Nの悲劇
〜私とドラの10の約束〜

 

 

第4話 午前中ってだれるよね

野比のび助(以下のび助)「ふう……ここまで来れば大丈夫だろ」

 野比のび助は、セルフ仮面からもらった石ころぼうしに、塗ってもらったチーターローションのおかげで、
埼玉県の県境を越え、秩父市を越え、小野鹿(おのが)町まで来ていた。

 秩父市に入ったとき、初めて捕獲委員を見た。 息子であるのび太と同じように、心臓が飛び跳ねた。

赤いヘルメットをかぶっていた。黄緑色の腕章もしている。菊のマークがアクセントとしてついていた。
 その捕獲委員は、工事現場に居そうな人だった。本当に、無作為に選んでいるのだと分かった。

そして、自分と同じようなサラリーマンも、捕獲委員として活動していた。同じような人間を、4人ほど見た。

野比のび助は、強烈な自己嫌悪にかられていた。確かに、最初は自分は助かる、と希望に満ち溢れていた。
 そうなのだ。チーターローションは確かに1時間で切れたが、もう埼玉県まで逃げている。それに、自分の姿は他人には見えない、と。

しかし――秩父の大きな交差点、そこにあった大きなTVが、報じていた。

『野比、早朝にもう一人捕獲 これで残りは10人に』

 

 弟(現代人のライフスタイルを追及していた)が深夜に捕まった。自分が連絡したせいでこうなったのだ――。
そして、早朝にのび郎が捕まった。他の家族は? のび郎だけ、離れ離れになったのだろうか?

 のび郎は慌てて家族を探して、そこで捕獲委員に見つかった。

のび助は、罪悪感に耐え切れず石ころ帽子を外そうとした。しかし、外せなかった。やはり、俺は偽善的な奴なんだ。
結局、自分がかわいいんだ。そうだろ? 冷静に考えてみろ、息子を置いて自分だけ逃げる親がどこの世界に居る?

 そんなんだから、玉子にも愛想を尽かされたんじゃないのか?

 

玉子。卵ぉ! スクランブルエッグ。 目玉焼き。目玉の親父。 星の王子様のカレー。

ダメだ、頭が変になりそうだ。

 

 たまらず、石ころ帽子を外した。 路地裏だから、外したのだ。やっぱり僕は臆病で卑怯な奴なんだ。

そのときだった。

 

?「あなた……?」

のび助は、はっと顔を上げた。

路地裏の出口に、その声の主は居た。結んだ髪、丸い眼鏡――忘れもしない、離婚届を突きつけた野比玉子だった。

野比玉子(以下玉子)「やっぱり、あなただったのね……グスッ」

のび助は、思わず野比玉子を抱きしめようとして――駆け寄った。しかし、すぐに立ち止まった。

俺に、玉子を抱きしめる資格なんてあるのだろうか?

のび助「玉子、ごめん。俺、どうかしてたんだ。昨日はどうかしちゃって……
     夕食はカレイを水につけて、そのまま生で食っちゃったんだ

玉子「もう、なれない料理なんかするからよ」

のび助「ああ。本当に、玉子が居なくなって、俺……いや僕は分かったんだ。 君は、僕にとって大切な存在なんだ」

玉子「もう……遅いわよ」

玉子は、両手で顔を覆った。のび助は、思った。違う。玉子は俺の能力が嫌になったんじゃない。

俺の中途半端なところが――!

 

玉子「ねえ」

のび助「どうしたんだい、玉子?」

玉子は、静香にのび助にかけた手をおろした。

玉子「私ね、もう野比じゃないの」

のび助「ええ? 僕達、まだ正式には離婚してなかったじゃないか!

玉子「残念ねえ。 家、がら空きだったわよ。あなたのはんこを使うことぐらい、簡単じゃない

 のび助は、目の前が真っ暗になったような衝撃が走った。パチンコで大負けした時も、競馬で負けたときも同じ感覚に陥った。
うっ、胃が痛くなってきやがった。 めまいもする。

のび助「ぼ、僕のはんこを勝手に使って……まさか、もう離婚届を出したのか?

玉子「もちろん。だから――」

のび助の背後で、大きな音がした。のび助は、ばっと振り返った。

 そこには、赤いヘルメットの波がたくさんあった。20人くらいの捕獲委員が、すぐ後ろに居た。

のび助「玉子! どういうことだ!」

玉子「言ったでしょう? もう野比じゃないって……! 私は、あなたに復習するために、鬼となったのよ!」

のび助「か、幹事が間違っているぞ! 復!」

玉子「あなたこそ、漢字じゃない! もういいわ、既に通報済みだから。捕獲委員の人たち、あの人です!

捕獲委員の方々「ぉぉぉぉうぉ」

 謎の奇声を発し、のび助に近寄ってきた。

 

のび助は、すぐに体の方向を変えると、走り出した。自分でも驚くほど、体が軽かった。
 一気に表通りへ出ると、たくさんの人波があった。当然だ、今は日曜日なのだから。ぞぞぞ、と後ろから捕獲委員の走る音が聞こえる。

のび助は構わず、人波に突っ込んだ。「きゃっ」とか「うぉっ」等の声が聞こえた。たくさんの人波の中を突っ走った。
何度も人にぶつかった。

早く、逃げなければいけない。のび助は無我夢中で走った。死力を尽くして走った。

 大勢の人が、携帯電話を顔の横につけていた。通報? そう、恐らく携帯を持っている殆どの人が通報しているのだろう。
そんなに金が欲しいのか? 残念だなあ、既に玉子が10万円を獲得しているのに――。

玉子。どこに行ったんだ、君は。あの頃の、控えめでかつ”ピー”の時は大胆だった、君はどこへ――

 刹那、のび助の眼前に大きなものが現れた。一瞬、大きなダンプカーが突っ込んできたのかと思ったが、違う。

プロレスラーだった。確か最近、お笑いに出てた元アイドルと結婚した――

『クラッシャー大岩』

 

 グシャッと、音が聞こえた。それが自分の顔を平手打ちされた音とは思えなかった。
のび助はつつっと、鼻血が鼻腔から流れ出てきたのだと知ると、そのまま倒れた。体が熱かった。今が夏の午前中とは思えぬほどだった。

