Nの悲劇2(リータンズ)
〜人生とは、無限の百苦タイマー〜

 

第6話 都市伝説NANA……

前回までのあらすじ

 ドラえもん対ネコジャラ、勝負の行方は!?

そして、援軍の正体『絶対愚鈍チルドレン』は、役に立つのか?

 

 

ここは、東京都内のある住宅街。その中の一つの、ごく平凡な家。

 そこには、平凡だけれど幸せな家族が住んでいた。 どのくらい幸せかというと、携帯の機種変更した時くらいの幸せである。

その家族の主人は、多少気弱だけれども、家族を愛する気持ちは誰よりも負けない人。

その家の妻は、主人を支えるどころか、主人よりも家族(というか家計)を支えていた。

その家族の一人娘は、とんだ家弁慶で、家と外では態度が違うという、ちょっと困った性格を持っていた。

 その女の子の一番のお気に入りの人形は、『奈々ちゃん』。
とにかくその女の子にとって奈々ちゃんは、家族同然の存在だった。
食事時も風呂に入る時も寝る時も、とにかく一緒だった。

 

 その奈々ちゃんが、まさか改造人形だということは、その持ち主である女の子さえも知らなかった。

実は、その奈々ちゃんという名前はその女の子がつけた名前ではない。
奈々ちゃんという読み方は実は正しくなく、本来は『NANA』ちゃんなのである。

そのあまりにも平凡な女の子を模したその人形は、その家の主人が出張先で、露天商から買ったものだった。

 その人形のおしりの部分に、小さく書いてあったのだ。

『NANA』と。

 

女の子「パパー、奈々ちゃんが居ないの」

 その女の子は、夕食時にそう言って、パパである主人に泣きついた。

主人「知らないよ、僕は。 どっか、外にでも忘れてきたんじゃないの?」

女の子「違うもん、奈々ちゃんはいつも私と一緒だもん」

主人「そんなこと言ったって、昨日、君は一人で寝てたじゃないか」

 そう言いながら、主人はYシャツを脱いだ。

女の子「違うもん、奈々ちゃんは昨日、私と一緒に寝たよ」

主人「そんなこと言ったって、君は一人だったよ。 なあ?」

 同意を求められた妻らしき女性は、『あなたで解決しなさいよ』的な視線を向けた。

妻「覚えてないわ。 私、昨日は遅くまで起きてたから眠いの。 どっかの誰かさんと違って、遅くまで起きてたから」

 そういうと、ジロッと主人を睨みつけた。 主人は申し訳無さそうな顔をすると、改めて妻に言った。

主人「……ごめんよ。 僕が昨日謝ってれば」

妻「いいのよ。 連絡しなかった私も悪かったし」

主人「うん。 ……許してくれる?」

妻「しょうがないわね。 当分、お小遣い無しだから」

主人「そ、そんなぁ」

 両親の和解シーンを見ながら、女の子はふぅとため息をついた。

そんな娘に聞こえないように、妻はそっと主人に耳打ちした。

妻「それがね、私も正直見てないの。 昨日、夜の2時くらいに、あの子の部屋覗いたのよ。
  そしたらね」

主人「そしたら?」

妻「……一人で寝てたのよね」

主人「そうなの? まあ、いつも一緒だもんな。 奈々ちゃんだって、一緒に居たくない時だってあるさ」

妻「それがね、今日の朝、玄関に落ちてたのよ。 奈々ちゃんが」

 主人は、えっと言うような顔をした。

女の子「奈々ちゃん、家出しちゃったのよ! パパのせいだからね」

主人「えっ!? 僕のせい?」

 しかし、奈々ちゃんが居ないのは当然のことだった。

奈々ちゃんは今、仕事をしている最中だったのだから。

 

 

 所変わって、数時間前。 出木杉の家。

そこでは、頭のねじが外れたとしか思えない、不気味な三人組が必死で弁解していた。

 

がり勉(以下がり)「お願いします、通報しないで下さい、お願いします」

 その少年は、水色を基調とした、私立の小学校の制服のような服を着ていた。

そして、他の二人も全く同じような感じだった。

タダシ「ちょっと待てよ! そんなことしたら、私怒っちゃうから!」

トラえもん(以下トラ)「せやせや! 穏便にすまそう、な? ほら、うち地元からお土産もろてきてん」

 そういうと、高級そうな和菓子の箱を取り出した。

トラ「ほら、これや! どや?たこ焼きやと思ったやろ? でもなー、ウチ実は大阪と見せかけて京都やねん、地元。

   せやから、八つ橋しか持ってこれなかったわ」

 

 源静香はそれを受け取ると、言った。

源静香(以下静香)「貴方達の、何を信じればいいの? というか、貴方達誰? 何しにきたの?」

出木杉の母「静香ちゃん、この子達、知り合いなの?」

静香「違います。 私の記憶には、こんな知り合い居ませんよ」

 

タダシ「そんな冷たいこと言わないで、静香ちゃん。 ウチ、セクハラ担当だから気をつけてね!」

静香「いや、そんなののび太さんで充分だから、これ以上そのキャラは必要ないわ」

タダシ「いーや、あんな言葉の暴力はセクハラに入らないよ! 僕が、真のセクハラを……」

トラ「アホ、役になりきれゆーとるやろ! 何が『僕』やねん(汗 お前は今、チルドレンの一人なんやで?」

がり「まあ、落ち着いてよみんな。 とりあえず、私達の力を見せたほうが早いと思うわ」

静香「(女装していい人と悪い人が居るのね)」

 

 突然、がり勉は出木杉に近寄った。 当然、出木杉の母はわが息子をかばう。

出木杉の母「待って! これ以上ふざけるような真似したら、本当に警察呼ぶわよ!?」

がり「大丈夫です、私はサイコメトラーですから。 出木杉君の具体的な症状を見ます!」

 そういうと、出木杉の血が流れ出ている傷の部分に手を触れた。

出木杉英才(以下出木杉)「が、がり勉君!? 君は一体何を……!?」

静香「やめなさい、壊疽! 」

がり「壊疽!?(泣 大丈夫です、私はEIJIよりも上手くやりますから」

 静香は突然、思いっきりがり勉のほおを叩いた。

ぱちっ!

