Nの悲劇
〜私とドラの10の約束〜
第12話 今度こそ最終回直前! ネズミーランドが最後に
黄色い月が昇っている。半月――という奴だろうか。それも、上弦の月。
四角いアルミサッシの窓からは、ぼんやりとした上弦の月が室内を照らしていた。
大統領はニヤリと笑った。この暑苦しい白手袋も、ついに脱ぐ時が来るのか。室内に居るSPも、そろそろ『電池切れ』だ。
腰にはめられた実弾入りの拳銃。 いざという時は、これを使う。
しかし、少し時間がかかりすぎではないのか? 昼のシミュレーションでは、夜9時には全員確保完了という数字が出ていた。
7月19日の約束。10個の約束を、頭の中で反芻させていく。さっきから、悪寒が止まらない。
部屋の室温が低いのか、それとも――
まあいい。 『野比のび太』さえ無事ならば。
野比のび郎(以下のび郎)「聴いてくれよ! 僕は、打撃人類として覚醒したんだよ!悪人に触れると、腕が震えるんだよ!」
のび助の弟1(現代人の生き方を追求した)「……僕、初めて喋ったんだけど……」
のび助の弟2(柿を食べたいとせがんだ)「まあまあ、いいじゃないか。こうして親戚一同集まる事ができたんだから」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「そうね。死刑前とはいえ……家族一緒に集まったんだから」
明治神宮の側に敷設された野比専用留置所。そこには、既に捕まった野比一族が、悲痛の叫びを呈していた。
そこはコンクリート塀に囲まれ、塀の上には、触れると感電死してしまう金属の板が取り付けられていた。
留置場は、換気扇が一つとトイレがあるだけの殺風景な部屋だった。
そしてそのトイレでは、のび郎の子ども達が、のび郎の妻の手伝いを受けてトイレをしていた。
南(弟2の娘)「奈々ちゃんがぁあ! パパ、奈々ちゃんが居なくなっちゃった!」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「南、奈々ちゃんはね、どこか遠い所に旅立っちゃったんだよ」
南「違うもん、奈々ちゃんは、悪い人たちに連れ去られたんだもん」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「南? どういうこと?」
南は、涙と一緒に流れてきた鼻水を吸いながら言った。
南「うん……ツルツルのおじいちゃんと……お姉ちゃん」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「その話は、何回も言ったじゃないか。 僕が、情けなかったばっかりに……」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「気にしないで。 夕方まで逃げられただけでも、良かったほうなんだから」
そう言って、弟1を見た。
弟1(現代人の生き方を追求した)「な、何か用ですか?」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「いや、別に……」
弟1(現代人の生き方を追求した)「こう言いたいんですよね? 『開始1時間で捕まったダサい男』って言いたいんですよね? (泣」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「いや、そうは言ってないですよ。 だから、余計な詮索するなって言っただろう?」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「ごめんね、つい」
南「ってか、さっきから臭いよ!」
トイレの方を指さしながら言った。
のび郎の妻「な、何よ! あんただって、私たちがここに来るまでトイレしてたじゃない!」
のび郎の息子1「く、臭くないもん! 臭いのはそこのおじさんの口臭だよ!」
今度は、弟2の方を指さしながら言った。
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「ぼ、僕は臭くないよ!(恥 毎朝『ノドヌールスプレー』『ガスピタン』を飲んでるし」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「南、もう何でいつも人に喧嘩を売るようなことを言うの!(泣」
のび郎の息子2「パパぁ、パパも何とか言ってよぅ」
のび郎「黙れ!(怒) そしてざまあみろ!
