Nの悲劇
〜私とドラの10の約束〜

 

第0話 ホラーストーリーは突然に

「追え! 」

 野比のび太は、必死で足を動かしていた。バカみたいに、赤いヘルメットが無数に追ってくる。
僕は、ひたすら思った。 ヘソリンが欲しい……と。

 

 

 

7月20日 早朝

野比のび太は、今日もいつも通りパンを口にくわえて飛び出した。

野比のび太(以下のび)「あ〜あ、今日も遅刻か……」

 

野比のび太を見送った野比家。のび太の母である野比玉子は、やれやれと言った感じで、家の中に入った。
 それから、のび太の布団を乾そうと二階の階段に上がろうとした。

その時だった。

野比のび助(以下 のび助)「ウッウワァァァァァ!!」

野比玉子(以下玉子)「な、何よあなた! 朝からどうしたの?」

のび助「こ、これを観なさい……ッ!」

 

テレビの画面は青かった。そこに、電話の留守電に聴いたことのあるような音――のような声で、アナウンスが続く。

その画面には、『名字が野比である世帯の方へ』が続く。

「簡単に言えば、死になさい。貴方達は、選ばれました。死にたくなければ、逃げてください。
 野比の名字の方、全ての方に処刑される義務があります。 これは、日本政府の命令です。

 ただ、突然処刑されると言っても、世間的には我々政府が虐殺したというイメージがついてしまいます。

そこで、貴方達は殺される義務と同時に、その処刑から逃げられる権利があります。

いいですかぁ、これは命令です。 我々は、貴方達に逃げられる権利を与えました、よって、これは虐殺ではありません。
その所を、誤解しないで下さい。 それでは、これから野比家の運命の日を教えます。

運命の日は、三週間後の8月7日。夜の午前0時から始まります。

 その時点から、名字が野比の人を政府の人間が捕獲に……と行きたいところですが、我々にそこまで暇な時間はありません。

というわけで、我々が無作為に選んだ人員を『捕獲委員』として、10000人投入します。

 多いかと思われますが、そうではありません。全国の野比の名字の方たちは、一旦東京駅に全員集められます。
そこで、会議でも何でもするといいです。本当なら、運命の日までに全員心中して頂くとありがたいのですが……。

 言い忘れましたが、逃げてもいい範囲は、関東地方までです。それ以上遠くへ行く人は、自衛隊員が射殺します。
死にたい人は、捕獲委員に見つかりやすい大通りや駅前などでじっとしていて下さい。すぐに捕獲します。

捕獲委員は、赤いヘルメットと、黄緑色の腕章をつけています。

 死にたくない人は、逃げてください。しかし気をつけてください。捕獲委員以外にも、敵は居ます。
野比以外の名字の全国民は、野比のつく名字の人が何処に居るのか、密告することができます。

 一人密告すれば、10万円もらえます。密告する人は、必ず居るでしょう。
よって野比の名字のつく人以外は、全員敵だと思ったほうが、得策かもしれません。

ただし、関係ない人を殺せば、すぐに逃げるのを止めてください。自衛隊員が即座に殺しに行きます。捕獲委員も同様です。

 8月8日の夜0時までに、野比のつく名字の人が一人でも捕まらずに逃げ延びれば、捕まった野比の名字の人は全員解放されます。
処刑は失敗です。 貴方達の勝利です。

 それでは、明日の昼に東京駅に、野比の戸籍の人全員が東京駅に集められます。

もう一度説明が聞きたい人は、政府のHPに―― 」

 

 

プツッ。

 

のび助「ハハハハ……(笑) 冗談だよな、こんなの。なあ、君?」

玉子「……冗談じゃなかったら?」

のび助「ハハ……どうしよう

 

のび「あー、やっとつまんない授業が終わったよ。 静香ちゃん、夏休み、一緒にプールへ行こうよ、ウエヘヘ

源静香(以下静香)「何、言ってるの? あなた、まさかあのニュースを知らないの?」

骨川スネ夫(以下スネ)「キャハハ! いや〜、のび太くん、実に僕は残念だなあ」

のび「えっ?何々? 何かプール以外に予定があるの?」

剛田武(以下ジャイ)「ばっかだなあ……で、何かあったのか?

スネ「ちょww ジャイアンも知らないのかよww」

出木杉英才(以下出木杉)「剛田くん、何かあったどころの騒ぎじゃないよ。 野比君……僕のPDAを見てくれ

のび「PDA?」

出木杉「簡単に言うと、情報端末みたいなものさ。はい、どうぞ」

のび「情報端末って何さ?」

スネ「もう、細かいんだからそういうところは。 見てみろよ」

のび「……野比、死刑? 何これ? スネ夫、また僕をはめるつもりだな!(怒) 出木杉まで、僕のことを馬鹿にして」

静香「のび太さん、冗談じゃないのよ。 野比の名字の人は、8月7日に処刑されることが決まったのよ」

のび「静香ちゃんまで!(泣 何だよ、一体僕が君たちに何をしたってのさ」

出木杉「落ち着いてくれよ、のび太君。僕も、何かの間違いだと思ったんだ。でも、そういうことに決まったんだ」

スネ「いや〜、残念だなあ。 僕、のびちゃんにもっと、ラジコン触らせてあげたかったなあ」

のび「な、何言ってるんだよ薄情な! 僕達友達でしょ!?」

スネ「ハハハ! 
 うん、そうだよ。だからさあ、相談なんだけど、僕に、君を通報させてよ。
 そしたら、友達だって認めてあげるよ。ね、だからさあ、ずっと家に居てよ。お願い!