がり勉はその独特の表情(憎しみに満ちた目をしながら、口では薄ら笑いを浮かべている)を保ちながら、ゆっくりと倒れた。

 

静香「出木杉さんの傷は、思ったよりそんなに深くないわ。 さすがね、フィクションの力」

 

トラ「が、がり勉!? しっかりしいや、今、タダシが起こしたるから」

タダシ「え、ここで念能力を使うの? 」

トラ「大丈夫や! もしもの時は、わいのテレポートで逃げれる!」

タダシ「それじゃあ、行くぞ! サイッキックゥゥゥ……」」

 

静香「(早く帰って欲しいわ)」

出木杉の母「英才、大丈夫?」

出木杉「大丈夫です。 もう、一人で起きれます……」

静香「出木杉さん、本当に大丈夫なの?」

出木杉「いや、本当は大丈夫じゃないさ……。 でも、なんだか嫌な予感がするんだ」

 乱雑に散らかったキッチン。 皿はほとんど割れ、全て買い換えなければいけないほどの有様。

静香も、何かただならぬ悪寒を感じた。これは、ただ具合が悪いせいなのか、それとも――

 出木杉はゆっくりと立ち上がると、まだ興奮状態のチルドレンに言った。

 

出木杉「君達、ドラえもん君に言われて来たんだよね?」

トラ「そうやでー」

タダシ「そうだよ、文句あっか!?」

 出木杉は、凄いけんまくのタダシに若干引いた。

がり「やっと、分かったのね? 私達がここに来た理由が」

タダシ「え? 何が?」

出木杉「あれ? 打ち合わせはしっかりしてないみたいだね?(汗」

トラ「ちゃうわアホ! アホアホドアホ! タダシはこう見えて、成績19位(クラス32人中)やで!?」

出木杉「(いや、自慢できるかなその順位)」

 静香は、何か分かったような出木杉を見て、少し安心した。出木杉の母も、安心した様子だった。

 

問題は、ドラちゃん達ね。 正直、何がどうなってるのか分からないけど、気になるわ。
捕まったはずのネコジャラ。 きっと、また面倒なことに首を突っ込んでる。

 ドラちゃん、昔のよしみで協力してあげてもいいわよ? どうせ今日、私休みだから宿題ないし。

のび太さんは別だけど。

 

出木杉「とにかく、話を聞こうじゃないか。 君たちが来た目的について」

静香「(本当は、なんでそんな格好しているかについて聞きたいけど)」

トラ「あれはな、ウチらがまだオカンの袋に居る頃やった……」

出木杉「そこまで遡らなくていいです(汗」

がり「葵に任せたら、キリが無いから私が話すわね。

   私達の結成秘話は、長いからはぶくわね。 やると、金曜ロードショー並みの長さになるから」

静香「そこまで行くの?(てか、葵って何?)」

がり「ズバリ、私達は未来が予知できるある人から聞いて、貴方達を助けに来たのよ」

静香「(女言葉に慣れた私が怖いわ) その未来が予知できるってのは、ドラちゃんのこと?」

タダシ「そーだよ、悪いか」

出木杉「いや、別に悪くないですが(汗 つまり、ドラえもん君は全て分かってたんだね? 
     今日、僕の家が襲われることも、ノンちゃんっていう女の子が来る事も」

静香「ノンちゃん?」

タダシ「おう? なんやヤキモチか? 熱いなーホンマ、湘南の夏より暑い暑い」

静香「そんなんじゃないけど(怒) 未来は、『航時法』って法律があって変えられない決まりなのよ。

    ドラちゃんはネコジャラと戦うことも知ってただろうから、私達の援護を要請したのね」

出木杉「よし、それじゃあ僕達はドラえもん君を助けに行こう! お礼も言わなくちゃいけないし」

トラ「それは名案や! 少なくとも、ここに居るよりは安全やな」

静香「それも、未来の予知?」

がり「あっ! 私としたことが、重大なことを言うのを忘れてたわ!」

 がり勉は、大げさにポーズを作りながら言った。

がり「後5分で……。 『メリーさん』が来る!」

静香「メリーさん?」

 静香は、思いっきり怪訝な顔をした。

トラ「アホかお前、メリーさんつったら、アレしかないやろ!」

タダシ「ああ、羊ね」

トラ「アホか! 童謡じゃないわ!」

静香「というか、貴方だけにはアホ呼ばわりされたくないんだけど(怒)」

トラ「あれやろ、ドラクエ8に出てきた賢者の子孫の一人」

タダシ「いや、それ『メディばあさん』でしょ!?」

静香「あーびっくりした。 羊をめぐる冒険とか言うかと思ったわ」

出木杉「ちょっと待って、僕の母さんがいないんだけど……!?」

 そういわれて、キッチンに居た一同は辺りを見渡した。

 

トラ「おらへんわ! どないしょがり勉、どないしょ」

がり「私は今、紫穂です! とにかく、お母さんを探しましょう」

静香「まさか、もうさらわれちゃったのかしら」

タダシ「なるほど、この皿の割れた状況とかけたのか、上手いわ!」

静香「……」

がり「……」

タダシ「え?」

 

 その時だった。 キッチンに、あっさりと出木杉のお母さんは戻ってきた。

出木杉「母さん、どこ行ってたの!?」

出木杉の母「電話が鳴ってたから、行ったのよ。 そしたら」

静香「そうなんですか、全然気づきませんでした。 誰かさん達のせいで」

トラ「なんや、それウチらのこと言うてんか!?」

 出木杉の母は、おそるおそる言った。

出木杉の母「『私メリーさん。 今、貴方のお家の前に居るの』って……(汗」

出木杉の母以外「な、なんだって―――!?」

 

