真夜中の埠頭。 緑色のコンテナが、きれいに並べられている。 そのコンテナのそばで、3つの影が動いていた。

「の……ノンちゃん!」

「私のことはいいから……! のびちゃんは、早くみんなを……」

「やめてよ! お願いだから、僕の前で死ぬのだけは止めてよ!」

「のびちゃん、私、あなたにずっと言えなかったことがあったの」

「え?」

「私、本当は……」

 赤みがかかった茶色い髪の女の子は、ぐったりと手を下ろした。

 

「ノンちゃん? しっかりしてよノンちゃん! 僕だよ、僕がいるんだよ!?

 一緒に、ルームマラソンするって言ったじゃないか! 僕のコンタクトレンズを選んでくれるって言ったじゃないか!」

 めがねをかけた少年のめがねのそばから、滴が流れ始めた。

 

「そのガキは、後で俺が頂くとする。 まずは、お前からだ」

 頭を丸めた男の左手に、物騒な物が握られていた。

 その男の声に呼応するように、その少年は叫んだ。

 

「ふっざけるなァァァ! ……許さない、僕は絶対に許さないッ……! おい、ナナレンジャーレッド!

 僕は、もう怒ったぞォォォォ!」

 

 

 残暑が残る八月下旬――一人の少年の、夢が消えた。

彼の手には、手紙が握られていた。 クシャクシャになったその手紙には――

 

 

Nの悲劇2(リータンズ)
〜人生とは、無限の百苦タイマー〜

 

 

 

第0話 182度の接触〜愚者ほど強い自尊心〜

 

「ホンワカパッパ、ホンワカパッパ、ドラえもん〜〜♪ っと」

 いつものように、帰宅する青い猫型ロボット。 ドラえもん。 その手には、茶色い袋があった。

その中には、ドラ焼きが入っている。その匂いが、ドラえもんの赤い鼻を心地よく刺激する。

 しかし、その足取りは重い。 ドラ焼きが三つしか買えなかったのもその原因の一部ではあるものの、一番の理由はやはりこの暑さ。

 

今日は、八月三十一日。 全国の学生(二学期制の学校除く)達があえぎ苦しむ、Xデー。

ドラえもんにとっても、その日は酷い一日になる予感がしていた。

 今日は、居候している家の子どもの宿題の手伝いをさせられる。 そんな気がしていた。

 

 家の前に、どこかで見たような服装の子どもが立っていた。高そうな服。 ベージュ色のツーピース。

しかし、その人がこっちに振り向いた瞬間、ドラえもんはすぐにこの人――いや、女の子が誰か分かった。

 

ノンちゃんだった。 茶色い髪の女の子。 後ろ姿だけ見ればかわいいが、正面の姿を見ると、全くの別人だ。

 顔は荒れてる、下膨れ、オマケに細い目。

 

本当は、この女の子は野比のび太の初恋の人だったのだ。

 とある事情により、ドラえもんとノンちゃんは一計を案じた。のび太に近づく悪い虫を追い払おうというものだった。

問題は、その悪い虫を追い払う方法。

 方法があまりにも複雑で残忍過ぎたため、のび太は怒り狂い、罵声雑言をノンちゃんに浴びせてしまった。

唯一の救いは、のび太がプロアクティブを薦めた事であった。

 

こんなに暑い中、家の前で話すのは失礼だと思った。

 ノンちゃんは、前会った時よりも、顔の肌ががきれいになっていた。

白い脂肪の突起がまだ少し浮き上がっているが、これで第一印象は少しはよくなったはずだ。

 

ノンちゃん(以下ノ)「ドラちゃん、ありがとう。 こんな私にお茶を出してくれて」

ドラ「いやいや。 で……帰ってからどうだったの?」

ノ「おじいさまには凄く怒られましたけど、当然よね。 母は、黙って私を家に迎え入れてくれたわ」

ドラ「そりゃ良かった。 で、今日は何?のび太君に会いに来たの?」

ノ「ええ。 まだ、ちゃんと謝ってなかったし。 後、のびちゃんと行きたい場所があるの」

ドラ「行きたい場所?」

 

 ドラえもんは、お茶の入った急須をお盆の上に置いた。

 

ノ「ところで、のびちゃんはどこに?」

ドラ「ああ、のび太君なら、宿題を見せてもらいに、静香ちゃん家に」

ノ「ああ、そう。 なら、日を改めて来るわ」

 ノンちゃんは、『静香ちゃん』という単語に、不快感を覚えてしまったようだ。

座布団から立ち上がり、スカートのしわを伸ばしながら、ドラえもんに言った。

 

ノ「ドラちゃん、誕生日っていつですか?」

ドラ「え? 9月3日だけど……。 いいよ、誕生日プレゼントとか別に」

 

ノ「そうね……。 戸締りはしっかりしといた方がいいかもしれないわ」

ドラ「? う、うん……」

 

ノンちゃんはそう言うと、玄関へ向かった。 ドラえもんは、何か物凄い胸騒ぎがした。

 

 

九月一日

野比のび太(以下のび)「あ〜〜、目がショボショボするよ。 無理も無いか、朝6時まで起きてれば」

源静香「んもう、毎年の事だもんね、のび太さん」

のび「ん? ああ、静香ちゃんか。 それがね、今日ちょっとしか寝れなかったんだけどさ、怖い夢見たんだよ」

静香「怖い夢? 昨日、テレビでやってた『ほんこわSP’09残暑SP』の話だったら、聴かないわよ」

のび「違うよ〜〜。 僕と静香ちゃんが、怪物に飲まれる夢だよ」

静香「どんな夢なのよ」

のび「それがさあ、僕と静香ちゃんがデートしてる途中でさ、横道からものっそい黒い怪物が出てきて……あれ?」

 

 のび太の前に、もう静香の姿は無かった。 その代わりに、出木杉英才がフゥとため息をついて立っていた。

 

出木杉「のび太君、アレ持ってきた?」

 のび太はあまりに突然のこと驚いた。

のび「あれって?」

出木杉「900円だよ。 クラス会で行ったバーベキューの時、君だけ持ってこなかったじゃないか」

のび「(うっわぁ……すっかり忘れてたよ。 というか、僕はちゃんと900円持ってきたよ。 ジャイアンが持ってきてなかったんだよ。

    ジャイアンがスネ夫に僕の900円をスらせて、自分のものって言い張っただけなんだけどな)」

 

出木杉「まさか、忘れたんじゃないだろうね」

のび「ギクッ! そ、そんなこと……あるよ、ごめん、忘れた」

出木杉「ハァ……君って人は……。 まあいいよ、明日持ってきてよ」

のび「はいはい」

 

 そこに、ちょうど教室に先生が入ってきた。

 