ざざ、と捕獲委員がのび助を取り囲んだ。

捕獲委員I「おい、コイツ死んでるんじゃないのか」

クラッシャー大岩「大丈夫です、急所は外しましたから。 それで――あの、謝礼の方は」

捕獲委員Iは、困ったように他の捕獲委員を見た。
 集まった捕獲委員の内訳は、自営業4人、公務員7人、大学生2人等――本当に、ただの一般人が集められたのだ。

のび助は、自分を賞賛していた。よくやったよ、僕は。まさか、まだこんな年になっても走れるなんて。
高かった、ランニングシューズのおかげかな。

クラッシャー大岩「100万。 どうしたんですか?」

捕獲委員I「こちらでは、判断しかねません。1番近くの――秩父市役所に聴いてみて下さい」

クラッシャー大岩「分かりました、行ってみます」

そういうと、大きな巨体をゆらしながらクラッシャー大岩は大通りを颯爽と歩いていった。
そばで、何人かの若者達が、携帯電話で写真を撮っていた。

 

 

捕獲委員の一人がのび助の体に触ろうとしたとき――

フクロマン
「しゅーちしん♪ しゅーちしん♪
 俺達は〜〜♪」

捕獲委員I「!?」

フクロマンが、滑空して降りてきた。

フクロマン「残念だったな!パパ、もう大丈夫だよ! さあ、パパに手を出す奴は容赦しないよ、かかってきやがれってんだっふんだ!」

一瞬、捕獲委員達は唖然としていた。そりゃそうだろう。突然、赤いマントをつけた全身茶色タイツの男が現れたのだから。

捕獲委員I「構うな、こいつも確保だ」

学生の捕獲委員2人がフクロマンに触ろうとした瞬間――バチッと音がした。

学生の捕獲委員「アツッ! 何だこの怪人、エネル?」

フクロマン「フハハハ!我は神なり! ……じゃない! 『ちく電スーツ』を着ているんだよ諸君

捕獲委員I「……逃げた方がいいぞ、俺が報告する。夕べも東京に現れたらしいぞ、変な怪人が」

 捕獲委員Iは冷静に判断すると、他の捕獲委員と共に、のび助の元から離れた。

フクロマンは、すぐにのび助にかけよった。

フクロマン「大丈夫、パパ?」

 フクロマンは、自分がちく電スーツを着ているままということを、すっかり忘れていた。

『バチバチッ!』

のび助「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜(泣!」

 フクロマンは、悪魔のパスポートを使って練馬区の王様になったものの、所詮は自己満足だったので、
急に虚しくなり、東京を離れていたのだった。

フクロマン「セルフ仮面、パパを助けたよ!」

 

 

 いよいよ朝が昼に変わろうかとしている頃、のび太とガッコー仮面は千葉県の白井市に居た。

野比のび太(以下のび)「どうしよう……本気でジャイ子ちゃんに惚れたかもしれない」

ガッコー仮面(以下ガッコー)「はあ? 本当にお前バカじゃないのか? ……」

 あの夜のことが忘れられない。のび太は、必死で忘れようとしていた。しかし、忘れられない。ジャイ子のあの顔。
一体、僕はどうしてしまったんだろう――?

のび太達は、ジャイ子に言われるがままに駅から電車に乗った。 そして、1時間かけて千葉まで来たのだった。
 幸いにも、駅員以外誰にも会わなかった。 夜のうちだから、逃げられたのだ。

 ガッコー仮面はとりあえず、通りかかったタクシーをつかまえ、水圧銃を突きつけ、タクシーのジャックに成功した。

朝6時までに、とりあえず走れるところまで走らせた。朝になり、まずいということになり、タクシーを降りた。

もちろん運転手には、『ワスレバット』を行使した。

 そして今、コンビニの裏のなんか熱いところにたむろしているのだった。

 

ガッコー「ちょっと待て、今セルフ仮面から連絡があった。群馬県の親戚? 一人捕まったらしい」

のび「えええええ? ちょww 早くも2人目ww」

ガッコー「どうした? 感情が抑えきれなくなって、遂に壊れたか?」

のび「い、いや、笑ってる場合じゃないよ、だれ?誰が捕まったの?」

ガッコー「のび郎、という男らしい

のび「お、おじさん! あの人、僕にいっぱいお金をくれたんだよ! あの人が死んだら、僕死んじゃうよ」

ガッコー「茨城の親戚の所は、大丈夫らしい。のんきに朝飯食ってたらしいぞ」

のび「……僕も、何か食べたいなあ

ガッコー仮面は、学生服の盛り上がってる方のポケットから、大きなカンヅメを取り出した。

ガッコー「ジャンク……じゃない、コンク・フードだ。 味はチンジャオロースだ

のび「ええ? 僕、中華料理嫌いだよ! あのとろみが嫌なんだ」

ガッコー「文句があるなら、食べなくてもいい。 ……う゛!マズイ」

のび「ほら、君も食べられないんじゃないか」

 

?「すいませえん、携帯電話見ませんでしたか?」

のび太は、ばっと後ろを振り向いた。
 そこには、あまりぱっとしない、髪はボサボサ、作業服を着たような、きわめて地味な男が立っていた。

しかし、のび太はこの人が誰なのか分かっていた。

のび「ムナシおじさん……だよね?」

ムナシ「の……のび太君……か、良かった。僕は、携帯電話を無くしちゃったんだ。それどころか、荷物もなくしちゃったんだ」

のび「相変わらずドジだなあ」

ガッコー「おい、こいつも『野比』なのか?」

のび太は、とりあえずムナシにかけよった。ムナシは、急にしゃがんで泣き出した。

ムナシ「ああ……お腹すいたなあ……どうしてこうなったのかなあ……」

ムナシは、静かに自分の腹に手を置いた。のび太も、全く同じ気分だった。命令? 大統領?
どうなっちゃったんだよ、日本は!

のび「ムナシさん、日本はえーと……なんだっけ。なんとかシュギだったような……」

ムナシは、静かに顔を上げてから言った。

ムナシ「民主主義だろ?そんなのは昔の話だよ。 いまや、大統領が一人で独裁じみたことやってるのさ

 のび太は、急に自分が別世界に突き落とされたような気分に陥った。そうだ、これは夢なんだな。
だって、普通に考えておかしいじゃないか。 どうして、名字だけで殺されたり、追いかけられたり、ラジバンンダリ!