『ガチャン!』

 

 玄関の方で、チルドレンが来た時と全く同じ音がした。 同時に、静香は急いでチルドレンにけしかけた。

静香「早く見てきなさいよ、貴方達、私達を守りに来たんでしょ?」

トラ「ちゃうわ! こんなの、聞いてないで」

がり「いや、『家に居ちゃいけない』ってのは聞いてたわ(汗」

タダシ「第一、ウチらをナメんなよ! だって、ウチらは『絶対に愚鈍』だよ!?
     ウチらに期待するほうがどうかしてるって(笑)」

静香「じゃあ、何で来たのよ!?(泣 私、オバケみたいな話苦手なのよ」

がり「少なくとも、オバケじゃないってことは確かよ」

 

出木杉はチルドレンと静香をよそに、小声で指示を出した。

出木杉「とにかく、みんなそこのドアからそっと外に出て! 多分、またさっきの化け物と同じ類かもしれない。
     僕が様子を見ておくから、急いで」

出木杉の母「分かったわ。 みんな、急いで! ……って、早ッ!」

 

出木杉に言われるまでもなく、チルドレンと静香は外に出て、出木杉と出木杉の母に、早く来るように促していた。

 出木杉も頷き、静香に目配せをした。 静香は頷きながら、出木杉の母に音を立てないように来るように、そっと手招き。

 

『ぷるるるる』

 

今度は、はっきりと電話の音が聞こえた。 ごくっと、出木杉は息を飲む。 ぷるる、ぷるる、と電話の音は続く。

 出木杉は、電話を取るには『玄関』の前を通らなければいけないことを知っていた。

 

タダシ「出なくていいの?(小声で)」

トラ「アホか! 電話出たら、『今、あなたの後ろにいるの』パターンやぞ、絶対(さっきより大きい小声)」

静香「出木杉さん、どうするの?」

 出木杉は、静香に『GO』サインを出した。

え? どういうこと? まさか、出木杉さん残るつもりじゃ……

 

出木杉英才は近くにあった包丁を持つと、すっとキッチンを出た。

 その後ろ姿は、レオナルド・ディカプリオに似た力士よりかっこよかったと言う。

 

静香「で、出木杉さん!」

出木杉の母「英才!(汗」

タダシ「あっぱれ出木杉! 私はあなたのことを忘れません!」

トラ「さあ、早く源主任指示を出してください!」

静香「誰よ、源主任って!? ……って?」

 少し恐慌状態に陥っていた静香の目に、はっきりと映った。 がり勉の後ろに、子供のマネキンくらいの大きさの、少女を。

いや、実はその少女は人形だったのだが、そんなこと静香にはどうでも良かった。

 問題は、その人形が自分達に危害を加えようとしている事実。

そして、静香以外の人間もすぐに『それ』が居るのに気がついた。

トラ「がり勉、うしろうしろ!」

がり「何よ、私の今の名前は紫穂――」

 その会話を遮るように、はっきりとその人形は口を動かした。

 

奈々ちゃん『私メリー。 今、あなたたちの後ろにいるの』

 

『キャ―――!!』

 

 その悲鳴に驚いて、出木杉の家の屋根にとまっていたカラスは、かあかあと鳴きながら飛びたった。

 

 

 ここは、河原。 大きな立っているネコが、非常にゆっくりと腕を振っていた。

青い猫型ロボットドラえもんは、その様子を満足げに見ていた。

ドラえもん(以下ドラ)「僕の勝ちだ! どーだ、ネコジャラ。君は、もう一度人生をやり直すんだ。
             もちろん、もう一度タイムパトロールに戻ってからだけどね」

 突然、鋭い痛みがドラえもんを襲った。 さっきまでの鈍いのと違い、とても我慢できないような感じだった。

ドラ「くっ……。 ここまでが限界か」

ネコジャラは、のろのろと口を動かす。

ネコジャラ(以下ネコ)「ド〜〜〜〜〜ラ〜〜〜〜〜え〜〜〜〜〜も〜〜〜〜〜ん。
              ざ〜〜〜〜ま〜〜〜あ〜〜見〜〜〜〜ろ〜。

              お〜〜〜れ〜〜〜〜に〜〜〜〜〜〜、こ〜〜〜んな〜〜〜〜〜も〜〜〜〜〜の〜〜〜〜〜
              あ〜〜〜〜て〜〜〜〜〜る〜〜〜か〜〜〜〜ら〜〜〜〜〜〜、

              お〜〜〜〜ま〜〜〜〜〜え〜〜〜〜は〜〜〜〜〜、
              ど〜〜〜〜〜みょ〜〜〜〜〜〜じの〜〜〜〜じょ〜〜〜〜〜ほ〜〜〜〜が〜〜〜〜、
              わ〜〜〜〜か〜〜〜〜〜ら〜〜〜〜〜な〜〜〜〜く〜〜〜〜〜〜な〜〜〜〜……」

 

ドラえもんはゆっくり喋るネコジャラにいらだちながら、ミニドラを出した。

ドラ「ミニドラ、どのくらいでおわる?」

ミニドラ「スースー、ナーナー(数十分で直せるよ)!」

ドラ「ありがとう、頼む。 ああ、やっぱりボディだけでいいよ。 この戦いが終わったら、すぐに工場行くから」

ミニドラは、首をチョコンと振るとすぐに修理を始めた。

 

 道明寺の情報って言ってたのかな? その名前を知ってるってことは、もしかしてネコジャラって……

 

『オメデトウドラエモン! マズハ、『花沢』ノ捕縛ニ成功ダナ!』

ドラ「誰だ!?」

 ドラえもんが立ち上がったので、ミニドラはすっ転んでしまった。 ドラえもんはミニドラを気遣いながら、辺りを見渡した。

人っ子一人居ない、不気味なくらい……。

 