ジャイ「ずるいぞスネ夫!10万抜けがけするつもりか!」

スネ「だからさあ、僕とジャイアンと静香ちゃんと出木杉4人で通報した事にすれば、それぞれ2万5千もらえるじゃない(笑)

ジャイ「おお、スネ夫あったまいい! 心の友よ〜〜!!」

のび「はぁ? こういうときは、かくまうのが友達じゃないの?」

静香「ごめんなさいね、のび太さん。そういうことだから」

のび「どういうことなの? ねえ静香ちゃん!」

出木杉「これも、国民教育の一つなんだよ。 許してくれよ、のび太君。君のことは、いつまでも忘れないよ」

のび「そんなあ……」

 

のび「どーらーえーもーんんんん! みんなが、日本が僕のこといじめるよ〜〜!」

ドラえもん(以下ドラ)「のび太君。僕も、昼知ったんだよ。仲間の猫からね」

のび「出木杉がね、国民教育の一つだとかなんだか言うんだ! どうなってるのさあ?」

ドラ「うん。どうやら、この日本はちょっとおかしくなってるみたいなんだ」

のび「どういうことさ? 」

ドラ「うん。 日本が大統領制になってるんだよ。大統領は、議会の弾劾決議を受けない限り、失脚する事は無い。
   今の大統領が、『有事に備えて、国民教育を年一回施す』という法案を出したらしいんだ」

のび「国民教育? 国体に国民全員参加とか?」

ドラ「どこにそんな会場があるんだよ……。つまり、国民教育っていうのは、国民の意思を統一するために、
   みんなに同じことをさせるのさ。 それが今回の『名字狩り』なんだ」

のび「みょーじがり?」

ドラ「うん。 大統領が、くじびきかなんかで無作為に選んだ名字、それが『野比』だったんだ。
   名字狩りに選ばれた名前は最後、暫定的に処刑の決定が出される

のび「でも、逃げろって……」

ドラ「そう。 そこが、今回の計画の重要な部分なんだ。国民に賞金をぶら下げ、動かすんだ。
   知らないうちに、みんな選ばれた名字の人を探す事になるんだ」

のび「そんなあ……でも、ドラえもんの道具があるから安心だよね。早速、日本から脱出しようよ」

ドラ「まあ、やろうと思えばできたんだけどね……僕のポケット、昨日からただのポケットに戻ってるんだ

のび「ええええ?」

ドラ「まあ、そういうことなんだ。 道具は無いけど、君なら大丈夫!」

のび「ドラえもん……グスッ」

ドラ「全国の野比さんを逃がすために、必ず立派なおとりになれるはずだよ、うん

のび「ええ? 嫌だよそんなの。僕、死にたくないよ!まだ11だよ? まだあんなことやこんなことやってないんだよ!?」

ドラ「そりゃあそうだけど、仕方ないよ。実をいうと、君の机の中になった時空間も消えてるんだ」

のび「ええええ? 絶対絶命のピンチだ……orz」

ドラ「漢字間違ってるよ……。でも、大丈夫だよのび太君。 僕が居るんだから、のび太君はきっと生き永らえるよ!」

のび「……本当?」

ドラ「ああ! 安心して逝ってこいよ!」

 

この後、野比家一族の会議があったのだが、たいしたこともないので中略

以下、7月21日の東京駅(2階ホールにて)

 集まったのは、野比のび太、のび助、玉子、ムナシ、弟1(柿を楽しみにしていた)、その妻、娘、弟2(現代風な生き方を求めた)、
のび郎おじさん(お年玉を多めにくれる)、その妻、娘、息子、息子 

・子どもは、親から離れないようにする

・一箇所に集中すると捕まる可能性が高いので、それぞれ別の県に散る

・携帯電話で、30分ごとに連絡を取り合う

・なるべく田舎に避難する

 

 

8月1日

のび助「やれやれ……久しぶりに兄弟に会うと疲れるな。なんだ、あのギスギス感

野比のび助は、静かに息をつき、家に入った。

のび助「のび太、ママは?」

のび太は、運命の日が近いにも関わらず、居間でゲーム三昧だった。

のび「さあ? 何か実家にお別れの挨拶に行くって言ってたけど」

のび助「……まさか……」

のび助は、急いでキッチンへ向かった――そこには、予想通り置き手紙と、離婚届があった。

『もう疲れました。 あなたとはやっていけません。
 のび太と一緒に、心中でもなんでもして下さい。私はもう疲れました。これ以上、あなたに関わって不幸になるのは嫌です』

のび助「た、玉子――――ッ! そりゃあ、僕だって野比という名字は断ち切りたいさ!
     でも……由緒ある(?)名字なんだ! だから――僕は、君を止める事はできない」

のび「パパどうしたの? お腹すいたよ」

のび助「ハハハ、ギョーザでも食ったらどうだい? ゲームが始まる前に死ねるぞ

のび「パパ! どうしたのさ?」

のび助「ママが……野比と縁を切るために、離婚したいというんだ」

のび「えええ? ママが……? パパのせいだ!どうせ浮気でもしたんでしょ?」

のび助「失礼な!しようにも、できないだろこの性格じゃ」

のび「いーや、小早川信木の恋になっちゃったんでしょ!?

ドラ「例えが分かりづらいよ……そうだね、いっそ名字を捨てればいいんだよ」

のび助「……それはできないんだ……」

のび「僕もだよ、ドラえもん。 そりゃあ怖いけど……これじゃあ、僕の未来が奪われちゃう」

のび助「その意気だのび太!さすがはわが息子」

ドラ「うん、のび太君が+思考なのは、僕が一週間前から吸わせてあげてる『ヘソリンガス』のおかげだよ

のび助「何!?……僕にも吸わせてくれ」

ドラ「オーケー」

のび助「ドラえもんも、一緒に逃げてくれるんだよな。いやあ、もう怖いものなしだな」

ドラ
「え? 僕、一緒に逃げるつもりは無いよ?」

のび&のび助「な、何だってぇえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

ドラ「そりゃあ、僕は野比じゃないから」

のび助「なあ、君はのび太の未来を変えるために来たんだろう? ドラえもんも、ついてくるのがスジってものじゃないの?」

ドラ「ううん、別に……道具なら貸してあげるよ。でも、僕は参加できないんだ」

のび「何でなのさ?」

ドラ「本当は言っちゃいけないんだけど……僕、野比の『捕獲委員』に選ばれたんだ〜〜エヘヘ

のび助「……」

のび「本当なの、ドラえもん?」

ドラ「うん。僕は、8月7日、のび太君達の敵になるんだよ」

のびパパ「いーーーーーーーーーやーーーーーーーーーだぁあぁあぁ!!