先生「えー、みんなさっさと席につくように。 新学期だぞ、もう。 いつまでも浮かれてちゃいかんざき!」

生徒A「国民新党?」

生徒B「先生、全然面白くありません! ナベアツの相方が芸を披露した後みたいな反応です、みんな」

先生「えー、ゴホン。 それじゃあ、みんなおはようございます」

生徒全員「おはようございます!」

 ガタガタ、とクラス中にいすの音が響く。 のび太は体がとてもだるく、席につくなり机にもたれかかった。

 

先生「それでは、出席をとる……おお、のび太珍しいな。 お前が遅刻していないとは」

のび「はい、はい(そりゃあそうだよ、あんな怖い夢見たら)」

先生「よしよし……それじゃあ、伊藤さん」

 

先生「えー、今日は骨川と剛田はお休みだ」

 のび太はうとうとしていたが、その情報で少しだけ目が覚めた。

 

のび「先生、ジャ……剛田君は、確か高校生に殴られたんですよね?」

先生「ああ、野比の言う通りだ。 剛田君の方から喧嘩を始めたらしい。
    何か、物凄くイライラしていたらしいから、それが原因だろうな。 まあ、何があっても暴力はいかん。

   みんな、友達が悪い人達に襲われそうだったら、迷わず近くの大人を呼ぶんだぞ」

 

生徒A「先生、骨川君はどうして休んでるんですか?」

先生「あー、骨川はだな。 昨日から病院に入院しているそうだ。 裏山の入り口にある、長い階段から落ちたらしい。

    みんな、裏山に行く時は気をつけるように。 特に、夕べ雨が降ったから、滑りやすくなってるからな」

 

授業中、のび太はいつものように眠っていた。先生に起こされ、廊下に立たされた(水の入ったバケツを持たされて)。

しかしながら、そこは居眠りのスペシャリスト。何と、立ちながら眠ってしまったのだ。

 当然、持っていたバケツは廊下に落ち、水が辺り一面に散らばった。

そこで、やっとのび太は目を覚ました。

 

 学校が終わると、のび太は教室から急いで静香に話し掛けた。

のび「静香ちゃん、一緒にプールに行こうよ! 去年は行けなかったし」

静香「出木杉さんと、約束があるのよ。 ごめんなさいね」

のび「え〜〜? まさか、出木杉とプール行くの?」

静香「違う違う。クラス会の領収書の整理。 出木杉さんと私とみよ子さん、その委員だったでしょ?」

のび「ああ、それならしょうがないね……(ホッ、二人っきりじゃないんだ)」

静香「それより、のび太さん宿題まだ終わってないんじゃないの?」

のび「う、うん……。 まだ、後ドリルと自由研究と絵が残ってるんだ」

静香「なら、さっさと終わらせた方がいいわよ。 じゃあ、私急いでるから」

のび「うん……ハァ」

 

 静かになった教室に、のび太の悲鳴が大きく響いた。 机の上には、真っ白な画用紙と『夏休みの友』がある。

のび「嫌だなあ。 何が夏休みの友だよ……。いじめっ子じゃないか」

 そう言って、のび太が席に座ろうとした時だった。

 

ガラッ

 

のび太は、その教室の入り口に立っている女の子を見て、全身に悪寒が走るのを感じた。

 地味な服に、地味な顔立ち。 中肉中背。 静香ちゃんとよく一緒にいる女友達。

 

みよ子「あれ? のび太、どうしたの?」

のび「……あれ? みよ子ちゃん、出木杉の家に行ったんじゃなかったの?」

みよ子「ああ、あれね、二人がやってくれるんだって。 もう助かっちゃった!

     実を言うと、私も絵の宿題やってなかったんだよねえ。 図工室空いてたっけ? 道具借りたいんだけど」

のび「……」

みよ子「どうしたの? おなか痛いの? 今日一日ずっと気分悪そうだったけど」

のび「う、うん……。僕、帰るね」

みよ子「あれ? 『宿題は9月7日までが締め切りです』の男が、もう帰るの?」

のび「 あれ? いつの間にそんなあだ名ついてたっけ?」

みよ子「ええ。 骨川君がね、夏休み中に図書館で言ってたのよ」

 

 のび太はその瞬間、光の速さで引き出しに手を突っ込んだ。帰り支度をするために。スネ夫に文句を言いに行くために。

そして、出木杉の家に行くために。静香ちゃんが、僕とのプールを拒否した理由を聞きに行くために。

 

 その時、机の中から、赤い封筒――のようなものが出てきた。こんなもの、帰りの会ではもらわなかった。

じゃあ、何だろう? のび太はそっと、それを拾い上げた。

 

みよ子「 何それ、ラブレター? ……なわけないか、のび太に限って」

 のび太はその発言に怒りを覚えたが、既に腹の中は地獄の血の池のように煮えたぎっていた。

 

その赤い封筒の文面には、『From N4』と書いてあった。

センス無し

 

のび「これ……何て読むんだろう」

みよ子「キャー! 何これ何これ、何か激しくどっかの漫画で見たことあるんだけど」

のび「そうなの? 僕知らないけど」

みよ子「多分、これ赤札……じゃない?」

のび「何それ? 」

みよ子「私の知っている漫画では、F4からの挑戦状……いや、死刑宣告みたいなものかな」

のび「し、死刑宣告?」

みよ子「漫画では、その赤札を貼られた生徒は、全校生徒から虐められて、退学に追い込まれるのよ。

    ……まあ、あんたは赤札以前に虐められてるようなものだけどね」

のび「そ、そんなこと無いよ!」

みよ子「でも、これ『F4』じゃなくて『N4』よね。 妙に、フォントもダサいし」

のび「 でも、何でこんなのが僕の机の中に?」

みよ子「知らないわよ、そんなの。 誰かのイタズラじゃないの?」

のび「でも、今日はスネ夫とジャイアンは休んでるし……。一体誰がこんなこと」

みよ子「どうでもいいけど、中見せてよ早く」

のび「ちょっと待ってよ、えーと」

 

ビリビリという音が教室に響き、その赤い封筒の中身が出てきた。

 

約分 英語 結合

野比のび太へ

 私達は、N4という集団である。 命名の由来は、君の友達にでも聞いてくれ。

私達は、君に苦しみを与えたい死神です。君は、苦しまなければいけない。

 しかし、急にそんなことを言われても驚くのは当然のことだと思う。

だから、我々はその苦しみを君に与えるべきかどうか、テストしてみたいと思う。

 9月3日のお昼から、9月4日になるまで、君は我々の用意する苦しみに耐えなければいけない。

もし、君がそれに参加しない場合、君は『百苦のスイッチ』を入れることになる。

 前回のように、寝過ごすなんて間抜けなことは抜きに、真面目に苦しんで欲しい。

その苦しみは、『百苦』よりは及ばない。

 君のすべきこと

一、同封されている暗号を解き、この手紙を書いている私の正体を暴いて欲しい。

二、暗号のヒントは、私の同士が持っているので、私の同士も見つけて欲しい。

三、六時を過ぎた時点で、我々は本格的に君を追い込む。
   なるべく、お昼の間に我々を見つけて欲しい。

  もし六時を過ぎた場合、君は大切な人を守りながら行動する方が賢明かもしれない。

健闘を祈る  道明寺 

 