あれ? あの浮いてるのって、どこかで見たことあるな。

 

ミニドラ「コーコー、パーパー」

ドラ「コーコー、パーパー? ……コンビパトロボール!?」

 ドラえもんはそう言うと、すぐに『つかみどりバズーカ』を取り出した。

ドラ「なんで、コンビパートボールがこんな所に?」

 今度は、はっきりと浮遊しているコンビパトボールから声が聞こえた。

『落ち着キナヨ、ドラエモン。 君ハ知ラナカッタトハイエ、私ノ部下ヲ倒シタンダ』

 ドラえもんは、すぐに言い返す。

ドラ「私の部下? ……じゃあ、ネコジャラは君たちの仲間だったんだな!
    どうして、もう一度更正しようとしたネコジャラを、変な仲間に引き入れるんだ!」

『コイツハ、君ト戦ウコトニ執着シテイタノサ。 ダカラ、チョウド君タチヲツブスノニイイト思ッテネ』

 ドラえもんは、すぐにつかみ取りバズーカの引き金を引いた。

ポンと音がして、網がコンビパトボールに向かっていく。そして、あっさりとコンビパトボールを捕まえた。

ドラ「君達って言ったね、今。 やっぱり、狙いはのび太君だけじゃなかったんだね!」

『今頃気ヅイタノカイ? 22世紀ノロボガ、聞イテ呆レルヨ』

 ミニドラはそんなやりとりの中でも、必死でドラえもんの修理を続ける。

 

ドラ「コンビパトボールから出てる電波を捕まえれば、君の居所なんかすぐに分かるんだぞ!
   ……そろそろ、君の正体を教えてくれないか?」

『イイダロウ、ヒントハクレテヤル。 ヒントハ』

ドラ「いや、いいよ。 今、ミニドラに電波の発信源特定してもらったから」

『ナ、何ダト!? ブツッ』

 

 ドラえもんは、うんともすんとも言わなくなったコンビパトボールを握り締めた。

ドラ「ミニドラ、場所は?」

ミニドラ「ゴーゴー、サーサー(五丁目の33番地)!」

ドラ「五丁目の33番地ね! 結構遠いね……よし、いざどこでもドアを」

 そう言って、ドラえもんがポケットに手を突っ込んだ。

 

その時、ピカチュウの10万ボルトを越える電流が、ドラえもんを通り抜けた。

『バリッ!』

ドラ「ぎゃひッ!? 」

 なんだ、これは――!?

 

ミニドラは、おそるおそるその辺にあった木の枝を、そっとドラえもんのポケットに突っ込んだ。

『バチィ!』

ミニドラ「ポーポー、ヒーヒー、デーデー、シーシー(ポケットを開こうとすると、電気が流れる仕掛けになってる)!」

 ドラえもんはそのミニドラのメッセージを理解すると、崩れ落ちた。

 ひみつ道具が使えないネコは、ただのネコだ。

 

ネコジャラはそんなドラえもんを見て、とてもとてもゆっくりと笑った。

 

 

キャラクターファイル5 ネコジャラ

 映画『ワンニャン時空伝』に出てます。 悪役。

 

ネタ帳5 『ゆっくり』

 前回のドラえもんが撃った、時間ナガナガ光線の効果ですが……どうなんでしょう。
これ設定間違えたような気が……。

 

 

 

第7話 出オチルドレンのトラえもん、4月1日はいい思いしたね

前回までのあらすじ

出木杉の家に、新たな恐怖が迫る!

そんな中ドラえもんは、ネコジャラとの勝負に判定ぐらいの勢いで勝ったものの、大怪我を負ってしまう。 

そして、ポケットにすら触れなくなってしまい……!?

 

 

ドラえもん、ドラえもん。

 僕を呼ぶ声。 一体、誰だろう。 まさか、のび太君?

そんなこと、ないか。 だって、ここにのび太君は居ないんだから。

 

そのときだった。

何か、生暖かいものが僕の顔に触れた。 ゆっくりと、目を開ける。
 やけに小さい。その小さいものに、何か細いものがピクピクと動いている。

 

これって、まさか。 『ね』のつくアレじゃない?

 

ドラえもんは、今日二度目の大ジャンプをした。

ドラえもん(以下ドラ)「ね、ねずみ〜〜〜!(泣」

ミニドラ「ドララ〜〜♪」

 側で心配そうに見守っていたミニドラは、すぐに喜んだ。

 

落下中、ドラえもんは下にミニドラ以外の人物が居るのに気づいた。まず、ネズミが偽者だということ。
それが、ミニドラのやった、自分を起こす最善策だったということ。

 ドラえもんは、目を疑った。 日が殆ど沈みかけている河原、その中にミニドラ以外の人物が居る事に。
そして、その人物とは――野比のび太とノンちゃん。

 二人の顔ははっきりと見えなかった。 しかしドラえもんは、はっきりとその二人だという確信があったのだ。

 

のび太とノンちゃんは、半ば申し訳無さそうな顔をしていた。 そして、まずノンちゃん。

ノンちゃん(以下ノン)「本当にごめんなさい! 私、さっきはあんまり勝手なことして……」

 のび太も、あとにつづく。

野比のび太(以下のび)「ど、ドラえもん! ノンちゃんは悪くないんだ、僕がノンちゃんを見つけた後、ゲーセンなんかに寄らなければ……。
               ドラえもんに、怪我をさせることもなかったのに……」

のび太は、チラッとノンちゃんを見た。

 

ドラえもんは腕を組みながら、何かを考えたような顔をしていた。
 少し微妙な空気が流れた。

ドラ「分かった、君たちが勝手に遊びに行ってたことは、不問に付してあげるよ」

のび「本当? やったね、ノンちゃん」

ノン「うん」

 ドラえもんはのび太に、思いっきり小石を投げつけた。

のび「痛っ! な、何するんだよドラえもん! というか、不問って何?」

ノン「のびちゃん、不問に付すっていうのはね……。 事情を考えて、詳しく問いたださないって意味よ」 

ドラ「調子にのらないの。 ってか、こんな茶番してる場合じゃないよ!