まさか、迷子探し機『ご飯だよー』にあっさりと引っ掛かかって、のこのこと捕まりに行くとはな!(笑)」
のび郎の妻「バッカじゃないの? 子ども達がお腹をすかしたっていうから、仕方なく森から出てきたんじゃない!」
のび郎「えーい、黙れ黙れ! わしゃぁ、もう我慢ならん、ここから脱出するぞ!」
のび郎の妻「勝手にキャラ変えないでよ、このおたんこナス!」
のび郎「ああ? 何だその何とか那須与一ってのは? 大体、おたんこナスという単語が出てくる時点で、昭和の香りがするぞ!」
のび郎の妻「な、何よ! あなただって昭和生まれじゃない! というか、私たちほとんど昭和生まれじゃない」
のび郎以外の全員「……」
のび郎「いいだろう。もう、俺は何も言わない。 離婚だ離婚!」
のび郎の妻「何も言わない? 今言ったじゃない、『離婚だ離婚』って!」
のび郎「そういうのを詭弁だというんだよ、このボケコラ煮物ォ!」
のび郎の妻「……謝りなさいよ、全国の煮物に!」
のび郎「ああ? 何つった?聞えましぇ〜ん♪ 」
のび郎の妻「煮物に謝れッつってんだよ、このド低脳がぁ!」
のび郎「ああ? 何で、俺がそんな糞つまらないことに付き合わなければいけないんだ?」
のび郎の妻「……皆、帰るわよ」
そういうと、息子1の尻を拭いた。
のび郎「かえるって……どこにだよ? 俺達はなぁ、俺達はなぁ、死ぬんだよ!」
弟1(現代人の生き方を追求した)「もう……ね? どうして、こんな目にあったのやら……(泣」
弟1(現代人の生き方を追求した)は、捕まった時のスーツ姿で体育すわりをした。
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「そういえば、昔体育座りしたら、背が伸びないって言われた事あるよね」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「え!? そうだったの? 道理で、私170センチ以上伸びなかったわけね……」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「いや、そんなにあったら、もう十分だと思うけど……」
南「パパ! トイレ!」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「……もう8歳だろ?」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「あなた、本当にバカね。底なしのバカよ……南は、女の子なのよ!」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「そうか! こんなに人がジロジロ見てたら、できないのか!」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「ってか、私もトイレしたいんだけど(恥 」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「くっ……そうか……この際、恥なんか捨ててしまおう!」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「だ が 断 る」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「べ、別にいいじゃないか! だって、ここに居るのは親戚一同だけなんだから!」
そう言うと、弟2は室内を見渡した。
弟1(現代人の生き方を追求した)は、目をそらした。 のび郎とその息子達は、こちらをガン見していた。
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「……何してるんですか?」
のび郎「男には、見ておかなければいけないものがある」
息子1「ある!」
息子2「あるある!」
のび郎「あるある探検隊! あるある探検隊! あるある大事典! 歌のベストテン!」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「……どうしよう」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「だから言ったじゃない!(泣 こんな変態が居るから、トイレしたくないのよ!」
のび郎の妻「……この人たちは、私が何とかするから、貴方達は早く済ませなさい」
そう言うと、のび郎の妻は側でニヤニヤしていた男三人を見た。
10分の間、留置場内の男たち(弟2除く)は、耳と目を両手でふさがれ、室内の隅に追いやられた。
弟1(現代人の生き方を追求した)「やれやれ……さっきは酷い目にあったな」
のび郎「さて、そろそろ行くか」
のび郎の妻「行くって、どこによ?」
のび郎「外だよ。 このまま殺されるより、脱出しようとあがく方が、ここで12時になるのを待つより、ずっといい」
弟2は、トイレットペーパーのロールに最後のトイレットペーパーをくっつけながら言った。
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「え? どうするんですか?」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「私たち、脱出に使えそうなものなんて持ってないわよ?」
のび郎「いや。 一人、犠牲が必要になる。 それで、十分だ」
のび郎の妻「犠牲?」
南とのび郎の子ども達以外の大人は、ごくりと唾を飲み込んだ。
のび郎「俺の正義の打撃で――一人を吹き飛ばす。 その時、その一人が壁にたたきつけられる。
そいつが叩きつけられたとき、叩きつけられた壁は崩壊する。 そっから、全員脱出だ。いいな?」
のび郎以外の全員「……」
のび郎「ん? どうしたんだ?」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「いや、縦読みでのび郎5連続なんだけど……orz 」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「あんた、バカじゃないの? こっから出れたとしても、外に人が居るじゃない! 絶対脱出なんて無理よ」
のび郎の妻「大体、誰が犠牲になるって言うのよ?」
のび郎「そっちかよ!? ふん、もちろん決まってるだろう……あなたですよ」
そういうと、弟1(現代人の生き方を追求した)の方を指さした。
弟1(現代人の生き方を追求した)「はあ? 何で俺? 俺、あんたらに何かした? 」
のび郎「いいや。 お前は、一番初めに政府に捕まった。よって、君はバツを受けなければいけない」
弟1(現代人の生き方を追求した)「いや、おかしいだろその理論!