ヒント無しで分かったら凄い

 

 

キャラクターファイル1 ノンちゃん

 本名不詳。 各サイトで、色々な本名がつけられている。

静香ちゃんの敵役の美少女として描かれている事が多いが、本作(前作も含む)では、絶世の平安美人。

 

 

第1話 F4ならぬN4〜元ネタ分からないとキツい〜

 

野比のび太(以下のび)「ドラえも〜〜んん!」

ドラえもん(以下ドラ)「どうしたんだい、のび太君? 変な物でも食べたの?」

のび「んなわけないでしょ! 僕の机の中に……」

ドラ「何? ゴキブリの死体でも入ってたの? それとも、腐ったみかん?」

のび「生徒は、みかんなんかじゃないんです! ……チガウヨ! これ見てよ、これ」

 のび太は、急いでその赤い封筒を渡した。

 

ドラ「う〜ん、嫌がらせじゃないの? ジャイアンとスネ夫とか」

のび「そんなはずないんだよ! だって、今日は二人とも学校に来てないんだから!」

ドラ「ああ、そうだったね。 ジャイアンが、高校生と喧嘩して、ボコボコにやられたって話でしょ?」

のび「え、そうだったの? 僕、てっきりジャイアンが勝ったのかと思ってた」

ドラ「僕も、そう思ってたらしいけど、どうも違うらしいんだ。
   見ていた猫から聞いたんだけど、何かジャイアンの調子がおかしかったんだって」

のび「へえ、あいつにもそんな所あったんだ」

ドラ「それより、問題はこの手紙の差出人だよ! よく見てよ、本文」

のび「何? 分かったの、差出人?」

ドラ「違うよ。

   7行目の『百苦のスイッチを押す』と8行目の『前回のように、寝過ごすなんて間抜けなことは抜きに、真面目に苦しんで欲しい。』

   これって、前回の事件を知ってないと書けない事だよね?」

のび「でも、前回のことを知っているのは僕とドラえもんと……誰だっけ?」

 

 

ノンちゃん(赤い靴の女の子、以下ノ)「私よ……。 ごきげんよう、のびちゃん」

のび「の、ノンちゃん!? 何でこの日本に?」

 

 幼馴染だった少年は、動揺のあまり後ろにあった椅子に頭をぶつけてしまった。

ドラ「そこまで驚かなくてもいいじゃない」

ノ「そうよ、二人で仲良くお風呂に入ったこともあったじゃない」

のび「な、無いよそんな話!」

ノ「忘れちゃったの?テレビ朝日の『アニメ最強名場面ベスト10〜秘蔵名珍場面 出会い&別れ編〜』にもランクインしたのに」

ドラ「そう言えばそうだったね」

のび「いやいやいや、そんな記憶無いよ!(泣 勝手に人の記憶を改竄しないでよ」

 必死で反論するのび太に、ノンちゃんは少しため息をついた。その様子を見たドラえもんは、のび太に必死でサインを送った。

しかし、当ののび太はそれには気がつかず、ただブツブツと何かを唱えているだけだった。

 

ノ「単刀直入に言うわ、のび太さん。 私、悪い人たちに追われてるの。 だから、私をかくまって下さい、お願いします」

 

あまりに突然のノンちゃんの頼みに、のび太は固まってしまった。なぜか、部屋中のカーテンが揺れている、そんな気がした。

 

ドラ「本当なのノンちゃん? 昨日は、そんなこと言わなかったじゃない」

のび「昨日!? 昨日も来てたのノンちゃん!?」

 ノンちゃんは、ポケットから脂とり紙を取り出した。そうして、自分の頬を拭き始めた。

ドラ「どうしたのノンちゃん? 具合でも悪いの?」

のび「今すぐ、頭の病院に行った方が」

ドラ「それは、のび太君の方だよ」

ノ「いや、ホテルではクーラーが効いてたのに……ここは随分と暑いのね」

のび「そうだよ、それが僕達庶民の暮らしなの! お金持ちの君とは違うんだから!

    どーせ、夏はクーラーのある部屋で快適に過ごしてるんでしょ?」

ドラ「のび太君、君の気持ちも分かるけどさあ、そろそろ許して上げなよ」

のび「ドラえもんだって、まだ許したわけじゃないんだよ、プンプン」

ノ「さとう珠緒じゃないんだから、もう強情ねえのびちゃん」

のび「後、僕のこといつまでもその呼び方で呼ぶの止めてよ!(怒)」

ノ「ま、いいわ。 とりあえず、この手紙もう一度よく見せて頂戴」

 

 のび太はドラえもんの丸い手から、脅迫まがいの赤い封筒を取って、ノンちゃんに渡した。

 

ノ「うーん。 何か、色々引っ掛かる事ばかりね、この手紙。 ところで、百苦って何?」

ドラ「昔、のび太君が使ったことのあるひみつ道具さ。 この道具のスイッチを押した人は、百の災難に見舞われるんだ。

   まあ、あの時は僕がセワシ君に頼んで未来の世界へ持って行ってもらったけど……」

ノ「この手紙の主は、この道具のことも、私たちが起こした事件のことも知っている。だとすると……絞られてくるんじゃない?」

ドラ「うん。 僕達のことをよく知っていて、22世紀のことも知っている。 暗号を解くまでも無いかな」

ノ「暗号って?」

ドラ「ほら、この漢字がいっぱい書いてある変なカード。 多分、これにヒントがあるんだよ」

ヒント無しで分かったら凄い

ノ「暗号を解読する道具って無かったかしら、ドラちゃん?」

ドラ「あ……あるよ! 22世紀のFBIが開発したと言われている『暗号解読機』なら……」

のび「じゃあ、それ使えば一発じゃない。 早く使おうよ」

ドラ「あれ? 確か、この辺にあったような気がするんだけど……」

のび「まさか、無いんじゃないんだろうね?」

ドラ「い、いやははは……(汗 あれ、実はレンタルだったんだよ……。 だから、もう、無いよ……」

 ドラえもんは、恥ずかしそうに頭をかいた。

 

ノ「連想式推理メガネは?」

のび「僕も、それドラえもんに言ったんだけどさあ、それも無いんだって。 もう、道具が使えなかったらただのタヌキなんだから」

ドラ「何をゥゥ!(怒) 大体、君が虐められるから悪いんだぞ、この悪運キング!」

のび「い……じめられてなんかないよ! ただ、ちょっと嫌がらせを受けてるだけだよ!」

ノ「のびちゃん、嫌な感じがしたら、それはもうイジメなのよ」

ドラ「先生!? 道徳の時間!?」

のび「暗号も何も、一番下に『道明寺』って書いてるじゃん! 暗号なんか解かなくても、一軒ずつ道明寺って人を当たれば……」

ドラ「のび太君、何処の世界に自分の名前を堂々と書く犯人が居るんだよ」

のび「分かった! この暗号を作った奴が犯人だ! だから、道明寺って奴が……」

ノ「のびちゃん、一度休憩しない?(汗」

 