  分かったんだよ、N4の道明寺って奴の居場所が!5丁目の、33番地」

のび「ちょ、ちょっと待ってよドラえもん! いきなり話が唐突過ぎるよ! 第一、なんでドラえもん、河原でボロボロなの?」

ノン「そうよ、詳しく話して頂戴」

ドラ「ああ、こんな時に『ノーリツチャッチャカ錠』があれば……(泣」

のび「じゃあ、それ使おうよ! 」

ドラ「ダメだよ、僕がポケットを開けようとすると、電流が走るしくみになってるんだ」

のび「なんで、そんな激しく面倒くさいことになってるの?」

ドラ「あー、イチから話さなきゃいけないのか……(泣」

 

 この後約10分、のび太とノンちゃんがいない間に起こった出来事を、ドラえもんは事細かく話した。

ネコジャラに襲われたこと、出木杉が怪我を負ったこと、ネコジャラと勝負したこと。 そして、援軍のこと。

 

のび「へ〜、そんなことがあったんだね」

 そう言いながら、のび太はさっき買ったブラックサンダーを食べていた。

ノン「のびちゃん、その態度はあまりにも失礼じゃ……(汗」

 ノンちゃんの注意と同時に、ドラえもんはもう一度小石を投げた。

 

のび「酷いよドラえもん、人が珍しく真面目に話を聞いてたのに〜〜」

ドラ「どこの世界に、モノを食べながら話を聞く奴がいるんだよ」

のび「だってハマコーの答弁中、みんなずっとモノ食べてたよ」

ドラ「のび太君、君はいつの国会の話をしてるんだ(汗」

 ノンちゃんはハッとして、ビニール袋に手を突っ込んだ。 そして、お土産を取り出した。

ノン「ドラちゃん、お土産よ。 のび太さんが買ってきてくれたの」

ドラ「のび太君……(涙 余計な気を回さなくていいのに」

 ドラえもんはそのドラ焼きを眼にとめると、光の速さでノンちゃんの手からそれをひったくり、ほおばり始めた。

晩夏の夕暮れの香りがする。 それを鼻に吸い込むと、のび太は気持ちが落ち着いた。

 

のび「今日、ドラえもんの誕生日って忘れててさ。 ごめんねごめんね〜〜」

ドラえもんは、聞いていないような顔をして、黙って残りのドラ焼きをかじっていた。

だが、二人とも同じ顔をしていた。照れくさい。

ノン「さて、続きは『道明寺』を捕まえてからにしましょう、御二人さん?」

 ノンちゃんは、パンと手を叩きながら言った。

本当は、少し嫉妬していたのだ。 のび太の大切な人が自分ではなく、ドラえもんだと思ってしまったことに。

 愛は性別を越えるとか、愛は友情を越えるとかじゃない。 この二人は、どこか、私の知らないところで、強い絆で結ばれている。

そんなことを考えてからは、いても立ってもいられなくなった。

 そして、ふいに体が動き、手を鳴らす。

 

ドラえもんは、物欲しそうに見ているミニドラに、残りのドラ焼きを分け与えた。

ミニドラはそれを嬉しそうに受け取ると、一口でたいらげてしまった。

 

のび「ところでドラえもん、ネコジャラがいないんだけど。 動きを封じたんじゃなかったの?」

ドラ「え!?」

 三人は急いで辺りを見回す。薄暗い河原に何か居れば、普通はうっすらと見えるはずだ。
しかも、相手はあの大きなネコ。 しかし、そんな気配は無い。 それどころか、何もない?

 

ドラ「ど……どういうこと!?」

ノン「道明寺が助けたってことは?」

ドラ「うーん、考えられなくはないね。 僕、気絶してたから。その間に、逃げたのかも……」

のび「全く、ドラえもんはアテにならないなあ」

ドラ「誕生日にまでそんなこと言うの、やめない!?(汗」

ノン「そうよ、ドラちゃんは充分やってるわよ」

ドラ「う、うん……(ノンちゃんが、若干保育園の先生みたいな言い方してるのも気になるけど)!」

のび「冗談だよ。 じゃあ、アレだよ。 アレしかないよ」

ドラ「アレって?」

 ドラえもんは、信用の無い目でのび太を見る。 その視線を受けて、のび太は慌てて視線を逸らす。

のび「ドラえもんの、その時間ナントカ光線が効いてなかったんじゃないの?」

ドラ「何それ。 あの時、確かにネコジャラの動きは確かにゆっくりだったよ」

 ノンちゃんはそれを聞いて、一休さんのようなポーズをとった。両手を頭にくっつけ、人差し指を立てる。

のび「何、なんかいいことおもいついたのノンちゃん?」

ドラ「ノンちゃん、のび太君の悪ノリに乗ることないんだよ(汗」

ノン「違うの。 分かったわ、ネコジャラって人が居なくなった理由」

ドラ「本当!?」

 ドラえもんのリアクションと同時に、ノンちゃんはドラえもんのポケットを指さした。

のび「何? ドラえもんのおなかがどうかしたの?」

ノン「違うわ、ポケットよ。 ドラちゃんのひみつ道具は、そこから出せるのよね?」

ドラ「そうだけど……?」

ノン「つまり、ポケットが開けられなくなったんじゃなくて、ドラちゃんの『ひみつ道具自体』が使えなくなったんじゃないかしら」

ドラ「それって、つまり……。 22世紀の人間が、僕のひみつ道具に細工したってこと!?」

ノン「そうかもね。 それだったら、ネコジャラって人が逃げられた理由も、説明がつくわ」

ドラ「つまり、ネコジャラは時間ナガナガ光線の効果がなくなったから、逃げられたのか……」

のび「どうだろうか?」

ノン「え、どうしたののびちゃん? 何か意見があるの?」

のび「いや、『バクマン。』のギャグ。 どっかで使ってみたかったんだよね」

ノン「そ、そう」

ドラ「(この状況で、何でのび太君はボケ続けることができるんだろう……。 しかも、ギャグですらないし)」

 のび太はコホン、と一つ咳払いをした。

のび「でも、そんなこと分かってもしょうがないよ。 どこの誰が、そんな『ドラえもん無効化計画』を発動したのさ?」

ドラ「のび太君、そんな言い方ってないんじゃ……」

ノン「そうね。 対処法が無ければ、どうしようもないわ。 ただ、一ついえるのは……」

 そういうと、ノンちゃんはドラえもんを見た。 ドラえもんも、頷く。

 