ガッコー「とりあえず、ムナシだったか? お前は、今後も頑張ってもらうからな。少なくとも、今日の夜12時までは」

ムナシ「僕達はシンデレラかい……」

 ムナシは、生きる気力が無くなったように、ぐったりと倒れふした。そして、何かぶつぶつと呟いているようだった。

のび「おじさん、起きてよ! 僕達、もっと人に見つからないような所に行かなきゃいけないんだよ?」

ムナシ「いやだいやだ! 僕、もう歩くの嫌だ! 栄町から歩いてきたんだぞ!(怒)
     もう歩けないよ、もう嫌だよ、もう死んだほうがマシだよ、
     こんな苦しい思いするくらいなら!」

 

ビシッ!

 

ガッコー「愛のムチ!」

ムナシは、顔面にモロに愛のムチを受けた。 そこは、あっという間に真っ赤に腫れ上がった。

ムナシ「痛ってえ! 痛ってえ! 何しやがんだお前ら、血ィ出てんぞ血ィ!(怒)」

ガッコー「いい加減にしろよ、お前! 甥に心配されて恥ずかしくないのか、お前は?」

ムナシ「はあ? 何すんだよ、お前。お前は一体何様なんだよ! さては、仮面捕獲委員だな? 
      見るからに怪しい格好しやがって! 大体なんだ、その仮面は?
     額に『文』って書きやがって! さてはお前、日教組の手先だな? これ見よがしに学ランなんか着やがってよぉ!(怒)
     いいぜ、やってやる、やってやるぞぉ! どうせ、僕を殺すんだろう? 殺られる前に、こっちがやってやるよ!」

のび「落ち着いてよムナシおじさん! その人は敵じゃないよ、むしろ僕達を助けてくれるんだよ

ムナシ「騙されるな、のび太君! こいつは、僕とのび太君を安心させたところで、催涙ガスなんかかけて僕達を弱らせて、
     そのまま千葉市にある留置場に送るつもりなんだ! そうだよな、それじゃあ200万円もらえるもんな!

ガッコー仮面は黙ったまま、催涙ガスをかけた。

ブシューッ!

ムナシ「あぶっ!」

ガッコー仮面は言われたとおり、思いっきりスプレーらしきものをかけた。ムナシは、思いっきり倒れた。

のび「ガッコー仮面、どうしてこんなことするんだよ!」

ガッコー仮面は、チッと舌打ちをして、スプレーらしきものをしまった。

ガッコー仮面「コイツが大声出すからだよ……この場所がばれたらどうするつもりなんだよ……。これは催涙じゃない、催眠の方だ」

 のび太は、黙って自分の目に入ろうとする汗を拭った。ムナシは、ぴくりとも動かなかった。

 

午前9時20分 野比玉子が役所で手続きを終えて、片岡玉子へ。

午前10時43分 埼玉小野鹿(おのが)町にて、野比の一人である『野比のび助』発見。

午前10時55分 野比のび太の護送を邪魔した怪人が再び登場する。
         捕獲委員は危険を察知し、野比のび助を残して退却する。

午前11時2分 捕獲委員が、怪人の存在を政府に報告。奨励金として5万円を授与する。

午後0時 怪人が野比側についたことにより、さらに厳しくルールを改正。
     名字が野比である人々の顔を政府広報のHPにて公開。午後2時までに、
     顔写真は関東地方に広まる見込み。

 

 

第5話 真夏のコミケで一騒動!

野比のび太たち一行は、コンビニの裏で、売れ残りの弁当が包まれた袋が出されると、すぐに飛びついた。

野比のび太(以下のび)「はふはぅ……僕、カラアゲくんがいい!」

ガッコー仮面(以下ガッコー)「落ち着け、弁当だけだ、サイドメニューは無い!」

ムナシ「ムナシだけに、虚しいなあ……

ガッコー「ダジャレ言う元気もあるんだから、さっさと食え、なんでもいい」

結局、のび太は油ギトギトののり弁当、ガッコー仮面はレディース弁当、ムナシはカレーとピラフの詰め合わせを食べた。
 そして早くも、ムナシがグチを言い出した。

ムナシ「うっ! 苦しい……水が欲しい。辛い!」

ガッコー「水ならある。『真水ストロー』をやる。そこで、適当に水道水でも飲んでろ

ムナシは、ガッコー仮面から真水ストローをひったくると、コンビニの側にある水場へと走った。

のび「ムナシさん、楽しそうだね」

ガッコー「必死なだけだろ。早く食べろ」

ムナシ「ウッワァァァアア!!」

 ムナシが真水ストローを掴んだまま、こちらに走ってきた。口の周りにまだ、カレーのルーがついていた。

のび「どうしたの、ムナシさ――」

 

 のび太の言動はここまでで止まった。
ムナシのすぐ後から、赤いヘルメットをかぶった人――つまり、捕獲委員が現れたからである。

ムナシ「ひいいぃいい!」

ガッコー「バカ野朗!何で捕獲委員連れてくるんだよ!」

 野比のび太は、大急ぎで油まみれののり付のごはんと魚フライを口の中にかきこむと、すぐに立ち上がった。

捕獲委員らしき女性2人が、すぐそこに居た。こちらの様子をうかがっているようだ。

ガッコー「チクショウ、ムナシ! お前、水飲んできただけじゃねえのかよ!