ピン……ポーン。

 

 その時だった。玄関から、インターホンを鳴らす音が聞えた。

のび「あ、静香ちゃんだ」

ドラ「(マズい! 静香ちゃんとノンちゃんを会わせちゃあ、いけない!)」

 ドラえもんのボデイから、尋常じゃないほどの汗が吹き出した。

 

ノ「静香ちゃん? お友達なの?」

のび「お友達っていうか、僕のよm……ブフ! 何するんだよ、ドラえもん!」

 ドラえもんは急いで、のび太の口をふさいだ。

ドラ「よ……よ〜こよ〜こはま、よ〜こすか〜♪ の、ノンちゃん、まあゆっくりしていってよ。 のび太君、ちょっと」

 ドラえもんは、のび太を引っ張りながら玄関まで来た。

 

ドラ「のび太君、空気を読もう! 読む力を持とう! 読む努力をしよう!」

のび「何で? 別にいいじゃない、ノンちゃんに言っても。 僕と静香ちゃんは結婚する運命なんだから」

ドラ「それが、そうも安心してられないんだよ。 少しずつ、未来が歪み始めてるんだ」

のび「それ、どういう意味? 」

ドラ「ほら、前の8月7日。 僕とノンちゃんが対策を講じなきゃ、君は伊藤翼ちゃんと結婚してたんだぞ」

のび「そ……それはいいなあ(笑)」

ドラ「よくないよ! それじゃあ、僕の存在意義がなくなるじゃないか!」

のび「わ、分かったよ……そんなに怒らなくてもいいじゃん」

ドラ「とにかく! お客が静香ちゃんだったら、帰ってもらおう」

 

 のび太は、やれやれと考えながら玄関のドアを開けた。

 

そこには、のび太の予想通り、源静香が立っていた。 しかし、一人で居たわけではなかった。

その側には、のび太が勝手にライバル視している……出木杉英才の姿があった。

 

のび「で、出木杉! 静香ちゃんと一緒に! 何しているんだ?」

ドラ「落ち着きなよ、のび太君。 何してるも何も、君の所に訪ねにきてくれたんじゃないか」

 正直、のび太は口では静香ちゃんに会いたいと言っていたが、実の所、変な気持ちだった。

痒い所に、手が届かない感じ。 デコポンと、ユズの区別がつかなくなった感じ。 違うか。

 静香ちゃんは、わざと僕を避けている。 今日、嘘をついたのもその理由だ。

出木杉とみよ子ちゃんで何かすると言っていたが、実際の所は出木杉と二人っきりだったのだ。

 

源静香(以下静香)「のび太さん、一緒にプールに行かない、明日?」

のび「え!? 」

ドラ「よ、良かったじゃないのび太君! でも、明日は平日だよ静香ちゃん?」

静香「平気よ。 明日は短縮授業で、午前で終わるの」

 そこに、日焼けした肌が凛々しい出木杉英才が、割って入ってきた。

出木杉英才(以下出木杉)「ああ、ちなみに僕も一緒に行く予定なんだけど」

のび「カッチーーン!(怒)」

ドラ「あ、やっぱりね。 そういうオチが待ってると思った」

 

 そんなやり取りを、ノンちゃんは目を光らせて見ていた。 ドラえもんとのび太は、そのことには一切気が付かなかったのだが……。

 

 

出木杉「そういえば、僕伊豆まで旅行に行ったんだよ。 それで、お土産の水ようかんを君にあげようと思って」

 出木杉は、さっきから左腕にかけていた黄色い紙袋からそれを取り出した。

のび「も、物で釣るつもりか? その手にはのらないゾ」

静香「のび太さん、人の好意は素直に受け取らないといけないわよ」

 ドラえもんは、のび太の行き過ぎた発言に慌てっぱなしだった。さっきから、何度もひじでのび太の体をついていた。

ドラ「早く帰ってもらわなきゃ」

のび「わ、分かってるよ! 静香ちゃん、僕宿題があるから……(泣」

静香「そうね。 頑張ってのび太さん。 先生も今週までは待つって言ってたから」

出木杉「でも、大丈夫かい? そんな状態でプールに行って」

のび「ぜ、全然大丈夫だよ! あー、おいしそうな水ようかんだなあ」

出木杉「そういえば、ついさっき剛田君のお見舞いに行ってきたんだよ」

のび「ふーん、そう」

 のび太は、興味無さそうに水ようかんの包み紙を外した。ドラえもんは、オイオイという顔をした。

 

静香「妙な事言ってたのよね。武さんが例の高校生達に負けた後、リーダーっぽい人に言われたんですって。

   『恨むのなら、お前の眼鏡の友達を恨め』って。 ねぇ、その眼鏡の友達ってまさか……」

 

 

 のび太とドラえもんは、自分達の悲運を嘆いた。

部屋に戻ると、ノンちゃんが帰り支度を済ませていた。

ノ「私、もう帰るから。 あ、この暗号の意味考えてみるわ。 二人も、気をつけてネ」

のび「う、うん……ノンちゃんもね。 悪い人たちに追われてるんでしょ?」

ノ「ああ、あれね。 ちょっと言ってみただけなの。 ほら、『青春アミーゴ』の歌詞にもあるでしょ」

ドラ&のび「え、えええええ〜〜orz」

 ノンちゃんは明るく振舞っていたものの、実際の心のうちは不安でたまらなかった。

なぜなら、彼女の言った事は嘘ではなかったのだから。

 

 

ドラ「ノンちゃん、心配だね……アメリカって、確か9月から学年変わってるはずなんだけどな」

のび「そうだったの!? 僕、初めて知ったよ」

 夕日の影に消えていくノンちゃんの淋しそうな後姿を見て、のび太は少し言い過ぎたかな、と後悔した。

 

真夜中。 九月二日になる頃、薄暗い部屋で四つの影が動いていた。

 一人は、ひたすら野球の素振りをしている。

 また一人は、指の先にある刃のようなものを、窓から差し込む月明かりに照らしている。

後の二人は、ピクリとも動かない。 ただ、そのうちの一人が一つしゃっくりをした。

 

「それじゃあ、僕は『道明寺』。 君は、『花沢』。 小さい君は、『美作』。 大きい君は、『西門』。

 配置は、前説明したとおり……」

「青タヌキは居るんだよな」

「ああ」

「眼鏡のガキは、俺が」

「ああ」

「私メリーさん。 今、あなたの後ろに居るの」

「ああ?」

 

 この4人が、F4のような華の四人組ではないことは、間違いなかった。

 

 

キャラクターファイル2 伊藤翼

 のび太と結婚する予定になっていたが、何とか阻止された人。

その方が彼女の将来的にはいいはずだ、多分。 その前に、のび太はスネ夫に殺される可能性が高い。

 