のび「そんな……ドラえもん、嫌だよ! ドラえもんから逃げられるわけないじゃないか」

ドラ「まあ落ち着いてよ。僕は、東京都担当だから――みんな、東京都から離れればいいんだ」

のび助「なるほど……のび太、こりゃあ大変だ! 今すぐ逃げる準備に取り掛かるぞ!」

のび「僕、なんだか希望がわいてきたよ」

 

8月6日

のび助「じゃあ、最後の打ち合わせをするぞ、いいな?」

のび「うん! 僕、なんだか逃げるのが楽しくなってきたよ」

ドラ「うん、何でも楽しむのはいいことだよ」

のび助「とりあえず、夜9時には家を出る。なあに、レンタカーを借りたんだ、そこから青梅(おうめ)まで飛ばすんだ」

ドラ「それって大丈夫なの?」

のび助「ああ、しつこく僕の行き先を聴いてきたけど、白をつき通したよ。 それで、僕の計算では8月7日の夜0時には、青梅に。
     そこで一旦止まる。あたりの様子を探って、そこからは慎重に山梨へ行こう」

のび「山梨まで行けば、一安心だね」

ドラ「いや、県境でも油断はできないよ。気をつけなきゃ」

のび助「山梨から、笠取山へ行くと……朝の八時までには笠取山に着く、そこに潜むことにする」

ドラ「そっからは、もう徒歩だからね、気をつけなよ」

のび「分かってるって★」

のび助「現在、8月6日土曜日昼3時! それじゃあ、仮眠を取る、のび太、しっかり寝ろよ」

ドラ「それじゃあ、僕はもう行かなきゃ」

のび助「ああ。 絶対に、捕まらないからな!」

ドラ「うん。のび太君、君はいつも甘い所があるんだから、気をつけなよ」

のび「分かってるって!」

 

 

 

第1話 まさかの第1捕獲者!? 衝撃のスタート

 

野比のび太(以下のび)「う〜ん……むにゃむにゃ……ん? 何か暗いな……ん?」

 のび太は、今が夜だと分かった。 あれ? ということは……? 

そばのめざまし時計は、12時30分を回っていくところだった。

 

のび「ウォオォォォ!寝過ごしたぁ!!(泣

  あれ?パパは? どうして起こしてくれなかったのさ(怒)!

 既に、8月7日は始まっていた。のび太は、憤激のあまり階段から転げ落ちてしまった。

のび「いてて……あれ? 何かやけに真っ暗だな……」

のび太は、一階の居間のテーブルの上にあったはずの逃走用の荷物が無い事に気づいた。かわりに、置手紙があった。

『のび太へ。 あまりにも起きないので、パパは先に山梨に行きます。自力で逃げてください。
 もし捕まっても、パパが絶対に捕まらないように頑張るので、自殺だけはくれぐれもしないように』

のび「ええ? パパぁ……orz」

そのとき、玄関から大きな声が聞こえた。

?「おい、野比のび太はいるか? 居るのなら、大人しく投降しろ!」

のび太は、心臓が飛び跳ねた。もう、捕獲委員はすぐそこまで来ていたのだ。

のび「スネ夫達……本当に通報した……あいつらなんか、もう友達じゃないやい!(涙

 とりあえず、キッチンの勝手口から逃げよう、うん。

のび太はゆっくりと歩を進め、キッチンの勝手口を開けた――

捕獲員A「おい、本当に居たぞ!」

捕獲員B「子どもの通報だったが、本当の情報だったわけだな。おい、早く連れてけ」

勝手口の前には、既に他の捕獲委員が居た。スネ夫達の通報により、野比家はもう包囲されていたのだ……。

のび「い、嫌だよ、こんなのないよ! 僕が何したってのさ」

捕獲員A「黙れ。 命令なのだ、仕方が無い。 私たちは、選ばれただけだ」

捕獲員B「私とこいつは、警察官だ。尚更、国の命令に逆らうわけにはいかないのだ」

のび「こ、こんなの酷いよ、ドラえも〜〜〜〜〜ん!」

 

 

野比のび助(以下のび助)「何だ、今の声は? 大晦日の曙みたいな声だったな……」

野比のび助は、息子を最も捕獲委員の多い東京に置き去りにしようとしていた……。

のび助「ふう、予定通りだ。午前1時には山梨へいけそう……ん?」

のび助の車の前に、謎の格好をした奴が現れた。

セルフ仮面(以下セルフ)「どうも、セルフ仮面です。お父さん、よく下手な運転でここまで来れましたね」

のび助「な、何だね君は! 見るからにアラビアに居そうな格好をして!」

セルフ「心配しないで下さい。ドラえもんに言われてやってきた、助っ人の一人です。後2人も、あなたの息子さんを救出に行っています」

のび助「何ッ、まさかのび太、もう捕まったのか?」

セルフ「はい。午前0時35分に確保されたようです」

のび助「くそ、まだ家を出ていなかったのか……さらば息子よ

セルフ「いや、まだ間に合いますよ」

のび助「どういうことだね?」

セルフ「だから言いましたよ、助けに行った、と」

 

その頃のび太は、明治神宮の側に敷設された『野比専用留置所』への道中の、車の中だった。

 あ〜あ……まさかこんなことになるなんて……普通、主人公って最初に捕まる?

捕獲員A「おい、何か前方から飛んでくるぞ!」

捕獲員B「落ち着け、進路を変えるぞ。どうせ、我々をよく思わない左翼の連中だろ」

のび「あ、あの茶色くて妙に怪しい格好……まさか、フクロマン!?」

フクロマン「パンパカパーン! クラスで1番エッチな奴よりもエッチ扱いされたけど、そんなの関係ねえ!
       世紀のニューヒーロー、フクロウっぽい格好のフクロマンだよ〜〜!」

捕獲員A「喋っただとぉ? 構わん、突っ走れ!」

フクロマン「無視ですか? 無視ですか?」

捕獲員B「黙れ! 5秒構ってもらえなかったからって、すぐに無視されたと勘違いする中学生の女子か!」

のび「例え分かりにくいよ……フクロマン、早く助けてよ!」

フクロマン「慌てるな、これは公明党の罠だww

捕獲委員A「創価学会のことかーーーーー!!」

捕獲委員B「くそ、落ち着け。後5分で留置所だ。構わず運転しろ」

フクロマン「ようし、僕の本気を出してやる! よいしょっと」

 そういうなり、フクロマンは走行中の車を持ち上げた。当然、車内の三人は、車の天井にしたたか頭をぶつけた。

フクロマン「あれ? みんな気絶しちゃったのかな? まあいいや、のび太君だけ出そうか」

 