ムナシ「ちちち父の日、鼻の日ィ

のび「落ち着いてよ、ムナシさん!」

のび太は思いっきり、ムナシの顔に張り手を喰らわした。

ムナシ「ごご、ごめん、でも信じてよ。本当に水場に行っただけなんだ。水を飲もうとして、このストローを水道の口に近づけた時、
     大きなバイクの音がして――その2人が降りてきたんだ。そして、僕に向かってまっすぐ走ってきたんだ!」

のび太は、すぐに頭に通報の二文字が浮かんだ。そうだ、誰かが、僕達を通報した――
のび太は既に友達から通報されていたが、やはり通報された時のショックからは立ち直る事はできなかった。

ムナシ「どーしよー、まぢで」

ガッコー「お前は、まともに文字の識別ができない中学生の女子か!」

のび「ま、待ってよ、僕達は『野比』じゃないよ!人違いかなんかじゃないですか?」

 のび太の言動に反応するように、赤いヘルメットをかぶったショートカットの方の女は、答えた。

捕獲委員J「あんたらの顔写真が、もう公開されているんだよ!」

続いて、隣のこちらは髪が長い方の女が、腰に巻きついていたオレンジ色のポーチから、折りたたまれた紙を取り出した。

捕獲委員K「どう見ても、この2人の顔だけど?」

 捕獲委員Jの出した、紙。のび太含む三名の視線は、一斉にそこに注がれた。 そして、目がこれまでかと思うほど、見開いた。

 

 

 

 

 

『野比を探しています。国民の皆様、
ご協力願います』
というキャッチフレーズの下に、
10人分の写真があった。

 

 

 

 

上段に、のび助、のび太、ムナシ、弟(柿を食べたいとせがんだ)、その妻。
そして下段には、弟(柿を食べたいとせがん)の娘、捕まったのび郎の妻、その子ども三名。

 

 

 三人は、見とれるように『名字狩り推進委員会』の啓発ポスターを見ていたが、すぐにガッコー仮面が気がついた。

捕獲委員Jは、すっとトンファーのようなものを取り出し、のび太めがけて襲い掛かってきた。

ガッコー「のび太、頭を下げろ!」

のび「うわぁ、どうしていつも僕だけ――」

ゴキッ、とのび太の頭にトンファーの先が当たった。ムナシは一目散に逃げ出そうとしたが、その前にはもう捕獲委員Kが居た。
 捕獲委員Kは、左手で丸をつくった。右手はポケットに入り、すぐに小さな銃が出てきた。

捕獲委員K「言っちゃいけないんだけど、捕まったら、コレがもらえるのよ。知らなかった?
       だから捕獲委員は、必死なのよ

コレはお金を表しているのだが、おおよそお金には縁の無かった貧乏俳優のムナシにとっては、分からない事だった。

ムナシ「コレ? いいよねえ、団子かあ。僕、あれがほしくて必死で働いた時もあったなあ」

捕獲委員K「バカじゃないの? 」

捕獲委員Kは間髪入れずに、銃を撃った。

 バン!

ガッコー「ムナシ!?」

 ガッコー仮面はのび太を背負うと、捕獲委員Jの追撃をひらりとかわし、彼女の顔面に回し蹴りを入れた。
「ぶっ」とうめいて、捕獲委員Jは顔を抑えてうずくまった。

 ガッコー仮面は、すぐにムナシの元にかけよろうとしたが――捕獲委員Kが、今度はガッコー仮面に銃を向けた。

ガッコー「バカ、よせ!」

捕獲委員K「もう遅い」

 バン、と音が聞こえたとき、ガッコー仮面は咄嗟に、廃棄の弁当の山に駆け込んでいた。

捕獲委員Kは舌打ちをすると、銃をポケットにしまい、捕獲委員Jの元へと駆け寄った。

ガッコー仮面はばっと弁当の山からでると、ムナシを見た。 血が出てる――わけではなかった。
それどころか、ムナシはすぐに起き上がった。

ムナシ「あれ? 僕撃たれたよね?」

ガッコー仮面はムナシが無傷なのを確認すると、すぐにタケコプターを出した。

ガッコー「飛ぶぞ、早く!」

ムナシ「ええ? 僕、飛べないじゃん」

ガッコー「当たり前だ、俺もだ! だからこれで飛ぶんだろ!」

乱暴に、まだ気絶しているのび太と、なぜか撃たれても無傷だったムナシの頭にタケコプターをつけた。

一斉に三人が上空に消えていったのを、捕獲委員Jは鼻を抑えながら、悔しそうに見上げた。

捕獲委員J「あーー! 逃げられた……つーか、マジで顔面けりやがった」

捕獲委員Kは、ふっと笑いながらハンカチを渡した。

捕獲委員K「大丈夫。一人に、発信機つけたから」

 捕獲委員Jは、へっと笑った。

 

のび「みんな、助けてくれてありがとう。 僕、ダメだから……」

ムナシ「そう落ち込むことないって、のび太君。僕なんて、女の子に相撲で勝ったことなんて、一度も無かったよ」

ガッコー「ダメ同士馴れ合うのはやめろ! そういうのがイラつくんだ……ん? またセルフ仮面から連絡だ」

ムナシ「それにしても、僕、飛べんじゃん

のび「そうだよ、ムナシおじさん。僕達、今飛んでるんだよ」

ムナシ「はぁぁぁ、よっぽど今のほうが楽しいよ、うん」

のび「何言ってるのさ、さっきあんなに嫌がってたじゃない! どういうこと?」

ムナシはうつむいたまま、真水ストローを握り締めながら言った。

ムナシ「しょうゆうこと! じゃない、うん。僕ねえ、ずっと思ってたんだ。僕は、一生このままの役者人生で終わるのかなって。
     これが始まるまで、僕は自分が世界で1番不幸な俳優だと思ってたんだ。

     そんなとき、このゲームが始まった。 僕は、君たちと会うまでに色んな街を見ることができた。
     今まで、仕事ばかりしてきて、東京以外のところなんて行ったことなかったけど、このゲームが始まって初めて行ったんだ。
      それに……さっきのスリル、たまらなかったよ。人生で、銃を向けられることなんて一度も無いもんなあ」

のび「ムナシおじさん……」

ガッコー「おい、今セルフ仮面から連絡があった。のび郎の残した家族を、かべ紙ハウスの中に保護したそうだ

ムナシ「かべ紙?」

のび「! その手があったよう……(泣 」

のび太は、がっくりとうなだれた。ガッコー仮面は、あまりの暑さに覆面を脱ぎそうになり、慌てて続けた。

ガッコー「後、茨城の一家は……現在捜索中か」

のび「セルフ仮面も、大変だよね。みんなに連絡しているのって、あいつだよね」

ガッコー「まあね。 フクロマンの奴は、一度も連絡してこないがな」

ムナシ「ところで、さっきから不思議に思ってたんだけど、耳に何も特につけてないだろうけど……どうして、連絡ができるんだい?」

のび「あ……夜から一緒にいたのに、気づかなかった(汗」

ガッコー「あ? 『テレパしい』の品種改良版だよ。遠距離でも、関東地方一杯なら、連絡が取り合える」

のび「僕、それ欲しい!」

ガッコー「もう無い。残念ながらな。なんでも持ってる便利屋と思ってもらっちゃあ、困るんだよ」

 ムナシが、申し訳無さそうにおずおずと言った。

ムナシ「失礼だけど……今、どこ向かってるの僕達?」

 ガッコー仮面は、のび太を睨みつけた。のび太は、前にもこんなことあったなあと考えた。

ムナシ「もし行くアテが無いって言うんなら、東京の有明でやってる、『コミケ』に行かない?」

 のび太とガッコー仮面は、一緒に顔を見合わせた。

のび&ガッコー「はあ? 何それ?」

ムナシ「うん。正式名称はコミックマーケットというんだけどね。 色んなグループもしくは個人が、自分たちの力作を持ち合って、
     販売会兼ねて品評会みたいなものをやったりするんだよ、えへへへ」