 

第2話 地味にゲームスタート!〜心理戦とか無理〜

 

九月三日 朝

ドラえもん(以下ドラ)「ついに……この時がきたか」

野比のび太(以下のび)「うん。 ドラえもん……」

ドラ「なんだい、のび太君?」

のび「おねしょしちゃった……」

ドラ「……あらまあ……見事な日本地図」

 

のび「これが夢精だったら、全然笑えなかったね」

ドラ「まあ、ね……(汗 ノンちゃんが来る前でよかったね」

のび「ところで、僕今日学校休むから。 こんな事態じゃあ、おちおち学校なんて行ってられやしない」

 のび太の発言に、ドラえもんは半ば呆れながら返した。

ドラ「あのねえ、のび太君……。 今日は算数のテストがあるから、休みたいだけでしょ?」

のび「ギクゥ! ちちち違うよ、そんなんじゃねえよって漫画あったよね」

ドラ「知らないよそんなの……。 とりあえず、君は学校へ行くの!」

のび「そんなあ……。 ああ、休みたかった。 大雪の日以外で、休みたかった!

   絶望したッ! 法事以外で休ませてくれない、今の学校の制度に絶望した!」

 

 緊急事態に託けて休みたいだけののび太を家からたたき出し、ドラえもんは一息ついた。

ドラ「やれやれ、今日は僕の誕生日だってのに……。のび太君、気づきもしなかったよ。
   絶望したのはこっちだよ、ったく」

 

ジリリリン、ジリリリン!

 

 いまや、都会ではあまり見られなくなった黒電話が鳴った。 遠くから、ママの声が聞えた。

野比玉子「ドラちゃん、取って頂戴! 今、手が離せないの!」

ドラ「はいはい、今出ますよっと」

 こんな朝っぱらから電話をかけてくるなんて、誰かな? まさか、のび太君がまた忘れ物したとか?

 

しかし、電話の相手は今回の事件の首謀者だった。

 

ドラ「もしもし、ドクトルバタフライ……じゃねぇや、野比です」

?「ソノ声ハ、ドラエモンダナ?」

ドラ「そうですけど……何の用ですか? というか、どちら様でしょうか?」

?「私ハ、今回君達に『赤札』を送った張本人ダヨ。 イワバ、N4のリーダー……。 道明寺、トデモ名乗ラセテモラオウカナ」

ドラ「どうでもいいですけど、カタカナ読みづらいんですけど」

?「ナ、何ダッテ!? ナンカ、悪ノグループッポイダロ、コノ方ガ」

ドラ「まあ、そうですよね。 演出は大事ですもんね」

?「フッ……ソウイウコトダ。 今、野比ノビ太ハ居ルカ?」

ドラ「すみません、今学校なんですよ。 また掛けなおしてもらえます?」

?「アアソウデスカ、ソレハゴ丁寧にアリガ……ッテ、違ウ! ソウカ、学校カ……フフ……」

ドラ「フツ族の新しいリーダーなら知りませんけど」

?「誰モ、ルワンダ内戦ノ話ナンカシテナインダヨ! トニカク、イイカ?

  今日ノお昼カラ、ゲームスタートダ。 ソレカラ十二時間経ッテモ、私タチ全員を見ツケラレナカッタラ……
是ガ非デモ百苦タイマーノスイッチヲ、野比ノビ太ニ押サセル」

 

 ドラえもんは、そこで待ってましたとばかりに誘導尋問を開始した。

 

ドラ「ちょっと待ってよ。 大体、百苦タイマーって何? 最新式の目覚まし時計?」

?「トボケタッテ無駄ダ……既ニ、君達の素行ハ調ベテアルンダ……。 野比のび太ハ、過去ニソノタイマーヲ使ッテイル」

ドラ「調べたって? どうやって? ソースは?」

?「ソンナモノ、私ノ手ニカカレバ……」

ドラ「まあ、君が教えてくれなくても、こっちは調べられるんだけどね、簡単に」

?「何? ……不可能ダ。 ククク……」

ドラ「どうして、そう言い切れるんだい? 君が百苦タイマー存在を知っているってことは、当然僕のことも知ってるはずだよね?」

?「……! イヤ、トニカク無理ダ。 オ前達ノ力ジャア、ソース先ヲ特定スルコトは不可能ダ」

ドラ「(とりあえず、ここまで引っ張ればいいか……。 大体、情報は掴んだ)」

?「ソレハ、後々思イ知ルコトにナルダロウ。 後、コレカラ君ニヒントヲ与エル」

ドラ「 あ、メモ用紙あった……。 いいよ、続けて」

?「ヒトツ、N4のメンバーは、全員Nに関係がある。 フタツ、我々ハ全員練馬区内ニイル。
  ミッツ、暗号ヲヨク見ロ。 我々全員が暗号を持ッテイル。 暗号ヲ解ク為ナラ、ドンナ手ヲ使ッテモ構ワナイ」

 

ドラ「最後に一ついい?」

?「何ダ?」

ドラ「……君、どこかで会った事あるでしょ」

?「……勘ガイイナ、ドラエモン。 オ前ノ言ウ通リダヨ」

ドラ「……でも、僕と君は話したことは無い。 そうでしょ?」

 

 チャリン!

?「クッ、用件ハ以上ダ、ドラエモン! 野比ノビ太ニ伝エテオケ!」

ドラ「はいはい」

 

 ガチャッ!

 

玉子「どうしたのドラちゃん? 随分長かったのね?」

 ママの声に、ドラえもんは笑いながら言った。

ドラ「うん。 ちょっと、ね」

 

 ピンポーン

 

ドラえもんは、自らが書きなぐった文字を見て、ため息をつきながらも玄関へ向かった。

ドラ「やあ、ノンちゃんいらっしゃい」

 

 

 給食時間の学校。 のび太は、今日のメニューであるミネストローネを注意深く口に運んでいた。

 

のび「あつっ! 暑い! この暑いときに熱いスープを出す、給食のおばちゃんに絶望した!」

源静香(以下静香)「文句言わないの。 世界には、何千万もの飢えた子ども達が……」

のび「またその話ィ? もう耳だこだよぉ」

出木杉英才(以下出木杉)「のび太君、静香ちゃんは君にのこさず食べて欲しいという思いで……」

のび「あー、うるさいなあ。 大体、何でまた出木杉と同じグループで食べなくちゃいけないんだよ? 

    あー、席替えは始まるまでが一番楽しいよ」

骨川スネ夫(以下スネ)「そりゃあこっちのセリフだぜ、のび太! 大体、お前の食べ方汚いんだよ!