プロ野球選手が1度でも試合に負けたら、『君、死んでよ』って言われるようなものだろ!」
のび郎「大丈夫だ、正義の打撃を喰らっても、死にはしない。ちょっと、記憶がなくなるだけだ」
弟1(現代人の生き方を追求した)「いや、マズイだろ。 生き地獄じゃね?」
のび郎「考えてみろ……お前を失って、悲しむ人間が一人でも居るか?」
弟1(現代人の生き方を追求した)「!?」
弟1(現代人の生き方を追求した)は、周りを見渡した。
弟2(のび助に柿を食べたいとせがんだ)に、妻と娘が寄り添っている。
のび郎の妻に、子ども達がくっついていた。
俺は……一人だった。
誰かと付き合っていなかったわけではない。 女の子との経験も少ないわけではない。
でも……さすがに、結婚までは……行かなかった。 軽すぎると言われたこともある。
のび郎は、拳に白いものを巻いた。
のび郎「さあ、殴られる覚悟はできてるよな? 俺はできてる」
弟1(現代人の生き方を追求した)「……できない。 どうせ、俺はこのまま死んだ方が良いんだよ。
だから、俺はお前に殴られる事を拒否する」
のび郎「じゃあ、俺はお前の拒否を拒否する」
弟1(現代人の生き方を追求した)「じゃあ、俺はお前の拒否の拒否を拒否する」
のび郎「じゃあ、俺はお前の拒否の拒否の拒否の拒否を拒否する」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「もういい、しつこいよ」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「いいから、早く誰かそいつに殴られなさいよ」
のび郎「そいつ? 一応、僕にはのび郎という名前があるんだけど」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「そうだよ、失礼だよ。謝りなよ」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「ごめんなさい……」
のび郎「分かればよろしい。 早く、壁側へ向かいたまえ」
しかし、弟1(現代人の生き方を追求した)は後ろを向いたままだった。
弟1(現代人の生き方を追求した)「俺はな……脱出しようとも、生きようとも思わない。
ただ、俺の心の檻からは……脱出したかった」
のび郎「かっこつけんな、タコ」
そういうと、正義の打撃を撃つ体勢に構えた。
その時、世にも奇妙な物語の音楽が聞えた。同時に、声が続いた。
アナウンス音「えー、現在午後10時20分です。 まだ全員捕まっていませんが、皆さんには今すぐここを出て行ってもらいます」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)「というか、まだ全員捕まってなかったんですか……奇跡ですね」
南「太陽に沿って歩いて〜〜♪」
弟2(柿を食べたいとせがんだ)の妻「それもある意味、キセキね」
アナウンス音「ガス室で刑を行う計画だったんですが、貴方達を東京タワーのてっぺんから落とすことにしました」
全員「……」
室内の天井から、白い煙が出てきた。睡眠ガス。 15秒後、あれほど騒いでいた人々は静かになっていた。
同時に、ガスマスクをつけたSPが4人、室内に入ってきた。
野比ムナシは、しばらくの間呆然としていた。 体からは、水滴が滴り落ちていた。体中が塩臭い。
どうして、夢の国に光がついていないのか。どうして、人の声がしないのか。 あの夢の国――ネズミーランド。