ドラ「僕達が相手にしていた道明寺って奴は、22世紀から来た人間かもしれないってことだね!」

ノン「そういうことよ。 それじゃあ、早速道明寺さんの所へ乗り込みましょう」

 そういうと、ノンちゃんは無意識にのび太の腕を引っ張っていた。
それに気づいたのび太は、しばらく無心。 そして6秒後、すぐに慌てて腕をノンちゃんの手から振り払った。

ノン「あっ……ごめん」

 のび太は後ろを向くと、小さく呟いた。

のび「あっ、僕こそ……ごめん」

 ノンちゃんはこの時『何を?』とすぐに聞きかえそうと思った。 だが、言葉が出てこなかった。

 

ドラ「何してんの、二人とも? (汗」

のび&ノン「な、何でも!」

 ドラえもんは、少し『マズいな』と感じながら、ふと足元を見た。

ミニドラが、横になっていた。 ドラえもんは、この時分かった。 ノンちゃんの言った事は、当たっている!

 すぐに、ミニドラを見た。 動かない。 目に、力が入っていない。

 

ドラえもんは、すぐに二人にこのことを伝えようとして――止めた。

この時、ドラえもんの頭によぎったのは、『謎は全て解けた』というような高揚感ではない。

それどころか、全く違う感情。 『不信感』。

 なぜ、ノンちゃんはここまで読みきれたのか?
僕は、以前彼女と一緒にのび太君を陥れた時、ごく簡単にしかひみつ道具のことを教えていない。

 ただの女のカン、と言ってしまえばそこまでなのだが、なんだか信じられない。

そういえば、確か叔父が『未来を予知する機械』を開発したとか言ってたような――
 いや、そこから既に何か変だ。

そんな機械を発明していれば、すぐにでも特許なんて取ってるはずだ。
いや、 あくまで『予知』だから、実用化には至らなかったのか?

 

今日のノンちゃんは、なんだか(以前の、ちょっと太って、顔が大荒れ注意報を伝えている)ノンちゃんじゃないみたいだ。

 

 時折見せる、無表情。 そして、異常なまでののび太君へのアプローチ。 いや、後者は通常か。

待てよ、確かノンちゃんが今日、ここに来た理由は?

 

八月三十一日、ノンちゃんが言った。

『そうね……。 戸締りはしっかりしといた方がいいかもしれないわ』

 

九月一日、ノンちゃんが言った。

『単刀直入に言うわ、のび太さん。 私、悪い人たちに追われてるの。 だから、私をかくまって下さい、お願いします』

 

 悪い人たち? 戸締り?

ただ、これだけは言える。 ノンちゃんは、間違いなく何かを知っている。

 それを突き止めるまでは――ノンちゃんをマークするしかなさそうだ。

 

のび「ドラえもん、さっきから何黙ってるのさ? 早く行こうよ、道明寺のところへ」

 ドラえもんは、慌てて動かなくなったミニドラを草むらに放った。

ドラ「そ、そうだね。 でも、ちょっと待って。 確かめたい事があるんだ。 先に、のび太君の家に戻ろう」

ノン「どうして?」

 ノンちゃんの怪訝そうな顔を見て、ドラえもんは必死で笑顔を作った。

ドラ「実は、僕のポケット、これ一つじゃないんだ。 押入れに、予備があってさ」

 そう言って、ドラえもんはじっとノンちゃんの表情を見守った。

ノンちゃんは、相変わらず頬を赤らめている。やっぱり、さっきのは偶然だったのかな。

のび「ドラえもん、さっきから変だよ! どうしたのさ?」

 ドラえもんは、暗くなった河原がこれから起こる事を暗示しているように感じた。

ドラ「よし、のび太君。 今から僕達は別行動を取ろう!」

のび「何で?」

ドラ「いや、そのほうが何かあったときの為に、さ」

 のび太は、ドラえもんの口調にただならぬ空気を感じ取ったようだった。

のび「何かって、やっぱり……」

ドラ「うん。 どっちかが道明寺のグループに捕まった時のために」

ノン「……ドラちゃん、私いい考えがあるの。 聞いてくれる?」

 ノンちゃんは、茶髪のロングヘアを、左手でそっとかきあげた。 ドラえもんは、ごくりと唾を飲む。

ドラ「何、ノンちゃん?」

ノン「私も、誰かがドラちゃんの予備のポケットを取りに行くのは賛成よ。
   私のさっきの『仮説』が当たってるかどうか、確かめたいんでしょ? もし私の言う事が違ってたら、予備のポケットは使えるもの……。

