャッツアイ。

まあ、『可憐Girl's』の歌よりはいいか――

 

トラ「テレポーテーション!」

 タダシは、急に自分の体が宙に浮かぶような気がした。 しかし、それは気のせいではなかった。

自分の背中に、何かがくっついている――

 

 クレーン車のクレーンが、タダシの体を持ち上げていた。 その瞬間、タダシの居た場所に、鉄骨が落ちた。

『グォゴン!』

 大男は目を見張った。 誰だ? 誰がこんな所で、クレーン車を動かしているんだ?

 

ごごごご……

 クレーン車が、少しずつ大男に近づく。

大男「ふっ、『なつかしフラッシュ』の次は、『はたらくくるま』か?」

そういうと、大男はまた鉄骨を掴もうとして――やめた。

 というか、つかめなかった。

 

後ろに、誰かが居る。 恐らく、隙ができた所に何かをするつもりか。

大男「俺の後ろに立つな」

そういって、大男はスタンガンを――

 誰も居なかった。 大男は、急いで鉄骨の方を見た。 誰も居なかった。

そして、正面を見て――目の前に、鉄球がぶら下がっていた。

 どこか遠い昔、どこかで見たような感じだった。例えるなら――あさま山荘に叩き込まれた、鉄球?

 

その鉄球が、大男の体を打った。 うっ、と呻き声。

 そのまま、大男は海へダイブした。 ももひきのポケットから、ひらっと紙が落ちた。

『赤札を受け取る前に、のび太と一緒に教室に残った女の子の足』と、書いてあった。

 

 クレーンから、がり勉が降りてきた。

タダシ&がり勉「任務完了!」

 

 その頃、炎の中ではトラえもんの生命が完了しようとしていたのに、二人は気づかなかった……。

 

 

九月四日。

 ドラえもんは、ドラ焼きをくわえたまま喋った。

ドラ「ほがごあ」

のび「ごめん、ドラえもん。 何言ってるのかぜんぜんわからない」

 そういうと、のび太はナップザックを肩にかけると、部屋を出た。

ドラえもんは口からドラ焼きを出すと、ふうとため息をついた。

ドラ「ったく。 人の気も知らないで……」

 タイムテレビをとりだす。 もう一度、九月三日の映像を見る。

座標は練馬区、そしてこの近所――

 空地で、のび太君と静香ちゃんが話している。

 

 

のび『そういえばさー、あいつ気持ち悪かったよ。 ほら、前に居たじゃない。』

静香『うーん……? 何? 分からないわ、のび太さん』

のび『あいつだよ。 ほら、「虹谷なんとか」って奴』

静香『あー、あの人ね。 でも、野球やってるって言ってたわよ』

のび『そんな完璧に見える人ほど、変な趣味持ってるんだよ。 ルソーみたいにね』

静香『そーお? ルソーみたいに?』

のび『そーそー。 だから僕、思わずやっちゃったことがあるんだよね』

静香『何何? まさか、虹谷さんの手紙見せびらかしちゃったとか?』

のび『ピンポーン! 頭いいなあ、静香ちゃん』

静香『うん、でも。 よくよく考えたら、気持ち悪いものね』

 

 ドラえもんは、少しずつ巻き戻す。 少しずつ、少しずつ。

そして、見た。

 剛田雑貨店の路地。 そこに、人影が見える。

魂を抜かれたように突っ立っている、学生服の男。 多分、あれは虹谷?

しかし、それを抜く更なる衝撃が、ドラえもんを襲う。

 ひょこひょこと動きだした虹谷。 どう見ても、酔っ払いの千鳥足にしか見えない。 あるいは、飲酒した学生か。

 その行く先を、ドラえもんは固唾を飲んで見守った。

ピタリ、と虹谷が空地の前で止まった。 そして、首をくくっと動かす。

 のび太と静香は、さっきと同じことを喋っている。 虹谷が見ていることには、気づきもせずに。

 

間違いない。 これは、どう見てもひみつ道具の仕業だ。 でも、誰が?

虹谷は、ひょこひょこと戻った。 ドラえもんはすかさず、虹谷の動きを追おうとして――やめた。

 のび太と静香ちゃんが、動き出した。

確か、静香ちゃんは『家で勉強してた』って言ってたよな。

 映像をはや送る。

間もなく、静香ちゃんが自分の家に入った。 それから、階段を上り――自分の部屋へ。

 ドラえもんは、目を目を見張った。

 

静香ちゃんの部屋に居たのは――

 

『Need not to know……』

 

 後ろから、英語が聞こえた。 ドラえもんが振り返ろうとして――遅かった。

ドラえもんの頭上には、既にCDのようなものが浮かんでいた。 いや、大きさはレコードくらいか。

 それがクルクルと回り、すぅっと消えた。

 

ドラ「あれ……僕、何してたんだっけ? 」

 タイムテレビでは、静香が算数の復習をしているところだった。

 

 