のび「……? 何? 漫画の祭典?」

ガッコー「ああ、分かる分かる。電車男の第6話に出てきた奴だろ? 却下

ムナシ「何で? 別に、そんなに悪い所じゃないよ? もしかして君、中国のスパイ?工作員?」

ガッコー「違う(怒)! お前、普通に考えてみろ。俺達はな、もう顔がバッチリ割れてるんだよ!
      普通、鬼ごっこで逃げる奴が鬼の近くでお茶なんかすると思うか?」

のび「その例え、何言ってるのか全然わかんない!」

ムナシ「最後まで聞いてよ。君なら、まだ顔を割られてないだろ? というか、覆面かぶってるし

ガッコー「あのなあ……これはな、俺のシンボルなんだよ。これが無かったら、俺は普通の人間になっちまうだろうが!」

 ムナシは、のび太にも聞いた。

ムナシ「ね、のび太君もちょっとぐらい覗きたいだろう? 大人の世界を」

のび「ええ? オトナなの? どれくらいオトナなの?」

ムナシ「お母さんにエロ本見つかっても大丈夫なくらい、オトナになれるぞ!」

ガッコー「ああ、分かる分かる。俺も、机の引出し入れるところの裏に……ってバカ野朗!(怒)

ムナシ「武!? 元気が出るテレビのビート武!?」

のび「もう、何だかんだ言って君もちゃっかりエロ本持ってるじゃない」

ガッコー「いい加減に……ッしろ!」

ムナシ「いいのかなあ、そんなこと言って。君の仲間に、君がエロ本持ってるってこと言っちゃうかもよ?

ガッコー「はあ? お前、そんなもんで俺が脅しに乗るとでも思ってるのか?」

のび「学校にチクられると、まずいんじゃないの、ガッコー仮面だけに」

ガッコー「……チクショウ、分かったよ。 俺は何すればいいんだ? アニメプリントのTシャツを着て、踊ればいいのか?」

のび「それ、ヲバ芸? いいなあ、僕もやりたいよ」

ムナシ「それは、紛い物だよ! ……そんなことは言わないよ、うん。 ただ、僕の欲しいものを買ってくるだけでいいんだよ」

 ガッコー仮面は、ムナシがあらかじめ書いていたメモを見て、露骨に嫌そうな顔をした。

この場で笑っているのは、ムナシだけであった(のび太は、突然喉がかゆくなった為、しかめっ面をしていた)。

 

 

 結局、のび太たちは有明のビッグサイトに向かった。ガッコー仮面は、時計を見ながらイライラしていた。
昼の1時37分だった。

 コミックマーケットの会場には、予想通りたくさんの人々が集まっていた。
ウサギのような耳をつけた人、きぐるみを着ている人、なぜかセーラー服を着ている集団、普通の人が群がっていた。

 野比のび太は、唾を飲み込んだ。さっきから喉がかゆいからだ。異常にかゆい。かゆすぎる。カワユス、ギガントカユス。

ガッコー仮面は、入り口で整理券を貰った。しかし、それが何のために使われるのか、全く分からなかった。

ガッコー仮面は、自分の持っているとりよせバッグの中に居る、ムナシに指示を受けていた。

ムナシ「いいアイデアだろ? この中にいれば、君は疲れることは無いし、僕は指示もできる」

ガッコー「バカ野朗。買い物だけだぞ。それだけしたら、速攻でのび太の居る森林公園に帰るからな」

ムナシ「分かってるって」

 そのときだった。たくさんの人波の中、まっすぐにこちらに歩いてくる集団が来た。ガッコー仮面は、すぐに危機を感じた。

その集団の1番前を歩いていたのは、どこかで見たことがある少年だった。金持ちそうな雰囲気を漂わせている。
その後ろからは、SPらしき黒いスーツの男たちが歩いていた。

 そして、その後ろからは――かつて、野比のび太の友達であった、源静香、骨川スネ夫(ラジコンを操作している)、剛田武が
来ていた。 そして、その後ろからは見たこともないような人間がついてきていた。

見たことはないが――今、自分たち(ムナシ含む)がマズイ状況ということを、実感した。

ガッコー「悪いな、おっさん。今、俺達は逃げなくちゃいけない」

ムナシ「え? 何か言った?」

ガッコー「走るって言ってるんだよ!」

ガッコー仮面はとりよせバッグを抱え込むように持つと、集団とは全く逆の方向に走り出していた。

ムナシ「ちょ、かなり揺れてるよ、この中! 」

ガッコー「黙れ!誰のために走ってると思ってるんだ!」

 

野比のび太は、一人ビッグサイトのすぐ近くの公園の茂みで、つかの間の昼寝を楽しんでいた。

のび「静香ちゃん、やめてよ……そこは口じゃないよ、眼鏡だよ……キスは、口に……」

ジャイ子のことなど、とうの昔のように忘れていた。

 

午後12時41分 千葉県白井市のコンビ二(ロ○ソン)で、野比である野比のび太及び野比ムナシ発見の通報

午後12時43分 急遽コンビニへ、捕獲委員が確保に向かう

午後12時58分 同伴していた覆面をかぶり学生服を着ていた男に、謎の器具を使用され、逃走される。
         しかし、発信機の埋め込みは成功した模様。

(第1回名字狩り推進委員会メインコンピュータより)

 

 