ムナシは、まさに6741かった。 虚しい。 戦争は――虚しい。
ムナシは元々、争い事が大のニガテだった。 闘争本能の無さは、のび太と通じる所があった。
どうして、受験戦争をしなければいけないのか。どうして、オーディションに賄賂を使う人がいるのか。
どうして、僕達は戦わなければいけないんだろう。
気づけば自分は大人になっていた。 仲良くなった友達は、次々と就職していく。
アルバイト(寿司屋・白い粉を売る業者・宅急便等)をしながら、劇団に居つづけた。
少しは、テレビドラマのエキストラをした。なぜか、買い物番組のサクラになったこともあった。
正直、そっちの方が金になったので、これを生活の足しにした。
5年くらい経ち、高校の同窓会に行った。友達全員が名刺を出したとき、僕の心は震えた。
ムナシは頭を振りながら、足についた『快速シューズ』を外した。同時に、エラ・チューブを鼻から取り出した。
時計を持っていないから、今が何時なのかわからなかった。
とりあえず作業服のような私服を脱ぐと、タンクトップ一枚になった。
ムナシ「これで、風邪ひかないな。 夏風邪はかかると直りにくいって言うし……」
ムナシは指示どおり、東京湾に向かって泳いだ。死力を尽くして泳いだ。 呼吸というより、腕が痛かった。
長い間動かしていなかった、腕の筋肉。 劇団を追い出されそうになってたいのにも関わらず、トレーニングを怠っていた結果だ。
ネズミーランドのゲートが、遠くに見えた。街灯がついているものの、驚くほど人は居なかった。
まあいいや――人が居ないのなら、それに越した事は無い。 ムナシは、ぼんやりとネズミーランドのゲートに歩を進めた。
ムナシ「すげえ、ゲートが全開だよ。 それどころか、人が居ない!?」
閉園時間は……? 実を言うと、ムナシは一度もネズミーランドに行ったことが無かった。
行ったことがあるのは、潰れかけの遊園地だけであり、本人は気づいていないが――彼の行く遊園地は全て潰れるというジンクスがあった。
ムナシ「とりあえず、時計を捜そう!」
がらがらの園内に入ったムナシは、殆ど子どものようにはしゃいでいた。テレビで観た事がある活気はない。
でも、人に見つかるよりはずっといい。
ムナシ「僕以外、誰も居ない! 僕は、遊園地にただ一人だ!」
しかし、大きな広場に出た頃、ムナシの熱は既に冷めていた。 誰も居ない遊園地。誰も居ない。
急に、さびしくなってきた。 今日の記憶が、鮮明に蘇ってきた。
電車に揺られて、千葉に逃げた事。 寝過ごした事。 慌てて、荷物を置き忘れたこと。
あてもなく彷徨いつづけ、地元の高校生に集団リンチされかかったこと。 警官が通りかかり、警官に素性をばれる前に逃げ出した事。
そして――お腹がすき、コンビニに行った。 そこで、のび太と学生服の男に会ったこと。
それからは、楽しく、熾烈でスリリングな戦い。 コミケで逃走したのも、いい思い出だ。
怖かったなあ、ガッコー仮面。 優しかったなあ、兄さん。 バカだったなあ、のび太君。
ムナシ「誰でもいい……! 捕獲委員でもいいから、でてきれくぇ!」
その時だった。ムナシの全身に、光が降り注いだ。 アトラクションのある方角から、集団が近づいてくる足音が聞えた。
ムナシは目を抑えながら、その方向を見た。 そこからも、虹色の光が出てきた。
その光の中央に、どこかで見たことのある少年が立っていた。数時間前に見た――出木杉英才だった。