 のび太は家から出ると、すぐに隣の家の門の前に立っているノンちゃんを見つけた。

ノンちゃんは、悲しそうに隣の家を見つめていた。

のび「ノンちゃん、あのさ」

 ふっと、ノンちゃんは微笑んだ。

ノン「うん。 私の家、壊しちゃったんでしょ? 知ってるよ」

のび「うん、分かるならいいんだ」

 のび太は、ナップザックから粽(ちまき)を出した。 それを、ノンちゃんに手渡した。

のび「ま、これでも食べて元気だしてよ」

ノン「季節はずれね」

 そういうと、ノンちゃんは葉っぱを剥きはじめた。

のび「あ、出木杉」

出木杉「のび太君、900円。 早くしてよね」

のび「……(汗」

 ノンちゃんは、そんな出木杉を制した。

ノン「本当に、貴方ってKYね。 で、出木杉さん報告に来たんでしょ?」

 出木杉は、こくりと頷いた。

のび「ええ? たまにはさあ、真面目な話は抜いてさあ」

出木杉「まあ、静香ちゃんに言われて僕もここに来てるんだけどね(汗

     まず、N4のその後。 動く人形は、拾い主が見つかった。人形を動かしていたコンピュータは、完全に破壊。
     ……恐るべしだね、武君(泣

     で、ネコジャラは逃亡。 足取りがつかめない。 大男は、児童福祉条例違反及び諸罪で逮捕。

     虹谷さんの本名は、○○○○。 けど、虹谷さんは自分が『道明寺』だったという記憶がなくなってるみたい。
     でも、虹谷さんが女のフリして手紙書いて、それを周囲の人に知られたって所までは覚えてるみたいで……。

     今、学校には行ってないらしい」

 そこまで聞いて、ノンちゃんがあくびをしているのに出木杉は気づいた。

ノン「ふぅあ……。 あ、ごめん聞いてるわ」

出木杉「そうですか(怒)」

のび「ナイスノンちゃん(笑)」

 出木杉は、ギロッとのび太を睨む。

出木杉「で、後はタダシ君とがり勉君が警察から厳重注意及び、要保護監察。 トラえもん君は、仲間に裏切られたとかで、さすらいの旅へ」

のび「ふうん、そうなんだ」

出木杉「興味なさそうですね」

 のび太も、ふぅぁっとあくびをついた。

のび「ま、百苦なんてたいしたことなかったね。 良かった良かった」

 その三人の中で、本当に心の底から笑っているのは、のび太ぐらいなものだった。

他の二人は、何かまだ心に秘めていることがあった。

 

 

 ドラえもんが記憶を消された頃、22世紀では――

高いマンションの一室で、その二人は粽(ちまき)を食べていた。

「セワシさん、粽(ちまき)って、元々中国の食べ物なんですって。 テレビでやってた」

「そうなの、ドラミちゃん? まあ、どうでもいいけど」

 そういうと、少年はひょいっと粽(ちまき)を放り、口に入れた。

「あ、そういえば」

 そう言いながら、セワシはテーブルの引き出しから、書類のようなものを取り出した。

「ドラえもんのポケットが、開くようになったみたいだよ」

「良かった! お兄ちゃん、全然定期検診に来ないんだから。 今度、しっかりお説教を――」

『Need not to know……』

 

 刹那、22世紀の防弾ガラスに、ヒビが入った。

「誰?」

 ドラミは、落ち着いて粽(ちまき)を剥いている。

「ドラミちゃん、新手だよ」

「そう? お名前は?」

 

どこからともなく、英語が聞こえた。

 

『I'm "M"』

 

 セワシは、心配そうにドラミを見つめた。 それに構わず、ドラミはくるりと声のする方へ話し掛けた。

 

「あなたね、お兄ちゃんのポケットに細工したの? 後、のび太さんと静香さんの記憶改竄も。

 それどころか、『N4』を組織したのも貴方。 『メモリーディスク』を使って、いろいろ小細工したのね。
後、牧野役を『ノンちゃん』にしたのも貴方。 そのノンちゃんに、のび太さん宛の手紙と同じ内容のものを送ったのはミス?
 その方が、のび太さんを釣り易いとふんだの?

 道明寺がリーダー? とんでもない、その裏には道明寺司の母親が居ましたってこと? 

 それにさっき――」

 粽(ちまき)の葉っぱを完全に剥き終わった。

「お兄ちゃんのも――消したのね?」

 

 カタッと、テーブルの引出しが動いた。 セワシは、急いでその引出しを開けた。

 

「隠れてないで、出ておいでよ」

 ドラミも穏やかに言った。
 その粽(ちまき)の葉っぱの中身は、かつてドラえもんとのび太が百年後に遅らせたはずだった、百苦タイマーだった。

 

「80点。歓迎するわ、ギリギリ合格よ」

 

キャスト

ドラえもん

野比のび太

源静香

出木杉英才

剛田武

骨川スネ夫

 

出木杉の母

がり勉

トラえもん

タダシ

 

みよ子

先生

生徒A

生徒B

ママ(野比玉子)

主人

女の子

 

虹谷ユメ子
(ノンちゃんくらい本名不詳)

大男

ネコジャラ

奈々ちゃん

 

ノンちゃん(赤い靴の女の子)

 

ドラミ

セワシ

 

 

 

 のび太とノンちゃんが粽(ちまき)を食べてる頃、スネ夫はあくびをした。

結局、不審者は来なかった。 いたずらだったのか。 クソッ、人騒がせな野郎が居たもんだ!

 ああ、帰って寝よう。 翼ちゃんとも話せなかったし――

 

 その頃、伊藤翼のアパートの郵便受けには、オレンジ色の封筒が入っていた。

消印は、9月3日。

 『T.O.N』のお知らせと、表に書いてあった。

 

 

 


 

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