第十五章「潜入」
(記:じおす)
手に汗握る攻防とは、まさにこのことであろう。
――ただし、攻防ではなかったが。
セワシは三時間前、『WAFFEL SS』の幹部になりすましたのであった。それにしても、まだ続くのか、『コレ』は。
賛美歌。普段は研究を進行させるためなら、麻酔無しで人間を手術するような奴らなのに――
セワシは怪しまれないように、裏口を避けてわざと正門を通った。
正門には監視員みたいなゴツイ男が二人いたが、なんてことなかった。ゲートで持ち物の確認もせずに入れてくれたのだ。
それも当然か。なぜなら俺は今、WAFFEL SSだから。
研究所は古びていたが、堅固な造りだった。
錆はしっかり兵士らしき男が磨いていたし、窓も鋳鉄の棒が窓を覆っていた。この外観から見て――恐らく、昼間の襲撃は
無理だと考えた。
しかし、夜も安全とは限らない。しっかり様子を見ておく必要がある。
だからと言って、ゆっくりしている暇などあるはずも無い。
俺は、誓ったのだ。死んだ仲間達に。近藤さんに。
俺の未来に――。
他の隊士達について行くままに、この講堂らしき場所に辿り着いたのだ。
一体、何が始まるのだろう。 身体検査? それとも――、既に俺が紛れ込んでいるのに気付いたのか!?
そんなはずはない。タイムマシン(故障寸前)は首都のベルリン(研究所)
から幾分離れた、スイスとの国境すれすれの田舎町も無い洞穴に隠したんだぞ?
そうだ。そんなことは――有り得ない、絶対に。
隊士のざわめきがやんだ。セワシも我に帰った。壇上に、良い体格の中年らしき男が演説台にもたれかかっていた。
その隣に、秘書らしき若い女が一人。
『皆の者、敬礼!』
バっと他の隊士が体を前にかがめた。
セワシも遅れをとらないように、懸命に礼をした。
説教か? おそらく、講話でも始めるのだろう。
もし俺の存在に気付いているのなら、兵士がもっといても良いはずだ。
周りには講堂の入り口のドア以外には、警吏が殆どいない。
『今日は戦闘で疲労した体を癒す、慰労会の日だ! 時間は四時間!思う存分歌え!』
――? コイツは何を言ってるんだ?歌?
突然、『ジャァーン!』と耳障りな音が響いた。 シンバル?
セワシがふと壇上を見た。何と後ろの幕が上がっており、そこにはオーケストラが大勢いた。
『ウ〜ドゥ〜ラ〜リ〜』
ドイツ語で、賛美歌らしき歌を歌い始めた。
セワシは呆れ返った。
賛美歌なんて――確かにドイツは殆どの奴らがクリスチャンだそうだが、
こんな人間兵器を創るなら、どんな事もいとわないような奴らが――
思わず、セワシは笑いがこぼれそうになった。
しかし、その歌を歌っている隊士は賛美歌を歌って、気を紛らしているような気がし、とても哀れに思えたのだった。
止める――こいつらのためにも、セワシは必ずアルティメットシイングの破壊を改めて決意した。