出木杉英才の周りには、黒服の男が4人ほど立っていた。
ムナシは、出木杉英才がニヤリと笑ったのを見ると、体が動いた。しかし、気づいた時にはもう遅かった。
広場中の光がついた。もしこれが、恋人に贈るサプライズ(朝まで貸し切り)だったら、どれほどよかっただろう。
無論、これはサプライズでは無い。 野比捕獲委員会の、手荒い『確保活動』だった。
ムナシ「マジかよ……」
ムナシは自分自身、なぜそのような言葉が出てきたのか分からなかった。でも、僕は言わずにはいられなかったんだ。
自分の周りにいるのは、全員が捕獲委員。それぞれ、服装は違う。だが、それは違いにはならない。
全員がゴーグルをかけ、赤いヘルメットをかぶっていた。そして、左腕につけた黄緑色の腕章。
それが、捕獲委員を示す、何よりの証明である。
全員が、ショックガンや空気砲等をめいめいに持っていたのである。ムナシが呆然とする中、出木杉英才は話し始めた。
出木杉英才(以下出木杉)「やあ、ムナシさん。気分はどうですか?」
ムナシ「何もいえねえ」
捕獲委員H「高校を卒業した時の、アルバムの寄せ書き一覧は?」
ムナシ「何もねえ」
捕獲委員E「大将、寿司頂戴」
ムナシ「いよっ! 寿司くいねぇ!」
出木杉英才はため息をつくと、突然横槍を入れた捕獲委員に向けて、ドリームガンを2発撃った。
同時に、さっきの2人が倒れた。
捕獲委員達が、ざわざわと騒いだ。 ムナシは、ごくりと唾を飲み込んだ。
出木杉「現在、午後10時28分。 シミュレーションの9時より大幅に遅れてしまいましたが、何とか終わりますね」
ムナシ「ど、どうして僕がここに居るって分かったんだよ!?」
出木杉「簡単ですよ。 あなたには、2つ発信機がついていたんです。まあ、一つは外れましたがね」
ムナシ「いつだ? いつつけたんだ?」
出木杉「一つは、都内の女子大生が。もう一つは、コミケの会場で静香ちゃんが」
ムナシは、全身から力が抜けるのを感じた。
ムナシ「そ、そんな……それじゃあ、僕の行動は全て読まれていたというのか……orz 」
出木杉「そういうことです。 あなたの居る所を捜せば、そこが野比の隠れ家。 簡単でしたよ」
ムナシ「ふん……バカが! これだから、小学生ってのは嫌だね。 自分の思っていることが、全て正しいとでも思ってるのかい?」
出木杉「……」
ムナシ「みんながいる! 僕は、捕まらない! 僕が捕まっても……みんなが居る」
出木杉「これだから、大人は嫌なんですよ。すぐに子どもをバカにする。 ……少しは、自分達の力の無さを認めたらいかがです?」
ムナシ「バーカバーカうんこうんこ! ベーだ! 怪人ヨーダ!」
出木杉「……あなたの『みんな』は……もう捕まったんですよ。 あなたは、最後の一人。
つまり、あなたを捕らえれば、僕らの勝利です」
ムナシは、戦慄した。 今すぐに、ここから逃げなければいけないと、本能が警告を発した。
しかし、周りには数えられないほどの赤いヘルメットの波が続いている。
ムナシ「……! う、ウソだ! こ……これは夢です! 僕は認めない! 夢! さあて、もう一度寝るか」
そういうと、ムナシはおもむろに横になった。口がかさかさに渇き、歯がカチカチと震えているのが分かった。
ゲンジツトーヒ? 何? 新種の鹿?
出木杉英才はやれやれといった感じで首を振ると、左手を上げた。
出木杉「さようなら……ムナシさん」
捕獲委員達は、ムナシに向かって走り出した――
ボッガァァァン!