第6話 笑えるおバカと、笑えないリアルバカ

ガリ勉「前半戦までのあらすじです」

レポーターロボット野比だけ死刑宣告されたり、佐藤さんだけ元気一杯鬼ごっこしたり、捕まりそうになったり、
助かったり、助からなかったり、おぼっちゃんを殺人未遂にしたり、裏切ったり、離婚とか家族解散とかしたり、
最新のJーPOPの宣伝をしたり、中臣鎌足、「俺達、助け合わなきゃダメなんだよ!」とか言わなかったり、
コミケ行ったり、バカにしたり、差別とか憎みあいとかあったり、政府の刺客に狙われたり ←今ココ
 」

ガリ勉「では、今までに使われたアイテムリストです」

ヘソリンガス

愛のムチ

ドリームガン

ショックガン

どこでもドア

タケコプター

声カタマリン

悪魔のパスポート

水圧銃

ワスレバット

石ころ帽子

チーターローション

ちく電スーツ

コンク・フード(チンジャオロース風味)

催眠ガス

真水ストロー

何か発信機つけた銃(弾は2発のみ)

とりよせバッグ

 

セルフ仮面(以下セルフ)「やれやれ……。縁の下の力持ちとは、本当に僕のことですよ

 セルフ仮面は、飛べる。そのスピードはフクロマンには勝っているものの、タケコプターの力には劣っていた。
その遅さゆえに、弟(現代人の生き方を追求した)を救出することはできなかった。

 ショックのあまりしばらく弟(現代人の生き方を追求した)の居た場所(食べたらしいカップラーメンの容器が捨てられていた)で
立ち尽くしていた。 しかし、すぐに思い直すとまたのび助の元に戻った。

 今、セルフ仮面は茨城県の上空を飛んでいた。こんな怪しい格好をしている人間は怪しまれる。

しかし、2時間もかけて野比の名字の人間を探しているにも関わらず、全く見つからなかった。もう、顔は分かっているのだ。
 やはり、目立つ場所に居るわけが無いか――そう考えると、人気の無さそうな公園に降り立った。

 

今まさに、セルフ仮面が探しているのび助の弟(柿を食べたいとせがんだ)の家族は、八千代(やちよ)町に潜んでいた。
 弟(柿を食べたいとせがんだ)は、昼過ぎのニュースで、自分たちの顔が公開されたことに気づいた。

まで遊び気分で茨城観光のようなものをやっていたが、やっと家族共々現実に引き戻されたような気がした。

しかし、特にどこに逃げようというアテは無かった。
妻の助言により、子どもが居ても何の違和感もない、おもちゃの専門店『トイザラ○』に向かった。
親子連れの居るようなところに、通報するような人がいるとは、思えなかった。

 店内に入ると冷房がよくきいていた。

弟「じゃあ、僕はとりあえずトイレ行ってくるよ。君は、ここで待ってて」

妻「もう、それじゃあ南と一緒に子ども広場に居るから。 迷わないでよね」

弟「大丈夫大丈夫」

 一人娘の南は、さっさと遊びたいという感じで、目を輝かせていた。

 

弟(柿を食べたいとせがんだ)は、トイレで空いている個室を探した。弟は猛烈に大の方をしたかった。
 レストランで朝食を取った後だ、あの妙に光っていた漬物があたったのかな。

しかし、すぐに冷や汗が出てきた。空いている個室が、一つも無いのだ。

弟「やっべええええ! もらしそうだ……ウンコもらしたのって、小二のバレンタイン・デー以来だな。
  僕の優等生っぷりが崩壊した瞬間だったっけ。確か、好きな女の子の前で思いっきり。下痢だし、止まらなかったな

そのとき、一番奥の個室から、声が聞こえてきた。

?「そんな恥ずかしい話を、独りごとのように呟くとは……いいでしょう、トイレお貸しします。
  どうせ、もう終わりますので」

弟は、思いがけない光明に思わず肛門が緩みそうになったが、こらえた。

弟「お……お願いします。もうもたないんで」

弟は、一番奥の個室の前に来た。

バン! 
勢いよくトイレのドアが開き、弟は思いっきり壁に叩きつけられた。
しかし、すぐに親切な人が空けてくれた個室
に飛び込んだ。

 

 

弟は、トイレから出てきた人を見ずにトイレに飛び込んだから、出てきた人を見なかった。

 出てきた人は手を洗った後、天然パーマの頭と眼鏡を整え、赤いヘルメットをかぶった。

ラーメンが好きな小池さん(以下小池)「いえいえ、礼には及びませんよ」

そういうと、ゆっくりと男子トイレを出て行った。

 

 弟は、30分経ってようやくトイレから出てきた。 随分と遅くなったなあ。でも、もう昼の2時30分だし。
このまま捕獲委員に見つからなければ――

 子ども広場。弟は、すぐに自分の妻と娘を探した。だが、なかなか見つからない。女の子はたくさん遊んでいるが、居ない。
もしかしたら、あいつらもトイレに行ったのかな。

 弟は、もう一度トイレに向かった。

男子トイレの入り口の横は、女子トイレである。このとき、弟は逃走劇が始まって、初めて違和感を感じた。

 女子トイレの入り口の――茶色いベンチに、何か見覚えのあるものがあった。人形。南が可愛がっていた、奈々ちゃん――

弟は、すぐに女子トイレに駆け寄った。そして、すぐに人形を確認した。間違いない、僕が南に買った人形だ。

 このとき、弟はとてつもない絶望感に包まれた。そして、恐怖。悔しさ。 いや、落ち着こう。きっと、南のことだ。
僕に似て、ドジなんだよ。ほら、卒園式にもらったお花だって、すぐそこに捨てて、幼稚園の先生に怒られただろう?

 弟は、走り回ってトイザラ○の中を捜した。

居ない。以内。いないだいないいあないあいないあいあいいいい!