セルフ「あ、今フクロマンから連絡が。助かりましたよ、のび太君」

のび助「良かった……君達がいれば、もう安心だな」

セルフ「ところで、そのPHS……どうしたんですか?」

のび助「いや、携帯電話は高くて……壊れる寸前のPHSを買ったんだ。 でも、さっき連絡取れたし」

セルフ「連絡ですか……それは辞めた方がいいですね」

のび助「どうして? 心配じゃないですか」

セルフ「既に、電波を傍受されている可能性が……」

のび助「ボージュ? 何ですかそれ?」

セルフ「えー……それはですね、電波の発信元がバレるんですよ」

のび助「それって……僕の居場所が……」

セルフ「そのとおりです。それどころか、あなたと一緒に通話していた人の居場所もバレたかもしれないです

のび助「な、何だってェエェエエエエエエ!!」

セルフ「通話していたのは、誰ですか?」

のび助「いや、弟(現代人の生き方を追求していた)と連絡を取り合ってたんだが……」

セルフ「何処に居るんですか?」

のび助「確か、栃木の那須の方に……」

セルフ「僕は、彼の安全の確保に行きます。とりあえず、あなたは逃げていてください」

のび助「ああ、分かった」

 

 

午前0時35分 野比のび太確保

午前0時55分 野比のび太、野比の仲間らしきものに脱出される

午前1時6分 弟(現代人の行き方を追求する)、確保

(第1回名字狩り推進委員会メインコンピュータより)

 

 

第2話 決戦! 練馬・ミッドナイトデスマッチ?

 

野比のび太(以下のび)「むにゃむにゃ。ん? ここはどこだ?」

フクロマン「博物館の何か草っぽいところですよ。 君、ずっと寝てたからなあ、弱いなあ」

のび「え? 今何時?」

フクロマン「そうね、大体ね〜〜午前2時過ぎくらいかな

ガッコー仮面(以下ガッコー)「やれやれ、こんなんだと野比の未来は暗いぜ。初っ端から捕まるようじゃな」

のび「き、君は……未来から来た僕!」

ガッコー「違う。別人だ」

のび「いーや、絶対に僕だよ!」

ガッコー「違うと追っているだろう! 愛のムチ!」

 

ビシッ!

 

のび「いてて……酷いよ、助けに来たんじゃないの?」

ガッコー「甘えるな! いいか、逃げるのはお前らだ。それを忘れるな。お前らが捕まったら、俺が終わるんだぞ」

のび「やっぱり未来の僕じゃん」

ガッコー「黙れ! 愛のムチ!」

 

ビシッ!

 

のび「痛いよ、何するのさあ」

フクロマン「もう止めなよ。大声出したら、警備員の人とかに見つかるよ」

ガッコー「大丈夫だ、警備員が来るのは次は3時だ

のび「それまでに脱出すればいいんですね、分かります

ガッコー「そうだ。じゃあ、とりあえずタケコプターで逃げるか」

フクロマン「ええ?そんなもの持ってたの? 」

ガッコー「ああ、俺は三人の中で唯一飛べないからな

のび「飛べない人はただの人なんだね」

ガッコー「さっきからイラつくな、次なんか言ったら殺すぞ」

のび「ヒッ、これが未来の僕?いやだなあ」

フクロマン「まあまあ、反抗期なんだよ、そっとしといた方が良いよ」

ガッコー「お前らなあ……」

 

 

 

?「のび太君、まさかまだ逃げてなかったなんて……僕はもう、君を捕まえるしかないよ」

フクロマン「そ、その声はドラえもん!」

ドラえもん(以下ドラ)「スネ夫君達が、ラジコンを使って監視作業をしてたんだよ……知らなかった?」

のび「え? うそ?」

 のび太が周りを見回すと、すぐ近くの木の上から、ミニチュア気球船が出てきた。それには、バッチリカメラがついていた。

フクロマン「か、監視されていたなんて……気づきもしなかった」

ドラ「スネ夫君達が教えてくれたんだよ、この場所をね。 ごめん、のび太君」

 そういうなり、ドリームガンを取り出した。

 

ガッコー「あぶない!」

のび「ガッコー仮面!」

ズキューン!

 

ガッコー「う……のび太、何してんだ、にげ……ろ」

フクロマン「ガッキーーーー!(涙」

ガッコー「誰が……新垣結衣だ……グフッ」

のび「紛らわしかったんだ……『ガッコー』って書いてあるから!

ドラ「ごめん、のび太君」

のび「ドラえもん、僕はもう怒ったぞーーーー!

フクロマン「のび太君、ショックガンあるけどもらう?」

のび「ありがとう! ドラえもん、勝負だ」

ドラ「ううん、どうせ君が勝つのは分かってるから、いいや」

のび「!?」

 パラパラパラと、何かの音が聞こえてきた。フクロマンは、あんぐりと口をあけていた。ヘリコプター、頭上にあった。

 

花輪クン(以下花輪)
「は〜い、ごきげんよう。今日はどうしたのかな?
 んー? 捕まえて欲しい? オーケーいいよ」

 

フクロマン「な、何で静岡のおぼっちゃんがこんな東京に!?」

花輪「はは、たいしたことじゃないさベイビー。強いて言うなら、僕の誕生日は8月7日なのさ

のび「な、何だって!? 僕と一緒だ!」

花輪「その通りさ、ベイビー。僕はね、君のような低俗な庶民と同じ誕生日というだけで、とても腹立たしいのさ」

フクロマン「り、理由がば、ばかげてる……君は、捕獲員じゃないね? 赤いヘルメットかぶってないから」

花輪「オーベイベー。別に、通報だけじゃなくてもいいんだ、ベイベー。 
   捕獲委員以外の一般人が、野比さんを捕まえると、賞金が10万円から100万円にアップするんだベイベ