   でも、道明寺の場所に乗り込むっていうのは、私も無謀だと思うわ」

のび「ええ? さっきは行こうって言ったじゃないか」

 ノンちゃんはこの時、無表情で言った。 まるで、魂の抜けた人形のように。

ノン「ドラちゃんが道明寺の居所を掴んだのは、ドラちゃんが気絶する前……。
   ということは、道明寺も居場所を知られたというのは分かってるはずよ。

   だとすると、いつまでもそこにとどまるギリは無いわ」

のび「言われてみれば、そうだね……。 それじゃ、道明寺はどこへ?」

ノン「そこが問題なのよ。 もしかしたら、道明寺の目的はのびちゃんを陥れる以外にも、あるのかも……」

ドラ「それは、僕がさっき言った事だよ」

 ドラえもんは、ふぅと息を吐いた。

ドラ「つまり、何が言いたいの?」

 ドラえもんは、きっとノンちゃんを睨みつけた。 それに気がついたのび太は、ドラえもんに一言。

のび「ドラえもん、なんかノンちゃんと喧嘩でもしたの?」

ドラ「いいや、何も無いよ。 それどころか、何も無いから問題なんだ」

 そういうと、ドラえもんはもう一度、ノンちゃんを見た。

 

ノン「ドラちゃん、何か私のこと誤解してない?」

ドラ「へー。 なんだろう、誤解って」

ノン「ドラちゃん、道明寺から送られてきた暗号、アレどこにしまったの?」

 ドラえもんは、ふっと微笑した。

 

ドラ「僕のポケットの中だよ」

ノン「そ、そんな……!(汗」

 ドラえもんは、勢いよくノンちゃんに歩み寄る。

ドラ「君だよ。
   君が止めなければ、出木杉君は暗号と手紙に目を通す事ができたし、暗号と手紙をポケットにしまうこともなかった」

ノン「ご、ごめんねドラちゃん、私……(泣」

 のび太は、うなだれるノンちゃんを慰める。

のび「ノンちゃんのせいじゃないよ、アレは君が出木杉を信用できないからって――」

ドラ「それが、もし『わざと』だったら?」

 この時、ノンちゃんの体が大きくビクッと動いた。

のび「の、ノンちゃん?」

ノン「……」

 ドラえもんは、顔を上げないノンちゃんに、さらに続けた。

ドラ「出木杉君が暗号を見たら、すぐにとかれてしまう。 そう思った君は、僕が出木杉君に暗号を見せるのを妨害した。
   違う?」

ノン「違うわ」

ドラ「じゃあ、のび太君が出木杉君の家からはなれるように仕向ける為、わざとイチャモンつけて、出て行ったのは?」

ノン「違うわ」

のび「ドラえもん、さっきから何言ってるんだよ? ノンちゃんは、僕達を助けるためにここまで来てくれたんだよ?」

ドラ「うん、そうだよのび太君。 君は、意図的に守られているかもしれないんだ」

のび「それって、どういう――」

 ノンちゃんは、思いっきり地面を蹴った。

ノン「待ってドラちゃん! まさか、私がN4の仲間だと疑ってるの?(泣」

ドラ「……」

 ノンちゃんは、ゆっくりと地面に体育すわりすると、そのまま泣き始めた。

のび「酷いよドラえもん! だいたい、ノンちゃんが道明寺の仲間だったら、どうして朝目荘で僕を助けたりしたのさ?」

ドラ「それも、ノンちゃんの作戦かもしれない。 自分を、僕達の仲間だと印象づけるための」

のび「そ、そんな……」

 のび太は、ノンちゃんを見た。 ノンちゃんの体が、小さく震えている。 嗚咽が、夜の道に響く。

ドラ「ノンちゃん、そろそろ正直に話してくれないか」

 

 

どこっ!

 

 妙に、いい音が聞こえた。

ドラえもんは、後ろを振り返った。 のび太が、宙に浮いていた。 いや、持ち上げられている、と言ったほうが正しい。

 目から星が出ている野比のび太をやすやすと持ち上げる人物――それは、かつてのび太が会った事のある人物だった。
上は白いタンクトップ、そして下は茶色いももひき。

しかし、ドラえもんもノンちゃんも、初対面ではなかった。 ただ、この二人が気づかなかっただけで――

 

 そして、その『大男』ははっきりと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大男『まーきの♪』

 

 ドラえもんは、一瞬この男が何といったのか分からなかった。

ノンちゃんは、ただ呆然としていたが、すぐに声を上げた。

ノン「いやぁぁ、のびちゃん、のびちゃん! 」

 ノンちゃんはそう言うと、すぐに大男めがけて突進したが――ドラえもんはすぐにその動きを止めた。

ドラ「ダメだ、行っちゃ!」

ノン「バカ、ドラちゃんのバカ! さっきから何言ってるのよ! 次の刺客が来ちゃったじゃない!」

ドラ「次の刺客? ノンちゃん、君はやっぱり――」

 ノンちゃんは、ドラえもんの腕を振り解いて言った。

 

ノン「私は、N4の仲間じゃないの。 実は、彼らにとっての『牧野つくし』だったのよ!」

ドラ「は?」

ノン「まだ分からないの? 私はN4に狙われてたのよ、理由は分からないけど――

   だから、できるだけのびちゃんを遠ざけるようにしてたのよ、指定された場所から!

   ほら、これ!」

 

 親愛なる牧野つくし様

君がこの手紙を読んでいる頃、僕はもう貴方の近くに来ています。

例えあなたがどこへ行ったって、僕は貴方の元へかけつけます。

 牧野、俺はお前の男になる!

 だから牧野、お前は俺の女になれ!

(中略、色々とN4の紹介、どこで何をするのかが書いている)

 もし、君が牧野つくしになることを拒否した場合、君の気になる男の子が、
夜空に散ります。 道明寺財閥の力を使って、散らせます。

 九月三日は、審判の日です。

ぜひ、日本の練馬区月見台にお越しください。

 来ないと、散らせます。 気になる男の子に、百苦を与えます。

 最後に、この手紙を最後まで読んでくれてありがとう。

愛してる。

 

 追伸 日本語に上手いも下手もあるか! 言葉なんだからな!