 弟は、急いでトイザラ○を出た。そこに、突然アラビア風の格好をした男――今朝、突然名乗ってきた――が現れた。

セルフ「弟(柿を食べたいとせがんだ)さんですね?」

弟「き、君は――」

セルフ「落ち着いてください。 あなたの家族はどうしたんですか? 一緒にいたはずでしょう?」

弟「わ、分からないんだ。 本当に、何も」

セルフ「……まさか、もう捕獲委員に……」

弟「ぼ、僕のせいだ! 僕がウンコなんかしてたから! 恥なんか関係ない、もらしてでも家族の側に居ればよかったんだ!」

セルフ「落ち着いてください! とにかく、落ち着いてください。まだ、捕まったとは限りません」

 その時――ガラス越し、トイザラ○の店員が、携帯電話を手にしていた。

トイザラ○の店員「もしもし、委員会ですか? 今、店の前に居るんですよ、写真の人が」

 レジの側に貼られている『野比を捕まえて下さい』のポスターを見つめながら、電話を続けた。

 

野比のび太は、目を覚ました。ものすごく、体が熱かった。さっきまで寝ていたところにあった影が、移動していた。

ジャイ子「のび太さん!」

野比のび太(以下のび)「ジャイ子……ちゃん?」

 のび太は驚いた、まさか、こんな所にジャイ子に会えるなんて――
しかし、とっくにジャイ子のことなんか忘れたのび太は、露骨に迷惑そうな顔をした。

ジャイ子「のび太さん、後何時間逃げればいいの? 私でよければ、また力になるけど」

のび「あ、あのときはありがとう。でも、もう大丈夫だよ。僕には、仲間が居るし」

 そのとき、ジャイ子の後ろからどこかで見たことがある、少年が現れた。

茂手モテ夫(以下モテ)「ジャイ子ちゃん。 もうすぐ、休憩終わりだよ――」

モテ夫とのび太は、しばし見つめあった。モテ夫は、静かにジャイ子に言った。

モテ「ジャイ子ちゃん、この人は――」

モテ夫はとっさにポケットから、見覚えのある紙を取り出した。のび太は、顔の血の気が引いた。

モテ「ほら、このポスターに載ってる人だよ。ジャイ子ちゃん、通報しようよ!」

ジャイ子はモテ夫からポスターをひったくると、すぐに破った。そして、それを思いっきり投げ捨てた。

ジャイ子「ダメよ、モテ夫さん。確かに、通報したり捕まえたりして、お金を貰ってる人は居る。でも、いけないのよ、そんなこと」

モテ「ジャイ子ちゃん、何言ってるのさ。大統領の命令なんだよ。僕達は、何が何でも野比の名字の人を、捕まえなきゃいけないんだよ」

 のび太は、そろそろと後ずさりを始めた。

モテ「あ、ほらもう逃げようとしてる!」

ジャイ子「逃げて、のび太さん!」

 のび太は、黙って頷くとさらに森の中へと走っていった。ジャイ子ちゃん、ありがたう。

 

モテ「ジャイ子ちゃん、どうして逃がしちゃうのさ! 早く、通報しなきゃ。10万だよ10万」

ジャイ子は、今度はモテ夫の携帯電話をひったくると、それを一思いに踏み潰した。

モテ「ウワァァァァ! 僕の……大事な画像が納められた携帯がぁぁぁ!」

ジャイ子「のび太さん……私、こんなことしかできないけど、頑張って!」

十分すぎるほどの能力を発揮したジャイ子であった。

 

その頃、ガッコー仮面は失神寸前だった。もう、何度同じ道を走ったか分からなかった。

 最初に走り出したとき、後ろから『追ってくれ。 みんな』という上品そうな声が聞こえてきた。
続けて、ワァァァァ、と雄叫びと足音がが聞こえてきた。 

でも、そんなの関係ねえ! という風にガッコー仮面は自慢の脚力を披露した。

そして、もう1時間ばかりずっと同じ会場を駆けずり回っている。だが、あまりにもコミケの会場は広い。
どこが出口なのか、皆目見当がつかなかった。

そのとき、とりよせバッグの中から、ムナシの声が聞こえてきた。

ムナシ「ねえ、さっきから思ってたんだけどさあ、ファイブミニ飲んだ方が早くね?」

ガッコー「黙れ、気が散る。殺すぞ」

ムナシ「さっきから思ってたんだけどさあ、さっさとタケコプター使えばいいのに

ガッコー仮面は、自分の学生服のポケットが、やけに膨らんでいるのに気づいた。

ガッコー「てめえ、何でさっさと言わないんだ!」

ガッコー仮面は、すぐにポケットからタケコプターを取り出そうとしたとき、ラジコンの、飛行機のようなものが飛んできた。
旧日本軍の、飛行機のようなデザインだった。そこから――ズダダダッと、カラーボールが飛び出した。

ガッコー仮面の周囲に、もちろんとりよせバッグ及びその周囲にカラーボールが炸裂した。

 そして、すぐに後ろから大きな少年の声が聞こえてきた。

剛田武(以下ジャイ)「おい、コイツ野比じゃないんじゃないか?」

すぐに、そこまで走ってきていた。ガッコー仮面は、すぐに向きを変えたが――その前に、もう一人の刺客である源静香が立っていた。

源静香(以下静香)
「気をつけた方がいいわ。この人、なぜかドラちゃんの道具持ってるみたいだし」

ジャイ「つーか、どっかで見たことあるような……」

 ガッコー仮面は、すぐに『テイルズ』と黄色いペンキで書かれた看板のそばのブースに飛び込んだ。

ジャイ「よっしゃ、静香ちゃんは裏口から回ってくれ!」

静香「分かったわ。武さん、絶対油断しないでね」

ジャイ「分かってるって! 俺は、何があっても絶対に逃げないぞ」

 そういうと、二人は続けてブースの中に走っていった。 スネ夫は、ゆっくりと歩きながら二人を探していた。

骨川スネ夫(以下スネ)「あれぇ? みんなどこ? 僕、買いたいものがあるんだけどなあ……買ってもいいかな?」

ラジコンのコントローラーをいじくりまわしながら、呟いた。

ぶっちゃけ、僕はお金が欲しいよ。でも、絶対2人かもしくは、どっちかが捕まえるよなあ。いいなあ。僕もお金欲しいよ。
 そうだ、このラジコンを使えば……僕にも、お金を手に入れるチャンスはあるかもしれないぞ!