のび「ええ? そんなの聞いてないよ!」

ドラ「本当だよ。ついさっき、ルール改正があったんだ。君が逃げたから、こういうことになるんだよ

フクロマン「やっぱり、君を助けるんじゃなかったな……早くもピンチジャン」

のび「なぜに語尾がカタカナ!?」

花輪「まあ、それはいいんだ。さあ、大人しく捕まってくれないかな? 」

フクロマン「いやだと言ったら?」

のび「ふ、フクロマン! 何て夕刊なんだ君は!」

フクロマン「漢字が間違ってるぞのび太! それじゃあ夕刊フジになっちゃう」

ドラ「……花輪君、任せたよ」

のび「ドラえもん! 戻ってきてよ! 君の力が必要なんだよ」

ドラ「……ダメなんだ、のび太君。命令は絶対だよ」

のび「命令って何なんだよ! 僕達の命よりも大切なの!?」

ドラ「……捕まらないように気をつけろって言ったのに……」

そういうと、ドラえもんはどこでもドアを取り出し、どこかへと去っていった。

 

花輪「まあ、どうしてもって言うんなら、乱暴な手を使わないこと無いけど?」

フクロマン「よし、後は任せたぞのび太」

のび「オッケー、花輪クン、覚悟しろ!」

花輪「ま、まあまあちょ、落ち着きたまえよベイビー。僕はね、暴力という紳士に反するような行動が大嫌いなんだ」

フクロマン「悪いね、庶民には、生き残るためには何でもするという不滅のルールが存在するんだよ」

花輪「パイロット、浮上したまえ、早く! (焦」

のび「待て! 撃ち落としてやる!」

 

ジュッ!

花輪「覚えてなよ……ベイ……ガクッ

 

ショックガンが、花輪クンの腹あたりに当たった。花輪クンは、ヘリから落ちはしなかったものの、気絶したようだった。

のび「やった! これで少しは腹の虫がおさまったよ」

フクロマン「おお、のび太やればできるじゃないか!」

ガッコー「うう……感心してる場合か……見ろ、いつの間にか懐中電灯を持った捕獲委員達が、こっちにやってくる

のび太は、はっとドラえもんが消えた方向を見た。

捕獲委員C「おい、何か見るからに怪しい奴らが居たぞ!」

捕獲委員D「ああ、茶色い全身タイツと、学生服に覆面をかぶった男。それに……子ども!?」

捕獲委員E「とりあえず、捕まえてみるか。お〜い、君たち、こんな所で何をしているのかね?」

のび「逃げてます! ……あっ」

ガッコー仮面「バカ野郎!どうみてもあれは捕獲委員だろ!赤いヘルメットかぶってるだろ! ほら、タケコプターだ。逃げるぞ!」

フクロマン「待ってよ、僕はそりゃあ飛べるけどさ、そんなに高くは飛べないんだよ。僕にも貸してよ」

ガッコー仮面「は? 電池の無駄なんだよ、お前は自力で頑張れよ!

フクロマン「ええ? 酷いよ、そんなの」

のび「しっかりしてよ、フクロマン! 」

フクロマン「俺、飛べんじゃん」

ガッコー仮面「その意気だ!」

捕獲委員D「おい、逃げるな!とりあえずこの茶色いタイツからだ。おい、手伝ってくれ」

 CとEは、速攻飛ぼうとしていたフクロマンに飛びついた。

フクロマン「離せよ! 僕は野比じゃないよ!」

捕獲委員E「いいや、見るからに怪しいぞ! 」

捕獲委員C「怪しい奴は全員調べろ、といわれたものでな」

フクロマン「あれ? いいんですか? こんな所で油売ってて?」

捕獲委員D「どういうことだ?」

フクロマン「さっき飛んでいった二人は、実は――野比なんですよ!」

捕獲委員C&D&E「な、何だってぇええぇえーーー!! 本当か?」

フクロマン「ええ。全く、あなたたちは何処を探してるんですか!」

捕獲委員E「あいつらはどこにいったか分かるか?」

フクロマン「いいえ、知りません」

捕獲委員D「よし、とりあえずコイツは捕まえとくか。 ワイヤー持ってこい、縛る

フクロマン「ふふふ……お前らが地獄に逝くということは知ってますよ!」

捕獲委員C「何だと?」

フクロマン「ふふふ……『声カタマリン』〜〜

捕獲委員E「は? とりあえず、お前はコイツを抑えとけ」

フクロマン「ごっくん……ワワワ!

捕獲委員C&D&E「!?」

 突如現れた謎の文字に、捕獲委員達は『ワ』の間の部分に、体をガッチリと食い込まれてしまった。

捕獲委員E「クソ……こちら、4班! 応援を頼む!」

フクロマン「まだ仲間がいたの!?」

捕獲委員C「当たり前田の愛だよ全く……いや、練馬区だけでも50人は居る」

フクロマン「それだけわかれば十分だよ……僕が全員にギアスをかけてやるよ!

捕獲委員D「ギアス!? ……って何?

捕獲委員C「バカ、あの有名なアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』の主人公ルルーシュ・ランペルージュの能力だろうが!」

捕獲委員E「ああ。それはすなわち、絶対服従!

フクロマン「フフ……解説ご苦労! もう、君たちは逃げられない! 喰らえ『悪魔のパスポート』!

 

プルル……。野比のび太はガッコー仮面とともに、空を浮遊していた。

のび「フクロマンにパパ、大丈夫かなあ

ガッコー「アイツは大丈夫だ。秘密道具を持っているからな。
      後は一応、セルフ仮面が一度はお前の父親と接触してる。少なくとも、その時までは大丈夫のはずだ」

のび「いやあ、心強いなあ。 このままみんな空を飛んでれば、逃げなくても済むのにね」

ガッコー「それはそうなんだが……実を言うと、タケコプターは3本しか持ってないんだ」

のび「ええ? それじゃあやっぱり逃げなくちゃいけないじゃん!」

ガッコー「ああ、だが所詮は最大8時間までしか連続で飛びつづけられない」

のび「ところで、一つ聞いていい?」

ガッコー「何だ?」

のび「僕達、どこに向かってるの?」

ガッコー「……お、お前はどこか逃げるアテはあるのか?」

のび「ん? 何かパパがどこかへ行くって言ってたような……」

ガッコー「どこだ?」

のび「……何とかめ? 何とかう?」

ガッコー「覚えてないのかよ……ん? ちょっと待て、セルフマンから連絡が来た」

のび「ええ? まさかもう僕以外に誰か――」

ガッコー「……分かった。そっちは、よろしく頼む。チッ」

のび「どしたん?」

ガッコー「何で関西弁なんだよ!(怒) そういうところがムカツクんだよ!」

のび「落ち着いてよ、そんなに怒らないでよ」

ガッコー「捕まったんだよ、一人。栃木に親戚が行ってたな?」

のび「ああ、何かパパに借金してたおじさんか……あの人ケチで、お年玉300円しかくれないんだよ?」

ガッコー「セルフ仮面が行った時には、もうそいつは留置場に送られていたらしい」

のび「そんな……野比の人は、もう顔写真が公開されてるの? みんなにはは、もう誰が野比さんか知られてるの?