 

ドラ「ノンちゃん、どうして早くそれを言ってくれなかったの!?」

ノン「しょうがないじゃない、他の人に言ったら、『のびちゃんに百苦を与える』って書いてあったんだから!(泣」

 そうしている間に、大男は一つあくびをした。

大男「もう、終わったか?」

 そういうと、思いっきりのび太をドラえもんめがけて投げつけた。

ドラ「どぅわ!?」

大男「まーきの♪ 来てくれるよな? おまえ、道明寺のこと好きだもんなー」

 軽妙な言い方とは対照的に、その大男は無表情だった。 ゆっくりと、近づいてくる。

ドラ「ふざけるな! 後、のび太君起きて。寝てる場合じゃないよ(汗」

ノン「のびちゃん、起きて! 早く! いやーーー、おまわりさーーーん!」

 

 ピクりとも動かなかったのび太が、パチッと目を開けた。 そして、大男めがけて、飛び蹴りを――

そのすばやさには、ドラえもんもノンちゃんも、目を見張った。

 ただし、その動きはしっかりと大男に見切られていた。 のび太は、がっちりと足首を捕まえられ、宙ぶらりんの格好になった。

のび「ドラえもんんんん!(泣」

 そして大男は、またのび太をドラえもん目がけて投げた。

のび「痛ッ!」

ノン「のびちゃん、大丈夫!?」

のび「ううん、もう左手が動かない(泣」

ドラ「くっ、ひみつ道具も使えないか……! こうなったら! 」

 ドラえもんは、まるで突進する前の牛のように、足で勢いをつけた。

 

僕には、残ってるじゃないか。 最終兵器って奴が。

 ドラえもんは、すぅっと息を吸い込んだ。

 

ドラ「ノンちゃん、のび太君を連れて逃げるんだ!」

のび「ええ? ドラえもん、普通それ僕に言わない?(泣」

ドラ「つまり、二人とも無事に逃げ切れってことさ! コイツは僕に任せて、先に逃げるんだ!」

 ノンちゃんは全てを了解すると、のび太の平気なほうの右手を捕まえると、走り出した。

のび「え、もう行くの? ちょっ……」

ノン「当たり前でしょ! ドラちゃんの気持ち、無駄にするつもり!?」

 のび太は、遠ざかっていく姿をドラえもんを見た。

のび「ドラえもん、程ほどにね!」

 

ドラえもんには、のび太の声ははっきりと聞こえなかった。大男は、耳をほじる。

 

大男「もういいか?」

ドラ「いいや、全然よくないね!」

 そういうと、ドラえもんは頭を大男に向けて、突っ込んだ。

 

必殺――石頭!

 

 

 

 

その頃、出木杉の家の勝手口付近。

 そこには、その家の住人と、女の子と、奇異な格好をした三人組が居た。

そしてもう一体、大きさ1メートルほどの女の子の人形が立っていた。

 

奈々ちゃん「私メリーさん。 藤丸君、一緒に遊ぼうよ」

源静香(以下静香)「藤丸君? 誰のこと?」

出木杉の母「わからないわ……なんなの、この人形!?」

がり勉(以下がり)「大丈夫よ、お母様。 今、私のサイコ――ガッ!?」

 その人形は、すぐ近くに居たがり勉を捕まえた。

 

タダシ「が、がり勉んんん! 」

トラえもん(以下トラ)「あほ、アレは『紫穂』や! 役になりきれゆうとるやろ!」

タダシ「んなこと言ってる場合!? タダシが――」

 

 その人形は、タダシの頭をゆっくりとなでている。

奈々ちゃん「いい子いい子。 メリーのチルドレン、嬉しいなー♪」

 この時静香は、人形が動いているこの異常な状況に、違和感を感じた。

なぜ、がり勉は動かないのか? 普通、嫌がって離れるものだけど。 まさか、この人形の力って――!?

 

出木杉「大丈夫、みんな!?」

 出木杉英才が、家から出てきた。 その位置は、ちょうど人形の後ろの方。 静香は、すぐに警戒を呼びかける。

静香「出木杉さん、気をつけて! この人形、多分さっきのネコの化け物の仲間かもしれないわ!」

出木杉「なんだって!?」

トラ「驚いてる場合か、あんさん! そんなこと、誰でも分かるがな!
   後、ドラえもんチャンネル見たか? 今年のエイプリルフールは、『トラえもん仕様』やったでー、ホンマおーきに」

タダシ「葵、そんなこと言ってる場合じゃない!(泣」

静香「本当に、貴方達は『出オチルドレン』ね」

トラ「で、出オチやとぉ!? もっぺん言ってみ、姉ちゃん!」

静香「だってそうじゃない。 貴方達の正式名称だって、『絶対愚鈍チルドレン』でしょ? 
    はっきり言って、役に立ちそうもないわ。 というか、かえって邪魔よ」

 その時、そのどうでもいい会話を、出木杉の母が遮った。

出木杉の母「みんな見て! あの男の子が――!」

タダシ「いや、アレは女の子です」

静香「はいはい、って――」

 

 がり勉。 確かに、そこに居るのはがり勉だった(少し、奇異な格好をしている)。

しかし、明らかに様子が違っていた。 前髪が異様に伸び、その姿はまるで日本人形のようだった。

そして、両手を前につきだし、まるで『前ならえ』のようなポーズをとっている。

 

がり勉「薫、葵、そしてみんな……。 みんな、メリーママのチルドレンになろう♪

     そしたら、怖いことなんかなくなるはずだから……」

 

そういうと、がり勉は長い前髪をかきあげた。

 

キャァァァ……!

 

 住宅街に、大きな悲鳴が響いた。

ところで、近隣の住民はそろそろ不審がってもいい頃では……?

 

 

 

キャラクターファイル6 大男

 『ドラえもん』45巻に登場した男。 部屋が汚い。 後、小学生相手にマジになる。

 

ネタ帳6 『日本語に上手いも下手もあるか! 言葉なんだからな!』

 セリフが合ってるかどうかは不明。 漫画『花より男子』に、一貫して出てくるセリフ。

 

 

この話は続きます。

 


 

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