鼓膜が破れそうな爆音が響いた。捕獲委員達の動きが止まり、出木杉英才は、その方向を見た。
出木杉「!? これ以上、仲間は居ないはず……?」
ムナシは、思わず目を開けた。 いや、僕は、本当に運がいい――ツキのツキを食べたからだね♪
シンデレラ城の上。 髪がボサボサの少年、眼鏡をかけた少年、黄色いトラ模様。
三人は、某女性グループの格好をしていた。
タダシ(以下タダシ)
「たーちゃんです! ベトナム戦争も、湾岸戦争も、
光化学スモッグも、世界恐慌も全て僕が悪いんです!」
がり勉(以下がり)「がりゆかです♪ 今、数学Bやってます♪」
トラえもん(以下トラ)「とっちでんがな♂
ほんまちゅうと、わて、ドラえもんの影なんやで♂」
タダシ&がり&トラ「三人合わせて、Perfumeです!」
ムナシ以外のその場に居た人達「……? え? 新手のテロリスト?」
出木杉英才は、必死で自分の記憶を引き出していた。こいつらは、一体何なんだ?
構わず、捕獲委員の一人が、歩を進めようとしたとき――
3人のうちの一人は叫んだ。
タダシ「動くな! 今、この夢の国『ネズミーランド』に、爆弾を仕掛けたぞ!」
がり「そ……そうだす」
トラ「わいの本名、朝田寅治郎ゆうとりますけん、ほんまにおーきに」
ムナシ「偽の関西人に、めがね君に、もう一人の少年達よ! どなたか存じませんが、ありがとうございます!
さあ、僕をここから救い出してくださいよ!(涙 」
ムナシの呼びかけに、三人衆は反応した。
タダシ「ぼ……僕は……ただ……謝りたかっただけなんです。この世界に」
ムナシ「はぁ?」
がり「……出木杉、僕は……まだ、あの苦しみから抜け出せないでいる」
ムナシ「あの苦しみ?」
トラ「詳しくは、『真夜中の電話魔』を読んでね! まあ、わいも、出番が欲しいだけやっちゅうねん?
それに、わいの関西弁は南山形仕込みやっちゅうねん 」
出木杉英才は、閉じていた目を再び開いた。
出木杉「……で、君たちは一体何なんだい? 謝罪? 嫌がらせ? 冷やかし? 」
捕獲委員達は、しきりに時間を気にしているようだった。 しかし、SPはピクリとも動かない。
タダシ「拝啓 野比一族の皆様 このような事態に至った事を、心より深く申しあげます。
あなた方は、大統領の『茶番劇』に付き合わされていただけです。
元々、貴方達がこのゲームに参加させられたのは、理由があります。
それが、今回の『茶番劇』の真相です」
出木杉英才は、一瞬固まった。 SPは依然固まったままだったが――ムナシはここで、出木杉英才の異変に気がついた。
あそこまで冷静だった出木杉英才の表情が、動かない。
ムナシはチャンスとばかりに、シンデレラ城の上に居る三人組に呼びかけた。
ムナシ「おーい、素敵な三人組! 素敵女子! とりあえず、この人たちを引き付けといてよ! 僕は逃げるから」
タダシ「今回の『茶番劇』は、正確に言うと大統領だけの責任ではありません。 今回の事件の原因は全て野比のび太にあります。
野比のび太は――」
ここまで言うと、出木杉英才がタダシの発言を制した。
出木杉「もういいよタダシくん。 君たちは……今回の『野比狩り』の意図を知ってしまったんだね。
それなら――君達をもうここから生きて返すわけには行かないよ」
ムナシ「!? な、なんだって!? 君ら何か、すっごい重大なことを知ってるの?」
出木杉「捕獲委員の皆さん、発砲を許可します」
ムナシは、再び戦慄した。 周りにいた捕獲委員達が、めいめいに銃っぽいのをこちらに向けた。
多分これらはひみつ道具なんだな――ムナシはそう認識した。
がり勉「ふふ……ひひ……ぐげはやははじゃあじゃじゃあ!」