骨川スネ夫は、ニヤリと笑った。

 

ブースの中の人は、さっきとあまり変わらない人々が集まっていた。アニメプリントのTシャツを着た人は、居なかった。
ガッコー仮面は、自分の予想が外れた事にいささかがっかりしていたが、そう落ち込んでいる暇も無さそうだった。

明らかに、この集団の中には不釣合いの少年が走ってきていた。ジャイアン。

ジャイ「お前が野比じゃないからって、俺には関係ねえ! ただ、俺はな……金が欲しいんだよ!
    命が惜しいんなら、すぐに立ち止まれ! 」

静香は、ジャイアンに言った。

静香「武さん、悪いけど私一人の功績になりそうよ」

 源静香は、ポケットから銃を取り出した。ただし、どうみても普通の銃ではない。

源静香は、躊躇無くその銃を撃った。

ブシュッ!

 第一撃を、ガッコー仮面はなんなく避けた。 近くに居た、客にその弾があたり――炸裂した。

客「うっわあ!何この粘着感!
 納豆がそのままくっついたかのようだ!」

 

 

ガッコー「感想ご苦労! ……粘着弾で、動きを封じるつもりか?」

静香「武さん、今よ!」

ガッコー「!?」

 もう遅かった。ガッコー仮面が振り向いた時には、眼前の剛田武ことジャイアンが、居た。右ストレートが、顔面に直撃した。

衝撃。痛み。たまらず、とりよせバッグが腕から離れた。チッ、静香の言動は、ハッタリだったのか。
 つまり、2人は個人で追っていると、俺に認識させるために。だが、違った。 2人は初めから、ペアで追っていたのだ。

ガッコー仮面は、間もなく剛田武が自分の覆面を外そうとしていることに気づいた。

ジャイ「静香ちゃん、今すぐ連絡してくれ!」

静香は、すぐに携帯電話を取り出し、外へと走っていった。ガッコー仮面は、ジャイアンを睨みつけた。

ガッコー「悪いね、ジャイアン。 俺は捕まる気なんて、毛頭無いよ」

ジャイ「モートー? 天然痘?

ガッコー仮面は、自分の足元のとりよせバッグをゆっくりと持ち上げた。

ガッコー「あばよ、ジャイアン!」

ムナシの入っているとりよせバッグを、思いっきりジャイアンに投げつけた。一瞬の隙を疲れたジャイアンは、憤怒した。

ジャイ「待ちやがれ!」

 とりよせバッグを思いっきり踏みつけ、再び走り出したガッコー仮面の確保に向かった。

とりよせバッグから、モゾモゾとムナシが出てきた。

ムナシ「痛ってえ! 痛ってえ! 何しやがんだお前ら、血ィ出てんぞ血ィ!(怒)」

 

 

野比のび太は、森林公園の森の出口で、公園の出口を探していた。ダッシュすれば、30秒で公園の出口へ出れる。
 しかし――そのすぐ側の噴水に、赤いヘルメットをかぶった捕獲委員が立っていた。

多分、茂手モテ夫が通報したんだな、とのび太は思った。

?「ヘーイ、ベイベー。今度こそ、君を捕まえるよ」

のび太は、咄嗟に後ろを振りむいた。

のび「そ、その声は!」

花輪クン「そう、僕さ……。のび太君、僕を撃ったね。 僕はね、夕べ夜も眠れなかったんだよ」

そういって、自分の目の下のくまを見せた。確かに、若干黒ずんでいる。メイクに失敗したアイドル上がりの女優みたいだ。

のび太は、ポケットの中にあるショックガンを取り出し、花輪クンに向けた。

のび「お願いだよ、そこをどいてよ。僕は、逃げなくちゃいけないんだ」

花輪「なおさら、君を逃がすわけにはいかないよ」

のび「そうかい」

のび太は、ショックガンを撃った。自分でも信じられないほど、指がよく反応した。夕べの夜と同じように、腹を狙った。

しかし、花輪は倒れなかった。それどころか、のび太のほうにゆっくりと歩み寄ってきた。

花輪「残念だなあ、のび太君。僕を撃たなければ、少しは楽につかまえてあげたのに」

そういうなり、花輪は明らかに鈍器のようなものを取り出した。
花輪の握っている柄の上からは、棒が細くなり、一番先には丸い玉がついている。

 のび太は構わず、ショックガンを撃ちまくった。何度も、光線は花輪の胸にあたっている。なのに、何で気絶しないのか?
もしかして、防弾チョッキみたいのを着ているのかな?

花輪は、ニヤリと笑って思いっきり鉄の棒を振り下ろし――

のび太は、花輪の顔面は無防備である事に気づいた。

のび「顔だぁ!」

のび太の引き金の方が、花輪のふり降ろしよりも早いのは明らかだった。

ジュッ!

花輪の化粧が落ち、光線のあたった鼻の部分が、目のくまの下よりも黒くなっていた。

のび「倒した……のかな?」

花輪は、白目をむいたままピクリとも動かなかった。のび太が花輪の首筋を触ろうとした瞬間、大きな声が聞こえてきた。

捕獲委員L「おい、こっちに居たぞ! 早く、来てくれ! 」

 捕獲委員が、気づいたようだった。のび太は、とりあえずこちらに走ってくる捕獲委員3名を、ショックガンで撃ち倒した。

捕獲委員L「ブッ!」

捕獲委員M「ぎゃひ!」

捕獲委員N「ああああああああ!」

 のび太は三人が倒れたのを確認すると、森林公園の出口に向かって走り出していた。
花輪クンは、悔しそうにうめいた。

花輪「僕に……二度も恥をかかせ……る……なんて……野比……のび太……絶対…に許さない……ガクッ」

 

午後2時5分 茨城県の八千代(やちよ)町のトイザラ○内にて、野比と思われる女2名拘束。

午後2時39分 同町にて、野比発見の通報。

午後2時43分 捕獲委員5名がトイザラ○へ確保に向かうものの、既に逃走された模様。付近の捜索を敢行。

午後3時4分 東京江東区の森林公園にて、野比が居るとの通報。

午後3時7分 東京都有明のコミックマーケット会場にて、野比発見の通報。

午後3時10分 森林公園にて、捕獲委員3名軽傷。その近くで、一般人の協力者も被害に。野比は逃走。

午後3時15分 特別野比捕獲部隊の活動が、あまり見られないので第2波を東京都お台場に投入。
        レインボーブリッジ以外の連絡橋を、全て封鎖。

(第1回名字狩り推進委員会メインコンピュータより)

 

この話は続きます。

 


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