              くちゃくちゃ音を立てて食べるな! 『高校講座 家庭総合』に出すぞ!」

のび「その例え、全然意味分からないよこの隠れ蓑虫! シロサギ! 」

出木杉「まあまあ、二人とも落ち着きなよ。 ……ところで、静香ちゃんもさっきからフォークが動いてないよ」

 出木杉の指摘通り、静香はロールパンを少しかじった程度で、まだミネストローネは湯気を立てていた。

静香「ごめんね、出木杉さん。 実は、少し気になることがあって……」

のび「静香ちゃん、僕でよければ相談に乗るよ?」

静香「……夢を見たの。 のび太さんと道端を歩いている途中に……何か、『黒いもの』に襲われて……」

出木杉「その夢って、のび太君も見た奴でしょ?」

スネ「へぇ。 偶然って奴が、世の中にはあるんだなあ」

のび「それで!? その『黒いもの』ってなんだった!?」

静香「……よく分からなかったの。 見えなかったと言った方が正しいわね。 本当に一瞬だったし……」

出木杉「ううむ。 とりあえず、調べてみる必要がありそうだね」

のび「あ! 調べるといえば……出木杉、僕のところに来た暗号も調べてよ。 ……本当は、癪なんだけど」

静香「暗号?」

のび「そうそう。 まあ、詳しくは僕の家で。 静香ちゃんも来ていいよ!」

静香「そうね……。でも、今日はよすわ。 気分悪いし」

 そういうと、静香はだるそうに机に体を預けた。 出木杉は、急いで先生を呼んだ。

静香ちゃんは、先生と出木杉と一緒に保健室へ行ってしまった。

 

スネ「やれやれ……静香ちゃん、絶対あの日だぜ」

のび「あ、スネ夫もそう思った? 僕もそう考えてたんだよなあ」

スネ「まあ、僕はどっちかというと翼ちゃんの方が心配だな」

のび「何? また、何かあったの?」

スネ「実はさあ、この情報はまだオフレコなんだけど……。 昨日、翼ちゃん家に脅迫状が届いたらしいんだ。

   『九月三日に外に出たら殺す』って」

のび「本当に!? というか、オフレコって何? オフ会のれぽーと?」

スネ「それはオフレポだろ! ……まだ、マスコ、マスゴミに流れていない情報のことさ」

のび「何で、一回マスゴミって言い直したの?」

スネ「そんなこと、どうでもいいだろ! 平野綾の親戚が平野レミっていうくらいどうでもいいだろ!」

のび「本当!?」

スネ「もちろん、ガセだけどな! つぶやきシローの死亡説くらいガセだろ!」

のび「どうでもいいけど、翼ちゃん大丈夫なの?」

スネ「大丈夫なわけ無いだろ! ……でも、翼ちゃん忙しいから、普通に外に出るだろうなあ」

のび「ええ? アイドルって大変だねえ」

スネ「まあね。 まあ、翼ちゃんは、どっちかっていうともう女優だよね。

   ……そんな、翼ちゃんの大躍進を阻む奴は、僕達ファンが許さない! そうだろ、のび太?」

のび「確かに、僕も翼ちゃんのこと好きだけど、そこまでは……(引き気味」

スネ「ふざけろよ、送り主! ……というわけで、大怪我を負ったにも関わらず、僕骨川スネ夫が復活したってわけさ。

   今日一日、僕が翼ちゃんを守り抜いてみせる! 実は今日学校に来たのも、外に出るための口実さ。

   んもう、ママが過保護でさあ」

 

そう言って、スネ夫は目をキラりと輝かせた。 スネ夫の普段の瞳とは比べ物にならないくらい、綺麗だった。

 スネ夫も、意外と色んな事考えて生きてるんだな。 のび太は、冷めたミネストローネのスープを飲みほした。

 

 

結局、学校が終わるまで静香ちゃんは教室に戻ってこなかった。 後のみよ子ちゃんの説明によると、早退したらしかった。

 出木杉も付き添ったという所に少し引っ掛かったが、こういうのは、しっかりした奴が……。

 

 その学校の帰り道。 のび太は、自分が危機的状況に立たされていると言うのにも関わらず、ゆっくり歩いていた。

 

玉子「あ〜ら、のびちゃん。ちょうどいいところに! この牡丹餅、五郎さんの所に届けてきて!」

 突然のママゴンの襲撃。 のび太は、驚かざるを得なかった。

のび「……え、ええ〜〜?」

 

 

 所変わって、再び野比家。

ドラえもんは、ノンちゃんに自分の見解を話していた。 ノンちゃんは、あくびをこらえながら聞いていた。

ドラ「まず、道明寺は男だよ。 で、学校に行ってない。大人だけど、若い方。

   で、この人は『俺』と『我々』を使い分けている。グループと自分を分けてるんだ。

   多分、この人は自分がリーダーとは思ってない」

ノンちゃん(以下ノ)「 で? この道明寺を名乗る人は、引きこもりの可哀相な人なの?」

ドラ「いいや。 むしろ、逆だよ!」

ノ「逆?」

 ノンちゃんは、訝しそうに顔を歪めた。 その形相は、正直酷いものだった。

 

ドラ「逆なんだよ。 みんなが『えっ、この人が!?』と思う――そんな人が、道明寺かもしれない、と僕は考えてるんだ」

ノ「どうして? その根拠は?」

ドラ「全然、怖がってる感じが無いんだよ。 普通、声を変えるのって、正体をばらしたくないからでしょ?

   でも、この人の声から全く、そんな感じはしなかった。 少なくとも、閉塞的な人という線はこれで消えたんだ」

ノ「そうかしらねえ……」

ドラ「後、もう一つ。 道明寺は、僕の道具のことを知らない」

ノ「そうなの? 」

ドラ「ああ。 多分、百苦タイマーのことは知ってるけど、僕の道具のことは知らないんだよ。 これは好都合だぞ♪」

ノ「もう、昼12時から3時間経ってるし……。早く、暗号解かないと……」

 ドラえもんは、じっと漢字だらけの暗号を見つめていた。

ヒント無しで分かったら凄い

ノ「のびちゃん、遅いわねぇ」

 

ジリリリン!

 

 また、古い黒電話が鳴った。 ドラえもんは、何かとても不吉な予感がした。

ノンちゃんも、そんなドラえもんの気を感じ取ったようだった。二人は、急いで一階へと駆け下りた。

 その瞬間、二人の目にトンデモ光景が映った。

 

玉子「もしもし、野比です」

 

 何の事情も知らない、ママが電話を取ってしまった――マズい!

ヒヤリと、二人の首筋に汗が流れた(ノンちゃんの首の周りは、既に汗だくだった)。

 

ネタ帳1 『そんなんじゃねえよ』

 和泉かねよしによる少女漫画。 設定とか凄い。 シスコンとか。

 

 

第3話 安楽椅子に座ると、中央の辺りがへこむ〜なぜ、のび太は監禁されたのか〜

 

前回までのあらすじ(間があいたので)

 N4と名乗る集団から、なぜかゲームを申し込まれたドラえもん・のび太。

彼ら(?)によると、このゲームをクリアしないと、その昔未来に持っていった百苦タイマーのスイッチを入れるという。

 地味にゲーム(?)は始まり、ドラえもんとノンちゃんは、学校へ行ったのび太の帰りを待つ。

しかし、のび太は帰ってこない……。 二人がやきもきしていると、突然家に電話がかかってきた。

 道明寺からの電話だと踏んだドラえもんは応対に向かうも、そこにはママの姿が!