トラ「つうか、どんな笑い声やねん! まあええわ、とっとと作戦Gを始めますか」
出木杉「作戦G? 何だい、また煙玉でも使ってみるかい?」
トラ「作戦Gとは……『作戦Generation』の略だよ。 誰にも、語呂が悪いだなんて言わせないぜ」
ムナシは、ここで気づいてしまった――彼が、普通の口調で喋ってしまっているのを。
しかし、ここはあえて突っ込まないようにした。
ムナシはすぅと息を吸い込むと、空を仰いだ。
ムナシ「あっ! 矢追さんが空を飛んでる!」
捕獲委員の人々「え!? どこどこ?」
ムナシは全身全霊を込めて、捕獲委員が3人しか居ない所に体当たりを喰らわした。
思いのほか、空を見ていた捕獲委員達はどっと倒れた。
出木杉「SP、行け」
指示どおり、出木杉の周りにいた2人のSPは、ムナシに向かって突進してきた。
せっかく、捕獲委員の波は突破できたのに――ムナシは唇を噛んだ。
同時に、夜空にキ○ガイじみた少年が舞った――というよりは、地味に落下傘で降りてきた。
タダシ「ごごごごごおごおおおめんなさいいいい」
SP「!?」
SPの上に、タダシが突っ込んだ。 ムナシは、タダシ少年の勇気に感動した。まさに自己犠牲。
ムナシ「た、タダシくんっ!」
出木杉「……結局はただの馬鹿ですか……」
トラ「タダシ、頑張るんや! 謝るのは今や!」
がり勉「出木杉、タダシの力をなめるな! てめーは一生辛酸をなめてろ!」
間もなくSPが起き上がると、タダシに四の字固めを仕掛けた。
タダシ「いだだだだ! 痛い、ちょっと痛い、大分痛い! 転んですべって大分県!」
しかし、SPは黙ったまま腕の強さを強めていく。 タダシの四肢が、バキボキと唸った。
ムナシ「タダシ君! 死んだら嫌だ! (泣」
トラ「あんさんはホンマあほやな! タダシは、お前の為に耐えてるんやぞ!」
ムナシ「えっ……!? そうだったのかいタダシくん?」
タダシ「ごめんなさい! 本当になんかごめんなさい! アーレフもオゾンホールもコンピュータウイルスも、全て僕が悪いんだ!」
出木杉「謝れば、全て解決すると思ってるのかい? 許されると思っているのかい?」
タダシ「ぷっ……。 解決? ……許される?
世間の政治家は、謝罪する気なんか毛頭ない! もちろん、お前らにもな!」
トラ「な……なんてことやあ!」
がり勉「まさか……世間の政治家のホンネを全て代弁しようとするかの暴挙!」
出木杉「ああ、そうなのかい。 それじゃあ、もういいよね?」
タダシ「は?」
出木杉英才は親指を突き立てると、それを一気に下に振り下ろした。
その行為がどういうものであるか、ムナシは重々理解していた。だから、既に闇のほうへ消えていた。
SP「Shat!」
SPは、タダシを掴み上げた。
果物のジュースを作る工場の最初の過程――オレンジをすりつぶすような音が聞えた。
しかし、舞ったのはオレンジの果実ではなく――赤黒い液体だった。
タダシ「っふゃ」
SPはタダシを振り落とすと、それから赤い血を振り払った。
トラ「たっ……たーちゃぁぁぁぁんんん!!」
がり勉「う……ウギャアアアア! ウンバホ氏! ウンバホ氏を呼べ! 今すぐザオリクをかけよう!」
その光景を見ていた捕獲委員の何人かは、ゲロをはいた。
出木杉英才は、ポケットからボンタン飴を取り出し、丁寧に包み紙をとり、口に放り込んだ。
出木杉「捕獲委員は、ムナシさんを追いかけて下さい。 残りの二人は、僕達が始末するから」
出木杉の指示が出されると、捕獲委員達は一斉に、ムナシの走っていった方向に向かって駆けて行った。
トラ「なんてことや……たーちゃん、マジ死んでしまったんだわさ」