ガッコー「いいや。深夜に道を歩いていたからといって、怪しまれはしないだろう。多分、電波が傍受されたんだ」

のび「デンパがボーズに上手にボーズのデンパを送った?」

ガッコー「だあ、本当にムカツクなあ。とにかく、今は逃げるしかないってことだ」

のび「分かった! ……ん?」

 のび太は、下の練馬区の住宅街の電話ボックスに、妙に怪しい影を発見した。

のび「ジャイ子ちゃん? 何でこんな時間に――」

ガッコー「ひょっとすると、通報されたかもな。こんな夜空に飛んでる怪しい二人組は、そりゃあ通報されるだろうよ。早く東京から離れるぞ」

のび「待ってよ。何か、呼んでるような気がするんだ」

ガッコー「呼んでるだと? あまり、他人は信用しない方がいいと思うがな」

のび「僕、行ってみる! 」

ガッコー「おい、バカ!」

 のび太は、勢いよく電話ボックスに降りていった。
その中には――のび太の予想通り、『妹にしたくない二次元キャラランキング』でぶっちぎり第1位のジャイアンの妹ジャイ子だった。

ジャイ子「のび太さん、やっぱりのび太さんなのね!?」

のび「う、うん。こんな夜遅くに何してるの? もう夜の3時前だよ?」

ジャイ子「うん、印刷所の人に電話してたの。同人誌のことで、急いで連絡しなきゃいけなかったから。
     ほら、家で電話したら迷惑だから――

のび「ジャイ子ちゃんは、僕のこと通報しないの?」

ジャイ子「え?」

 野比のび太は、開始早々友達に裏切られ、大きな人間不信に陥っていた。

ガッコー「テメーは電話しないのかってきいてるんだよ」

ジャイ子「ううん。 のび太さん、かわいそうじゃない。だから、電話しなかったの」

のび「ありがとう……同情でも嬉しいよ」

ジャイ子「……それとね、今、知ってる私鉄の人に連絡したの」

ガッコー「私鉄? まさか、お前捕獲委員会に通報したんじゃねえだろうな」

ジャイ子「ううん、違うわ。 午前3時8分発、1時間早く運行してれるんだって!○▲駅よ 」

 のび太は、思わず持っていたタケコプターを取り落とした。

のび「僕達に……乗れって言うの?」

ジャイ子「だって、このまま朝になったら、危ないでしょ? 4時には起きる人だって居るんだから」

ガッコー「お前、本気で言ってるのか? これでもし『駅に行ったら捕獲委員が居ました』じゃ済まないぞ? 市中引き回しだぞ?」

ジャイ子「大丈夫、捕獲委員が居るのはJRの駅の前だけよ」

 のび太は、思わずジャイ子に握手を求めていた。まさか、普段は気持ち悪くて暗くて、近寄りがたいと思っていたジャイ子に、
こんなによくしてもらえるなんて。 やはり、人間はみかけにはよらないのだ。

のび「ありがとう、ジャイ子ちゃん」

ジャイ子「うん。 早く駅に行って。もう、3時になっちゃうし」

ジャイ子は、のび太の握手に応えた。のび太は、ジャイ子の指のペンだこが妙に温かいのを感じた。

 夏の夜風の涼しさが、のび太の背中を騒がせた。

 恋? まさか――お客さん、恋の列車出発します、ジリリリ――

のび太は急いで、ジャイ子と手を離した。

ジャイ子は、恥ずかしそうに顔を下に向けた。

ジャイ子「それじゃあ、私もう帰る。 今日はコミックマーケットの前哨戦だから

のび太は、ジャイ子にエールを送りながら、走り出した。

ガッコー仮面は、露骨にジャイ子に嫌な顔をすると、のび太の後ろについて走り出した。

ガッコー「いいのか? 静香ちゃんの前の嫁だぞ?」

のび「……」

 のび太はフクザツな心境で、駅へ向かった。

 

 

 

その頃フクロマンは、笑顔で(悪魔のパスポートにより)練馬の捕獲委員を掌握していた……。

フクロマン「僕は王様だぞ、ガハハ、いい気持ちだ」

 

午前1時11分 ドラえもん、スネ夫に野比捜索のためのラジコン監視を依頼する

午前1時13分 スネ夫は承諾。しかし、スネ夫は眠気に弱いためスネ吉に監視を譲る。

午前2時 野比のび太が確保にも関わらず脱走したため、ルールを改正。
     捕獲委員以外の国民が野比を捕まえると、賞金が一人につき100万円授与される。

午前2時1分 ついに野比の一人である野比のび太発見

午前2時11分 偶然、東京上空を旋回していた花輪グループのヘリに乗っていた花輪に協力を交渉、
        花輪は協力を承諾

午前2時21分 練馬の博物館の庭園で確保活動

午前2時25分 ドラえもんと花輪退避

(第1回名字狩り推進委員会メインコンピュータより)

 

 

第3話 家族、潰えたキズナ

 

野比のび助(以下のび助)「……何だコリャ」

のび助は、3時間かけて奥多摩まで来ていたのだ。山梨県はもう目前だ。ただし――野比のび助は驚きを隠せなかった。

のび助の20m程前、森の奥に居る、迷彩柄の人間が、フェンスにもたれかかりながら連なっている。

 自衛隊員が居るのだと分かった。

ま、まさか……山梨県は関東地方のはず…!?
 い、いや! 社会の時間によく間違えた……!山梨は中部地方だったんだ!