もし、電話の主が道明寺だったら……、気まずくなることうけあい!?

 

 

玉子「もしもし、野比でございます」

?「母親カ? コウイウ子供ノ喧嘩ニハ、親ハアマリ口ヲ出サナイ方ガ賢明ダト思ウガナ」

玉子「……? のび太のお友だちですか?」

?「マア、トモダチトイエバトモダチダナ」

玉子「あら〜、ごめんなさいねえ。 今、のびちゃん家に居ないのよ……。後から、のび太本人に掛け直させますので」

?「イイダロウ」

玉子「ええ。 じゃあ、ごめんなさいね」

 

 そういうと、ママは平然と受話器を置いた。ドラえもんは、吸い込まれるようにその一部始終を見ていたが、すぐに我に返った。

なんか、意外と普通に終わったな……。

 そして、ドラえもんの肩をノンちゃんが叩いた。

 

ノンちゃん(以下ノ)
「ねえ、のびちゃんまだ帰らないの? ……こんなに遅いなんて、異常よ、アブノーマルよ! とくダネの小倉さんのトークより長いわよ!」

ドラえもん(以下ドラ)「そりゃあ、そうだよノンちゃん(汗 小倉さんはプロだから、どんなに話が長くなっても十分くらいで終わらせるって」

ノ「とにかく、私もう待ってられないわ! 私、待つのは嫌いなの! あみんじゃないのよ、私は!」

ドラ「岡田あーみん?」

ノ「それは漫画家の名前よ(怒)」

ドラ「のび太君を信じるんだ! 大地の怒りを、誉めよたたえよ! 」

ノ「大地讃頌?」

 

5分後

ドラ「ふう、何とか落ち着いたね」

ノ「そうね。私たちが興奮しても、何も始まらないものね」

 ドラえもんは、ゆっくりとポケットに手を入れ、いつものひみつ道具を取り出した。

ドラ「『ドジ探知機』。 これで、のび太君の場所をあぶりだせるはずだ!」

ノ「んもう、そんなに便利な機械があるなら、早く出してよドラちゃん(怒)」

ドラ「いやあ、ごめんごめん。 でも、物事には順序という者がありまして……」

ノ「んもう、そんなことばかり言ってるから、いつものびちゃんを危険な目に合わせることになるのよ!」

ドラ「おっしゃるとおりです……」

 

 

体が重い。運動会の後の筋肉痛の感じに近い――鈍い痛みが、全身に走った。

もし昨日が運動会だとしたら、今日は月曜日かな?

 しかし、のび太の背中に触れているその畳の匂いが、自分の部屋の畳の匂いでないことは、すぐにわかった。

野比のび太(以下のび)「ここはどこ? 」

 すぐに、のび太の目の前に見慣れない光景が広がった。 部屋の土壁の至るところに貼られた、エッチな写真。
写真というよりはポスターか。 のび太はしばらくそれを眺めていたが、そのポスターについている特異な臭いを察知したのか、
名残惜しそうに目を逸らした。

 その視線の先には、淵の部分が欠けたラーメンの器。 その底には、まだスープらしきものが残っていた。
そのそばには、箸とれんげが転がっていた。

のび太はこの時、ある既視感を感じた。 この部屋、どこかで見たことがあるような――

 すぐに、その記憶の糸を手繰るように、なるべく多く部屋のものに自分の眼力を注ぎ込んだ。

そして、今度は錆びた机の上にある空き箱に、また既視感を覚えた。

 これって、まさか――五郎おじさんに持っていくはずだった、おはぎの箱!?

しかも、その箱の中身はもう空っぽで、そのおはぎの空いているスペースは、のび太の心の穴を形象しているようだった。

 

その瞬間、一気に今までの記憶が甦った。

 家に帰る途中でママに会い、五郎さん家におはぎを持っていこうとしたこと。 その後間もなく、意識を失って――

いや、その、まさに意識を失う瞬間。 一瞬見えた、自分を後ろから殴った、犯人の顔。

 人間の顔ではなかった。仮面だった。 戦隊ヒーロー、ナナレンジャーの赤い方。 ナナレンジャーレッド!

どうして? どうして、あのナナレンジャーレッドが、僕を殴ったんだろう?

 ナナレンジャーは、正義の味方でしょ? どうして、正義の味方がいち小学生を殴ったんだ?

これは、間違いなくニュースになるぞ。 明日みんなに、言いふらしてやろう。

 

 

 ドンドン!

 

 のび太の耳に、聞き覚えのある声が聞えた。 玄関の扉の方からだった。

「のびちゃん、そこに居るんでしょう? 分かってるんだからね!」

「のび太君、今すぐそこから出るんだ! ここは危ないんだ!」

 その声を聞いたとき、のび太は思わず走り出していた。そして、お約束の如く扉に激突した。

ドシャッ!

のび「ひでぶっ!」

ノ「もう大丈夫よ、今助けてあげるからね。慌てないでいいのよ…… ほら、ドラちゃん早くおし!」

ドラ「ノンちゃん、急にキャラ変わりすぎでしょ(泣」

 ドラえもんは、しぶしぶと『通り抜けフープ』を取り出し、それを部屋の扉にくっつけた。

 

三人は、30秒後感動の再会を果たした。

のび「みんな、信じてたよ〜〜!(涙 きっと、助けにきてくれるって!」

ドラ「ああ、もう汚いなあ、鼻水つけないでよ」

 ノンちゃんは、ドラえもんがポケットティッシュを出すよりも先に、それをのび太の鼻にあてていた。

ノ「もう大丈夫よ! 私が、のびちゃんを守るから……」

 その言葉に、のび太は感情のブレーキがきかなくなってしまった。ノンちゃんに抱きつき、頬を何度もこすらせた。

普段ののび太なら、まずそんなことはしなかっただろう。

 

ノ「もう、のびちゃんったら、大胆なんだから♪」

ドラえもんは、その光景を冷静に観察し、ある推論を導き出した。

 あ、やっぱりこの人ダメだわ。

 

のび太のことはノンちゃんに任せて、ドラえもんはすぐに部屋の中の散策をした。

なぜ、のび太君はさらわれたのか? 確かに、のび太君は女の子よりもさらいやすそうだけど。

そして、何よりこの部屋、この監禁場所。

 練馬区すすぎが原のはずれにある、ボロアパート。 その名前は、『朝目荘』。

しかし、どう見てもこの部屋は――独身男性の部屋だ。

 さらったのが道明寺一派だとするなら、この部屋は道明寺の部下の住まいなのかな?