がり勉「クッ……出木杉! ロシアンルーレットで勝負しろぉ!」
そういうとがり勉は、おもむろに回転式の銃を、出木杉の方に放り投げた。
しかし、あまりにも投擲力が無いため、実質出木杉よりも15メートル離れているSPが、それをキャッチした。
出木杉「……何の真似だい? 僕に勉強で勝てないからって、今度は運で勝負するつもりかい?」
がり勉「……先攻はお前だ」
出木杉英才は、銃のグリップを握ると、そのまま銃口をがり勉に向けた。
がり勉「!? どうした? 早く撃てよ?」
出木杉「君は馬鹿かい? こんな子供だましで引っ掛かるほど、僕は阿呆じゃない。
この銃は全て……弾が装填されている。 つまりこれを一発でも撃った場合、最初に撃った方が天国行きなんですよ」
がり勉は、じだんだふんで悔しがった。物も言いたくなくなった。
出木杉英才は、おもむろに引き金を二発絞った。
一つ目はチュインという音が聞えた。もう一つ目は、ブッという音。
トラえもんのボディに、銃弾は効かない。 ただし――もう一人は人間である。
もしこの話が、『突然キャラクターが覚醒して、強くなる』『本気を出して、強敵を倒せる』話なら、
がり勉の腹に、銃弾は貫通しなかっただろう。
しかし、がり勉はどちらかというとおおよそ運動とは縁の無い人間だった。銃弾を避ける等という芸当が、できるはずもなかった。
トラ「がり勉……! 馬鹿かお前は!」
がり勉「ゆ……雪平さん……」
悲劇は億千万
子供の頃やったことないよ ありもしない記憶だ
カンカン帽 頭に ウルトラマン ウルトラマンセブン(観た事無い)
子供の頃 懐かしい記憶
葬式とかのときに 焼香頭に乗せて
サンバルカン サンバルカン (観た事無い)
でも今じゃそんな事も忘れて(そりゃそうだ)
PCにすがりつくように 毎日生きてる
振り返っても(忘れていた白い寄せ書き)
あの頃には(はぶられている自分)戻らない(友達?居るの?)
ウルトラマン ウルトラマン
セブン(観た事無い)
君がくれた拳は 億千万 億千万
過ぎ去りし季節は トラジック
子供の頃 やった事あるぜ
エロ雑誌の 袋とじ開けて
エッフェル塔 エッフェル塔 ズン!
大人になり 忘れたい記憶
早すぎる 思春期に 中指を立てて
ダミアン ダミアン 語呂悪い!
でも今じゃそんな事も忘れて(そりゃそうだ)
PCにすがりつくように 毎日生きてる
振り返っても(イジメ後の 落書きに泣き)
あの頃には(死ねと書かれたページには)戻らない(殴られらたガキ大将の名前)
ウルトラマン ウルトラマン
セブン(観た事無い)
ただあの頃 振り返る 虚無感に満ちた
友情を知らないままに
ドルマゲス ドルマゲス 去ね!
でも今じゃそんな事も忘れて(そりゃそうだ)
PCにすがりつくように 毎日生きてる
見過ごしてた過失は 億千万 億千万
過ぎ去りし季節は トラジック
君がくれたイビリは 億千万 億千万
過ぎ去りし季節は トラジック
がり勉は、口から赤い泡が吹き出ている。
出木杉「無能……それこそが君達の命取りなんだよ」
出木杉英才は、ふうとため息をついた。SPは、相変わらず表情を変えないままである。
トラえもんは、なぜか釣り針を取り出した。
トラ「無能? で?」
午後10時00分 最後の一人の確保体勢を、『ディズニーランド』に敷く
午後10時28分 捕獲委員500名及び出木杉英才委員長並びに側近が、園内にて接触。
(第1回名字狩り推進委員会メインコンピュータより)
この話は続きます。
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