のび助は、自分の笠取山への脱出計画が、脆く崩れ去るのを感じた。

のび助「ああ……僕は、僕はなんてバカな人間なんだ! くそ、ドラえもん騙したな!」

セルフ仮面(以下セルフ)「のび助さん、どうして関東地方のはじっこまで来てるんですか?」

のび助「ひっ……! 何だ君か。それで、弟(現代人の生き方を追求した)は助かったんだろうね?」

セルフ「いいえ……弟さんの居場所に行った時には、既に手遅れでした

のび助「な、何だと!?……のび太みたいに、助けれなかったのかね!?」

セルフ「すいません、本当に――のび太君の場合は、留置場に移動中だったのでギリギリ助けれたんですが……。
     さすがに、留置場に送られると、僕らは手も足も出ないんです」

のび助「それでも助っ人かね!? まあいい、これからはずっと僕の側に居てくれよ」

セルフ「それはできません。あなたの他にも、野比さんが居るんでしょう? その人たちのサポートに回らなくてはいけないのです」

のび助「ふう……どうして、私たちだけこんな酷い目に合わなければいけないんだ……

セルフ「お気持ち察します。 それで、他の野比さんの居場所を教えて欲しいのですが

 のび助は、自分の1960年代に流行ったような、かに族のようなリュックサックを開けると、関東地方いっぱいの地図を取り出した。

のび助「昨日、駅前で買ったんだ。 まず、のび郎の一家は、群馬の……東吾妻……? これ何て読むんだ?」

セルフ「ひがしあづまじゃないですか? 」

のび助「す、すごい! あずまあづま……何つって……

セルフ「次は、どこですか?」

のび助「スルーかよ……次はもう一人の弟(柿が食べたいといった)の一家だ。茨城の堺町というところらしい」

セルフ「以上ですか?」

のび助「いや、ムナシが居る。千葉の栄町に行ったらしい……のび太は……どこに逃げたんだろう?

セルフ「先ほど、仲間から連絡が。仲間と一緒に、千葉の白井市に逃げたようです

のび助「本当か!? いやあ、ほっとしたよ。それでこそ、僕の息子だ、ヘヘヘヘ」

セルフ「あなたも、他人事ではありませんよ。もう4時30分です。早く、東京から離れた方がいい」

のび助「大丈夫だよ、車があるから」

セルフ「ガソリンは?」

のび助「あ……何か、雀の涙ほどしかないorz

セルフ「しょうがないですね……石ころ帽子を貸してあげますよ。それと、チーターローションも塗りましょう」

のび助「?? チーターがローションプレイ?

セルフ「違いますよ。 石ころ帽子は、あなたの姿が目立たなくなります。 そして、チーターローションは足が速くなる道具ですよ」

のび助「何!? そんなものがあるんなら、これが始まる前に欲しかったよ(泣」

セルフ「もう、ローションの量が少ないんです。 せいぜい、効き目は1時間ほどでしょう」

のび助「それでもいいさ! ありがとう! 親戚を頼むぞ」

セルフ「油断しないようにして下さいね」

のび助「分かってるって」

 セルフ仮面とのび助は、奥多摩で別れた。

 

 

その頃、のび郎の一家は、群馬の東吾妻の――森の中に居た。蚊が飛んでいる。のび郎は、息子の頬をピシャリと叩いた。

息子1「痛いよう。何するのさ父ちゃん」

のび郎「ごめんな。 蚊が飛んでたものだから」

妻「あなた、もっと町のほうに逃げた方がよかったじゃないの?」

のび郎「いや。見つかるよりはマシさ。とりあえず、ここで待機しよう」

 子ども達は青いビニールシートの上に寝かしつけてはあるものの、もうすぐ朝の6時である。
起こす? いや、できるだけ疲れさせないであげたい。 

妻「あなたも少し休んだら? 私はさっきまで寝てたから、大丈夫よ」

のび郎「ううん。僕は一家の主だぞ。逃げれられないよ」

妻「……そう。 もうすぐ朝ね」

 のび郎は、はっと東の空を見た。もう日は昇っていた。地獄の一日が始まる――いや、もう始まっているのだが。

のび郎「このまま無事に見つからなければいいが」

妻「……水が切れてるの。気づかなかったわ

のび郎「えっ

 妻の持っていた3リットル入る水のボトルは、既に空だった。

妻「どうしましょう……子ども達が全部飲んじゃったのかしら」

のび郎「いや、さっき君がたくさん飲んでいたじゃないか」

妻「ええ? あなたこそ飲んでたじゃない」

のび郎「何言ってるんだ? 子ども達のせいにするのか?」

妻「さっきから何よ、子ども子どもって! 前までろくに世話もしてなかったくせに、急に父親面しないでよ!

のび郎「何だと!? それを言うなら君だってなあ……」

娘「ケンカちないで!

のび郎「うるさい! ちょっと静かにしてくれ!

妻「あなただって……!」

「もしもし、こんなところでナニをなさっているのですか?」

のび郎は、はっと後ろを振り返っていた。

そこには、携帯電話(ラクラクホンっぽい)を片手に赤いジャージを着た老人が立っていた。 恐らく、ジョギングでもしているのだろう。

 ――いや、まずい。 人が来ない場所、としてこの森を隠れ場に選んだのに、人が来るなんて。

老人「どうなさったんですか? あ、家族で早朝ピクニックですか、いいですねぇ。でもケンカはよくないですよ。
    折角の一家団欒の時間なのに」

 のび郎は内心、死ねよクソジジイ、お前に俺の気持ちがわかってたまるか
という陰鬱な思いをしたが、必死で取り繕って、笑顔を作った。

のび郎「はい、そうなんですよお。いやあ、昼から仕事でしてね。だから、朝早く家族でピクニックに」

老人「そうなんですか。楽しそうでいいですねえ。 私はほら、この通り独身の身でして」

のび郎「しつこいなジジイ……あっ

老人「なんか言いました?」

のび郎「いいえ……。おじいさん、時間は大丈夫ですか?」

老人「おお、そうでしたな。私はこれから、もっと奥まで走るつもりです」

 そういうと、老人は颯爽と森の奥へと消えていった。

妻「あなた……これ以上人が来たら大丈夫? 」

のび郎「くっ……仕方ないな、場所を変えるぞ。おい、起きろ。もっと、森の奥のほうへ行こう」

息子2「眠いよ……後ちょっと寝かせてよ……」

のび郎「黙れ! 父親の言う事が聞けないのか!」

妻「あなた、落ち着いてよ! 子ども達に当たらないで下さい」

のび郎「黙れ!」

 

パシッ!