しかしそれでは、あまりにも間抜けすぎる。 ドラえもんは、改めて道明寺から送られてきた手紙を見た。

 

約分 英語 結合

野比のび太へ

 私達は、N4という集団である。 命名の由来は、君の友達にでも聞いてくれ。

私達は、君に苦しみを与えたい死神です。君は、苦しまなければいけない。

 しかし、急にそんなことを言われても驚くのは当然のことだと思う。

だから、我々はその苦しみを君に与えるべきかどうか、テストしてみたいと思う。

 9月3日のお昼から、9月4日になるまで、君は我々の用意する苦しみに耐えなければいけない。

もし、君がそれに参加しない場合、君は『百苦のスイッチ』を入れることになる。

 前回のように、寝過ごすなんて間抜けなことは抜きに、真面目に苦しんで欲しい。

その苦しみは、『百苦』よりは及ばない。

 君のすべきこと

一、同封されている暗号を解き、この手紙を書いている私の正体を暴いて欲しい。

二、暗号のヒントは、私の同士が持っているので、私の同士も見つけて欲しい。

三、六時を過ぎた時点で、我々は本格的に君を追い込む。
   なるべく、お昼の間に我々を見つけて欲しい。

  もし六時を過ぎた場合、君は大切な人を守りながら行動する方が賢明かもしれない。

健闘を祈る  道明寺 

こいつらは、一体何がしたいんだ? ただの愉快犯なのか? それにしても、随分とタチが悪すぎる。

 

のび「ねえドラえもん。早く、脱出しようよ。 僕を捕まえた奴が、戻ってくるかもしれないよ!」

ノ「そうよ、早く『ストレートホール』で脱出しましょうよ」

ドラ「そうだね……。 とりあえず、早く引き上げよう」

 

 

 

 

 

ドラえもんの言葉よりも先に、のび太の体が空中を吹っ飛んでいた。そして、すぐにそれは天井との合体を余儀なくされた。

バリ、ドヴォッ!

 

物凄い音と共に、木屑が部屋の中を舞った。

一瞬、ドラえもんとノンちゃんは何が起こったのか分からなかった。

 二人の目の前。 天井からのび太の体がぶらさがっているのを確認すると、まずノンちゃんが悲鳴をあげた。

ノ「い、いやぁぁぁぁ!」

 ドラえもんは、すぐに身構えた。木屑が多く、視界が悪い。 しかし、ドラえもんはすぐに自らの本能が警告を発するのが分かった。

ドラ「ノンちゃん、伏せろ!」

 ドラえもんは、ノンちゃんに半ばタックルするように、ノンちゃんの体を部屋の畳に押しつけた。

 

直後、ノンちゃんの居た場所に、また新たな木屑ができた。
 二度目の攻撃――すぐに、ドラえもんはそれが『ひみつ道具』によるものだと分かった。

 

ドラ「隠れてないで出てきてよ! 僕達は、戦うつもりなんか無いんだ!」

ノ「ちょっ……! ドラちゃん、何言ってるの?気は確か?」

 ドラえもんは、すぐにノンちゃんに耳打ちした。

ドラ「もちろん、嘘さ! でも、言ってみる価値はあると思ってね」

ノ「どういうこと?」

ドラえもんは、ちらっと玄関の扉の方を見て、ノンちゃんに目配せした。

 そこには、手荒い襲撃を行った張本人が立っていた。 頭は刈り込んでいて、腹は少し出ている男。
服装は――まるで、昭和の学生がそのままタイムスリップしてきたような感じで、白いタンクトップとももひきで身を包んでいた。

 

ノ「あ、あっさりと出てきたわね……」

ドラ「さあ、堪忍するんだ」

 ドラえもんは、ショックガンを玄関の相手に向けながら言った。

 その男は、真一文字に口を結んでいた。手には、見覚えのあるひみつ道具がついていた。

『チャンピオングローブ』。 

ドラ「早く、そのひみつ道具を解除して、両手を上げるんだ!」

 男は、黙ったままチャンピオングローブを外した。 それを見て、ノンちゃんは一瞬安堵の表情を見せた。

しかし、その男はそのまま走り出した。

ドラ「あっ、逃げた(汗!」

ノ「男の追跡は、ドラちゃんに任せたわ! 私はのびちゃんの介抱をするから」

 ノンちゃんは、テキパキと自分のポーチから医療用具らしきものを出すと、すぐにのび太を天井から引き剥がした。

眼鏡が、惨めなほどに粉々に砕けていた。 しかし、それ以外の個所は意外と傷ついていなかった。

のび「た、たしゅけてどりゃ……えも……(泣」

ノ「しっかりしてのび太さん、私よ、分かる!?」

のび「うん……僕が昔……好きだった……」

 ノンちゃんはすぐに頬を赤らめると、思いっきりのび太の顔面を引っ叩いた。

ノ「馬鹿! そういうことは、もう少しロマンチックな状況で言ってよ!(恥」

のび「の、ノンぢゃん……。もすこし、やさしく……(泣」

 

 

一方、ドラえもんは完全にその男の行方を見失ってしまっていた。

ドラ「ああ、なんてこった! でも、22世紀の科学力をなめるなよ! タイムテレビさえあれば……」

「あれ? ドラえもん君?」

 ドラえもんは、すぐに振り向いた。

ドラ「え? 出木杉君? 何で君がこんな所に?」

出木杉英才(以下出木杉)「この辺に、知り合いの薬局があるんだ。 今、そこに寄った所なんだよ」

ドラ「え? どこか具合でも悪いの?」

出木杉「いや、僕じゃないさ。 静香ちゃんだよ」

ドラ「静香ちゃん?」

 ドラえもんは、ギクリとした。 ついさっき、ノンちゃんのアプローチとのび太がそれに傾きつつある情景を、見たばかりだからだ。

出木杉「じゃあ、僕急いでるから」

ドラ「待って! 静香ちゃんって、今どこに居るの?」

出木杉「僕の家だけど……。 静香君、今日に限って両親が親類の葬式に出てるんだって。 かわいそうに……」

ドラ「そこに、僕もお邪魔させてもらっていいかな?」

 出木杉は、訝しげな顔をしたがすぐに取り直し、返事をした。

出木杉「いいとも。 ちょうど、静香ちゃんも話し相手がほしいって言ってた所だったしね」

ドラ「うん、それもそうなんだけど……僕は、出木杉君に用があるんだ」

出木杉「僕に? 」

ドラ「うん。 君の知恵を借りたいんだ!」

 

 

 

 そんなドラえもんと出木杉のやり取りを、遠くから眺めている人物が一人。 いや、正確には――

 

?「加勢だよ、ああ。 しかも、メチャクチャ頭のキレる奴。 ん? ああ、わーてるって。

  俺の狙いは、あの狸一匹だからよ。 ああ、うん。 ガキの始末は、メリーに任せるわ」

 

 ギラリと、爪を光らせた。

 

ネタ帳2 『朝目荘』

『ドラえもん』(てんとう虫コミックス45巻)の『トロリン』に登場したアパート。

 

 

この話は続きます。

 


 

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