 

のび郎は思わず、妻を叩いていた。自分でも手が震えていた。結婚して、今まで妻を叩いた事が無かった。

のび郎「あっ、ごめん……」

妻は、キッとのび郎を睨みつけると、寝ている子ども達を起こした。手際よく、のび郎以外の荷物をまとめた。

のび郎「おい、何だよ? ごめんって誤ったろ?」

妻「ええ。漢字違うじゃない。謝ってるわ、じゃないわよ。誤ってるじゃない!(怒)」

のび郎「ふ、ふざけるな!離婚でもしようってのか? 言っておくが、親権は俺のものにするからな!」

妻「安心して!あなたの兄弟にみたいに、離婚なんてしないわ。
  ただ、もうあなたに子ども達を任すなんてできないわ!」

のび郎「お前……本気で言っているのか! 許さんぞ、そんなのは」

 そういうとのび郎は、持っていたうちわの持つ部分を、握りつぶした。

妻「ええ、本気よ。あなたは今まで、世間体ばかり気にしていたじゃない! 親戚の子どもにしかお金をあげない!
  自分の子ども達には『我慢しなさい』って、どういうこと? それに、私の母の葬式の時も来なかったじゃない!

  世間的を気にしているくせに、自分の身内にしか頭に無い! そんな人なのよ、あなたって人は」

のび郎「……ッ! いい加減に……しろよ。 今、君を通報したっていいんだぞ?」

妻「やってみなさいよ。私は捕まってもいい。けど、子ども達には関係ない。
  もし、子ども達が捕まってもいいって言うのなら、自首してみなさいよ」

のび郎「ふん。君だって、子どもを出汁に使ってるじゃないか……」

 のび郎は、平然と携帯電話を開いた。

妻「!?」

のび郎「もしもし、僕のすぐ近くに、野比さんが居るんです。場所は、はい群馬の――」

妻は、子ども達を連れると、森の奥へと走っていった。

 

のび郎「へへへ……ざまあみろ。群馬だけでも、1500人も捕獲委員が居るんだぞ? 逃げ切れるわけが無い」

捕獲委員F「おい、おまえが通報したのか?」

のび郎は一瞬驚きかけたが、ニヤリと笑った。そうです、という感じで頷いた。

捕獲委員G「だが、居ないぞ? どこかへ逃げたのか?」

のび助「はい、あの方向へ……」

捕獲委員F「それにしても、家族を密告するとはお前も悪い奴だな、10万円はやるけどな」

のび郎「は? 何のことですか?」

捕獲委員G「バカだなお前も。既に、通報されてるんだよ、お前も

のび郎「な、何だと!?」

 のび郎の目の先、森の奥から、さっきの老人が出てきた。その顔は、してやったりといったような具合だった。

老人「すみせんねえ。怪しいと思ったんで、つい」

 老人は、ラクラクホンを手でまさぐりながら、森の出口へ出て行った。

のび郎「バカ野朗! てめえ、ぶっ殺してやる!」

捕獲委員F「いいから来い。お前を連れていく」

捕獲委員G「俺は、残りの奴を探す。 早くいけ」

のび郎は、自分の怒りを拳に変え、さながら打撃人類の如く捕獲委員Fの顔面を殴打した。

捕獲委員F「ブフッ!」

捕獲委員G「何っ!?」

のび郎は、続けて捕獲委員Gに右フックをお見舞いした。

捕獲委員G「な……なんだこいつ……」

のび郎「私は……打撃天使……ノビ

捕獲委員H「確保!

のび郎「はあ?」

のび郎は、後ろから大きな麻袋をかぶせられた。

のび郎「やめろ! 俺は違うんだ、野比じゃない!」

捕獲委員H「黙れ! 捕獲委員を攻撃するなんて、野比ぐらいしか居ないだろう」

のび郎「チクショウ! 俺は死ぬのは嫌だァァァ」

 

 茨城の堺町――

もう一人の弟(柿を食べたいとのび助にせがんだ)は、妻と娘を連れて、田舎であるものの、
悠々とレストランでモーニングを食べていた。

弟「なあ、おいしいだろう、このセット? 和風ハンバーグに漬物だよ?」

妻「そうね、おいしいでしょ、南?」

 娘である南は、食事には一切気を向けずに人形と話をしていた。

南「ねえ奈々ちゃん、私は今朝ご飯を食べてるよ。 奈々ちゃんは何を食べたいの?」

妻「南、食事中くらい人形をしまいなさい」

 南は、8歳になるが、友達が一人も居ない。その代わり、小学生になる時に買い与えた『人形』に、名前をつけて可愛がっている。

弟「まあまあ。僕もさあ、友達が居ない時はよく柿の木に友達代わりになってもらったよ

妻「えっ? ……南の内向的な性格は、やっぱりあなたに似たのね」

 弟は、思わず残りの和風ハンバーグを口に詰め込み、窒息しそうになった。

弟「ブッ! ぐぼぺぱ」

妻「汚いわねえ、ほら、お水」

弟「ありがとう……とにかく、今は温かく見守ってやってもいいんじゃないか」

妻「そうかしら……やっぱり学童に入れた方がいいんじゃないかな……」

 妻は、静かにナプキンを弟に手渡した。

妻「ねえ、さっきから思ったんだけど」

弟「なんだい? 」

妻「『弟』って表記してたら、とても夫には見えないんだけど……

弟「そうかい?」

南「創価学会のことかーーーー!!

弟と妻は、思わず南を振り向いた。いや、それどころか店内の人全員が振り向いたかもしれない。

弟「南、遊んでもいいけど静かにな。早く、食べよう」

 弟(柿を食べたいとのび助にせがんだ)の一家は、比較的静かな朝を過ごしていたのだった……。

 

午前5時54分 群馬県東吾妻にて、野比発見の通報

午前6時 野比のび郎確保、捕獲委員2名重傷

(第1回名字狩り推進委員会メインコンピュータより)

 

この話は続きます。

 


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